ライドが再結成を果たし2枚のアルバムをリリースする……ほんの3年前ですら、まさかこのようなニュースが我々のもとに届くなんて想像もしなかった。

英国はオックスフォード出身の4人組。
マーク・ガードナー(Vo,Gt)、アンディ・ベル(Vo,Gt)、スティーヴ・ケラルト(Ba)、ローレンス・コルバート(Dr)により80年代末に結成された彼らは、「チェーンソーを持ったハウス・オブ・ラヴ」(NME誌)などと紹介され、その端正なルックスも相まって、90年代はじめには日本でもアイドル的な人気を誇った。深く堕ちていくようなフィードバック・ノイズとメランコリックなメロディ、マークとアンディによる美しいハーモニーにより、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、スロウダイヴらと共に「シューゲイザー」の代表格として一世を風靡。今も名盤との呼び声高い1stアルバム『Nowhere』(1990年)をリリースして以降も、コンスタントに良質な作品を作り続けていた。

が、次第にメンバー間の不協和音が生じ、吹き荒れるグランジ~ブリットポップ・ブームの中、1996年に一度は解散してしまう。その後、マークはフランスへ移住しロビン・ガスリー(コクトー・ツインズ)とのコラボなどを含むソロ活動を精力的に開始。アンディはハリケーン#1、オアシスそしてビーディ・アイのメンバーとして新たなキャリアを着実に築いていき、ローレンスはスーパーグラスを始め様々なバンドのサポート・ドラマーを務め、スティーヴは音楽業界を離れ地元で職に就くなど、それぞれの道を歩き始めた4人が再び音楽を奏でる日がくるなど思いもよらなかった。

マイブラを皮切りにチャプターハウスやスロウダイヴ、スワーヴドライヴァー、ラッシュといった「同期」たちが軒並み再結成を果たす中、実は水面下で徐々に関係修復を務めていたという4人。2014年にビーディ・アイが解散すると、まるでそれが合図であるかのように(解散発表の翌月に)再結成を発表した。世界各国のフェスやライブ会場を沸かせた後、前作から実に21年ぶり通算5枚目のフルアルバム『Weather Diaries』を2017年にリリース。20年というブランクを微塵も感じさせない素晴らしい内容だった。

それからわずか2年ぶりに届けられたのが、本作『This Is Not A Safe Place』である。前作に引き続きエロール・アルカンをプロデューサーに迎えた本作は、ソニック・ユース譲りのオープン・チューニングとマイブラ直系のトレモロアーム奏法を駆使したインストナンバー、その名も「R.I.D.E.」で幕を開け、以降もポスト・パンクやニューウェーブ的なアプローチの「Repetition」や「Kill Switch」など、彼らが活動初期に影響されていた音楽的要素をフィーチャーしつつ、これまでになかったアレンジを取り入れた楽曲が並ぶ。
もちろん「Shadows Behind The Sun」や「Eternal Recurrence」など、バンドの面目躍如たる美しくもメランコリックな楽曲も健在で、精力的なライブ活動を経てさらに円熟味を増したアンサンブルが堪能できる。今年11月には東京と大阪でのライブも決まっている彼らが、本作からの楽曲をどんなふうに再現してくれるのか、今から期待に胸が膨らむ一方だ。

本インタビューは、筆者がアルバムのライナーノーツ執筆にあたってマークとアンディに行ったもの。アンディ・ウォーホルやジャン=ミシェル・バスキアといったアーティストからの影響や、ザ・フォール、ソニック・ユース、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインなど音楽的なインスピレーション源、ソングライティング~アレンジのプロセス、そして30年経った今も「ライド」として活動していることのモチベーションなど、率直に語ってくれた貴重な内容だ。

─前作『Weather Diary』は、バンド再結成後最初のアルバムでした。今振り返ってみて、どんな内容だと思いますか。そして、それを踏まえ今作『This Is Not A Safe Place』は、どんな意気込みで取り掛かったのでしょうか。

マーク:あのアルバムは、僕にとって大きな意味のある作品だ。再結成したバンドにとって一番難しいのは、ノスタルジックで親しみのある旅へと人々を誘うと同時に、これまでやったことのない新たなアプローチの楽曲をレコーディングして、未知なる旅へもリスナーを連れていかなければいけないということ。ノスタルジアだけでは行き止まりになるからね。新鮮なアイデアと新しい活力をグループに吹き込み、常に前進して新しいオーディエンスを獲得するというのが、本当に大事なことなんだ。

アンディ:本当に、全ての作業があっという間だったね。
それは今作の方向性にも影響している。バラエティに富んだ前作と比べると、焦点を絞り込んだ作品に仕上がっていると思うよ。『Weather Diaries』は再結成後初のアルバムだったから、ライティングにずっと長い時間をかけたし。

─資料(プレスリリース)には、バービカン・センターで開催された『ジャン=ミシェル・バスキア展』や、ザ・フォール、ソニック・ユースといったバンドからの影響があったと書かれていたのですが、具体的にはどのような影響があったのでしょうか。

