このショートフィルムで菅田将暉は監督デビューとなる(山田健人は監督補佐として参加)。当初は5分程度の映像作品を想定していたというが、蓋を開けてみればなんと47分にも及ぶ作品が完成していたというこの『クローバー』を、映画館のスクリーンで上映するまたとない機会になった。この日は菅田、石崎、山田の3人もまず客席から鑑賞。上映終了後、サプライズで客席から3人が登場すると歓声が上がった。

Photo by 上飯坂一
ショートフィルム『クローバー』で菅田は盟友である俳優の仲野太賀を主演に迎えて撮影した。劇中では20代の働く男性の何気ない日常やその中にある小さな発見、人とのつながりといったことが淡々と、しかし穏やかに温かみをもって描かれている。
またとない劇場でのスペシャル上映に際しての気持ちをあらためて聞かれた菅田は開口一番「僕もね、”なんでこんなことになったんだろう”って気持ちがすごくあって。まさか、ひゅーいくんが書いてくれた『クローバー』で、こうして(映像作品もできて上映して)皆さんに挨拶をすることになるなんて。ちょっとまだ整理ついてないですけども(笑)。今日は来てくださりありがとうございます」とお礼の気持ちを客席に向けて表した。
以下に、この日のトークの模様を掲載する。
石崎ひゅーい(以下、石崎):この『クローバー』は菅田くんに初めて聴いてもらった1曲で。
菅田将暉(以下、菅田):俺らはおもしろいですよ? 好きなことやらせていただいて。……でもなんか、これこんな風に観てもらっていいのかな?って(笑)。
山田健人(以下、山田):ボリュームありましたね(笑)。最初5分くらいの映像をって話だったところからすげえボリュームになったな、って。
菅田:5分の映像つくるって言って47分になったら、普通クビだよね(笑)。まあまあ。自分も昨日は自分のアルバムをフライングゲットしに渋谷のタワーレコードとか、行ってみました。今回は、ひゅーいくんを筆頭に、プライベートの付き合いからの発展というか、そういう出会いでできたアルバムでもあるので。発売される瞬間を見たいなあと思っていましたし、そこに並んでいるお客さんだとか、POPを書いてくださった従業員の方だとかをちゃんと自分で見るという。そういうぬくもりが大事で。
石崎:そんな日常ですね。このショートフィルムも、日常を写してるだけですもんね、ほんとに。
菅田:そうなのよ、だからもうなんかこれでわざわざ挨拶させてもらうっていうことかっていうと俺もちょっとわからないんだけど(笑)。
石崎:いつも曲つくっている感じ、あんな感じだもんね(笑)。
菅田:でもひゅーいくんがアルバムにくれたコメントを読んで”ああそういうことだなあ”って思ったの。単純に僕らのこういう日常を忘れたくないから。残したいなあって思ったんですよ。で、そういうものをこうして人様にお見せできて。たとえ1000人のうちその中のたったひとりであっても何か伝わったりしたらいいなって。
石崎:菅田くんて、本当に普通のなんでもない日常を宝物みたいにすることの天才だと思うんですよ。それは一緒に活動していて思う。
菅田:ああでもそれは、俺の日常が、非日常すぎるんだよ。お芝居だからね、基本が。だから日常を求めるんだよね。
石崎:なるほどね。
菅田:そうそう(笑)。
石崎:すんごいことだよね。
菅田:でももとはといえばひゅーいくんが『クローバー』という曲を俺に書いてくれたからだからね。もう丸2年くらい前か。
石崎:最初に歌の1番だけ聴いてもらってね。もし2番まで聴いてたら泣いてたと思うって後から言われて”ああなんでもうワンフレーズ歌っておかなかったんだ、俺!”という後悔だけがすごいある。もしその初めて聴いてもらった時に菅田くんが泣いていたら、”あの時ね、泣かせたんですよ”って今日話せたのに(笑)!
菅田:ここにプロットのなぐり書きがあり。今日dutch(山田)が持ってきてくれて、久々に見たんですけどね、これ、みなさんすごいですよ? 俺は本当にね、5分のつもりで書いてたんです、ペラ2枚だけ。なのにこれがあんな風(ショートフィルム『クローバー』)になるんですから。映像作家ってすごいですよ。
山田:(笑)でも最初の時点でもう”冒頭は長回しで”とかは見えていて。
菅田:あっはっは!
山田:癖ですよね(笑)。
菅田:今回ね、太賀が出てくれたでしょう。役者として僕一番好きな同世代で。作品見るたびにこいつすごいなあって思うんですけど。でもそんな太賀から、セリフを奪い、動きを奪うと、映画館はこういう雰囲気になるんだなあって思いました。それが役者としては楽しくて。何かに集中している人の横顔が僕、好きなんでしょうね。だからあいつの日々のいいところが撮れたんじゃないかなって勝手に思ってます。

