ーRiddim Saunterの解散後、Keishiさんはすぐにソロ活動を開始しましたよね。アクションの早さに驚いたのをよく覚えています。
Riddim Saunterは2011年9月に解散したんですけど、解散を決めた直後にはソロでやることを決めてました。いろいろ選択肢はあったと思うんですけど、僕の場合はヴォーカリストなので、サポート・ミュージシャンをやるということはまったく頭になくて。新たにバンドを組むことも一瞬考えましたけど、それならRiddim Saunterを続ければいいじゃんと思って。そうなると、すぐに動き出せるのはソロだなと。バンドを解散したのは、あくまでも音楽を続けていくための決断だったので、あまり間隔を空けたくはなかったんですよね。できる限りすぐに始めたかった。
ーソロ活動のはじまりが弾き語りだったのは、そのスピード感を意識してのことだったのでしょうか?
そうですね。それに弾き語り自体があまり経験のないことだったので、まずはやってみようと。ただ、弾き語りをメインにやっていこうとは思ってなかったので、なるべく早くバンド・セットを動かしたいなと考えてました。1stアルバムもなるべく早く出したかったし。
ーソロの開始当初は、よりジャズっぽい音楽性もイメージしていたんだとか。
確かにそんなことも言ってましたね。もっと具体的に言うと、当時は「フジロックのオレンジコートを目指そう」と思ってました。立ったことないステージだし、2007年にオレンジコートで観たFeistのライブが良すぎたというのが理由です(笑)。それでバンド・メンバーもジャズの人たちを集めてみたりして、それはそれでよかったんですけど、一方で僕はジャズを突き詰めたかったわけではなくて。むしろ、僕はいい意味で偽物感のあるものがいいなと思っていたので、そういうイメージが生きる方向性にすこしずつシフトさせていきました。これはジャズに限らず、僕はジャンルに捕らわれたくなくて。曲をつくっているときにイメージしたものがレゲエのリズムだったとしたら、迷いなくそれをやりたいし、それができるのもソロの強みだなって。そういう感覚は1stアルバム『Fill』にも反映されてると思います。
ーその1stアルバムの前にまず発表されたのが、CD付きソング・ブック『夜の終わり』。あの作品もまた、Keishi Tanakaというソロ・アーティストの多面性を示した作品でした。
バンド・セットでフルアルバムを出す前に、まずは自分ひとりでなにか作りたいなと。
ー「情景」がポイントですね。
昔から情景を意識した歌詞を書いています。なので、そこをうまく伝えられるような作品が作りたかった。
ーそこにはRiddim Saunterとソロ活動が地続きであることを伝えたいという思いもあったのでしょうか?
ええ。僕にとって、ソロ活動を始めたことはリセットではなく、むしろそれまでやってきたことに何かが足されていくイメージだったので。あと、その時点で2ndアルバムくらいまでのイメージはあったので、そこに進むむためにドラムや鍵盤の演奏なんかも含めて、自分一人でどこまで出来るのか試したかったんです。それがソロとしての決意表明にもなるんじゃないかなって。
ーソロ活動をスタートさせた頃から、2ndアルバム『Alley』までの構想があったということ?
自分の頭のなかにあるものを形にするためには、とりあえず2枚くらいはかかるだろうなと思ってたんです。つまり一枚目と二枚目に関しては、作詞作曲はもちろん、ストリングスやコーラスなどのこまかいアレンジもできる限り自分でやってみて、それを参加ミュージシャンに演奏してもらう考え方で作っています。
ーでは、3rdアルバム『Whats A Trunk?』からKeishiさんの方針はどのように変化したのでしょうか?
『Alley』は楽曲単位でさまざまなプレイヤーに声をかけた結果として、たくさんのミュージシャンに参加してもらうことになったんですけど、『Whats A Trunk?』は4曲をコラボレーションで作っています。それまでの僕は誰かにアレンジを投げることができなかったんですよね。でも、それを楽しんでやってみようと思い始めたのが3rd以降なんです。
ー共作を楽しんでみようと思えるようになったのは、最初の2枚目で手応えをつかんだから?
