音楽、文芸、映画。長年にわたって芸術の分野で表現し続ける者たち。
本業も趣味も自分流のスタイルで楽しむ、そんな彼らの「大人のこだわり」にフォーカスしたRolling Stone Japanの連載。2004年に来日したデヴィッド・ボウイの大阪公演のオープニングアクトを務めた清春。ボウイの強烈なカリスマ性と己の音楽への探究心は、どこか通じるものがある。デビュー25周年イヤーの締めくくりにアルバム制作中だという清春の美学に迫った。

Coffee & Cigarettes 17 | 清春

「ロックもいいが、ロールはどうした?」

ローリング・ストーンズのキース・リチャーズの名言だ。実際キースは75歳になった今も転がり続けている。

一方、今の日本のロックミュージシャン。同じロールでも、”転がる”ほうのロールではなく、”巻かれる”ほうのロールが目立つ。長いものに巻かれるのはロックミュージシャンにとってカッコ悪いことだった気がするが、今のご時世、売れるためなら、長いものだけに限らず、社会の常識にさえ巻かれてしまう者が多いように思う。

だが、清春は違う。自分の美学をどこまでも突き通す。その一つの例がタバコ。
この禁煙社会にあって、清春は今でもステージ上でタバコを吸う。「一回のライブで一箱ぐらいは吸うね。僕はインディーズの頃からずっと吸ってます。今ってミュージシャンも健康や食べ物に気をつけていて、タバコを止めちゃう人、多いでしょ? でも、タバコこそ、ロックミュージシャンなら止めちゃダメなもののひとつだとも思うんですよ。そもそも、昔のロックミュージシャンなんてみんなタバコを吸ってて、それ見ていてカッコいいと思っていて。でも、タバコを吸うのはカッコよくない時代が来たってことで、それで止めるのはカッコ悪い」とタバコの煙をくゆらせながら喫煙への美学を語ってくれた。

清春が考えるロックンロールの美学、時代に抗いながら毒を吐き続ける理由

Photo by Mitsuru Nishimura

そして、その後「でも何でみんなタバコを止めちゃうんですかね?」と、ふざけるわけでもなく、素朴にこちらに聞いてきた。一般的には健康のためとかなんじゃないんですかと曖昧に答えると、自分の意見を聞かせてくれた。「僕ね、タバコ止める人は健康もあるけど女の子にモテようと思ってるだけと思うよ。やけに身体鍛えるのもそう。それをしなきゃいけない時代なんだと思うんですよ。女のほうが立場強いから。
でも、それに当てはまろうとしていること自体が、僕が思っているミュージシャンとは違うの。タバコは確かに今の時代、女子に嫌われがち。でも、それを気にしていること自体がモテないんだなって思う。それに若者に『こういう人になりたいな』『こんな人生いいな』とか、好き勝手やってる人っていいなって思わせなきゃいけないロックミュージシャンが、新しめの文化に振り回されるのはアホらしい」と、ハッキリと言い切る清春。意地悪に「でも、清春さんも、若いファンも欲しいでしょ?」と聞くと、別に力むわけでもなく「そもそも若者にウケようと思ってないからな。むしろ若者に分かってたまるかぐらいでやってるので。昔は”大人になんか、分かってたまるか”ってやってたけど、今は年食ってきて、自分より大人もいなくなってきて、若者に分かってたまるかっていうくらいがロッカーだと思います」と飄々と答えてくれた。

冒頭で、ライブでの喫煙について書いたが、清春のライブは濃厚で、しかも短時間では行わない。清春は現在51歳。決して楽なことではないはずだ。

「確かに、僕のライブって3時間とか長めですよね。今のライブってイベントだとゲストを迎えて1時間とかさ、そういう感じになってるじゃない。
それでタバコ吸わないほうがいいって言ってる若い人を見ると、ロックというか、そもそも人間として弱いなって思っちゃうんですよね」と、歯に衣着せぬ発言は止まらない。

