活況著しいUKサウスロンドンで結成され、名門ラフ・トレードから発表されたデビューアルバム『Schlagenheim』によって2019年のロックシーン最注目バンドとなったブラック・ミディ。ミステリアスな存在感が噂の的になると、海外のバズが日本にも飛び火し、9月に控えた初来日ツアーも東京公演はすでに完売。
残るは関西2公演のみとなっている。この勢いはどこまで本物なのか? オルタナティブ・ミュージック全般に詳しいライターの天井潤之介に話を伺った。

─まずは天井さんが、ブラック・ミディをどんなふうに捉えているのか知りたいです。

天井:簡単に一言でいってしまうと、一曲のなかで展開がめまぐるしく変わるところ。そこが聴いていて単純に面白い。曲のアタマと終わりが全然違ったりしますよね。
しかも、そこにはいろんなジャンルの音が入っている。その(いろんなジャンルの)円の重なる部分こそがブラック・ミディだと思ってて。

─というと?

天井:いわゆる”ジャンルレス”とされてきたものは、(いろんなジャンルが)同じトーンで混ざってミクスチャーになってるものが多いけど、ブラック・ミディの場合は曲がめまぐるしく展開していくなかで、例えばそれ(いろんなジャンルの円)が5枚に重なったり、途中でクロスフェードして3枚や2枚になったりする。ワントーンで1曲が構成されてなくて、そこには振れ幅やコントラストがある。悪く言えばツギハギなところもあるんだけど、しっかりシームレスに繋がってて。そこをちゃんと演奏力で繋ぎとめてるのが凄い。
さらに、そこで飛び出すサウンドの参照元が膨大にあるので、リスナーが自分の嗜好を投影しやすいんだと思います。

─神出鬼没なアンサンブルを通じて、ロックファンならどこかで刷り込まれたであろうサウンドが聴こえてくるんですよね。それもあって、「ここのギターリフは〇〇っぽい」みたいな感じで、話題にしたりツッコんだりしやすい。

天井:そうそう。ラディカルな音楽性に反して、潜在的なリスナー層はかなり広い気がします。

─そこで連想される顔ぶれは、その人が歩んできた音楽遍歴によって変わってくるんでしょうね。
例えばローリングストーンUS版のレビューでは、比較対象としてキング・クリムゾン、トーキング・ヘッズ、デス・グリップスに始まり、ペル・ウブ、コンゴのスークース、現代のクラシック音楽、エレクトリック期のマイルス・デイヴィス、キャプテン・ビーフハートとフランク・ザッパ、90年代のマス・ロック、さらにディアフーフやライトニング・ボルトまで挙がっています。

天井:どれも頷けるし、固有名詞を挙げだすとキリがないですよね。無限にタグ付けできそうなぶん、レコード棚の置き場に困りそう(笑)。

デビューアルバムに先駆けて5月に発表したシングルには、その名もずばり「Talking Heads」という曲も。

ディス・ヒートと作曲/即興

─SNSでは「toeっぽい」という感想もたくさん見かけましたが、ブラック・ミディは日本のアンダーグラウンドな音楽にも精通しているんですよね。平均年齢が20歳前後とは思えないほどインプットの量と質がずば抜けているし、それらを消化してアウトプットする手腕にも秀でている。


天井:そこはアデルエイミー・ワインハウス、キング・クルールなどを輩出してきた芸術学校、ブリット・スクール出身というのも関係しているんでしょうね。音楽的な素養はもちろん、理論的な裏付けもしっかりしてそうだし。積み重ねてきた演奏力にも絶対的な自信があるから、それらをプレゼンテーションしたときに聴き手も聞き取れるんだと思います。

2019年ロック最大の衝撃、ブラック・ミディの真価を問う

ブラック・ミディの4人。左からジョーディ・グリープ(Vo,Gt)、モーガン・シンプソン(Dr)、キャメロン・ピクトン(Ba,Vo)、マット・ケルヴィン(Vo,Gt)

─ブラック・ミディの曲は長時間のジャム・セッションから作られているそうで。そういう作り方をするバンドだったら、もちろん他人の曲をジャムったりもしてきただろうから、演奏に没頭するうちに染み付いたものが無意識的に出てきた部分もあるんですかね。


