ブルックリン発の4人組パワーポップ・バンド、チャーリー・ブリスにインタビュー。青春映画のようなバンド結成のいきさつ、ファウンテインズ・オブ・ウェインやストロークスといった音楽的ルーツ、サウンド面で大きな広がりを見せた2ndアルバム『Young Enough』の制作背景などを語ってもらった。


本人たちとのQ&Aに入る前に、簡単なイントロダクションを。チャーリー・ブリスは2011年に結成。日中はバリスタやバーテンダーとして働き、夜はリハーサルに勤しむ下積み時代をしばらく続けながら、2014年のデビューEP『Soft Serve』やスリーター・キニーのサポートなどで注目を集めると、2017年の1stアルバム『Guppy』でたちまちブレイク。紅一点のエヴァ・ヘンドリックスによる勝気なハスキーボイス、ウィーザーを想起させるメロディ、はち切れそうなテンションが詰まった同作は、パワーポップのファンを大いに歓喜させるとともに、低迷が続くロックシーンに新風を巻き起こした。

あれから2年、今年5月にリリースされた2ndアルバム『Young Enough』では、ロードやスーパーオーガニズムの近作をヒントに、より同時代的なサウンドへとアプローチ。持ち前のポップネスを継承しつつ、前のめり気味だった前作に対し、シンセを積極的に導入したスペイシーな音作りで新境地を切り拓いている。

ライターを長年やっていると、メール・インタビューの淡白な回答に泣かされるケースも少なくないが、チャーリー・ブリスはパソコンの画面がびっしり埋まりそうなほどの長文を届けてくれた(ここからも人柄が伝わってくるはず)。メンバー4人の自己紹介を兼ねた最初の質問を除き、エヴァが熱心に答えている。

―最初に、バンドを始めるまでの生い立ちと、音楽的なバックグラウンドについて教えてください。

サム・ヘンドリックス(Dr):両親がいつも自分たちの好きなバンドのレコードを家で聴いていたから、音楽は子どもの頃から自然と身の回りにあるものだったんだ。最初に親しんだ楽器はバイオリンとピアノだったけど、その頃からずっとドラマーに憧れてたんだよね。ロックやポップスを聴くのが大好きで、でもミュージシャンとして成長していく過程のほとんどの時間はクラシックとジャズを演奏していた。
大学時代にバンドを組んで、自分で曲を書き始めてようやく、これが本当にやりたいことだと気がついて。今こうやって自分の妹(エヴァ)とふたりの親友と一緒に世界中を旅しながらライブをしていて、その夢を本当に叶えられたんだと徐々に実感しているよ。

ダン・シュアー(Ba):僕はコネチカットで育って、5歳のときにミュージカルをはじめたんだ。ギターは11歳でやりはじめて、それからすぐにスペンサーとサマーキャンプで出会ってバンドを組んだんだけど、今振り返ると小っ恥ずかしい真似をたくさんしたよ。そのうちにカッコつけてヴァンパイア・ウィークエンドとかレディオヘッドをコピーするようになるんだけど、バンドを始めたばかりの頃にレッチリやジミヘンのカバーをしてる目も当てられない映像が今でも残ってるし、まったく意味不明なことに童謡をスカ風にアレンジして演奏してたりね。自分は演技と監督業を学ぶためにブルックリンに引っ越して、ニューヨークの学校へ入ったからそのバンドごっこは一旦終わってしまったんだけど、結局ブルックリンでエヴァとサム、スペンサーにチャーリー・ブリスに誘ってもらうことになるんだよね。バンドをはじめてからすごく楽しいし、チャンスを逃さなくてよかったと思ってるよ。

スペンサー・フォックス(Vo, Gt):俺は93年、ブルックリン生まれ。8歳の頃ウエストチェスターに越したんだ。それからすぐ、ロング・レイクのサマーキャンプに参加するようになって、そこでダンと出会うことになる。そこから話は進んで15歳の時、トーキョー・ポリス・クラブのライブに行った時にダンがエヴァを紹介してくれたんだ。そのあと2010年に家族と一緒にコネチカットに引っ越すことになって、偶然にもダンとエヴァの通ってた高校に行くことになるんだよね。
その頃の自分はダブステップとEDMばかり聴いていたんだけど、正直病んでた時期っていうか、思い出すと今でも嫌な気持ちになる。でも高校最後の年にエヴァと曲を作り始めて、指先が空いたダサいグローブをはめて必死になってベースを弾いていたおかげで、なんとか自分を見失わずに済んだんだ(そのバカみたいな指なし手袋はもちろん自前で、ものすごく高価だった)。で、2011年にエヴァの兄貴のサムと一緒にはじめてEPを作ることになるんだけど、スタジオに入ってすぐにこのバンドは特別だと感じたよ。このグロースティック・ネックレスみたいな繋がりにいつまでもぶら下がっていられると思ったのさ。

