「ありそうでなかった日本語パワーポップバンド」を掲げる大阪の4人組、ナードマグネットが2ndアルバム『透明になったあなたへ』を6月12日にリリース。フロントマンの須田亮太も愛読しているという音楽ブログ「マフスのはてな」管理人/ライターの岡俊彦に、本作を支えるポップカルチャーへの愛情を掘り下げてもらった。
2006年に大阪で結成されたナードマグネットは、ウィーザーやモーション・シティ・サウンドトラックを始めとする数多くのバンドに影響を受けながら、日本語でパワーポップを紡ぎ続けてきた。
バンドのボーカル&ギターである須田亮太氏(以下、須田さん)は、「この時代に性差別的だったり人種差別的だったりな発言する人って、ここ数年の世界中の優れた映画とかドラマとか音楽にロクに触れてない証拠だから、倫理とか道徳云々の前にひたすらダサいしつまんないよな。」と2018年にツイートしている。
彼らのニューアルバム『透明になったあなたへ』はそんな彼自身の言葉を身をもって示すかのように、ここ数年の世界中の優れた映画・ドラマ・音楽に真摯に向き合ってきた人間だからこそ作り上げることができた、ひたすらにヴィヴィッドで最高に面白い作品となっている。いや、「ここ数年」ではないかもしれない。ポップカルチャーを長年に渡って心の支えとしてサバイブしてきた人間が持つ気概と優しさが、ナードマグネットの音楽からは溢れているのだから。
だからもちろん、このアルバムにはポップカルチャーからの影響がたっぷりと反映されている。「アップサイドダウン」は2017年にスーパーボウルのCMとして放送された、『ストレンジャー・シングス』のシーズン2に向けた予告編の宣伝文句のフレーズ「The world is turning upside down」を基調とした、消えてしまった大切な人を探す旅が綴られるラブソング。続く「FREAKS & GEEKS」と「バッド・レピュテイション」では『フリークス学園(原題:Freaks And Geeks)』(※)がインスピレーション元となっている。後者2曲の曲順が隣り合わせになっているのは、『フリークス学園』の主題歌がジョーン・ジェットの「Bad Reputation」であったことに対するオマージュ。「バッド・レピュテイション」はジョーン・ジェットの楽曲からタイトルを採りながらも、サウンドはブリンク182の「First Date」風で、ロックンロールの連綿たる歴史を感じさせる作りになっているのが面白い。
※1999年から2000年にかけてアメリカで放送されるも、短期間で打ち切られたジャド・アパトー製作の伝説的な学園コメディ・ドラマ。80年代のミシガン州の高校を舞台に、学校生活に馴染めない「Freaks(落ちこぼれ)」と「Geeks(オタク)」の日常を描き、セス・ローゲン、ジェームズ・フランコ、ジェイソン・シーゲルといった、いわゆる「アパトー・ギャング」と呼ばれる人気俳優を多数輩出した。
また、メロディがジュリアナ・ハットフィールド「Cry In The Dark」風の「家出少女と屋上」では『ア・ロング・ウェイ・ダウン』(※)が、「HANNAH / You Are My Sunshine」では『13の理由』を影響源に、その先に見える新しい世界を彼等なりに提示。そもそも『透明になったあなたへ』の、カセットテープにアコースティック・ギターの弾き語りを吹き込んでいるかのようなイントロから始まる全13曲のアルバムという構成自体が、『13の理由』をモチーフにしているものと思われる。
※自殺に失敗した4人の男女が再び生きる力を取り戻すまでを描いたニック・ホーンビィ作の小説。後に映画化され、『幸せになるための5秒間』という邦題で日本公開もされている。「家出少女と屋上」が基にしているのは小説の方。
