公称168cmと、レスラーとして決して恵まれてはいない体格ながら、ディック東郷譲りの確かな技術と自暴自棄なファイトスタイルにより、現在 ”カリスマ”の異名で知られる佐々木大輔。リップサービスを含めた試合以外のパフォーマンスも、他の追随を許さぬ独自の世界を築いている。プロレスラーを目指した経緯や、現在のファイトスタイルに大きな影響を及ぼした”ある出来事”など、これまでほとんど触れられることのなかった彼のパーソナルな部分について、本誌に語ってもらった。
ルーツは80年代ハードコア。”労働”を嫌いプロレスの世界へ
─コスチュームや入場曲に、いわゆる”ロック系”のテイストを取り入れるレスラーって昔から多いんですが、佐々木選手の場合、そういう人たちとは一線を画すリアルさを感じるんですよね。たとえば主宰興行のタイトルが「不法集会(G.I.S.M.やLIP CREAMといった、当時を代表するハードコア勢が参加した80年代の伝説的イベントと同名)」だったりとか。
そうだね。あれは、いわゆるパクり。もちろんリスペクトを込めて。
─現在率いている「DAMNNATION」というユニット名も、やはりハードコア・パンクに因んだものなんですか?
80年代の九州に、GAIっていうノイズコアバンドがいて。彼らのアルバム名から、影響を受けてる。
─プロフィールを見ると、佐々木選手って33歳じゃないですか。
そういう音楽にたどり着いていろいろ自分で聴いて探したり、地元の先輩がバンドやってて、その人に教えてもらったのも大きい。高校生くらいのときかな。もちろん当時はネットなんてなかったら、自分でレコ屋に行って買い漁るしかないじゃない? 西新宿とか高円寺とか、毎日のように通って。まぁ、今でも買って聴くほうが多いんだけど。もちろん、最近のバンドも聴くよ。稼いだ金の大半は、レコードと酒に消えるよね。
─そんな、ゴリゴリのパンク好きだった佐々木選手が、なぜプロレスラーになろうと?
中学生くらいのときから、プロレスは好きだったわけ。実家が練馬でテレビ埼玉が映るんだけど、なぜか夕食時にWCW中継やっててさ。それ見て憧れてはいたけど、自分がレスラーになれるとは思ってなかった。高校に入ってからは、音楽のほうに夢中だったし。
─バンドをやるという選択肢は……。
それはなかったな。
─大工仕事を通じて、体力に自信がついたとか?
大工の仕事って朝早いでしょ。しかも、週6とかで働かなきゃいけなくて。そこに疑問を感じたわけ。なんで毎朝起きなきゃいけないんだ、と。
─あぁ、要するに”働きたくなかった”と。
仕事をすることが限界でもう辞めようって思ってた時、たまたま読んでた『週プロ』に、SUPER CREWが練習生募集してるって記事を見つけて。それで、速攻で応募しちゃった。
─WWEでも活躍したディック東郷が設立したプロレススクールですよね。
周りがほとんど自分より年上だったから、体力で負けることはなかったんだよね。それで、なんか上手くいってレスラーになれたって感じかな。
CHAOS U.Kが教えてくれた「群れない、媚びない、結婚しない」の精神
─デビューが2005年で、翌年にはメキシコへ渡り修行。2008年からはDDTを主戦場として活躍しつつ、新日本プロレスの「ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア」にも参戦しています。当事から非凡な才能を発揮していたのですが、プロレスのスタイル的には、やはりディック東郷の影響が大きいのでしょうか。
まぁ、レスリングの基本を含めて師匠の影響は大きく受けていると思う。そこに、メキシコで学んだルチャ・リブレが混じっている感じなのかな。ただ、自分の中で好きなスタイルっていうと、やっぱり子供のころに見ていたアメリカンプロレスなんだけど。
─これまでのレスラー人生で大きな転機となるのは、やはりKO-D無差別級王座を奪取し、DAMNNATIONを結成する2016年あたり?
いや、その前の年だね。2015年。これは、ハッキリと覚えてる。
─飯伏幸太選手とタッグを組み、大日本プロレスの関本大介&岡林裕二組からKO-Dタッグ王座を取り戻した年ですね。
そういうことじゃなくて。2015年の暮れにCHAOS U.Kが来日したんですよ。そのライブを観たことで、自分のプロレスが大きく変わってしまったわけ。
─なるほど。ここで再び、ハードコアが人生に影響を及ぼすわけですか。
とにかく、凄いライブだったから。MCなんてまったくなくて、バーッと演奏するだけ。オーディエンスなんて、まったく眼中になくて、ただひたすら自分たちの存在を叩きつけてきた。その姿に圧倒されてしまって。あのライブの前後で、ほんとに自分のプロレス観が変わってしまうほどだった。