そうですね。あと、「シングルをきる」というアイデアも大きかった。以前の僕はシングルを出すことにあまり面白味を感じてなかったんですけど、たとえば絵本の形をしたパッケージだったり、なにかテーマを明確に打ち出した作品をだしたいときは、シングルが有効なんじゃないかと思ったんです。そこでまずは3rdアルバムに先立って、共作曲をシングル三部作として出してみようかなと。
ー実際、あのシングル三部作の流れにはわくわくしました。Keishi Tanakaがいま考えていることを明確に提示した三部作だなと。
そう、やっぱり伝わりやすいんですよね。これは時代的に感じていたことでもあって。「今、アルバムってどれくらいの人が聴くんだろう?」とか「楽曲単位で音楽を楽しむ人のほうが今は多いのかな?」とか。
ーリスナーの音楽の関わり方が日々変わっていると。
実際に変わってますよね。1年後の話を今してもしょうがない。それよりも今どうするかってことをその時々で判断していくしかないなって。あのシングル三部作はその始まりだった気がします。一気にアルバムとして出してもいいのかもしれないけど、どっちにしてもちゃんと考える必要はあるなって。
ー「今」を伝える手段として、たしかにシングルは有効ですよね。
そう、今じゃなきゃダメだっていう気持ちがすごく強かった。あのシングル3枚もそれぞれあのタイミングで作ることに意味があったと思うし、当時はざっくりとした直感でしたけど、いま思うとけっこう重要な判断だったなと。
Tokyo Recordingsがアレンジを担当した「Hello, New Kicks」
ーシングル三部作の共演者は、Tokyo Recordings、fox capture plan、 LEARNERSの3組。音楽的なタイプがそれぞれ違うところにも興味をそそられました。
あの人選は自分でもバランスがよかったなと思ってます。Tokyo Recordingsという若い人たちとあのタイミングでやれたのもよかったし、fox capture planは直接的なつながりがなかったんですけど、自分にはないセンスをもっていてすごくいいなと思ってた。そしてLEARNERSは自分といちばん近いところにいるバンド。あと、アルバムにはRopesと一緒に演奏した「冬の青」という曲も入ってるんですけど、あの曲は彼らと一緒にツアーをまわったときにつくったんです。それぞれの曲に意味があるし、どれも異なる作業でつくれたのもよかったなと。
ー2017年に発表されたのが、初の詩集「真夜中の魚」。Keishi Tanakaのキャリアを作詞家としての側面から総括した重要作ですね。
詩集をだそうというアイデアは、Riddim Saunterのころから僕のことを知ってくれてる媒体の人が提案してくれたんです。僕の書く言葉を気にしてもらえていたのが素直に嬉しかったし、それなら是非やってみたいなと。ただ、ここでソロ以降の詞だけをまとめるのは違うなと思って。そもそもソロとRiddim Saunterは裏側では地続きだし、どうせならここで15年間の音楽活動をまとめたいなと。なので、詩集に伴う弾き語りのツアーではRiddim Saunterの曲もやったんです。
ー2018年1月のシングル「This Feelin Only Knows」は、楽曲が完成したら即座にストリーミングで配信するというスピーディな展開も刺激的でした。
「This Feelin Only Knows」は僕がつくった曲の中でも特に強いメッセージをもっている曲ですね。この感情のみぞ知る。要は「ゴッド・オンリー・ノウズ」ではなくて、自分で決めていこうという意思表示なんです。で、その曲をどうやって出そうかと考えたときに、ここはストリーミング配信でいち早く聴いてほしいなと。そのスピード感がすごく楽しかったので、the band apartとのスプリット・シングル「Break It Down」もすぐにストリーミングでリリースしました。
ーストリーミングならではのスピード感を楽しんでみようと。
ええ。僕もストリーミングはおもしろいツールだなと思っていたし、違法のものと勘違いしなければ、今はリスナーにとってすごくいい時代だと思うので、そこはちゃんと伝えていきたいなって。ただ、それを押しつけたくはなかったので、もちろんフィジカルも用意しました。ちゃんとすべての人が聴けるようにしたかったので。
ーその「This Feelin Only Knows」「Break It Down」も収録されるニュー・アルバム『BREATH』は、レーベルを通さずにセルフ・リリースされるようですね。