エヴァ・ヘンドリックス(Vo, Gt):私はコネチカット育ちの、子どもの頃から歌ったりパフォーマンスするのが大好きな目立ちたがりの獅子座。はじめてミュージカルの舞台に立ったのは7歳のときで、ダンと私はミュージカルを通じて11歳の頃からお互いを知っていた。でも12歳になるまでは全然まともな役がもらえなくて、ダンが『犀』で重要な役を演じていた時に、私はキッチンストーブ役だったな(笑)。ミュージカルは18歳まで続けたんだけど、それと並行して14歳くらいの時に独学でギターをはじめて、コマーシャルのジングルなんかを歌ったりもした。

トーキョー・ポリス・クラブのライブに行った日に、ダンが会場の外でスペンサーを紹介してくれたの。彼とはすぐに打ち解けて、放課後毎日のようにビデオチャットするようになった。そのうちスペンサーが「曲を作ってたりしないの?」って尋ねてきて、私がこっそり作っていた曲があることを打ち明けると、一緒に弾いてみたいと言ってくれて。そのあと、いざレコーディングしてみようってなったときに、兄のサムにドラムで参加してもらったら、驚くほどバンドとしてしっくりきたの! そこから舞台役者よりもバンド活動を強く志すようになって、ニューヨーク大学でクライヴ・デイヴィスが設立した音楽専門の講座(Clive Davis Institute of Recorded Music)を受講し、パフォーマンスやビジネス、プロデュースやエンジニアリングのノウハウを学んだ。
バンドを結成したのは人生最高の決断だったと思う!

―自分自身にとっての音楽的なヒーロー、もしくはヒロインといえば?

エヴァ:ライロ・カイリーのジェニー・ルイス。彼女のライブを観たとき、女性のフロントマンを見たのは彼女のライブが初めてで、バンドを率いる姿に一瞬で心が奪われたの。女性的な観点で堂々と紡がれる彼女の歌詞は恐れ知らずで、私はその姿勢にものすごくインスパイアされていて、自分の制作スタイルも大きく影響している。それに彼女が作品ごとにサウンドを変化させていて、いろんなジャンルを実験的に取り入れているということに、自分が歳を重ねるごとにリスペクトが深まっていくわ。それから私は本当に、本当に心の底からレディー・ガガが大好き! あの勇敢さ、深くファンを思いやる姿……そして言うまでもなく彼女の音楽とスタイル! 彼女を愛さずにいられるわけがないでしょ!?

―いろんなインタビューで、ファウンテインズ・オブ・ウェインを影響源に挙げていますよね。

エヴァ:私たち、彼らのことが大好きなの! まず言っておきたいのは、「Stacys Mom」がこれまでに作られた中でもベストなポップソングだってこと。とっても楽しいアレンジにすごくキャッチーなメロディーを乗せること、それを当たり前のように恐れなくやってくれること自体が素晴らしくて。フェイバリットは挙げきれないけど、「Stacys Mom」「Sink to the Bottom」「Mexican Wine」「Hey Julie」「Radiation Vibe」、それから「Hackensack」ね!

―大学時代のあなたはマギー・ロジャース(※)と一緒に、ジャーナリストのリジー・グッドマンの元でインターンとして働いていたそうですね。彼女の著書である2000年代ニューヨーク・シーンの回顧録『Meet Me In The Bathroom』の制作もサポートしたそうですが、そのときのエピソードについて教えてください。

※2017年にフジロック出演も果たしたニューヨークのシンガー・ソングライター。グレッグ・カースティンなどをプロデューサーに迎えた1stアルバム『Heard It In A Past Life』を2019年に発表。

エヴァ:あの経験は人生でもっともラッキーだったことのひとつ! 私たちはリジーが録ったほとんどのインタビューを文字起こししていたから、編集前の生の音声を聞くことができたの。
『Meet Me In The Bathroom』にはストロークスやLCDサウンドシステムだとか、自分にとってのヒーローみたいなバンドがたくさんフィーチャーされていたから、彼らが自分のライブや音楽、そのはじまりがどんな風だったか語るのを聞くのは刺激的な体験だった。私達が大好きなバンドの多くが、自分たちのキャリアを振り返ったときに、なんだかんだでバンドを始めた頃が一番楽しくて満たされていたって口を揃えていたこと、それを耳にしたことが自分にとってなによりの収穫だったように思う。今の私たちはバンドとして、大きな野心を胸に輝いていけるよう必死で頑張っていて、それ自体いいことだとは思うけれど、この冒険の路におけるすべての面に感謝を忘れずに、いいことも悪いこともあるからバランスが保てているんだってことを忘れてはいけないと思わせてくれた。

