田中:エラ・メイのサウンドって、オーセンティック過ぎるくらいオーセンティックでしょ。もちろんプロダクションの細部はきちんと現代的にアップデートされてるんだけど、基本的なフォルムは90年代R&Bそのものだとも言える」
そして、それが2018年に大ヒットしている理由については、このように解説している。
田中:やっぱり時代の揺れ戻し。2010年代みたいにいくつもの音楽的なイノべーションが巻き起こって、しかもそれが広く大衆に受け入れられた時代はなかったと思うけど、それがずっと続くっていうのもそれはそれでしんどい話じゃん。ゼロ年代初頭にレディオヘッドが世界の覇権を握ってからの10年っていうのは、そこに触発されたUSインディの時代が花開いたわけだけど、やっぱり2008年辺りに分岐点を迎えた。それと同じで、今みたいにゲームの規則が固まった後に、次の時代が来てもおかしくない。実際、エラ・メイのアルバムって、伝統的な鉄板サウンドと、ソングライティングへの回帰があるでしょ。完成度が高くて、誰も拒まないレコードだと思うの。『エラ・メイ』の90年代R&B的なオーセンティックな方向性というのは、2019年以降のトレンドになるんじゃないかな」
その後、本誌での2人の会話は、トラディッショナルなソングライティングの技術でも評価されている故・XXXテンタシオンの「カート・コバーン化」や、オーセンティック回帰に対するオルタナティヴとしてのリアーナへの期待へと広がっていく。
Edit by The Sign Magazine
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