ビリー・アイリッシュが米ローリングストーン誌2019年8月号の表紙を飾った。撮影はカナダ出身の若き写真家、ペトラ・コリンズによるもの。
フォトセッションにまつわる秘蔵エピソードを、未公開写真を交えつつ紹介する。「表紙を飾ってきた若い女性はたくさんいる。だから私は、『ブリトニー・スピアーズの表紙とはまったく正反対のことをしたい』って言ったの」

改めて、ビリー・アイリッシュとは何者なのか?

1.
ビリー・アイリッシュは2001年12月生まれ。チャート1位を獲得した初の今世紀生まれのアーティストだ。

2.
彼女はCDを買ったことがない。「私は27歳にはならない――27なんて年寄りだもの」なんてことを言う。また、いまだに小児科医にかかっている、おそらく唯一のポップスターだろう(「変だよ」と彼女は母親に言う。「4歳児だらけの控室に、ビリー・アイリッシュがいるなんて」)

ビリー・アイリッシュ表紙秘話 女性ポップスターへの期待を「粉砕」したフォトグラファー

Photo by Petra Collins for Rolling Stone

※未公開写真をすべて見る(写真ギャラリー)

3.
アイリッシュは、ご法度とされていることをやりつくし、音楽界を制した。彼女の音楽は大方の10代のポップスターよりもダークで、エキセントリックだ。ゴスっぽくて、パンキッシュで、どこか邪悪な感じを漂わせ、可愛らしさのかけらもない。コアな10代の女子ファンにとって、彼女はアートの授業にいるクールな上級生。服装も態度も、あんなふうになりたいと憧れられる存在だ。
スタイリッシュで、怒りがたぎっていて、おそらくちょっぴり危険な存在。

4.
彼女のヒット曲「bad guy」の歌詞にもあるように、「私は悪いタイプの子、あなたのママを悲しませ……ひょっとしたら、パパにモーションかけるようなタイプの子なの」

5.
彼女のオーラは半分ニヒリストで、半分反抗期といったところ。今世紀最初にいきなり6つもの存在の危機に直面してきた世代ならではだ。だが彼女は遊び心もいっぱいで、茶目っ気たっぷり。どこか儚げで、心ここにあらず、そしてメランコリック――言い換えるなら、ようするにティーンなのだ。

6.
これまでのポップアイドル世代とは違って、アイリッシュは多少ならずともオーガニック志向だ。4年前、彼女はSoundCloudに壮大なバラード「オーシャン・アイズ」をアップロードした。彼女がボーカルをつとめ、現在22歳の兄フィネアスが作曲・プロデュースした曲だ。この曲は、アイリッシュのダンスの教師に捧げて作られたもの。毎日の練習の振り付けに使う曲を頼まれていたのだ。だが、曲が文字通り一夜にして世界中に拡散されるや、音楽業界からひっぱりだことなった。アルバムがリリースされないうちから、Spotifyでは何十億回もストリーミングされた。


7.
アルバムの1曲目は、歯列矯正を外して歌ったあどけなさが残る物憂げな1曲。そして、体制には真向から反抗するという彼女のスタイルが確立された。彼女の音楽――ベッドルームで兄妹が作詞作曲した音楽――は、限られた7~8人があらゆる音楽を手掛けるポップ界では際立った存在だ。

気取ったところがなく、たわごとを相手にしない姿勢も、成功の大きな要因である。「ビリーには、どうしてこれが重要なのかを教えてやらなくちゃいけませんでした」と母親は言う。父親は――アイリッシュは「興味のない人には容赦ないし、人から好かれようなんてこれっぽっちも気にしない子」だと言う――彼女が所属するレコード会社のお偉方が一同にやってきて、彼女に盾を贈ったときのことをこう振り返る。「別のアーティストだったら、自分の名前が入ったゴールドディスクをもらったら有頂天になるところでしょうが」と父親。「ビリーの反応はこうでした。『こんな盾なんかもらっても困るんだけど?』」

ビリー・アイリッシュとペトラ・コリンズの出会い

ペトラ・コリンズが初めてビリー・アイリッシュに遭遇したのは、カルバン・クラインのキャンペーンだった。

「彼女は、自分にとっての服について話していた。服は盾のようなものだって」と、写真家兼映画監督兼アーティストは語った。映像の中でアイリッシュは、ぶかぶかの服を着るのは自分の身体――や見た目――で騒がれたくないからだと説明していた。


「それで興味を持ったの。ティーンエイジャーの頃の自分や、写真家としての原点を思い出したわ」と言うコリンズは、自らもモデルをしていた経験がある。彼女の作品の大半は音楽業界とは無縁だが、最近ではセレーナ・コメスからメアリー・J・ブライジなど、さまざまな面々と仕事をしている。「彼女に安心感を覚える若者が大勢いるってことがわかったの。それってすごくクールよね」

ビリー・アイリッシュ表紙秘話 女性ポップスターへの期待を「粉砕」したフォトグラファー

ビリー・アイリッシュとペトラ・コリンズ(Photo by Moni Haworth)

新星ポップスターのローリングストーン初表紙の撮影に、編集部はコリンズに白羽の矢を立てた。ホラー映画好きだった2人はたちまち意気投合。何よりも、近年のいかにもローリングストーンらしい表紙とは正反対のことをしたい、という意見で一致した。

