世界最大のレコード会社ユニバーサル・ミュージック・グループは、アメリカにおいてInterscope Geffen A&M、Republic Records、Def Jam、Capitol Music Group等を束ねているが、女性がトップを務めているレーベルはその中にひとつもない。
イギリスでも状況は似ているが、レベッカ・アレンが社長を務めるDeccaや、ジョー・チャーリントンが副社長を務めるCapitol等、ユニバーサル・ミュージック U.K.のレーベルの中には女性を重役に迎えているところもある。一方でUMGの最大のライバルであり、Columbia,、RCA,、Parlophone,、Atlantic、Warner Bros等の歴史あるレーベルを束ねるソニー・ミュージック・エンターテイメント、ワーナー・ミュージック・グループでは、女性が単独で会社を仕切っているケースは見られない。
統計によると、アメリカとイギリスの主だったメジャーレーベル26社(すべてユニバーサル、ソニー、ワーナーのグループ会社)のうち、女性が経営者または共同経営者となっているレーベルはわずか4社であり、全体の15パーセントにとどまっている。どちらの国においても、功績が認められた女性エグゼクティブはWomen In Musicにおいて表彰されているものの、レコード会社という分野においては、女性が重役に就いているケースは決して多くない。
こういった状況にスポットライトを当てたのは、イギリスのユニバーサル、ソニー、ワーナーの各グループが今月上旬に発表したGender Pay Gap(男女間の収入格差)の統計だ。各グループは毎年4月5日に同様のデータを公開しており、前年(このケースでは2018年4月5日の時点)における男女間の収入の違いを明らかにしている。
予想された通り、状況は芳しくなかった。3つのグループにおける男女間の収入格差(例:女性スタッフと男性従業員の平均収入の違い)は、平均で29.6パーセントにのぼっている。差が一番少なかったのは20.9パーセントのソニー・ミュージック U.Kであり、ユニバーサル・ミュージック U.K.では29.1パーセント、ワーナー・ミュージック U.K.では38.7パーセントという悲痛な結果が出ている。
想像がつくだろうが、これらの格差を生んでいる最大の要因は、各社における重役の男女比だ。Gender Pay Gapは収入の階層を4つに区分した上で、各階層における各社の男女比率を公表している。トップの階層に着眼すると、ユニバーサルでは男性が73パーセントを占めており、ワーナーでは70パーセント、ソニーでは60パーセントが男性となっている。
2017年と比較すると、3社とも男女間の平均収入格差はわずかに縮小している。それでも、「不条理な格差」に対して声を上げた人々がいたことは当然だといえる。
ユニバーサル、ソニー、ワーナーはそれぞれ、男女間の収入格差解消にむけて積極的に取り組んでいくと発表しており、今後はより多くの女性を重役に迎えるとしている。
ユニバーサル・ミュージック U.K.の人事部でシニア・ディレクターを務めるモルナ・クックは、男女間で収入に差が見られることを率直に認めている。「(当社の)男女間における収入格差は、女性重役の少なさが大きな原因となっています。我々はこの点の改善に取り組んでいきます」同社の年次報告書で、彼女はそうコメントしている。「当社にはすでに数多くの女性重役がいますが、その数をより増やせるよう、未来のリーダーとなりうる優秀な人材の育成に取り組んで参ります」
メジャーレーベルのトップにおける男女比率には、今なお残る業界の旧体制が大きく関係している。レーベルのトップを務める人間の多くは、業界用語でA&Rと呼ばれる人材発掘および育成を担当する役職上がりだ。あくまで通説だが、この役職はあらゆるレベルにおいて男性に牛耳られており、マーケティングやプロモーション、ブランドパートナーシップといったレコード会社における他の主要部門と比較しても、女性の数が極端に少ないとされている。
ユニバーサルのクック女史はこう語る。「統計における数値には、シニアA&Rに支払われたボーナスが反映されています。これまで音楽業界において、その役職は伝統的に男性が多数となっていました。主なレーベルにおけるA&R部門の男女比率を50:50にすべく、現在我々は積極的に女性A&Rを雇用しています」
今日の音楽業界には、メジャーレーベルで手腕を振るっているシニアの女性たちも存在する。ロサンゼルスに拠点を置くキャピトル・ミュージック・グループのマネージメントチームには、モータウン・レコード社長のEthiopia Habtemariam、Carolineの流通/サービス部門のトップを務めるジャクリーン・サターン、そしてCMGのChief Operating Officerであるミッチェル・ジュベリラー等が名を連ねている。グローバルな音楽業界の未来のリーダーとなりうる存在として、この3人は現在大きな注目を集めている。またワーナー・ミュージック U.K.のGender Pay Gapレポートによると、同社は前年(2017年4月~2018年4月)に7名の重役を新たに雇用しており、その大半は女性だという。
実のところ音楽業界では、女性重役たちが確かな結果を出している分野がある。それはアーティスト(演奏家)たちとやり取りするレコード会社ではなく、作曲家たちとの仕事が中心となる音楽出版だ。統計を見ると、巨額の利益を生み出している音楽出版の分野では、他の部門よりも重役のポジションにおける男女比率のバランスがとれていることがわかる。
10億ドル単位の金を動かしているUniversal Music Groups publishing company (UMPG)では、ジョディー・ガーソンが代表およびCEOを務める。2015年に同ポジションに就いたことで、彼女は世界規模で展開するメジャーレーベルにおける初の女性重役となった(それは100年以上続く音楽業界における歴史的出来事だった)。
音楽出版の分野における同社のライバル、ワーナー・ミュージック・グループのWarner/Chappellは、業界人からの信頼も厚いCarianne Marshallを共同経営者およびCOOに迎えている(彼女は入社後に昇進している)。同社において最も地位の高い2つのポジションにおいて、彼女は伝説のA&Rマンとされるガイ・ムートとタッグを組んでいる。
つまり世界最大の音楽出版会社3社のうち、2社を率いているのは女性だということだ。これは今日の音楽業界においては、才能ある女性が重役に就くことが可能になったという事実を示している。統計が発表されるたびに男女格差について非難されるという事態を避けるためにも、音楽業界は今後より多くの分野に女性重役を迎えるべきだろう。
・著者のTim Inghamは、Music Business Worldwideの創設者兼出版人。2015年より、世界中の音楽業界に最新情報、データ分析、求人情報を提供している。毎週ローリングストーン誌でコラムを連載中。