Photo by Takuro Ueno
─具体的には彼らのライブが、佐々木大輔の何を変えたのでしょう?
かつての自分もそうだったけど、大半のプロレスラーって、客の反応や顔色を見ながら試合をしているようなところがあるんだよね。
─ある意味、観客の求めるものを与えていくのもレスラーの務めではありますからね。
でも、CHAOS U.Kはそうじゃなかった。オーディエンスに媚びないというか、そもそも「わかってもらおう」という気持ちすら感じられなかった。そういうライブを観て、自分も今までみたいな試合をしている場合じゃないぞ、と思ったんだよ。やりたいことを、やりたいようにやればいいんだって。そこに気づいてからは、ベルトとかあれこれ結果も後から付いてきたという。
─つまり「群れない、媚びない、結婚しない」というDAMNNATIONのモットーは、CHAOS U.Kから生まれたわけですか。
まぁ、そういうことになるよね。
リングは”自己破壊”の場。いつ死んでも未練はないが……
─団体最高位のベルトを巻いているほか、ユニットの人気も絶頂期といえる現在、文字通りDDTの顔になっているわけですが、この先の野望ってあるんでしょうか。
特にない。さっきも言ったけど、やりたいようにやってるだけだから。他の連中みたいに団体を変えたいとか大きくしたいとか、そういう考えとは無縁でいたいし。

(C)株式会社DDTプロレスリング

(C)株式会社DDTプロレスリング
─だとしたら、ベルトを保持している意味って?
ベルトは、アクセサリーじゃないけど持っていると気分がいい。ああいうカッコいい持ち物は、やっぱり手放したくないよね。周りからチャンプとか呼ばれて気分もいいし。今後も、どんな手段を使ってでも守り続けていくよ。
─2月17日の両国国技館大会では、DDTの次期エースを自認する竹下幸之介選手が、佐々木選手が愛するオシャレなベルトに挑む予定となっています。すでに戴冠経験がある相手というだけでなく、団体を背負う気概という点でも、かなりの強敵になるのでは。
そもそも団体を背負うとか、そういう不純な動機がある時点で、私には勝てない。試合中に余計なこと考えてるような奴って、絶対隙が出てくるから。その隙を、純粋な私の華麗な技で突いてしまえば、ひとたまりもないでしょう。
─納得できるような、よくわからないような……。結局のところ、佐々木大輔というプロレスラーがリングで闘い続ける動機って、どこにあるんでしょうか。
一言でまとめるなら破壊衝動。相手を破壊する快感と、自分自身を破壊してしまう快感の両方を味わえるのが、私の場合はプロレスだったわけ。リングの上なら、どんなに無茶苦茶なことしても許されるから。デビュー当時からそうだけど、レスラーになったからには自分の命には、まったく未練がない。いつでも、死んでもいいって気持ちでリングに上がっているよね。

(C)株式会社DDTプロレスリング
─両国国技館で死んでしまっても構わない、と。
いや、その後4月にNYで試合する予定があるから、それには出ておきたい。DDTが飛行機代出してくれるし。で、帰りの飛行機には乗らずに、そのまま失踪しようと思ってて。しばらくはNYで暮らしてみたいな。
─そういうデタラメなとこが、いかにも佐々木選手っぽいですよね。でも、ここで宣言してしまったら、失踪を妨害されてしまうのでは?
あ、そうか。じゃあその時には、ローリングストーンに責任取ってもらうだけの話だな。
─いや、勘弁してください。
Judgement2019~DDT旗揚げ22周年記念大会~
2019年2月17日(日)東京・両国国技館開場11:30 開始13:00
【佐々木大輔選手出場試合】
〇メインイベント~KO-D無差別級選手権試合
<王者>佐々木大輔 vs 竹下幸之介<挑戦者=D王 GRAND PRIX 2019優勝者>
【その他主要カード】
○総研ホールディングス presents DDT EXTREME級選手権試合
<王者>青木真也 vs HARASHIMA<挑戦者>
○KO-Dタッグ選手権3WAYマッチ
<王者>マイク・ベイリー&MAO vs 坂口征夫&高梨将弘<挑戦者組> vs CIMA&吉岡世起<挑戦者組>
○ドラマティックドリームマッチ
遠藤哲哉 vs 丸藤正道
○スペシャルハードコア6人タッグマッチ
高木三四郎&伊東竜二&長与千種 vs 高尾蒼馬&マッド・ポーリー&彩羽匠他
【団体公式サイト】https://www.ddtpro.com/