それだけではない。今の音楽表現、音楽産業そのものに対しても意見をズバズバという。

清春が考えるロックンロールの美学、時代に抗いながら毒を吐き続ける理由

Photo by Mitsuru Nishimura

「ああ、フェス時代でしょ。そのフェスってヤンキー文化の極みだと思うんだよ。みんな涙流しちゃうじゃないですか。僕はあれも嫌。まず、男が簡単に泣くなよって言いたい。そういう世界じゃない非日常の世界がロックだと思ってる。ロックって弱者の味方ではあるけど、今って常に感動を求めるじゃない? 感動を求めるとか、熱いとか、凄い光景を見せましたとか、嫌いじゃないんですけど、本当は作ろうと思ってもできるものじゃないんだよ。でもそれをする方程式みたいなのがあって、ウォール・オブ・デスとか、サークルピットも日本人がやってるのって、海外のやってるものとすでに違うんだと思う。先日U2が来てましたよね。
U2と比べたら人種も文化も違うけど、僕なんかちっちゃな存在なので、せめて好きにやんないと無駄だなって思うんですよね」とまたタバコを燻らした。

今の日本のフェス文化に対して疑問に持っていても、それを公言するミュージシャンはほとんどいない。理由は簡単。誰でもフェスのステージに立ちたい。CDが売れない時代において、ライブ活動は以前より重要度を増している。フェスに出れば、新しい客を手にすることが出来るからだ。だが、清春はそんなことはどうでもいいようだ。フェスだけではない、集団化して、そのムラの中で胡坐をかいているぬるい表現者が許せない。「僕らのようなヴィジュアル系の後輩、チケット高過ぎると思う、クソみたいなライブのくせに。それだったらフェス系のバンドのほうが絶対ライブいいよね」

他人に厳しいことを言えば、それはブーメランで自分に返ってくるのが世の常。これで清春がクソみたいなライブをやったら、一発でアウト。今の時代、SNSで血祭りに挙げられるのは必至。
だが、そう言わせないライブを清春はずっと行ってきた。

その最たるものが、圧倒的な、そして唯一無二の清春の歌。あの独特な歌を生で聴くと、震える。その歌に関して以前のインタビューで、「そもそも一発でそいつとわかんないような歌はダメでしょ。そんな誰だかわかんないような歌に人生かけるつもりは僕にはないです」と歌への強いこだわりと自負を語ってくれた。

それから、魅せるという部分で、清春は衣装にも相当なこだわりを持っている。「衣装はめちゃくちゃお金かけてます。それはステージに立つ基本だと思うんですよ。だってカッコいいなって思う服を着たいじゃん。それを見て真似をする子がいたほうがいいじゃん」と、ここまでは予想の範囲だったが、「デカイTシャツに短パンでスニーカー。それでグッズが売れるのでいいのかもしれないですけど。でもそのグッズのTシャツが2500円でさ。
それだと、どんどんやれることが減って行くと思うんです。で、そんなことしてたら、そいつらも残れないし、音楽業界自体が滅びてゆくよね」と、誰もが思っていたけど言えないことをズバリ言った。

清春が考えるロックンロールの美学、時代に抗いながら毒を吐き続ける理由

Photo by Mitsuru Nishimura

ちなみに、服に関しては衣装だけではなく、私服でも相当なこだわりがあるようだが、そのこだわりが清春らしい。「めっちゃ汚い古着も好きだし、モードも好き。でも、その中で、一番派手なやつを買いますね。あとは、コレは他の奴は絶対に買わないだろうっていうのを買います。そういうモテなさそうな服を着て、モテる。これですね」と、どこまでも巻かれることはしない。

デビュー25周年イヤーの真っ只中の清春。周年の締め括りにニューアルバムを制作しているという。記念のアルバムだが、浮かれた様子はなく、清春らしいこだわりのアルバムを制作している。