天井:それもあると思います。これまで弾いてきたものが手癖として出てきて、ジャムを重ねていくうちに曲のアイデアも洗練されていき、コンポジションに移行していく。もちろん、そのプロセスは簡単に図式化できるものではないと思いますが、”作曲と即興の中間”っていうのを上手いことやっている感じがしますね。

─”作曲と即興の中間”といえば、チャールズ・ヘイワード(ディス・ヒートのドラマー)が「インプロヴィゼーションとコンポジションの間にあるものに魅了されてきた。それは社会的交流と組織化のためのモデルでもあり、そのデザインと実行を同時にもたらすものでもある」と語っていますよね。最近、天井さんのTwitterで見かけました。


天井:そうそう。ブラック・ミディのことを考えながら、サイモン・レイノルズの『ポストパンク・ジェネレーション 1978-1984』を読み直したりしてみて(笑)。やっぱり一番近いのはディス・ヒートじゃないかな。

─ディス・ヒートといえば、「セックス・ピストルズとキング・クリムゾンとの亀裂を埋める存在」「現代のエクスペリメンタル音楽におけるビートルズ」と謳われた伝説的バンドですよね。天井さんはブラック・ミディについて、「ディス・ヒート『Deceit』以来の衝撃かも」ともツイートしていました。

天井:勢いから出たところもあるのですが(笑)、まさにそんな印象を抱いています。ポストパンク期のひとつの頂点がディス・ヒートだと思っていて、特に演奏の強度やテクスチュアルな音の重ね方においても彼らとの繋がりを一番感じたのがブラック・ミディのサウンドだったんですよね。今はThis Is Not This Heatという名義で再結成していて、昨年の来日公演も観たんですけど、そのときの印象がオーバーラップするところもありますね。

ディス・ヒートが1981年作に発表した2ndアルバム『Deceit』収録曲「Paper Hats」

─たしかに、彼らの異様なまでに張り詰めたテンションは、ブラック・ミディとも通じるものがあります。

天井:曲の構成も似てるのかな。ディス・ヒートはテープループやダブ的なポストプロダクションを積極的に用いて、そこから”音響派の先駆け”とも言われてますけど、ブラック・ミディはそれを生演奏に置き換えているような感覚もある。

─面白いですね。最近のドラマーが打ち込みのビートを生演奏に置き換えるような感覚で、ブラック・ミディはディス・ヒートの音響実験を血肉化していると。

天井:それだけ演奏に自信があるんだろうし、学校やライブの場でみっちり叩き込まれてきた感じがしますよね。80年代に活躍したポストパンクのバンドって、基本的にノン・ミュージシャンの集まりだったじゃないですか。でもブラック・ミディは音楽家としての教育を受けていて、相応のスキルも備えている。そこがオリジナルのポストパンクと違うところじゃないですか。

ブラック・ミディの三大要素

─ディス・ヒート以外で、天井さんがブラック・ミディの影響源を挙げるとしたら?

天井:ブラック・ミディの三大要素を挙げるとすると、キング・クリムゾンと、ジェームス・ブラウンないしファンカデリック、そしてカン。80年代のUKにおけるポストパンクでも、この3組が必須科目なところがあったわけですけど。

─その3組の具体的な影響について、具体的に掘り下げていきましょうか。

天井:まずはクリムゾンと言ったら、あのハードロック~ヘヴィメタル系の鋭くて重そうなリフ。

─『Schlagenheim』の1曲目「953」など随所で聴かれる荒々しいリフは、クリムゾンで言うところの『Red』っぽいですよね。

天井:それもあるし、ポストパンクの時期と重なってた頃のクリムゾンも彷彿とさせますよね。1981年の『Discipline』から1984年の『Three of a Perfect Pair』にかけて、彼らは80年代のニューウェイブやファンクの要素を取り入れつつ、即興的なパートを拡大させることでアバンギャルドな音楽性が同居する作風にスライドしていった。その時期の成果をしっかり受け継いでるなって。

キング・クリムゾン『Discipline』の収録曲「Thela Hun Ginjeet」のライブ映像

─ファンカデリック、というかPファンクの影響も大きそうですよね。

天井:かつてブライアン・イーノがトーキング・ヘッズの『Remain In Light』をプロデュースした際、「クラフトワークとパーラメントを合体させたような音楽を作ったら面白いんじゃないか」という構想を語っていたというエピソードは有名ですが、そういう感じで、いくつかのレイヤーを含んだ上での参照というレベルだと思いますけどね。

