8日投開票の衆院選は自民党が316議席を獲得するという歴史的な勝利を収め、高市早苗政権は継続するだけでなく、極めて強力な基盤を得た。これにより、首相は自らが掲げる「責任ある積極財政」を推し進めていくとみられる。
ネガティブ情報は影響せず
今回の衆院選の特徴の一つとして、選挙期間中に高市首相についていくつかのネガティブ情報が浮上したのに、選挙結果にほとんど響かなかったことが挙げられる。一部週刊誌が報じた高市氏と旧統一教会との関係、NHKの党首討論を腕の治療を理由にキャンセルしながらその日の午後に地方に応援演説に出かけたことなどは、致命的な打撃となる可能性があった。しかし、首相の個人的な人気がそれらのマイナス材料を吹き飛ばした。初の女性首相という新鮮さ、歴代首相とは異なるふるまい(歯切れの良い発言、トランプ米大統領の隣で飛び跳ねる姿)、対外的な強硬姿勢などが、特に若い層にアピールしたのだろう。
経済政策に関しては、経済界から財政政策への懸念が表明されていたが、一部で注目されたのが、みずほ銀行のチーフマーケットエコノミストが、高市首相の選挙応援演説での「円安ホクホク発言」を批判したリポートだ。まず、タイトルが「高市演説を受けて~危うい現状認識」と強烈。本文も「『為替が修正されれば、日本企業の行動変容が劇的に期待できる』という前時代的な価値観が温存されている」「(この価値観は)2013年以降のアベノミクスを経て失敗が立証されている理屈」「(首相が円安でホクホク状態と表現した)外為特会が有事の際に温存されておくべき弾薬と理解されているのかどうかも気がかり」と厳しい言葉が続く。メガバンクのエコノミストが、選挙期間中に首相の価値観や現状認識を「前時代的」と切り捨てる異例の出来事だった。
この勇気ある(?)リポートに対しては、経済のプロから「非常に共感できる」といった称賛の声が聞かれた。ただ、この話題に注目したのは、マクロ経済に関心を持つ層だけ。とっつきにくい経済の話でもあり、一般の有権者にはほとんど無視されたというのが本当のところだろう。
中国、タイ通貨にも大幅円安
高市氏の支持層の中には、オーバーツーリズムの弊害を重視したり、外国人による日本の土地取得の制限を主張したりする人が多いようだ。しかし、改めて指摘するまでもないが、為替相場は逆の動きをしている。すなわち、高市氏が自民党総裁に選出される前日の昨年10月3日の円相場は1ドル=147円台だったが、本稿執筆時点(2月9日)で10円ほど円安方向に振れている。ユーロは1ユーロ=173円台から185円台へ円安が進んだ。高市氏の財政政策への不安が主な要因だが、それだけ外国人にとっては日本への旅行を低コストで楽しめるし、土地の取得も容易になっている。
円が安くなっているのはドルやユーロに対してだけではない。先日、多摩大学学長で政治評論家の寺島実郎氏が、テレビで「アベノミクス以降、円はアジア最弱通貨になっている」と語っていたので調べてみた。資料によると、アベノミクスが始まる直前の2012年の年間平均レートは、中国人民元が1元=12.64円、タイ・バーツが1バーツ=2.57円だったが、現在はそれぞれ22.55円、5.00円(本稿執筆時点)と、円はほぼ半分に下落した。
昨年の中国からの訪日者数は(台湾有事発言以降の中国政府による自粛要請にもかかわらず)前年比30.3%増の909万人で、国別で第2位。タイは同7.3%増の123万人で第6位だった。中国はともかく、最近はタイでも日本旅行の人気が高まっているというが、円安が大きな要因になっているのは間違いない。
積極財政が何をもたらすのか
高市首相は総選挙翌日の記者会見で、円安傾向が続く為替相場を注視しつつ、責任ある積極財政を推進する姿勢を示した。事前の世論調査で自民党の勝利が予想されていたこともあり、選挙直後の円相場は比較的落ち着いているが、今後、政策を具体化していく中でどう動いていくのかが注目点だ。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、総選挙翌日に公表したリポートで、高市政権が積極財政姿勢を維持、強化する場合は「『円安、債券安、株高』で特徴づけられる『高市トレード』は、『円安、債券安、株安』に転じることが考えられる」と指摘。そうなると、2022年に英国で発生した大規模な金融市場の混乱である「トラスショック」の再現となりかねず、日本経済、国民生活にとって大きな打撃になると警告している。
私はエコノミストではないので、積極財政により強い日本経済を復活できるのか、それともトリプル安を招いてしまうのか、判断できない。しかし、これだけは言える。高市政権の経済政策が狙い通りの成果を上げれば、それは今回の選択が正しかったということだ。そして残念な結果に終わった場合は、自民党に圧倒的な議席を与えた国民の責任であるということだ。











