キュレーターを務めているのは、ジュリー・エドワーズ(ディープ・ヴァレー)とフィル・ピローン(JJUUJJUU)の夫婦。それぞれのバンドはもちろん、ウォーペイントやタイ・セガールなど夫婦と交流の深いバンドがほぼレギュラーで参加しているほか、アンノウン・モータル・オーケストラやブロンド・レッドヘッド、ヴィンセント・ギャロといった個性的なアクト、さらにはテレヴィジョンやイギー・ポップらレジェンド級のアーティストが毎年並んでいる。基本的に打ち込みやエレクトロを多用しない、いわゆる生楽器主体のアーティストを揃えるという”縛り”があるようで、EDMだらけになってしまった昨今のコーチェラや、”商業フェス化”してしまった多くの大型フェスに食傷気味の、いわゆるロック好き/サイケ好きから熱い支持を集めているのも、デザート・デイズの特徴だ。


2006年にカリフォルニア州デザートホットスプリングス近郊から、同州ジョシュア・ツリー国立公園に会場を移していたデザート・デイズだが、今年さらに会場を変更。同州モレノバレーの人工湖ペリスほとりにある広大なキャンプ場で、10月12日から3日間に渡って開催された。
かねてからそのラインナップに注目し、いつかは行ってみたいと思いつつ、「砂漠にテントを張って、三日間過ごす」というハードルの高さに躊躇していた筆者だが、今年はヘッドライナーにマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、テーム・インパラ、キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザードが登場し、他にもスロウダイヴやポンド、名盤『Deserters Songs』(1998年)の完全再現ライブを行うマーキュリー・レヴなども出演すると知り、いても経ってもいられずチケットを購入。「キャンプか……まあ、行けばなんとかなるだろう」の精神で、85リットルのリュックサックに一人用のテントと寝袋を詰め込み日本を経った。

会場までは、ロサンゼルス中心街から車でおよそ2時間半。一応、電車も走ってはいるが、やはり「車文化」のロス。フェス参加者の多くは自家用車か、友人同士でヴァンやレンタカー、キャンピングカーをシェアして会場へと向かっている。かくいう筆者は、行きは海外在住の日本人フォトグラファーEさんが手配してくれたレンタカーに同乗させてもらい、帰りはデザート・デイズが手配しているシャトル・バスを利用することにした。

会場に着くと、キャンプ場の広さにまず驚かされる。

早速テントを設置し、会場へと向かう。キャンプ場の広さとは裏腹に、フェス会場自体はかなり小規模だ。ステージは4つで、メインの「THE MOON」はフジロックのホワイトくらい、サブの「THE BLOCK」はフィールド・オブ・ヘヴンくらいの大きさである。屋根のある「THE THEATRE」は、レッド・マーキーの半分もないほどで、もう1つ、ドーム状の「THE SANCTUARY」は、都内の小さなライブハウス級の狭さである。「THE MOON」はペリス湖に面していて、「こんなところでマイブラの爆音を浴びたら、どうかなってしまうんじゃないか……?」と想像し、初日から既にテンションMAX状態だった。
会場内を見渡すと、アーティストの公式グッズなどを扱うテントのほか、センスの良い古着屋やアクセサリー・ショップなどが立ち並ぶ(キャンプサイトでは、毎朝ヨガのワークショップなども開かれていた)。さすが、DIY精神にあふれたフェスだけあって、スタッフも参加者もみなフレンドリーかつオシャレ。眩い陽光と乾いた風が心地よく、あちこちからマリファナの匂いが立ち込める空間は(カリフォルニア州では、大麻は合法である)、まさに桃源郷といった感じだ。
……と、言いたいところだが、初日はまったく散々な目にあった。
まず、会場までの道路が1本しかなかったため、恐ろしい渋滞が発生し車が全く動かない状態が2時間近くという出鼻の挫かれっぷり。また、夕方くらいから徐々に雲行きが怪しくなってきて、トリのテーム・インパラが出演する頃には雨が本降りに。

テーム・インパラ
小心者の……もとい、用心深い筆者は、砂漠にも関わらず雨具や防寒具を用意してきていたため、ずぶ濡れにもならずにテントへと逃げ帰ることが出来たのだが、「まさか砂漠で雨など振るまい」と思っていたであろう多くの参加者は、這う這うの体で会場を後にしたようだ。しかも、こうした「緊急事態」の対応が、運営側で徹底しておらず、参加者から多くのクレームが寄せられていた。ただ、昨今話題の「自己責任」ではないが、デザート・デイズのようなDIY的な要素の強いフェスに参加するのであれば、ある程度は参加者側で何とかしなければいけない部分も、少なからずあるような気がする。
とはいえ、楽しみにしていた初日のインパラは3曲しか聴けず、その後に出演予定だったコナン・モカシンやワンド、ルメリアンズなどが公演中止になってしまったのは本当に残念だったし、翌日もステージ補修のため前半のタイムテーブルが大幅に変更。夜は防寒着が必要なくらい冷え込むなど(本当にここは砂漠……?)波乱万丈の前半だった。

ジャーヴィス・コッカー

マーキュリー・レヴ

幾何学模様

スロウダイヴ
しかし、それ以外は、とにかく夢のようなひと時。初日はハインズの可愛い振り付けにトキメき、ジャーヴィス・コッカーのシアトリカルなパフォーマンスに酔いしれたかと思えば、ウォーペイントのミステリアスなステージングにドキドキし、アイドルズのパワフルな演奏に血湧き肉躍る。2日目は、ケヴィン・モーヴィーの脱力的サウンドにクラクラし、マーキュリー・レヴの多幸感溢れるサウンドに涙腺崩壊、幾何学模様のサイケデリックな倍音を脳髄に染み込ませつつ、スロウダイヴが放つフィードバック・ノイズに溺れ(以前観た時よりも遥かに凶暴だった)、ビークが繰り出すストイックなビートに陶酔した。
最終日はマイブラの撮影があったため(今回も、筆者だけ唯一フォトピットに入ることを許された)、前半はグレディス・レイザーやジュリア・ホルター、グーン、アース、デス・グリップスなどを遠巻きに眺めつつ、体力を温存。21時30分からの本番に備えた。

MBVを待つオーディエンス
果たしてこの日観たマイブラのライブは、結論から言うと8月のソニックマニアには遠く及ばない内容だった。
とはいえ砂漠にテントを張り、昼夜問わずひたすらサイケデリックな音楽に身も心も浸かって過ごし、仕上げにマイブラを”浴びる”体験など滅多にできるものではなく、とにかく夢のような3日間だった。フォトピットに行けば、世界に名だたるフォトグラファーたちの姿を垣間見ることが出来たし、フェス飯も美味いしサソリにも刺されなかったし、渡航前の心配などどこ吹く風で楽しみまくった。
普通のフェスと比べると若干ハードルは高いが、それだけにプライスレスな体験は間違いなし。世界最大級のサイケの祭典デザート・デイズ、迷っている人は是非とも来年行ってみてはいかがだろうか。