今回は、最新シングルの話を中心に、先日開催されたアコースティックコンサート「HYDE ACOUSTIC CONCERT 2019 黑ミサ BIRTHDAY」や海外展開、今後の展望について話を聞いた。終始リラックスした様子で、こちらの質問に対して真摯に受け答えをするHYDEの姿がとても印象的だった。
―2019年が始まりましたが、ご自身のなかで今後の活動についてどういった思いがあるんでしょうか。
特に今までと変わってないんですけど、たくさん時間があるとは思ってないので、逆算して活動している感じですかね。時間がないなかで何を優先すべきなのか、「あとは何ができるんだろう」という。
―先日、幕張メッセで行われたコンサートを拝見しました。終始感極まっている様子が印象的でしたが、あれはどういった心境だったのでしょうか。
なんか、泣かそうとして先に泣いちゃう、みたいなね(笑)。セットリストは自分のやりたい曲をバーっと挙げていって、「あ、これは泣けるなあ。これ、みんな泣いちゃうんじゃないかな」って思いながら組み立てていったら、自分の方が感情移入しちゃって(笑)。
―その”泣ける”ポイントというのは、どのあたりにあったんですか?
それはいっぱいあったんですけど、あの状況っていうかオーケストラの演奏とアレンジがけっこうジーンとくるというか……。歌に集中してああいう演奏を聴いていると、歌詞の意味とかを瞬間的に深く思い出したりしちゃって、そういうときにじわじわくるんですよね。普段はそんなこと考えないし、もうちょっとテクニカルな部分だったり、パフォーマンスを意識するんですけど。
―最新シングルの「ZIPANG」を聴いて、これは今のHYDEさんだからこその表現なのかなと感じました。
最近は海外によく行ってるし、日本への愛着は今のほうがあるかもね。「日本って素敵だなぁ」と改めて思ったり。京都に行くこともよくあるんで、確かに昔とは違うかもね。
―「ZIPANG」は京都を訪れたときに浮かんだアイデアが元になっているということを先日のコンサートでもお話されてましたね。
アメリカでライブすることを考えたときに、ライブ中盤で聴かせたり、ワンクッション置いたりする……例えばバラードだったりとかね、そういう場面があると思うんだけど、せっかく聴いてもらうなら日本の美しさを知ってもらったり、日本的な音階を聴いてもらうほうがいろんな意味で効果的かなと思って。みんなも聴きたいだろうし、僕もそれを歌いたいし。そういう背景もあって、京都にいるときに「京都の曲作ろう!」って思った、という流れです。
―それが結果的に”ZIPANG=日本”という、より大きなものになったんですね。
そうそうそう。京都だけじゃちょっと収まりきらないというか、まあ、最初は「KYOTO」っていうタイトルだったんだけど(笑)。
―そうだったんですね。サウンドは、YOSHIKIさんのピアノを中心に生楽器をフィーチャーしているのが特徴的です。ギターはぐっと引いていて、どちらかと言うと音に厚みを持たせる意味合いが大きいように感じました。HYDEさんがイメージされる”和”というのは、このサウンドに集約されるようなものなんでしょうか。
そうですね。
―言葉数も音数も抑制されていてメロディの起伏も控えめですが、これも意識された部分ですか?
いわゆる日本的な音階で作っていったらこうなったっていう感じですね。あと、サウンド的にはアメリカのプロデューサー、Nicholas Furlongっていう人にお願いしたんだけど、彼が整頓していった感じかな。最初はもっと複雑だったかもしれない。アメリカのプロデューサーはシンプルにしていく方向があると思いますね。
―歌で意識したのはどういうところですか?
元々はすべて英語で、ライブでも去年のツアーではずっと英語で歌ってたんですけど、日本では日本語で歌ったほうがいいのかなって思ってきて。だけど、日本語と言ってもいろんな日本語があるじゃないですか。そんななかで、古い和歌のような言葉遣いで歌ったらさらに雰囲気が出そうだなあって思い始めて日本語バージョンを作りました。だからアメリカでリリースするときは英語バージョンにしようと思ってます。
―やはり、歌う言語によって気持ちやテクニック的な部分で変わるところはあるものですか?
変わりますね。ずっと英語で歌ってきたので、日本語にしたときは「あ、難しいな」って思いました。
―確かに、古い言葉を使っているけどそこまで硬くないですね。
ああ、そうそう。一応、現代人でも分かるレベルで「なんとなくこうやろな」って。そういう調節をしていった感じですね。ギリギリのところで「何とか分かるでしょう」っていうラインを選びました。
―今回、YOSHIKIさんにピアノをお願いすることになったのは、「Red Swan」での共演がきっかけの一つだったりするんですか?
