週末、何を食べようかと迷っている時、何か一品欲しい時に利用する「外売(ワイマイ)」は、今や「生活インフラ」となっている。筆者の勤務校の学生寮の前には、学生が頼んだ料理が置かれている。
コーヒーも出前?学生が気軽に「外売」を利用するワケ
「外売」はやや割高なので、わが家では月1回くらいしか利用しなかった。だが、昨年来、各プラットフォームがクーポン発行の形で割引サービスを行っており、ほぼ毎週利用するようになった。なぜなら、プラットフォームが発行するクーポンは期限があるためだ。特に欲しいものがなければ、クーポンが発行されても無視すればいいのだが、期限切れになると、なぜか損した気持ちになる。人間の心理を利用したうまいやり方だ。だから、これまで店で飲むことが多かったスターバックスのコーヒーも頼むようになった。
昨年末、午後の授業中に「外売」で注文したコーヒーを飲む学生が多くなったのに気付いた。午後一の「退屈な授業」で居眠りしないための自衛手段という意味合いがあるとは思うが、春と秋にミネラルウオーターを飲む学生が圧倒的に多かったことを考えると、この変化は驚くべきものだ。早めに教室に来た学生に聞くと、割引があるからだという答えが返ってきた。
割引サービスが頻繁に行われたのは、「外売大戦」といわれるプラットフォーム間の熾烈(しれつ)な競争が繰り広げられたためだ。2025年2月ごろから、プラットフォーム企業の「美団(Meituan)」「京東(JD.com)」「阿里巴巴」が100億元(約2300億円)もの資金を投入して、「補助金(クーポン)」競争を繰り広げた。この年、フードデリバリーの注文数は右肩上がりに増え、1日の注文量が2億件を超えたともいわれる。
当時、学生寮の前には、料理だけでなく、ミルクティーやコーヒーなどが入った袋も数多く置かれていた。当たり前のことだが、今も昔も学生にとって価格は重要だ。
その背景には、言うまでもなく中国経済の減速がある。昨年は年初に掲げた5%成長を達成したものの、今年の全人代(全国人民代表大会)で発表された「政府活動報告」は、経済成長目標値を4.5~5%に引き下げた。現在の中国経済は中高速成長の段階に入っており、2000年代前半のような7~8%成長の時代ではなくなった。だが、経済成長目標を引き下げたことは、経済の減速傾向をある程度示している。
経済成長にとって、個人消費の拡大は重要だ。現在の中国は投資主導型から消費主導型経済への構造転換を目指している。フードデリバリーサービスは、個々の消費額が小さいので、経済成長を動かすほどのインパクトがあると言えないが、個人消費を拡大させる上では、一定の役割を果たす。
「外売」業界にも押し寄せた「内巻」の波
わが家での注文頻度、コーヒーを飲む学生が多くなったことから考えると、この現象は、電気自動車(EV)産業に見られる「内巻」といわれる内部競争に似ている。
3月25日、中国国家市場監督管理総局は「外売大戦を終わらせる時だ」と題する「経済日報」の記事を転載した。この記事は「外売合戦は人々に恩恵をもたらすように見えるが、実際は内巻だ」と述べ、フードデリバリー業界間の行き過ぎた競争を批判した。
記事は行き過ぎた価格競争が経済全体にも影響するとして、次のように述べた。
「消費者にとって、外売大戦は確かに『魅力的』であり、1分(日本円で厘に相当)のミルクティー、3元(約70円)のコーヒーが好きではない人はいないのではないだろうか。だが、無料のものが往々にして一番高いものだ。携帯電話の無料クーポンから経済全体に目を向けると、この大戦の代価は、最終的にはわれわれ一般人が負担しており、しかも予想をはるかに上回っていることに気付く」
低価格競争によるしわ寄せは、第一線で働く労働者や食材の仕入れ先に及び、各経営主体は、賃金を下げるか、品質を悪くすることで対応しがちになる。資金力のない店は激しい価格競争を生き抜くことが難しくなる。