アンディ:『バスキア展』からは様々な意味で影響を受けたし、その多くのインスピレーションを時に歌詞の中に取り込んだ。サウンド面では80年代後半の音楽が、このアルバムのベースになっている。僕らがバンドを結成した頃……要するにマネージャーも何もいなかった時期に掲げていたマニフェストを、再び持ち込んでみたんだ。

─なるほど。確かに今作のジャケット・デザインは、あなたたちの1stアルバム『Nowhere』を思い起こさずにはいられません。

アンディ:アートワーク・チームのアンダーカードがいくつか選択肢をくれて、その中で僕たちが気に入ったものがそのデザインだったんだ。今回のアルバムは、僕たちが初期の作品で受けたのと同じものから影響されている。そのことを彼らに伝えたところ、それを踏まえてすごくクールに表現してくれたよ。


─ちなみに、バンド・ロゴ名の横についている3本の線はどんな意味があるのでしょう?

マーク:よくわからないけど、あのデザインは好き!

アンディ:あれもアンダーカードのアイデアだね。僕が「In This Room」のインスピレーションを彼らに説明したら、あのデザインを提案してくれた。3本の線は、ホーボー(仕事を探しながら列車に乗って各地を転々とする人たち)の記号、ホーボー・コードから来ている。ニューヨークのホームレスたちが使っていたグラフィティ記号で、ジョン・バスキアが彼の初期のグラフィティ・タグの後にインスパイアされたものとされているんだ。

─プロデューサーとミックス・エンジニアには、前作に引き続きエロール・アルカンとアラン・モウルダーを迎えています。特に、ナイン・インチ・ネイルズやマイブラを手がけたことでも知られるアランとは、これで3度目のタッグ(1992年の『Going Blank Again』、『Weather Diaries』)となりますね。

マーク:『Weather Diaries』で一緒に試練を乗り越え、上手くいくという信頼を得たチームだったから、また彼らと作業するということが理にかなっていたんだ。

アンディ:これまで通り最高だった! この組み合わせは、素晴らしいチームって感じがするね。

─楽曲の作り方など、前作から変化はありましたか?

マーク:いや、そこまでなかった。自分たちのデモとアイデアを持ち寄って、そのうち採用されたものもあればボツになったものもある。制作期間中に僕はスタジオを作っていたから、個人的には今回はちょっと変化もあったけどね。ちなみにそのスタジオは、すでに完成して今も使っているよ。


アンディ:スタジオでは今回、セッションの最初の方でドラムを分けてレコーディングしたんだ。それがすごく功を奏したし、おかげで素晴らしいスタートを切ることができたね。

─楽曲についてもお聞きします。まずアルバム冒頭曲「R.I.D.E.」は、ついに自分たちのバンド名を掲げていますよね。しかもループを駆使したインスト曲です。これはどのように作りましたか?

アンディ:この曲は、アルバムのスタートを飾る曲でもあり、アルバムのテーマ曲といっても過言ではない。僕らにとって、新たなイントロ・ミュージックだからそのタイトルにしたんだ。

マーク:インストというのはローレンスから出たアイデアだ。そこから全員で様々なアプローチを試していった。主旋となるメロディやコーラスをね。

─ギターのレイヤーや、コーラスなどマイ・ブラッディ・ヴァレンタインを彷彿とさせますが、そのあたりは意識していますか?

アンディ:確かにあの曲は、フェンダー・ジャズマスターのトレモロアームを駆使しているし、ケヴィン・シールズからの影響を指摘するのは理解できるよ。それとオープン・チューニングはサーストン・ムーア(ソニック・ユース)が編み出したものだ。
僕はこのアルバムの全ての曲で、このチューニングを用いているよ。

※アンディは人生を変えたアルバム5枚にマイブラの『Isnt Anything』を挙げ、本作におけるヒップホップからの影響と、バンドのドラマーであるコルム・オコーサクの貢献度の高さについて指摘している

マーク:僕自身はマイブラを意識してなかったけど、レーベルメイト(クリエイション)だった90年代は、彼らのことが大好きだったよ。人としてもバンドとしても素晴らしかったからね。

─先行曲「Future Love」は、前作に収録された「Charm Assault」にも通じるキラーチューンです。

マーク:うん。アンディのデモの中にあって、ひときわ素晴らしいトラックだったからすぐにアルバム候補となったね。

─”夢中になり過ぎて 何から何まで間違っている”、”ああ、君のおかげで僕は動き出した そう、君が僕を駆り立ててくれるんだ”など、恋愛が始まったばかりの高揚感が伝わってきますね。

アンディ:そう、シンプルなラブソング。付き合う前って、自分の頭の中だけでその恋愛関係を想像するだろ?で、そのイメージはいつだってパーフェクトなんだ!