単純に、今の自分にはこのやり方が合ってる気がしたんです。そう思えたのは、今の事務所に移籍してそういう理解があったことも大きいし、もちろん「This Feelin Only Knows」と「Break It Down」の手応えもありました。ストリーミングによって、今までは届かなかった人にも僕の曲を聴いてもらえてるし、今はこのスピード感で動いていきたいなと。一方でレーベルの協力が必要だと感じている部分もあるのですが、そこについては『BREATH』をだすことでいろいろわかってくると思います。いずれにしても、このタイミングで活動環境を整理できたのはよかったですね。
ー音楽をとりまく状況は目まぐるしく変化していますが、どうやらKeishiさんはその変化を楽しんでいるようですね。
そうですね。もちろん迷いもあるんですけど、今だからこそ楽しめることがたくさんあるわけで、そっちをしっかり見ることのほうが重要かなって。僕はプレイリストで聴いてもらえるのもすごく嬉しいし、やりようによってはいくらでも楽しめる時代だってことは、リスナーにも伝えたいし、音楽をやる人たちにも伝えたいんです。ただ、『BREATH』にはストリーミングで公開しない「疎雨」という曲があって。というのも、「疎雨」は僕のCDやレコードを買ってくれる人や、ライブに足を運んでくれてる人に向けて書いた曲なんです。たまたま耳にする人のことを意識していないというか。そういう曲がひとつくらいあってもいいかなって。これ、今までの話と矛盾しているように感じる人もいるかな。
ーきっと伝わると思います。プレイリストから流れてくる曲を聴くのと、主体的にアーティストの作品を手に取るのはまた別だと思いますし。そんな『BREATH』のリリースを控えるなか、まずはベスト盤『CLIPS』を携えたツアーが始まります。
今までは届いてなかった人たちに自分の音楽を聴いてもらえてるのを最近は肌で感じてるので、ベスト盤はその入門編になればいいなと思ってます。そして、そのあとのライブを共有するというところまでいきたい。僕はライブがメインなので。そのベスト盤を携えた東名阪のワンマン・ツアーを回ったら、そこからはすぐ『BREATH』にむかっていこうかなと。僕がなにかをすることで物事が大きく変わるとは思ってなくて。それこそ『BREATH』が世にでることで誰かの人生がいきなり変わるなんてことはないと思う。でも、その変化のきっかけにはなるかもしれない。そういうふうに作品が育てばいいなと思うし、そういうライブがやりたいんですよね。
〈リリース情報〉

Best Album
『CLIPS』
発売中

4th Album
『BREATH』
5月8日(水)リリース
※初回限定特典 『BREATH by Photo & Word』
山川哲矢氏による撮り下ろし写真と、Keishi 本人によるライナーノーツ。さらにロングインタビューも掲載。
〈ライブ情報〉
CLIPS RELEASE TOUR
4月26日(金)東京 キネマ倶楽部
4月28日(日) 名古屋 CLUB UPSET
4月29日(月・祝) 大阪 Shangri-La
■メンバー
Vocal : 田中啓史
Drums : 小宮山純平
Bass : 田口恵人 (LUCKY TAPES)
Guitar : 四本晶
Piano : 別所和洋 (Gentle Forest Jazz Band)
Tenor Saxophone : 黒須遊 (RIDDIMATES)
Trumpet : 阿部健太 (videobrother, The SKAMOTTS)
Chorus : Achico (Ropes)
BREATH RELEASE TOUR
6月9日(日)新潟 GOLDEN PIGS BLACK STAGE
6月21日(金)横浜 F.A.D
6月27日(木)京都 MUSE
6月28日(金)福山 Cable
6月29日(土)高松 TOONICE
7月7日(日)福岡 INSA
7月24日(水)宇都宮 HELLO DOLLY
7月25日(木)仙台 enn 2nd
8月2日(金)四日市 Club Chaos
to be continued
■メンバー
Vocal : 田中啓史
Drums : 小宮山純平
Bass : 田口恵人 (LUCKY TAPES)
Guitar : 四本晶
Piano : 別所和洋 (Gentle Forest Jazz Band)
Tenor Saxophone : 黒須遊 (RIDDIMATES)
Trumpet : 阿部健太 (videobrother, The SKAMOTTS)
詳細:
http://keishitanaka.com/