さらに、「透明になろう」では2016年の前作『CRAZY, STUPID, LOVE』に収録された「Mixtape」に続いて、『ウォールフラワー』への言及が。『アメリカン・ティーン』でも大フィーチャーされていたブラック・キッズによる名曲「Im Not Gonna Teach Your Boyfriend How to Dance With You」を(ニルヴァーナの「Smells Like Teen Spirit」を引用しながら)カバーしてエバーグリーンな魅力を引き出しているところにも造詣の深さとセンスの良さが感じられる。
本作のハイライトというべき、ウェリントンズ「Song For Kim」の日本語カバー「Song For Zac & Kate」では、そんな彼らのポップ・カルチャーに対する愛が全面的に展開されている。
「Song For Kim」は「かつて自分達が競演した、愛してやまない海外のバンドのメンバーに思いを馳せる歌」である。オーストラリアのパワーポップ・バンドであるウェリントンズは、90年代前半からアメリカでパンクとパワーポップを繋げる役割を担ってきたマフスのキム・シャタックに敬意を表してこの歌を作った。
ウェリントンズ「Song For Kim」のMVは、マフスの代表曲「Sad Tomorrow」が元ネタ。ナードマグネットの前作「C.S.L.」のMVも、この2曲へのオマージュが捧げられている。
ここで個人的な思い出を書かせてもらうと、筆者は2014年に行われたマフスの新代田FEVERでの東京公演の際に、わざわざ大阪から遠征してきた須田さんを見掛けたことがあるし、逆に筆者が2015年に行われたメアリー・ルー・ロードの心斎橋Pangeaでの大阪公演に東京から遠征した際には、会社帰りでスーツ姿の須田さんの方から私に話し掛けてくれた(須田さんは現役のサラリーマンでもあるのだ)。
さらに須田さんは、筆者が渋谷で不定期に開催している「はみ出し者映画」のしがないイベントで上映されるルーカス・ムーディソンの『リリア 4-ever』を観たさに、名古屋でのYON FES出演の翌日であるにも関わらず来場してくれるわで、とにかく音楽のみならず、ポップカルチャー全般とはみ出し者に対する愛に溢れた最高の人間なのであります! アンディ・ウォーホルの『キャンベルのスープ缶』を例に挙げるまでもなく、「ポップ」の真髄とは取るに足らないと思われていた物の中から価値を見出すことであるわけで、ナードマグネットは音楽からも生き方からも、真にポップを体現しているバンドであるといえる。
もちろん、ここに書いてきたようなリファレンスの数々を知らないという人もたくさんいるだろう。だが、ナードマグネットがこうしたポップカルチャーを本当に心の底から愛していること、それらに突き動かされてここまでたどり着いたということはきっと伝わると思う。そして、『13の理由』の痛ましい物語が、こうやって切なさを抱えながら疾走するポップソングへと昇華されていったということ自体が、まさにこの世界における希望ってものだろう。『透明になったあなたへ』を聴けば、世の中まだまだ捨てたもんじゃない、と思えるはず。
〈リリース情報〉
ナードマグネット
『透明になったあなたへ』
発売中
〈ライブ情報〉
2019年6月22日(土)
FREEDOM NAGOYA 2019
愛知県名古屋大高緑地特設ステージ
2019年6月23日(日)
OTOSATA ROCK FESTIVAL 2019
茅野市民館(長野県茅野市)
2019年6月28日(金)
【インストアイベント】大阪編
タワーレコード梅田NU茶屋町店 6Fイベントスペース
2019年6月29日(土)
WHAT GIVES JAPAN TOUR 2019 愛知 栄Partyz
2019年6月30日(日)
"makuake" release tour.