実際、ファンクだけって曲は全然ないんですよ。「Western」という8分以上に渡る曲ではカンタベリーっぽい牧歌的なフォークで始まったかと思えば、ドローンやシューゲイザー風のギターを挟みつつ、途中アフロ・パーカッションやJAGATARAみたいなファンクを経由して、また最初のカンタベリーみたいな曲調に戻るでしょ。そんな感じで場面転換するように曲調を変えながら品雑に動き回り、あるパターンやフレーズを繰り返す際にも楽器の構成や重ね方、テンポや音の強弱、あるいはスピードをスポンテニアスに変えていく。反復ではなく反芻っていうか、そうやって落差を生み出したりグラデーションを描くことで、グルーヴやファンキーさを創出しているような感じがします。

─そして、カン。ブラック・ミディはダモ鈴木との共演ライヴ音源を出しているように、クラウトロック特有の淡々としたミニマリズムもそうだし、即興セッションからサウンドを拡張させていくカンのスタイルを強く継承している感じがします。

天井:ブリットスクール時代には学校のショウでノイ!の「Hero」を延々ジャムったりしてたみたいですね。実際、クラウトロックらしいモータリックなリズム構成は「bmbmbm」や「Speedway」など随所で聴くことができます。

天井:ただ、クラウトロックは2000年代だとダンス・ミュージックとの関わりにおいても参照の対象だったけど、ブラック・ミディはクラブ的な要素を窺わせないですよね。同じサウスロンドン出身でも、シェイムはプロデューサーにジェイムス・ブレイク周辺の人物(ネイサン・ボディ)を起用したり、エレクトロニック・ミュージックへの関心も示していたじゃないですか。でも、ブラック・ミディはそうした興味がなさそう。例えば低音/低域へのこだわりを打ち出すようなタイプとも違うし、プロダクションも特別凝っている感じがしない。

─あのラフで乾いたプロダクションは、ここ数年のトレンドとなったチルでアーバンな音像や、そういう音楽を薦めがちなストリーミングのリコメンデーション・アルゴリズムに対するカウンターとしても機能しているのかな、と思ったりもしました。

天井:たしかに、巷で流行ってるようなモダンでクリアなテイストの反対を突き進んでますよね。

─ちなみにTHE FACEの記事で、ブラック・ミディのモーガン・シンプソン(Dr)がお気に入りのドラマーとして、Pファンクを経てジャズ・フュージョンに進出したデニス・チェンバースと、カンのヤキ・リーベツァイトを挙げていて。天井さんがおっしゃるとおり影響は大きいんでしょうね。そこではさらに、現代ジャズを代表する実力派ドラマーのクリス・デイヴも選ばれています。

天井:その顔ぶれと一緒に、グレッグ・ソーニア(ディアフーフ)やザック・ヒル(ヘラ/デス・グリップス)といった2000年代のドラマーを挙げているのも納得ですよね。あと、モーガンはWu-Luというサウスロンドンのプロデューサーが発表したEP『S​.​U​.​F​.​O​.​S.』に参加していて、そこでは最近のジャズっぽい演奏を披露しています。Wu-Luはジョー・アーモン・ジョーンズ(エズラ・コレクティヴ)と共作したり、このEPにサックス奏者のヌビア・ガルシアを迎えていたりと、新しい世代のUKジャズとも密接に関わっていて。モーガンも今後、そちらのシーンで活躍するかもしれないですね。

ザック・ヒルがドラムを叩く、ヘラのライブ映像

ポストパンク再評価と同時代性

─ブラック・ミディは本国イギリスだけでなく、アメリカでの評価もすでに上々みたいですね、とりわけ熱を入れているメディアがPaste Magazineで、コピーの煽り方も凄い。「自らが立ったステージを全てを破壊し、街を全焼する勢いだった」。

天井:(笑)。

─そのPasteによる記事「10 Essential Post-Punk Albums From 2019 (So Far)」でも、ブラック・ミディが真っ先に紹介されていました。ここ最近は、広義のポストパンク系バンドに勢いがありますよね。