厳密に言うとそうですね。まあ、「Red Swan」のオーダーはけっこう前……1年くらい前だったのかな……で、自分も曲を作っていく中でピアノメインの曲「ZIPANG」が出てきたんで、「これ、ひょっとしたらYOSHIKIさんの機嫌がいいときにお願いしたら弾いてくれんじゃないか……?」と(笑)。
―あはは!
ものすごく忙しい人だから、「あんまり忙しいときに言うたらあかん!」って意識して(笑)。でも、いつもどおりの「いいよ!」って感じで快諾してくれました。
―YOSHIKIさんは3日くらい集中してバッと録音されたとのことですが、上がってきたものを聴いてHYDEさんとしてはいかがでしたか。
素晴らしいと思いました、特にピアノソロ。僕の場合、オーダーしたときにどんな感じで返ってくるのか不安なときがあって。こっちの狙いを全然汲み取ってくれなかったり、独自のやり方でガーンとくる人もいたり、けっこうドキドキするんですよね。カッコよければいいけど、自分でも理解できないものがくるときは怖いんです。だけどYOSHIKIさんは、自分が思っていたものより数段違うレベルで演奏してくれたので鳥肌が立ちましたね。
―カップリングにはデュラン・デュランのカバー「ORDINARY WORLD」が収録されています。デュラン・デュランはHYDEさんが80年代に出会ったバンドで、それならば彼らの全盛期だった当時のヒット曲を取り上げるのが自然かと思ったのですが、実際に選んだのは90年代の復活作でした。
確かにそうなんですよね。90年代のデュラン・デュランは全然聴いてなかったし、その頃はもうニルヴァーナとかグランジのバンドが出てきた頃ですよね。時代もそういう方向になってたし。ただ、この曲だけは「あれ? ちょっとスペシャルだな」って思ってました。それまでのデュラン・デュランの感じとも違うし、「なんか気合い入ってるし、こういう曲を今作るのか、いい曲だな」って。
―そういう感じだったんですね。
まあ、でも今回取り上げたことに深い意味はなくて、カバー曲ってアメリカでも主流だし、向こうのフェスとかでライブをするときにみんなが知ってる曲っていうのは入り口になりやすいので、「何かカバーをやりましょう」っていう話にアメリカのスタッフと話している中でなって。それで、バラードをハードにしたような曲がいいんじゃないかっていう流れからみんなでアイデアを出し合って、「じゃあ、バラードだったらこれがいいんじゃないか」っていうことで選んだ曲です。
―デュラン・デュランだからというよりも、選んだ曲がたまたまデュラン・デュランだったということなんですね。先ほどから「海外で」という話が度々出てきますが、LArc~en~Cielとしてはマディソン・スクエア・ガーデンまで到達し、VAMPSではDownload Festivalに出演しました。では、ソロとしては何を見据えているんでしょうか。
世界へのアプローチっていう意味ではLArc~en~Cielのマディソンはすごいと思うんですけど、それはアニメの力とか昔から聴いてくれてた人が集まったりしたことで実現した、ラルクだからできたことなんですよね。だからソロに関してはアニメとかそういう部分を敢えてなくして、アメリカや世界中の人が普通に聴く音楽としてみんなと同じ土俵に立ちたいなと思っていて、そのために今の活動があると考えてます。
―なるほど。
あとは時間的な問題で、あと3年でどこまで行けるかなって感じですね。僕は日本の音楽にはアメリカにはないカッコいいものがあると思うし、向こうでちゃんとライブやプロモーションをすればウケるだろうなって簡単に思ってたんですけど、なかなかそうはいかなかった。だから残り3年くらいでやれることをやり切るっていう感じですね。
―海外のアーティストについてはどう感じていますか? 例えば、イギリスのブリング・ミー・ザ・ホライズンのアルバムがリリースされたばかりですが、HYDEさんは彼らに対してどのような感想をお持ちですか?