「これまで表紙を飾った若い女性はたくさんいる。だから私は『ブリトニー・スピアーズの表紙とはまったく正反対のことをしたい』って言ったの」と写真家は説明した。彼女がここで言うのは、1999年にデヴィッド・ラシャペルが撮影した表紙のこと。ランジェリー姿の17歳のスピアーズが紫色のテレタビー、ティンキー・ウィキーを抱えてベッドに横たわっているものだ。見開きページに関しても、アイリッシュは同じような意見を主張した。


「彼女は『自分の身体とかを全面に出すようなのはやめて』って言ったわ」とコリンズは振り返る。「悲しいかな、話題にしてもらわなきゃいけないのよ。でも私は言ったの、『そうね、ブリトニー・スピアーズの表紙とはまるきり正反対のことをしましょう。1人の人間としてのあなたを撮ろうじゃない』って」

ホラー映画に着想を得た、独自の撮影セットを用意

コリンズは写真の構図に関してはうるさい――10代のほとんどをカメラの前に立って過ごしたのだからなおさらだ――今回も、2つの技法を駆使してアイディアを形にした。

「他の若い(女性)ポップスターの写真は、たいてい男性が撮影しているんじゃないかな。それも、ある特定のアングルから撮るのよね」と言って彼女は、自分がなぜ被写体を下から撮るのか説明した。「ものすごい下から撮ってるってわけでもないのよ。でも物理的にカメラに立ちはだかるようになるから、被写体に力強さが出るの。前かがみでも、立ちでもいい。物理的に、私のほうが被写体を見上げてるってわけ」

またダンスをしていた経験から、コリンズはデジタルよりも、フィルムでの撮影を好む。フィルムで撮影すると身体がリアルに表現できるだけでなく、その都度気合を入れて撮影することを強いられる。「常に光量を測ったり、エネルギーを頭のなかで考えたり、色味はどうしようか、カメラワークをどうするかとか。
やり直しがきかないからね」

ビリー・アイリッシュ表紙秘話 女性ポップスターへの期待を「粉砕」したフォトグラファー


ビリー・アイリッシュ表紙秘話 女性ポップスターへの期待を「粉砕」したフォトグラファー

Photo by Petra Collins for Rolling Stone

彼女はフィルム撮影を映画製作に例えた。今回彼女とアイリッシュは、ホラー映画に着想を得て、独自の撮影セットを構想したのが功を奏した。コリンズはセットデザイナーと共にロサンゼルスのスタジオで、不気味なリビングルームを製作した――若い女性の撮影でありがちなベッドルームはあえて避けた――ホルマリン漬けのテディベアやら、眼球がいっぱいに入った水槽など、小道具も満載だった。

「床いっぱいに土を敷いて、そこにバラを植えたの。『ビートルジュース』っぽいでしょ」と本人。「『ビリーと私が安心できる場所を作ろう、2人の世界観がひとつになった共有スペースで撮影しよう』って考えたの」

ペトラ・コリンズの苛立ち「完全に間違った時代になってしまった」

コリンズの目的は、自分もアイリッシュも楽しめるものにすること。アイリッシュが自分の作品やスタイルにはっきりした独自のヴィジョンを持っていたため、彼女が年下だということをすっかり忘れてしまっていたそうだ――ただし、『羊たちの沈黙』が話題に上ったときは説明が必要だった。「作り物の蛾を用意してね」とコリンズは説明した。「映画のポスターみたいに、彼女の口の中に入れたのよ」

26歳のコリンズは、17歳のビリーのために「Goodbye Horses」を再生するハメになった。映画の名場面のバックに流れていた曲だ。「笑っちゃうわよね、私の方が年上で、年下の子に昔のことを教えるなんて」

初めてのローリングストーン誌の表紙撮影に加え、コリンズはシリーズ作品『Baron』のプロモーションにも忙しい。6作目となる今回は、セルフポートレート撮影に挑戦した。
被写体は自分と自分の姉、それと彫刻家のサラ・シットキンに頼んで取ってもらった、自分たちの顔や身体の型。作品の大部分はInstagramの世界をテーマにしている。人々が自由に思い思いの現実を作ることができる一方、チェーン店やブランドの商品と化して逆に売りつけられてしまうような世界だ。

この投稿をInstagramで見るPetra Collinsさん(@petrafcollins)がシェアした投稿 - 2019年 5月月16日午前11時52分PDT

「誰もが好きなように現実を作れることには賛成だけど、自分たちの作った現実が他の誰かを傷つけるという、完全に間違った時代になってしまった」と彼女は言う。こうしたことに免疫はあると自覚しているコリンズも、自分が思い描いた現実が実際の現実とそぐわないことに苛立ちを覚えている。

「自分自身を見つめ直すべきだと思ったの。自分の身体は魂の入った単なる容れ物だと認識する必要があるなって」と本人。「それを実現できた私は恵まれていたと思う。本当に必要だと思う作品を作ることができたし、もしかしたら、この先も他の人々を撮影し続けるかもしれないしね」

ビリー・アイリッシュ表紙秘話 女性ポップスターへの期待を「粉砕」したフォトグラファー

Photo by Petra Collins for Rolling Stone

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