音楽、文芸、映画。長年にわたって芸術の分野で表現し続ける者たち。
本業も趣味も自分流のスタイルで楽しむ、そんな彼らの「大人のこだわり」にフォーカスしたRolling Stone Japanの連載。四組目のゲストは、東京スカパラダイスオーケストラの顔であり支柱でもある谷中敦だ。

Coffee & Cigarettes 04 | 谷中 敦(TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA)

タバコをくゆらす仕草はまるでハードボイルド映画の主人公のようだ。実際、役者もこなすこの男、谷中敦。東京スカパラダイスオーケストラの顔であり支柱でもある谷中は、バリトンサックス担当。ライブではヴォーカルやMCもこなす。それだけではなく、作曲は当然のことながら、ここ10年ほどは、スカパラのヴォーカル曲のほぼ全ての作詞も手掛けている。

谷中のことを書き出す前に念のため、東京スカパラダイスオーケストラの説明を少々。スカパラは既にデビューから29年が経つベテランのスカバンド。その実力、知名度ともにワールドクラスで、今年に入ってからだけでも、1月にシンガポールにてワンマンライブを行ったかと思えば、2月にはメキシコ最大規模のスカのフェス『NON STOP SKA FESTIVAL』にヘッドライナーで出演し、今やスカのメッカとも言われているメキシコのオーディエンスを熱狂させた。

日本国内でもジャンルや年代を越えて、ノーボーダーでスカパラの音楽は浸透していて、スカのフェスはもちろん、ジャズ、パンク、ロックとあらゆるジャンルのフェスに出演しているし、対バンや共演するアーティストも若手からベテランとエイジレスでジャンルレスだ。谷中自身も「管楽器を必要としてくれるバンドや音楽ならどんな連中とも仲良くしたいし、そいつらと面白いことをして、良いシーンを作りたいんだよね」と取材の冒頭で語ってくれた。


そして、その谷中の言葉通りのスカパラのニューアルバム『GLORIOUS』が3月14日にリリースされた。このアルバムに参加している面子もボーダレスでバラエティ豊かだ。若手では、UNISON SQUARE GARDEN斎藤宏介がヴォーカル&ギターで1曲参加している。また、国境を超えてプエルトリコ出身の女性シンガー、iLeも1曲参加。さらに国境もジャンルも超えてブラジルのNo.1ラッパーであるEmicidaが参加。この曲はFPMがリミックスを手掛けている。本作に収録された曲に限らずだが、スカパラのコラボ曲は毎回どれもいい塩梅なのだ。ゲストに寄りすぎてスカパラらしさを失うこともなければ、スカパラの世界全開にして相手の存在を消すこともない。

谷中もおどけて「俺ら、(相手のことを)消さないよ(笑)」と言っていた。とはいえ、それは簡単なことではない。スカはいい意味でクセがある音楽だし、スカパラには世界でスカバンドとして認められているプライドもあるはずだ。自分たちの音を主張するのは簡単だろうが、それだと相手の個性を食ってしまうので、スカパラほど相手に寄り添うのが難しいバンドはいない。
それなのにボーダレスな制作を15年以上続け、全てを唯一無二の見事なコラボに仕上げている。その秘訣を聞くと谷中はこう答えてくれた。

「愛情だよね。まずは共演をしてくれる相手への愛情。それからそのアーティストのファンへの愛情。あとは僕らスカパラのファンへの愛情もある。中には『あの人とはやってほしくなかった』って思う人もいるのかもしれない。そういうふうにファンを悲しませることはしたくない。だから、共演するアーティストのことをしっかり自分たちのファンにも紹介したい。その想いが音になると、相手も自分たちも消えないんだよね」

スカパラ谷中敦が自らに問う「正直な生き方」


それだけではない。先述の通り、谷中は作詞も担当している。谷中いわく、詞はゲスト・ミュージシャンへの宛書がほとんどだそうだ。
「相手に寄り添うと、媚びてるみたいに言う人もいるのかもしれないけど、自分の書きたいことを、歌ってくれるゲストのヴォーカルに似合うように仕上げることは別に無理でも媚びでもなく自然体でできるんだ。だって一番大切なのは結局楽曲だから」と、音楽と楽曲に対する愛も口にした。

谷中は音楽的に造詣が深いミュージシャンだが、同時に言葉・言霊の人だ。コラボレーション相手に器用に作詞ができる谷中はどこか職業作詞家のように見えるかもしれないが、会話をしていて感じるのは言葉の器用さよりも言葉の熱だ。しかも谷中の言葉はとても詩的なのである。実は、谷中とメールやLINEを交換すると、定期的に谷中の作った詩が送られてくる。その詩がなんとも素敵で、それを楽しみに待っている音楽業界の人間がたくさんいて、筆者もその一人だったりする。