「音を補強しないのが理想ですよね。僕らみたいな年齢の人が最新の音楽を研究してやってもしゃーないと思っていて。今はソロなんで、歌がちゃんと聴こえることが大前提で、自分の匂いを消してないやつをやろう思います。今の若い子の歌ってすごいスムーズじゃないですか? 素人のカラオケみたいだし、下手だし声量ないし、ぐっとこない。歌詞が変わってたりとか知性はあるけど歌に根性がない。そういう時代だよね。まぁ僕は自分を全開に出す感じです」と、年明け3月のリリースを目指すアルバムでのこだわりを教えてくれた。

取材が終わってもタバコを吸い続ける清春。その姿が本当にカッコイイ。取材中にも清春はカッコいいという言葉を何度も口にした。思えば「ロックとは何か?」に一言で答えるなら「カッコイイ」なのだと思う。つまり、カッコ良く、転がり続けることこそがロックンロール。だが、残念ながら今や絶滅危惧種となりつつロックンロール。ロックンロールが博物館に展示されないためにも、清春にはこのまま毒を吐き続けて欲しい。

清春
1994年、黒夢のヴォーカリストとしてメジャーデビュー。そのカリスマ性とメッセージ色の強い楽曲で人気絶頂の最中、1999年に突然無期限の活動休止を発表。同年、sadsを結成し2000年TBS系ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』の主題歌「忘却の空」が大ヒット。同曲を収録したアルバム『BABYLON』は50万枚以上のセールスでオリコン1位を記録する。年間130本もの精力的なライブツアーを行うなかアルバム毎に音楽性を急激に変化させ、黒夢時代のファンのみならず新たな層にもその存在を強烈にアピールした。近年はソロ活動においてライフワークとなっている ”MONTHLY PLUGLESS KIYOHARU LIVIN IN Mt.RAINIER HALL”という驚異的な公演数を誇るシリーズライブを継続。2018年は清春としてのメイン活動と並行してsadsが再始動7周年を迎えたが、同年をもって活動休止。デビュー25周年の幕開けとなる2019年1月、ポニーキャニオンへ移籍。9月、カバーアルバム『Covers』をリリースした。

ロケ地協力:TERRACE BAR
https://mhouse-cafe.com/

10th ALBUM
『JAPANESE MENU/DISTORTION 10』
ポニーキャニオン
2020年3月18日(水)リリース

清春が考えるロックンロールの美学、時代に抗いながら毒を吐き続ける理由

『Covers』
ポニーキャニオン
発売中

清春TOUR2020「JAPANESE MENU」
2月9日(日)東京都恵比寿ザ・ガーデンホール
2月22日(土)長野県NAGANOCLUBJUNKBOX
2月23日(日)石川県金沢EIGHTHALL
3月14日(土)埼玉県HEAVENSROCK さいたま新都心VJ-3
3月20日(金)岐阜県岐阜club-G
3月28日(土)神奈川県F.A.DYOKOHAMA
3月29日(日)神奈川県F.A.DYOKOHAMA
4月3日(金)大阪府ユニバース
4月4日(土)大阪府ユニバース
4月14日(火)静岡県LiveHouse浜松窓枠
4月15日(水)静岡県LiveHouse浜松窓枠
5月2日(土)京都府KYOTOMUSE
5月3日(日)京都府KYOTOMUSE
5月8日(金)宮城県SENDAICLUBJUNKBOX
5月9日(土)宮城県SENDAICLUBJUNKBOX
5月22日(金)千葉県KASHIWAPALOOZA
5月23日(土)千葉県KASHIWAPALOOZA
7月31日(金)愛知県DIAMONDHALL
8月7日(金)東京都マイナビBLITZ赤坂
8月15日(土)岡山県CRAZYMAMAKINGDOM
8月16日(日)福岡県DRUMLOGOS

https://kiyoharu25.com/
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