そしてもちろん、リジーという聡明で姉のように思える女性と、マギーという寛大で輝かしい友人に出会えたこと! ふたりは私にインスピレーションを与えてくれる大切な存在だし、インターンを通じて得た経験すべてに感謝しているわ。

―前作『Guppy』はパワーポップの要素を強く感じるアルバムでした。

エヴァ:アルバムを完成させるのにはすごく時間がかかったの。レコーディングは2回する羽目になったし、リリースしてくれるレーベルを探すのも大変だった(最終的にデス・キャブ・フォー・キューティーなどが所属するBarsukからリリース)。ようやく出来上がったときにはホッとしたのと同時に、 いろんなもどかしさに苛立っていた自分も認めざるをえなかった。でも時間を置いてみると、バンドとしてどういう存在でありたいのか理解させてくれた作品として、すごく誇らしく思えてきたの。「私たちはポップなバンドなんだ!」って。どれだけヘヴィなギターやシンセを通じてコミュニケーションをとっていても、私達の音楽の基本は楽しさにあるの。キャッチーなメロディーにカタルシスのあるアレンジ。
『Guppy』を作るのに苦労しなかったら『Young Enough』みたいなアルバムを作ることは絶対にできなかったと思う。

『Guppy』収録曲「Westermarck」

―『Guppy』を聴いて真っ先に連想したのは『プッシーキャッツ(原題:Josie And The Pussycats)』のサウンドトラックでした。実際にあなたにとっても、この映画の影響は大きいらしいですね。

エヴァ:わあ、それは本当にうれしい! メンバーみんな『プッシーキャッツ』が大好きなの。私は小学校から帰ると毎日繰り返し見ていたくらいで、自分たちの音楽にも大きく影響してる。サントラはもう本当に素晴らしくて! ファウンテインズ・オブ・ウェインのアダム・シュレシンジャーが楽曲のいくつかに関わっていたり、Letters to Cleoのケイ・ハンリーも楽曲提供していて、彼女の歌う曲が最高なの。

―映画からインスピレーションを得ることも多い?

エヴァ:ここまで自分たちの音楽に直接的に影響している映画はほかに思い浮かばないけど、『Young Enough』のアートワークは『パリ、テキサス』と『三人の女』『地獄の逃避行』の画からインスピレーションをもらった。

チャーリー・ブリスの4人がコスプレしながら『プッシーキャッツ』の曲をプレイした時の動画。

―その『Young Enough』ではエレクトロニック・サウンドが大胆に導入され、前作より曲調のバリエーションが大きく広がった印象です。この変化はどうやって訪れたのでしょうか?

エヴァ:同じレコードを繰り返すことはしたくなかったから、意識して違うことにチャレンジしたの。『Guppy』という作品も大切に思ってるけど、新しい楽器やアレンジのスタイルを取り入れたかった。まず、私たちはポップ・ミュージックが大好き。
メンバーが共通して好きなジャンルだというのもあるけど、『Young Enough』の制作中に発表されたたくさんのアーティストの「ポップ」に本当に刺激をもらった。特にロードやテイラー・スウィフト、スーパーオーガニズム、それからブリーチャーズやロビンの作品は、今まで聴いたなかでも特にユニークでクリエイティブな音楽だと感じたから、私達もそんな彼らと同じフィールドに出て行きたくて。自分たちの感性や直感が世界にどうやって伝わるのか試してみたかった。制作中に一番影響を受けたのはロードの『Melodrama』。本当に美しく煌めいていて、胸が張り裂けるような強く心を打つ作品で、『Young Enough』を導く光になってくれたの。

―『Young Enough』でサウンドを変化させるにあたって、作曲、歌い方や演奏の面で新しいアプローチを取り入れたりもしましたか?

エヴァ:新しいアルバムへのアプローチはすべて作曲から始まったの。それまで私達はそれぞれ日中仕事をしたり、学生だったりしたんだけど、このアルバムをきっかけにそれらを辞めて制作に集中することに決めた。だからより多くの曲を作って、全員が完璧だと思えるまで書き直したり、アレンジを変えたりすることができた。私個人としては、ギターでなくシンセを使って曲づくりすることに挑戦していたの。今までにない試みだったし、違う楽器を使ってみることで思い浮かぶメロディにどのような変化があるのかが気になったし、それが重要に思えてきて。

それからプロデューサーにジョー・チッカレリ(※)を迎えられたことも大きかった。彼はレコーディングの1カ月前にニューヨークまで来てくれて、まず書きためた楽曲をすべて一緒に見直してくれて。すべての曲を彼の前で何回も繰り返し演奏して、たくさんのフィードバックをもらった。そのおかげでひとつのパターンに収まってしまうことなく、新しいアイデアやチャレンジに対して道を拓くことができたの。

※70年代から活躍しているアメリカの音楽プロデューサー/ミキシング・エンジニア。これまで携わってきたのは手掛けてきたのはU2、ベック、ビョーク、ホワイト・ストライプス、ストロークス、ザ・シンズ、モリッシーなど。

―前作に引き続きミュージックビデオがユニークで、みなさんの演技力にも驚いています。今作で特に気に入ってるMVは?