Photo by 上飯坂一
山田:いやあ……まちがいない。(映像中に)何回着替えるんだ、って(笑)。
菅田:20代中盤の、もう”小おじさん”がさ、スーツから着替えてるだけの3分間、とかあるじゃない? ”何見せられてるんだろう……? もう俺だったらちょっと文句言うよ!”って(笑)。でも”ああいう日々じゃん!?”ってことがやりたかっただけなんです。
石崎:そういえば僕は”台本を見ないで”って菅田くんに言われてたんだよね。
菅田:長回しのシーンとかはポイントポイントで、”どこかでこれやってね”っていう爆弾を出演者に渡しておいて、いつ放り投げるかは自由っていう感じでみんなにお願いしておいたんだよね。あいみょんとか言ってるのは、あんなのもうあいつ(仲野太賀)のアドリブですよ(笑)。
山田:”灰色と青”とかもアドリブだよね。
石崎:でもすごかったのは、あれ撮影の前日からみんなで集まってたんだよね。
菅田:撮影が2日間で、2日目があの部屋のシーンだったんだよね。だから本当にみんなで遊んで、あの部屋を散らかしたんだった。
石崎:それで入って行ったからこそ、4人の長回しのシーンもすんなり入っていけた(笑)。
菅田:太賀はあの部屋で寝たもんだから本当にちょっと風邪ひきかけて(笑)。僕も劇中で声ちょっと枯れてるってことになってますけど、あれはレコーディングとかが重なっている時期で、本当に声が出なくなっちゃってて。だから演出については紙に文字書いてカンペでやってたんですよね。でもなんで俺あの時、ひゅーいくんに”台本見ないで”って言ったんだろう……?
石崎:なんでだろうね。でも監督にそう言われたから頑なに見なかったんだよ(笑)。でもいっこだけ教えてもらったセリフが「おいっすー」だった(笑)。
菅田:全然覚えてないけど(笑)! あ、劇中で太賀が来たら言ってってことか。
山田:あの”おいっすー”の間がヤバいんですよ。できたらみなさん是非もう一回観ていただきたいです。ひゅーいくんが服に隠れてて、ふっと出てくるところね。楽曲「クローバー」が劇中で流れるまでに時間ありますけど、でもあの劇中歌っぽい楽曲の扱いはすごくしゃれてていいですよね。
菅田:あれも現場で決めたんだよね。冒頭20分くらい長回しがあって、その段取りはなんとなく決めてるけどどうなるかわからないし、ひゅーいくんがどこで曲をかけるかもわからないから流れだった。でもちょうど、俺らが部屋から外に出ていったら”落ちサビ”が流れて。タイミングもいろいろ完璧でした。
石崎:僕としても『クローバー』が今回こういう形になって、感無量です。歌詞にもあるように”誰かの愛に変わる日まで”という、本当にそういう歌だし、これからもそういう風になっていくだろうなって感じが、おかげさまでしています。そういう風にこの歌を育ててもらってありがたいなって気持ちでいっぱいです。
菅田:今日はこんな、すごくレアな、今後あるかどうかもわからないスペシャルな日にきてくださり本当にありがとうございました。ひとつ大事な思い出ができましたし、それを観てもらえてすごく嬉しいです。そして、ひゅーいくんの作ってくれた言葉のとおり、こういう僕らの、今日だけではなく、いろんな日々の活動が誰かの愛に変わりますように、という思いで作りました。そうなってくれたら嬉しいです。本当に今日はありがとうございました。
最後の挨拶前には、菅田と石崎で『クローバー』を弾き語りで披露するサプライズも。普段からよく音楽をつくったり歌って一緒に遊んでいることを公言しているふたりを弾き語りライブで堪能できるというファンにとってはまたとない特別な時間となった。

Photo by 上飯坂一

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今回の初回生産限定盤にのみ収録されているこのショートフィルム『クローバー』で主演している太賀は、今作『LOVE』のジャケットを撮影しており、フォトグラファーとしての顔も持つ。菅田将暉が誰かと出会い、そこで生まれた何かを音楽という形にしたものが結集しているのがこの2ndアルバム『LOVE』だが、お互い役者仲間である太賀とは音楽とも違った形でまた名前の明確につかない楽しい”ものづくり”をしながら、相思相愛の関係性を深めていることがひしひしと伝わってくる(ちなみに太賀は2019年2月に発売となった菅田将暉アニバーサリーブック『誰かと作った何かをきっかけに創ったモノを観ていた者が繕った何かはいつの日か愛するものが造った何かのようだった。』にてハワイでの表紙と巻頭グラビアの撮影も担当している)。
「出会い」と、そこで生まれたまだ名もなき何かを、おおらかに”LOVE”と括ってみせる菅田将暉の度量は、どこまでも深い。
<INFORMATION>
『LOVE』
菅田将暉
EPIC RECORD JAPAN
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