天井:今はUKがまたそっちに振れているのかな。2010年代に入って、最初にギターバンド系で盛り上がったのはポスト・グランジや90年代のリバイバルでしたよね。そこからウルフ・アリスやピース、ダイナソー・パイル・アップといった人気バンドも出てきて。そのあとポストパンクの流れを作ったのが、シェイムやゴート・ガールといったサウス・ロンドン勢。その流れにアイドルズ(ブリストル)やフォンティンズDC(アイルランド)といったバンドが各地から加わって、現在のシーンが形成されていった。そんな印象です。

─ただ、ポストパンクとして一緒に括られるかもしれないけど、ブラック・ミディと今挙がったバンドの音はかなり異なりますよね。

天井:たしかに。同時期のポストパンクっぽいバンドだと、サックス奏者のシャバカ・ハッチングスも一時期在籍していた、UKジャズ界隈のメルト・ユアセルフ・ダウン辺りのほうがしっくりきそうかなと。

─凶暴かつ硬質な音楽性でいえば、2015年にデビューしたアイルランドのガール・バンドとか、アイスエイジ周辺の北欧・コペンハーゲン勢とも近そうな感じがします。

天井:北米だとプレオキュペーションズオウト、もっと広く含めるとメッツとか。UKだったらサヴェージズ。そういったポスト・インダストリアル系バンドの潮流から、ブラック・ミディを位置付けることもできそうですよね。

─そういうふうに近年のバンドとの接点や同時代性もあるにはあるんですけど、やっぱりバグとか突然変異みたいなバンドに映るんですよね。どうやってこんな不思議なバンドになったのか。

天井:Pitchforkのインタビューによると、ボーカル&ギターのジョーディ・グリープは、幼い頃からお父さんにジェネシス、クリムゾン、ピンク・フロイド、ザッパといったプログレを叩き込まれたらしくて。彼はソフト・マシーンとかゴングみたいなカンタベリー/ジャズ・ロックも好きなんだって。

─バックグラウンドに筋金入りの家庭環境があったわけですね(笑)。

天井:バルトークも好きって話してましたけど、たしかに牧歌的なところも結構ありますよね。クラシックや民族音楽、ジャズ、ロック、パンクの混合ということで、個人的にはジョン・ゾーンのネイキッド・シティ、エレクトリック・マサダなんかが思い浮かびますね。特に後者は、フリー・ジャズからユダヤ音楽のクレズマーやグラインド・コアまで融合させることで新たな音楽を立ち上げるってコンセプトもあったわけじゃないですか。あとはヘンリー・カウとか、チャールズ・ヘイワードも参加したマサカーといったレコメン系。そういうジャズとパンク、あるいは即興との境界線というか、はみ出した音楽と重なる部分があるのかなと。

─ジョーディと同世代で、そういう趣味に付いていけるメンバーが3人集まったのも奇跡ですよね。

天井:それがどうも、他のメンバーはグリーン・ディとかSUM 41が好きだったのが、ジョーディ君にオルグされちゃったらしくて(笑)。ボアダムズとかメルツバウを教えながら、バンドをオレ色に染めていったという。まあ、こういうサウンドをやりたいバンドは他にいたのかもしれないけど、その志に見合った知識と演奏力が備わってるのは(ブラック・ミディ以前に)久しくいなかったんじゃないかな。

─ジョーディ君はきっとカリスマ性のある人なんだろうなあ。

天井:声がまたいいんですよね。あの芝居掛かった感じの歌い方がサウンドともハマっている。

─各所で指摘されているデッド・ケネディーズのジェロ・ビアフラや、ジェネシスにいた頃のピーター・ガブリエルみたいな。

天井:シェイムと同様、マーク・E・スミス(ザ・フォール)のボーカル・スタイルを彷彿とさせるところもありますよね。歌と喋りの中間的な叫び。あとはそれこそ、チャールズ・ヘイワードが歌うとああいう感じなんですよ。爬虫類っぽいというか、細身で神経質そうなところとか。

ボアダムズとオルタナの復権

─ふと思ったんですけど、音楽シーンのフロントラインやニューカマーについて語るときに、ディス・ヒートやボアダムズに言及することって随分なかった気がしませんか。ひと昔前まではあんなに神格化されていたのに。