エヴァ:どれかひとつを選ぶのは難しい! どのビデオも期待以上の仕上がりだったから、全部すごく気に入ってるの! でもどうしても選ぶ必要があるなら、個人的に紹介したいのは「Chatroom」かな。実は撮影の時は本当に緊張しちゃって。ダークなドラマの脚本をカメラの前で演じることがはじめてだったから、私にとっては挑戦だったの。監督をしてくれたMaegan Houangは親しい友人のひとりで、彼女の励ましとサポートのおかげでなんとかやり切ることができた。一番難しかったぶん、思い入れの強いものになったの。楽曲の不穏な空気をそのまま捉えながらも、新たな世界を詩的に切り出してくれていて、そこも気に入っているポイント。

―今作の歌詞を通じて伝えたかったテーマを教えてください。

エヴァ:このレコードにおける大きなテーマは「忍耐と希望」。歌詞は性暴力や自己嫌悪に鬱だとか、暗く難しいテーマを多く題材にしてる。だけど人が救いを求めた時、自分と自身の愛する人に対して誠実であれば、どんなに苦しい経験も乗り越えることができるっていうメッセージを込めているの。人生でもっとも辛いと思えるような瞬間をじっと耐え忍んで、事実を受け入れて、そこから学ぶことができたなら、本当に強くなることができる。私も自分が体験したことを乗り越えるまでの間、ずっと溺れているような感じがしていて。ちょっとでも前に進んでいるとは思えない瞬間がたくさんあったし、そう簡単にうまくはいかないけれど、どん底から這い上がるために必死でもがいて立ち直った自分のことが今すごく誇らしく思える。

―そんなアルバムを『Young Enough』と名付けた理由は?

エヴァ:制作途中の段階からずっと、「Young Enough」がアルバムを代表する楽曲になると感じていたから。曲が出来上がったとき、残りの楽曲をどうしたいか、作品全体のヴィジョンをはっきり掴むことができて、完成を前にこの曲がタイトル・トラックになると思ったの。

私達は歳を重ねるにつれて、困難を避けることができなくなる。人生は本当に苦しくてやっかいなもので、誰もそこからは逃れられない。でも、培ってきた経験をどう活かすかは自分次第。冷たい皮肉屋になってしまうこともあれば、殻を打ち破って自分を輝かせたり、心を開いて人を深く思いやることもできる。それが「Young Enough」という曲、そしてアルバム全体に込めた意味。私はすべての悩みが消えて無くなる魔法みたいな方法を見つけたふりをしたいわけじゃない。でも、このアルバムを作りながら改めて自分の強さを見つけられたことが嬉しかった。たとえどんなに辛く惨めに思える体験をしたとしても、自分自身のことをまだ好きだと思えて、自分に非はないとちゃんと信じられること。それが大切なんだと思う。

―チャーリー・ブリスにとってポップは重要な要素だと思います。「ポップはダサい」という間違った風潮も昔からありますが。

エヴァ:本当にその通りね! 私も高校生の頃、マイリー・サイラスを聴いているってみんなに言うのがちょっと恥ずかしかった時期とかもあったけど、音楽に向き合っているうちにまったくそんな風には思わなくなった。みんなもっと自分に正直になって、ポップ・ミュージックが素晴らしいものだって素直に認めてしまえばいいのにね。ビートルズだってポップ! プリンスも、ウィーザーも、レディー・ガガも、キラーズも、すべてポップなんだもの! 

―そこまで強くポップに惹かれるのはなぜ?

エヴァ:感性をどうやって音として表現するかにはたくさんの方法があるけれど、ポップは真っ直ぐ感情に訴えかけることのできる無尽蔵のフォーマットで、それに強く惹かれるんだと思う。これまでに何十億ものラブソングや失恋ソングが作られてきたのに、いつまでも飽きることなく、新しいものがどんどん生まれていく。歌われていることがまるで直接自分の人生に関わっているような、今起きていることを直接映し出しているかのように感じる曲たちがね。ソングライターとしてそういう曲を書くためには、自分自身と感情を顕微鏡でのぞくみたいに詳しく観察して、発見したことについて正直でいることが大事なんだと思う。それこそが私にとって、追い求める価値があることなの!

チャーリー・ブリスが語るポップの真髄「惨めな体験をしても自分を信じること」

チャーリー・ブリス
『Young Enough』
発売中
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