─もう一つの先行曲「Repetition」は、これまでのライドになかったタイプの曲で、個人的には中期のYMOを彷彿とさせます。実際は、どんなところからインスパイアされて出来た曲ですか?

アンディ:この曲の歌詞は、バスキアのインタビューから感銘を受けている。その中で彼は、アートスクールでの日々やミニマリズムのコンセプト、中でもジョン・バージャー(小説家)やブライアン・イーノからの影響について語っているんだ。


─「Kill Switch」はポスト・パンクを彷彿とさせるソリッドな楽曲です。”Kill Switch”とは、なんのメタファーですか?

アンディ:自分がうんざりしている誰か、自分を放っておいてくれない人が発する音を消すって意味さ。

─静と動を行き来するようなダイナミックな楽曲「15 Minutes」の「15分」とは何を意味しますか?

アンディ:これは、アンディ・ウォーホルの『15 minutes of fame(15分の名声)』を引用している。”未来の世界では、誰でも15分間は有名人になれるだろう”という有名な予言だ。ここでは、”訴訟を起こしてバンドの立場を悪くするような真似は、そいつにとっては束の間の名声かもしれないが、死ぬまで後悔するほどの過ちになりかねない”ということを歌っているんだ。

─例えば「Shadows Behind The Sun」の”かつて高みにいた者が遥か下へと落ちていく””数多くの声なき言葉 大きく響き渡るのは、得たものよりも失ったもの”というラインには、政治的メッセージが含まれているように感じました。前作のインタビューでベースのスティーヴが、「自分たちは大人になって、政治にも関心を持つようになり、楽曲にもそういう内容が増えてきた」と話していましたが、実際のところはどうなのでしょう?

マーク:「Shadows Behind The Sun」は全く政治的ではない。あの作品は、僕にとってはパーソナルな曲で、僕が人生で落ち込んでいた時の人生の試練の経験から生まれたものなんだ。だから、あの曲の内容は人生の再構築で、それが映し出されたものだよ。

アンディ:でも、リスナーが僕らの曲を自由に解釈してくれるのは嬉しいことだよ。それにスティーヴの言うように、普段の生活ではこれまで以上に政治へと目を向けようになったね。

─「15 Minutes」や「Repetition」「End Game」など、ポエトリー・リーディングっぽいスタイルの楽曲が増えていたのも印象的でした。こうしたアプローチは何かからの影響ですか?

アンディ:自分たちが思いついたソング・スタイルに従っただけだよ。曲に導かれるまま、それを追っていったんだ。

─「Dial Up」は、ドノヴァンの「Hardy Gurdy Man」やデヴィッド・ボウイの「Ziggy Stardust」を彷彿とさせるヘヴィサイケな楽曲です。

アンディ:実は、ベックに影響された曲だよ(笑)。歌詞は「不安発作との戦い」について歌っている。けど、なぜかダイヤルアップ回線のインターネットを使わなければいけなかった頃を想起するから、このタイトルにしたんだ。

─それにしても、結成から30年以上経った今もなお、2人のソングライティング能力は、衰えるどころかむしろ円熟味を増して豊かになっているのは驚きです。ライドとして新曲を作り続けるモチベーションは、どこから生まれていますか?

アンディ:それはね、曲の方から僕たちにやって来るのさ!(笑)

マーク:僕自身、これまで作ってきたものに満足したことがないんだ。おそらく一生ないんだと思う。アルバムを作り終えるたびに、次の作品こそ自分たちの最高傑作になると信じているし、最高のレコードを作りたくて仕方がない。新しい音楽を聴くのも、作るのも大好きなんだよね。それって、自分が初めてレコードを手にした時の気持ちから何一つ変わってなくて。音楽は僕にとっての生命力であり、執着なんだ。ライドの音楽に限らず、自分がレコーディングし、プロデュースする音楽全てに関してもね。

<リリース情報>

シューゲイザーの先駆者、ライドが語る終わりなき進化とマイブラへの共感


ライド
『ディス・イズ・ノット・ア・セイフ・プレイス』
発売中

=収録曲=
1. R.I.D.E.
2. Future Love
3. Repetition
4. Kill Switch
5. Clouds of Saint Marie
6. Eternal Recurrence
7. 15 Minutes
8. Jump Jet
9. Dial Up
10. End Game
11. Shadows Behind the Sun
12. In This Room

〈ツアー情報〉

RIDE JAPAN TOUR 2019

東京公演
日程:2019年11月5日(火)
会場:EX シアター六本木
時間:Open18:00/Start19:00
料金:¥8,000(前売り・税込み)*ドリンク代別途
(アリーナスタンディング/スタンド&バルコニー指定席)

大阪公演
日程:2019年11月6日(水)
会場:梅田クラブクアトロ
時間:Open18:00/Start19:00
料金:¥8,000(前売り・税込み/スタンディング)*ドリンク代別途

企画制作:SMASH
協力:(株)ビッグ・ナッシング
https://smash-jpn.com/live/?id=3180
編集部おすすめ