高松TOONICE
2019年7月7日(日)
【インストアイベント】東京編
TOWER RECORDS新宿店7Fイベントスペース
2019年8月4日(日)
ULTRA SOULMATE 2019
大阪城音楽堂
2019年8月10日(土)
だいそうさくツアー 千葉編
千葉LOOK
2019年8月11日(日)
だいそうさくツアー 栃木編
宇都宮HELLO DOLLY
公式サイト:https://nerd-magnet.com/
2006年に大阪で結成されたナードマグネットは、ウィーザーやモーション・シティ・サウンドトラックを始めとする数多くのバンドに影響を受けながら、日本語でパワーポップを紡ぎ続けてきた。
バンドのボーカル&ギターである須田亮太氏(以下、須田さん)は、「この時代に性差別的だったり人種差別的だったりな発言する人って、ここ数年の世界中の優れた映画とかドラマとか音楽にロクに触れてない証拠だから、倫理とか道徳云々の前にひたすらダサいしつまんないよな。」と2018年にツイートしている。
彼らのニューアルバム『透明になったあなたへ』はそんな彼自身の言葉を身をもって示すかのように、ここ数年の世界中の優れた映画・ドラマ・音楽に真摯に向き合ってきた人間だからこそ作り上げることができた、ひたすらにヴィヴィッドで最高に面白い作品となっている。いや、「ここ数年」ではないかもしれない。ポップカルチャーを長年に渡って心の支えとしてサバイブしてきた人間が持つ気概と優しさが、ナードマグネットの音楽からは溢れているのだから。
だからもちろん、このアルバムにはポップカルチャーからの影響がたっぷりと反映されている。「アップサイドダウン」は2017年にスーパーボウルのCMとして放送された、『ストレンジャー・シングス』のシーズン2に向けた予告編の宣伝文句のフレーズ「The world is turning upside down」を基調とした、消えてしまった大切な人を探す旅が綴られるラブソング。続く「FREAKS & GEEKS」と「バッド・レピュテイション」では『フリークス学園(原題:Freaks And Geeks)』(※)がインスピレーション元となっている。後者2曲の曲順が隣り合わせになっているのは、『フリークス学園』の主題歌がジョーン・ジェットの「Bad Reputation」であったことに対するオマージュ。「バッド・レピュテイション」はジョーン・ジェットの楽曲からタイトルを採りながらも、サウンドはブリンク182の「First Date」風で、ロックンロールの連綿たる歴史を感じさせる作りになっているのが面白い。
※1999年から2000年にかけてアメリカで放送されるも、短期間で打ち切られたジャド・アパトー製作の伝説的な学園コメディ・ドラマ。80年代のミシガン州の高校を舞台に、学校生活に馴染めない「Freaks(落ちこぼれ)」と「Geeks(オタク)」の日常を描き、セス・ローゲン、ジェームズ・フランコ、ジェイソン・シーゲルといった、いわゆる「アパトー・ギャング」と呼ばれる人気俳優を多数輩出した。
ちなみに本作で主演を務めたジョン・フランシス・デイリーは俳優業を続けながら映画監督・脚本家としても出世し、『スパイダーマン:ホームカミング』の脚本を執筆。さらに2018年には『ゲーム・ナイト』というアメリカン・コメディの大傑作を監督している。
また、メロディがジュリアナ・ハットフィールド「Cry In The Dark」風の「家出少女と屋上」では『ア・ロング・ウェイ・ダウン』(※)が、「HANNAH / You Are My Sunshine」では『13の理由』を影響源に、その先に見える新しい世界を彼等なりに提示。そもそも『透明になったあなたへ』の、カセットテープにアコースティック・ギターの弾き語りを吹き込んでいるかのようなイントロから始まる全13曲のアルバムという構成自体が、『13の理由』をモチーフにしているものと思われる。
※自殺に失敗した4人の男女が再び生きる力を取り戻すまでを描いたニック・ホーンビィ作の小説。後に映画化され、『幸せになるための5秒間』という邦題で日本公開もされている。「家出少女と屋上」が基にしているのは小説の方。
さらに、「透明になろう」では2016年の前作『CRAZY, STUPID, LOVE』に収録された「Mixtape」に続いて、『ウォールフラワー』への言及が。『アメリカン・ティーン』でも大フィーチャーされていたブラック・キッズによる名曲「Im Not Gonna Teach Your Boyfriend How to Dance With You」を(ニルヴァーナの「Smells Like Teen Spirit」を引用しながら)カバーしてエバーグリーンな魅力を引き出しているところにも造詣の深さとセンスの良さが感じられる。