天井:そうなんだよね。ボアダムズが海外バンドにリスペクトされて云々みたいな話、なんか久しぶりに聞いたなーっていう(笑)。

ボアダムズの1994年作『Chocolate Synthesizer』収録曲「Tomato Synthesizer」

─たぶん、『STUDIO VOICE』が2008年3月号に「次世代オルタナティヴ・ミュージック・ランキング100!」という特集を組んだ頃がピークで、それから長いこと”オルタナ”とか”ウィアード”みたいなのは蚊帳の外だった気がするんですよね。そこも風向きが変わってきたのかもしれない。遡ってみると、2000年代のブルックリンにはボアダムズ・チルドレンがたくさんいたわけですけど。

天井:ブラック・ダイス、即興をやってた初期のギャング・ギャング・ダンス、あとはライアーズがクラウトロックに接近した2ndアルバム『They Were Wrong, So We Drowned』(2004年)とかね。あの過激さがUKで隔世遺伝的に芽吹いたのがブラック・ミディである、とも言えそうな気がして。

─というと?

天井:あの頃のブルックリンにあった実験精神や折衷性を、UK側も数年遅れでキャッチした。2000年代後半のUKで起こったニュー・エキセントリックにはそういう背景があったと思うんです。代表的なところでいうとフォールズ、ジーズ・ニュー・ピューリタンズとか。ただ、あの世代って今思えばちょっとマイルドだった気もするんですよね。先行していたフランツ・フェルディナンドやブロック・パーティのようなポップなテイストも継承していたから、そこまで先鋭的になりきれなかった。

─たしかにそうですね。

天井:それに、ニュー・エキセントリックはバンド主体のムーブメントでしたけど、エロール・アルカンのようなDJや、ディジー・ラスカルなどのグライムとのリレーションシップもあったんですよね。でも、さっきも話したように、ブラック・ミディの音にはクラブ・カルチャーとの繋がりが感じられない。彼らの地元のサウス・ロンドンは、トム・ミッシュやロイル・カーナーなどに代表されるヒップホップやR&Bのシーンがむしろ身近にあるにも関わらず。

─同郷/同世代のコスモ・パイクやプーマ・ブルーは、キリキリした緊張感にポストパンクやスティーヴ・アルビニの影響を感じる部分もありますが、ブラック・ミディは彼らよりも混沌とした”オルタナ”に振り切ってますよね。『Schlagenheim』の1曲目「953」を聴いて、「歪んだギターがこんなに気持ちいいの、いつぶりだっけ?」と思ったんですよ。Spotifyではギターが鳴った瞬間にスキップされると言われるなかで、まるで暴走するように鳴っている。

天井:しかも、バンドの演奏がきちんとデザインされてますよね。

─そうそう、ダサくないんですよ。ただ闇雲にフリークアウトしているわけでもない。

天井:例えばボアダムズを参照するにしても、さっき挙げたブルックリン勢はノイズやトライバルなパーカッション・サウンドに惹かれたのに対し、ブラック・ミディの場合はele-kingのインタビューで「エディットの仕方がデジタルでプツプツとしていてその組み合わせが面白いと思った」と語っているように、テクスチャーやプロダクションのほうに関心が向けられている。即興は好きなんだけど、「曲作りというものはこういうものだ」っていうのも学んできたんじゃないかな。その辺のバランスが取れた世代って感じがします。

プーマ・ブルーが2018年に発表したシングル「Moon Undah Water」

─あとは制作陣の手腕も大きいんですかね。『Schlagenheim』でプロデューサーを務めたダン・キャリーは、リリー・アレンやCSS、ホット・チップに携わったあと、フランツの3rdアルバム『Tonight』(2009年)で頭角を表した人物で。もともと電子音を交えたダンサブルなサウンドを得意としつつ、サイケ系のバンドも手がけ、近年はゴート・ガール、フォンテインズDC、そしてブラック・ミディと生々しい音作りがむしろ際立っている。

天井:ダン・キャリーはフランツを手がけたのと同時期に、ブルックリンのイェーセイヤーをプロデュースしたり、昔から横断的な視点を持ってますよね。あと、彼はSpeedy Wundergroundという7インチ専門のレーベルも運営していて。ブラック・ミディもここからシングルを出しているように、UKの若手を積極的に送り出しているんですよ。

─ここにきて話題作に次々と絡んでいるのも、そういう環境やコネクションがあるからなんでしょうね。

天井:そうそう、ダン・キャリーがこの界隈のキーマンなんだと思います。Speedy Wundergroundは本当に面白くて。個人的に注目しているのが、ポストパンクに加えてスリントやアンワウンドみたいなスローコアのテイストも感じさせるBlack Country, New Road。メンバーがアンダーワールドの最新プロジェクト『DRIFT』シリーズに参加していたりと、これからもっと注目されるんじゃないかな。

ブラック・ミディ来日公演の展望

─天井さんはアルバム『Schlagenheim』のなかで、どの曲が好きですか?

