最近、うれしいことと心配なことがあった。前者は、ミラノ・コルティナオリンピックでの日本選手団の大活躍。

後者は、日本経済の先行きについて、「失われた40年に向かう」「時すでに遅し」など、悲観的な見通しを聞いたり読んだりしたことだ。スポーツ界は好調なのに、日本経済の低迷は続くのだろうか。

経済力とスポーツの強さは無関係?

今回の冬季五輪で、日本勢はスキーのジャンプ、スノーボード、フリースタイルスキー、スピードスケートなど多くの種目で好成績を挙げ、金5個を含む過去最高の24個のメダルを獲得。金メダルの数は中国と同じだが、合計メダル数で中国の15個、韓国の10個(うち金3個)を大きく上回り、アジア最強の座を確保した。冬季五輪の華とも言えるアルペンスキーで影が薄かったのは残念だが、ウインタースポーツ全般で競技力が底上げされていることを示した。

個人的には、フィギュアスケートの「りくりゅう」ペアの演技がとりわけ印象的だった。ショートプログラム5位からの大逆転という意味でもすごかったが、素人目にもフリーのパフォーマンスは他を圧倒する内容。あまりの見事さに、テレビ観戦しながら自然に涙がこぼれてきた。スポーツで落涙したのは久しぶりだ。

冬季五輪で思い出すのが、バブル真っ盛りの1988年にカナダで開催されたカルガリー大会。伊藤みどり選手が女子フィギュアスケートのフリーで軽やかなジャンプを披露して大喝采を浴びたシーンが思い出されるが(最終順位は5位)、日本選手団全体ではスピードスケート男子500メートルで黒岩彰選手が3位に入ったのが唯一のメダル。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われ、経済力で世界を席巻していた日本としては、なんとも物足りない成績だった。酒の席で「経済のパフォーマンスとスポーツの強さはまったく関係ないんだな」と嘆いた記憶がある。

その2年後の90年の年明け、日経平均株価が急落し、日本の「失われた」時代が始まった。
冬季五輪はアジア最強なのに…経済は「失われた40年」に向かうのか

大企業は海外投資で株高

「失われた〇〇年」というフレーズは、21世紀初めに90年代が「失われた10年」と呼ばれるようになったのが最初だと思うが、どういう状態を指すのか。私としては「経済成長がマイナスまたは低水準にとどまり、国民1人ひとりが豊かさを感じにくい状態」と定義したい。データを見ると、90年以降の日本経済は、この定義にぴたりとあてはまる。日本の名目の国内総生産(GDP)は同年から2024年まで、主要国の多くが2倍から6倍に増加する中、31%しか増えていない。平均年収もこの30年間ほぼ横ばいで推移している。最近の物価高で実質賃金はマイナスが続いており、国民生活はむしろ苦しくなっていると言えそうだ。1人当たりGDPでは、円高もあって2000年には世界3位だったが、24年には38位に沈んだ。

24年パリ五輪のメダルランキングで世界3位に入り、野球やサッカーで日本人選手が本場で大活躍するなど、スポーツ界は絶好調なのに、日本経済はなぜこのような悲惨な状態に落ち込んでしまったのか。さまざまな要因があるが、せんじ詰めれば次の2点に集約できるように思う。

(1)バブルが発生し、それをうまく軟着陸させられずに過剰な債務や設備が残ったこと

(2)バブルに懲りた日本企業が、賃上げや国内への投資を手控え、海外への投資に注力したこと

このほど日本記者クラブで記者会見した門間一夫みずほリサーチ&テクノロジーズ・エグゼクティブエコノミスト(元日銀理事)は、「(バブル後に)上場企業は少子高齢化が進む国内より海外に成長源を求め、国内では事業再編とコストカットを基本とした」と指摘した。海外でリスクを取る経営方針が奏功し、日経平均株価は2013年ごろから右肩上がりで上昇し、約5倍になっている。少なくとも日経平均に採用されるような大企業の株価については「『失われた30年』ではなく、『失われた20年』でとっくに終わっている」というのだ。

大企業がそうした経営方針を進めた結果、生産拠点が海外に移る一方で、国内の生産技術の進歩は停滞し、設備は老朽化し、賃金は低く抑えられた。日本企業が対外投資で得た利益は各社の決算の黒字幅を拡大させるとともに国の経常収支黒字を膨らませるが、その多くは海外に再投資され、日本には戻ってこない。この結果、株価は上昇して大企業の「失われた」時代は終わっても、国内経済の停滞は続く。同氏は、長期的視点からの現状認識として「低成長を『失われた30年』というなら『失われた40年』へ」向かうとの見通しを示した。

国内への投資呼び込みが最優先

超円高時代の2011年に、当時の異常な円高について分かりやすく解説して話題となった新書「弱い日本の強い円」を執筆した佐々木融氏(現在ふくおかフィナンシャルグループ チーフ・ストラテジスト)が、当時とは様変わりした経済状況を踏まえて新著「インフレ・円安・バラマキ・国富流出」(日経プレミアシリーズ)を年明けに出版した。なんとも刺激的なタイトルだが、日本経済の危うい現状が多数のグラフを用いて説得力ある形で説明されており、お薦めの一冊だ。同氏は、円の信用が低下している現状を憂い、「時すでに遅しと思っている」としながらも、「何が変わらなければいけないかについて私なりの考えを記してみた」と、執筆の動機を語っている。

佐々木氏は、円安にもかかわらず23、24年と対外直接投資は急増を続け、24年には過去最高を記録したとした上で「日本企業の投資の国外への流出は、日本の『失われた30年』を象徴している」と指摘。大企業の国内軽視・海外重視の経営方針が、国内経済低迷の大きな要因との見方を示した。

この本の中に衝撃的な表がある。海外から自国への対内直接投資残高の対GDP比のランキング(23年時点、対象は世界199カ国)だ。それによると、日本はGDPの5%にとどまり、下から3番目の197位。

195位の北朝鮮より下だというのだ。トランプ氏率いる米国を筆頭に世界の多くの国が海外からの投資受け入れに血眼になっている中、自由で開かれた経済社会を建前とする日本が下から3番目とは…。日本語という特殊言語、硬直的な労働慣行などが対内投資の低調の理由とされるが、日本人の中に外資への拒否感が根強いことも大きいのではないだろうか。佐々木氏は「人口減少と労働力不足が長期化する日本では、外国人観光客、外国人労働者、外国人投資家は必要不可欠な存在だ」と強調するが、今の日本の潮流はそれとは逆を向いている。今後も対日直接投資は下から3番目の水準で低迷するのだろうか。

高市早苗首相は施政方針演説で、「責任ある積極財政を進める」「成長のスイッチを押しまくる」と吠えた。ただ、政府が主導する形で多方面に財政資金をばらまいても、これまでの失敗を繰り返すだけではないか(保守派とされる高市氏が、財政政策を前面に出すことに違和感を抱くのは私だけか。「大きな政府」を標榜する左派に近い政策ではないか)。何より求められるのは、日本企業でも外資でもいいから、的を絞った減税や規制緩和により民間投資を呼び込むこと。特に、これまで海外ばかりに目を向けていた日本の大企業の関心を取り戻すことだろう。選挙のスローガンだった「日本列島を強く、豊かに」を実現できるのか、注目したい。

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