すごい上手だなぁって思います。最初はメタルコアだったけど、前作で大きく変わって。でもライブでは様々なサウンドが混在していて……。ポップもロックも自在に融合して上手く表現しているのは、なんかうらやましいですね。大好きなバンドです。
―メタルコアからポップな方向にサウンドを変化させて、なおかつ人気も高めていくというのは難しいことでしょうか。
そうですね。あと、ロックっていうジャンルだけだとやっぱり分母が違うというか、何十分の一とかいうロックの世界に彼らは収まりたくないんじゃないかな。それに、アメリカという大きなマーケットでの成功を目指しているからこそ、そういう変化があるのかもしれない。ロックファンを手離さずに上手にいい変化を遂げているのは参考にしたいですね。
―他に最近気になっているアーティストはいますか?
クラウン・ジ・エンパイアかな。「AFTER LIGHT」のプロデューサーが彼らと一緒だったので、その時に参考にしたアーティストですね。ブリング・ミー・ザ・ホライズンもそうですけど、彼らも日本人が好きそうなバンド。やっぱりそこはけっこう重要だと思っていて。アメリカ人が好きそうな音楽を表現するのもいいけど、日本人も同時に好きになってくれるのがベストなので、そういうバンドは聴いてていいなって思います。自分もそうありたいな、と。
―HYDEさんの作品の話に戻りますが、「WHOS GONNA SAVE US」以降、アートワークがグラフィティで統一されています。これは何か意図があるんでしょうか。
最近、アートワークってiTunesとかでも小さい枠でしか分からないじゃないですか。だからもう、文字ぐらいでしか表現のしようがないんじゃないかってところから始まってて。「もうタイトルだけでいいんじゃない?」って(笑)。でもアメリカ的にはそれでOKだとしても、日本ではそれだとちょっと物足りないので、プラスアルファでストーリーがあるんですよ。最初の背景は室内なんですけど、実は作品ごとにそれが少しずつ外へ向かってるんです。
―ああ、それは気づきませんでした。このストーリーは今年リリースされるアルバムにつながっていく、と。
そうですね。
―それにしてもリリースのペースが異常ですね。
まあ、でもアルバムが出てないので(笑)。けど、曲は一応頑張って作ってるし、ソロということもあるのでもうちょっと頭を切り替えて、アルバムはそんなに急がなくてもいいし、それよりもプロモーションとしてシングルをもっと出したほうが……名刺をどんどん配ったほうが面白いんじゃないかっていう発想で今やってます。
―HYDEさんでもまだ”名刺を配っている”という感覚があるんですか?
まあ、ソロを再始動させてまだ1年くらいしか経ってないし、まだ僕の曲を知らない人はいっぱいいると思うんで、どうせならシングルをいっぱい出していって、カップリングも含めて曲を増やしていこうと。そうするとライブをやるときに曲数もちょうどいい感じになるし。
―アルバム・リリース以降の予定はいかがですか?
アルバムが出たらツアーですね。アジアツアーも発表されたし、アメリカでのライブやフェスも少しずつ発表になってるんだけど、ワールドツアーのような形で行けるところは行こうかなと思ってます。
―やれる場所があるならガンガン行こうと。
そうですね。ただ、無理して回るというのはちょっと時間が勿体ないので、ヨーロッパは今は難しいかな……。待っててくれるファンがいるのは知ってて、とてもありがたいんだけど。
―それも今後の状況次第で臨機応変に。
そうですね。タイミングが合えばぜひ行きたいです。
―今日話を伺っていて、より自然体でソロ活動に臨んでいる印象を受けました。
そうかも。これまでで一番自由なんじゃないかと思います。こうやってシングルをずっと出していくっていう発想もなかったし、ソロだからこそ自由にできるんだなっていうのを再認識してますね。今までだったらやらなかったラルクの曲もライブでやったりするし、考え方が柔軟になっているのは自分でも思いますね。
―キャリアを重ねていくことで発想が柔軟になっていく部分もあるんですか?
いや、なんかね、知らない間に勝手に自分で枠を作っちゃってたんですよね。ソロを始めたときは自由になったつもりでいたのに、実は自由じゃなかったっていう。むしろ「ロックバンドはこうじゃないと」みたいなこだわりに縛られてて。ロックって自由を得ることだったりもするじゃない? もちろん、こだわることもロックだとは思うけど、ソロをはじめたときはそのこだわりにとらわれすぎてた。でも今は自由なロックの形っていうものにようやく気がついたんだと思いますね。新しいフィールドを見つけた気持ちで楽しんでます。

New Single「ZIPANG」
HYDE feat. YOSHIKI
収録曲:
M1. ZIPANG(Japanese Version)
※X JAPANのYOSHIKIがピアニストで参加
M2. ORDINARY WORLD
※Duran Duranのカバー
Virgin Music
2月6日発売