その上で、記事はこのように述べている。
「外売合戦が影響しているのは飲食業のオーナーの帳簿だけでなく、一般人の生計にも影響を与える。消費は経済成長をけん引するメイン・エンジンであり、『バラスト石』である飲食消費が悪性の価格競争で失速すると、経済全体が感じる寒さは、最終的には各ミクロ主体の個人に伝わる。企業の利益が紙切れのように薄く、店を開けると損をするならば、雇用はどこから来るのか。給料の伸びはいつから始まるのか」
市場競争は企業の発展にとってプラスとなるが、価格の引き下げに重点が置かれ過ぎると、「差別化」した商品を生むための資金が減り、企業活動が活力を失い、経済回復にも悪影響を及ぼす。
3月27日の「騰訊(テンセント)財経」(WeChat版)は、「中国のインターネットの歴史上、最も規模が大きく、投入が最も多く、産業チェーンへの影響が最も深刻な価格戦争が、1年の時を経て終結した」とコメントした。
「質で勝負しろ!」規制当局が「過当競争」にブレーキ
今、中国政府は「内巻式」競争を抑制する方向で動いている。今年の「政府活動報告」は、「『内巻式』競争対策を踏み込んで行い、良好な市場環境を形成する」と述べ、市場競争への政府の介入を示唆した。
生活者目線で見ると、昨年に比べ、割引に参加する店が減っており、割引があったとしても、昨年ほどの「お得感」は覚えなかった。また、午後の授業中にミネラルウオーターや割安なコーヒーを飲む学生が増えてきており、価格競争が一段落したことが分かる。
プラットフォーム企業についていえば、政府の介入が見られる。最近の例でいえば、2月13日、中国国家市場監督管理総局が 阿里巴巴、抖音(中国版TikTok)、百度、騰訊、京東、美団、淘宝閃購(タオバオ)のプラットフォーム企業に行政指導を行い、プラットフォームの販売促進などの方法を規範化するとともに、プラットフォームの「内巻式」競争を根絶し、公平な競争環境を守るよう促した。
また、「外売大戦」が盛んだった昨年7月18日の「中国通信社」の報道によると、市場監督管理総局は同日、餓了麼(Ele.me)、美団、京東3社に対し行政指導を行い、「電子商取引、不正競争防止、食品安全に関する国内法を厳格に順守し、ケータリングサービス業界の健全で持続的な発展を共同で図り、消費者、事業者、フードデリバリー業者、プラットフォーム企業のマルチウィンのエコシステムを築き、飲食サービス業界の規範にのっとった健全で持続的な発展を図るよう求めた」という。この報道文では、「価格競争」については書かれていないが、「ケータリングサービス業界の健全で持続的な発展」「マルチウィンのエコシステム」という言葉は、激しい価格競争をやめ、正常な業界秩序を取り戻せというメッセージを含んでいると思われる。
先月25日に、「経済日報」の記事が市場監督管理当局のサイトに転載されたことは、激しい価格競争をやめ、「質」の競争に転換すべきであることを示しており、当局が業界に向けて発したメッセージといえ、見方によれば、政府の介入の一つともいえる。
中国の経済政策は、市場と政府の要素をうまく組み合わせている。ここで挙げた政府の行政指導は、2020年ごろに不動産業界やインターネット企業に対して行われた「反独占を強化し、資本の無秩序な拡大を防ぐ」という大規模規制とは違い、「好ましくない販売促進」「内巻式競争」を対象としたものであり、プラットフォーム企業などの活力をそぐものではない。
今の中国の消費者は、経済減速の影響で節約モードになっている一方で、「いいもの」を選んで買う傾向にある。今後、プラットフォーム企業は、価格競争ではなく、「他では買えないもの」を提供する競争に変わっていくのではないかと筆者は考える。