天井:1曲目の「953」はやっぱり好きだし、さっき話した通り「Western」の曲構成も巧みですよね。あとは「Years Ago」。ファンクと言ってもスマートなファンクじゃなくて、『母乳』の頃のレッチリだったりプライマスみたいな感じもあって。90年代前後、ミクスチャーが流行った頃のB級ファンクっぽい(笑)。

─わかります(笑)。

天井:フェイク・ジャズならぬフェイク・ファンクというか。日本だとJAGATARAや54-71とか。あとはノーウェイヴ周辺、ジェームス・チャンス&ザ・コントーションズとも近いですよね。スマート過ぎず、「contort(ねじ曲げる)」されているというか、白と黒が混ざりあった感じ。

─もしくは、ジーザス・リザードやシェラックにも通じる硬質のグルーヴというか。

天井:「bmbmbm」なんかバットホール・サーファーズみたいだしね。レーベルでいえばタッチ・アンド・ゴーやホームステッド辺りのポスト・ハードコア系バンド、あるいはアット・ザ・ドライブインとか。あと、彼らはポストロック/マス・ロックもよく引き合いに出されてますけど、バトルスなど多くのバンドがポスト・ハードコアに出自を持ち、ジャズやノイズの要素も内包していたことを踏まえるなら、あながち遠からずかもしれない。

─たしかに、固有名詞を挙げだすとキリがない(笑)。いろんな様式に手を出してるけど、最終的には聴いたことがない音楽のようにも思えてくる。こんなにスケールの大きなバンドも近年珍しいですよね。だから騒がれるのも当然ですけど、いざライブ動画を観ると、本当に”バカ騒ぎするための音楽”として歓迎されてるみたいで。

天井:サウス・ロンドンのバンドが根城にしているヴェニュー、ウィンドミルのライブ映像がいくつもYouTubeにありますよね。

─そうそう。最近アップされた動画でも、エド・シーランみたいな風貌の客がメチャクチャ盛り上がってて(笑)。お客さんのノリがパンクやハードコアっぽくて最高なんですよ。それこそ、ライトニング・ボルトのライブとか思い出す感じ。

天井:個々の演奏はタイトでミニマルな反面、雪崩を打つような荒っぽくて手数を尽くした合奏もある。旋律・調子やヴァース&コーラスではなく、リフとノイズ、音の強弱によって躍らせる彼らのスタイルが、ライブだとより顕著に表れている気がします。

─来日公演はさぞかし楽しいものになるんでしょうね。

天井:うん、そうあってほしい。盛り上がることは間違いないし。

─結構、ぶっ続けでやるっぽいですよね。

天井:そうそう、MCも挟まないみたいで。それこそインプロが持ち味だから、音源とはだいぶ異なるものになりそう。彼らはライブの即興から曲を作り上げて、それを次の作品に投影していくタイプのバンドだから、知らない曲もたくさんやるんじゃないかな。

〈ツアー情報〉
2019年ロック最大の衝撃、ブラック・ミディの真価を問う


black midi live in japan 2019

9月5日(木) 東京・代官山Unit
Support Act: Dos Monos
OPEN 18:00 START 19:00 Sold Out

9月6日(金) 大阪・Conpass
OPEN 19:00 START 19:30 前売¥5,500(税込)

9月7日(土) 京都・Metro
OPEN 17:30 START 18:00 前売¥5,500(税込)

※別途1ドリンク代 / オールスタンディング
※未就学児童入場不可

詳細:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10271

〈リリース情報〉

2019年ロック最大の衝撃、ブラック・ミディの真価を問う

ブラック・ミディ
『Schlagenheim』
発売中

詳細:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10270