ニューアルバム『GLORIOUS』では谷中らしい言葉を幾つも味わうことができる。たくさんは紹介できないので、今回のアルバムの中で谷中自身が特に好きな言葉を挙げてもらった。「アルバムのタイトル曲でもある”Glorious”はスカパラのメンバーによる歌モノなんだけど、その曲の中で書いた”Memories you cant share. Are the ones that shine most brightly.(人に言えない想い出こそ実は最高に輝いている)”って箇所は好きだし、大事にしたいと思っているんだよね」と谷中。その言葉を選んだ意味を聞いた。「去年の俺の抱負は”自分を信用しない”だったの。
気がついたら、自分で勝手にいろんなことを限定してるよなぁって。例えば、能力的に”これくらいのことならできる”とか、体力的に”明日疲れちゃうから、今日はこれくらいまでにしよう”とかって限界を作っている自分がいるわけ。みんなとメシを食いに行って飲んで盛り上がっても翌日のことを考えて朝までいることはないんだよね。でも本当は、夜中の0時から朝までの時間が大事だったりするかもしれない。朝まで騒いだら次の日は使いものにならないかもしれないけど、一年後の自分が輝くかもしれない。だから、自分でルールとかペースとか作って縛られるのではなく、自由に行こうと思っていて」

付け加えると、谷中は9年前から酒をやめている。そんな谷中の一昨年の抱負は「飲まずに泥酔!」だったそうで、こんな話をさらに続けてくれた。「酒を飲まなくなると軋轢とか摩擦を生まなくなるんだよ。摩擦がないと熱も生まないので、自家発電になっちゃう。今思うのは、人との摩擦、軋轢で熱を生んで、それで自分の人生も熱を生むのっていいなぁって。でも、酒をやめてるから、一昨年は「飲まずに泥酔!」を抱負にしたの。酒飲まなくても常にヤラかしていたいなぁって。
だって昔の写真を見ても、コイツ、ヤラかしてるなぁって奴が楽しそうだし。そういう思い出を作るように、体当たりで動いて行きたいんだよね。だから”人に言えない想い出こそ実は最高に輝いている”なんだ」と。

スカパラ谷中敦が自らに問う「正直な生き方」


谷中と話していると、自分よりも仲間のことを話してくれる回数が多いのに気づく。これだけのキャリアでこれだけの評価を受けながら、いわゆる自慢的なエピソードはまったくない。谷中の口から出るのは仲間の自慢ばかり。この話の流れでも、今までスカパラが共演してきた仲間たちの名前を挙げながらこんな話をしてくれた。「横山健細美武士、TOSHI-LOW、峯田(和伸)くん……みんな自分の人生をちゃんと正直に生きてるよね。正直だから結果的に相手を傷つけることもあるし、無防備だから壁にぶつかって、自分が傷つくこともある。でも、傷を負ったときに、我慢するんじゃなくて『痛い!』って声に出すんだよ。彼らはそういうことをしっかりやってる連中でカッコいいと思う。当たり障りのない人生じゃなくて、自分の人生を精一杯生きる……それが一流のロック・アーテイストだと思うし、俺もそうありたいと思うよ」と。


会話に出てきた”壁”という言葉をフックにいつしか壁の話になった。谷中は言う。「壁って、諸刃の剣だよね。自分を守ってくれているんだけど、自分の自由を奪う存在になることもある。壁に守ってもらっていると感じているならいいけど、もし壁を不自由だと感じるなら、その壁は自分で壊せばいい。そもそも壁なんかないんだし、壁を勝手に作ったのは自分なんだからさ」。まるで即興の作詞のように琴線に触れる言葉を紡ぐ谷中。壁の話をこう締めてくれた。「壁なんかもともとないんだぜってことを気がつかせてくれるのが音楽だと思うんだ」と。

そして、スカパラも谷中も国境もジャンルも世代も超えて音楽を奏で、音楽の本質を実践している。谷中の言葉が琴線に触れる理由はそこだ。言葉がうまいからだけではない。谷中の言葉は全て実践と行動に裏打ちされているからだ。 

インタビューが終了した。谷中は一服して次の取材に向かおうとしていた。その背中が妙に力強く、1時間に及ぶインタビューに匹敵しているくらい何かを語りかけてくれていた。

スカパラ谷中敦が自らに問う「正直な生き方」

『GLORIOUS』
TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA
エイベックス
発売中

撮影協力:ONE THE DINER
〒141-0021 東京都品川区上大崎1-1-14 トーカン白金キャステール1F 
TEL:03-6455-7588
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