本作のハイライトというべき、ウェリントンズ「Song For Kim」の日本語カバー「Song For Zac & Kate」では、そんな彼らのポップ・カルチャーに対する愛が全面的に展開されている。
「Song For Kim」は「かつて自分達が競演した、愛してやまない海外のバンドのメンバーに思いを馳せる歌」である。オーストラリアのパワーポップ・バンドであるウェリントンズは、90年代前半からアメリカでパンクとパワーポップを繋げる役割を担ってきたマフスのキム・シャタックに敬意を表してこの歌を作った。
ナードマグネットはそういった楽曲の成り立ちを踏まえた上で、ウェリントンズのザック・アンソニーとケイト・ゴールドビーにこの歌を捧げたのだ(ナードマグネットは2017年に行われたウェリントンズの日本ツアーに帯同している)。しかもイントロではウェリントンズの「Come Undone」を、ギター・ソロでは「Freak Out」を、エンディングでは「Sight For Sore Eyes」を引用するという小技も効いており、ウェリントンズに対する愛情を歌詞のみならず音でもたっぷりと表現しているのだった。
ウェリントンズ「Song For Kim」のMVは、マフスの代表曲「Sad Tomorrow」が元ネタ。ナードマグネットの前作「C.S.L.」のMVも、この2曲へのオマージュが捧げられている。
ここで個人的な思い出を書かせてもらうと、筆者は2014年に行われたマフスの新代田FEVERでの東京公演の際に、わざわざ大阪から遠征してきた須田さんを見掛けたことがあるし、逆に筆者が2015年に行われたメアリー・ルー・ロードの心斎橋Pangeaでの大阪公演に東京から遠征した際には、会社帰りでスーツ姿の須田さんの方から私に話し掛けてくれた(須田さんは現役のサラリーマンでもあるのだ)。
さらに須田さんは、筆者が渋谷で不定期に開催している「はみ出し者映画」のしがないイベントで上映されるルーカス・ムーディソンの『リリア 4-ever』を観たさに、名古屋でのYON FES出演の翌日であるにも関わらず来場してくれるわで、とにかく音楽のみならず、ポップカルチャー全般とはみ出し者に対する愛に溢れた最高の人間なのであります! アンディ・ウォーホルの『キャンベルのスープ缶』を例に挙げるまでもなく、「ポップ」の真髄とは取るに足らないと思われていた物の中から価値を見出すことであるわけで、ナードマグネットは音楽からも生き方からも、真にポップを体現しているバンドであるといえる。
もちろん、ここに書いてきたようなリファレンスの数々を知らないという人もたくさんいるだろう。だが、ナードマグネットがこうしたポップカルチャーを本当に心の底から愛していること、それらに突き動かされてここまでたどり着いたということはきっと伝わると思う。そして、『13の理由』の痛ましい物語が、こうやって切なさを抱えながら疾走するポップソングへと昇華されていったということ自体が、まさにこの世界における希望ってものだろう。『透明になったあなたへ』を聴けば、世の中まだまだ捨てたもんじゃない、と思えるはず。
〈リリース情報〉

ナードマグネット
『透明になったあなたへ』
発売中
〈ライブ情報〉
2019年6月22日(土)
FREEDOM NAGOYA 2019
愛知県名古屋大高緑地特設ステージ
2019年6月23日(日)
OTOSATA ROCK FESTIVAL 2019
茅野市民館(長野県茅野市)
2019年6月28日(金)
【インストアイベント】大阪編
タワーレコード梅田NU茶屋町店 6Fイベントスペース
2019年6月29日(土)
WHAT GIVES JAPAN TOUR 2019 愛知 栄Partyz
2019年6月30日(日)
"makuake" release tour.
高松TOONICE
2019年7月7日(日)
【インストアイベント】東京編
TOWER RECORDS新宿店7Fイベントスペース
2019年8月4日(日)
ULTRA SOULMATE 2019
大阪城音楽堂
2019年8月10日(土)
だいそうさくツアー 千葉編
千葉LOOK
2019年8月11日(日)
だいそうさくツアー 栃木編
宇都宮HELLO DOLLY
公式サイト:https://nerd-magnet.com/
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