スティーヴ・エリソンことフライング・ロータスの『Flamagra』を聴いた時、前作『Youre Dead!』とあまりにも別物のサウンドに驚いてしまった。前作ではサンダーキャットやカマシ・ワシントンといったジャズミュージシャンの生演奏を素材のように扱い、それらを大胆にエディットしてミックスすることで斬新なサウンドを生み出していたのだが、今作では前作に引き続き参加しているブレインフィーダー所属のジャズミュージシャン達に加え、フライロー自身が奏でるシンセが主導するバンド・アンサンブル的なサウンドや、オーセンティックとも形容しうるソングライティングが目立っている。それらがフライロー独自のぶっ飛んだビートメイク/エディットと組み合わさることで、モダンでありながら、同時に古典的にさえ感じてしまう不思議な音楽が生まれていた。前作の方法論も入っているが、明らかにこれまでとは異なる雰囲気をまとってもいる。それでもどこからどう聴いても、フライローの音楽でしかない個性がそこにはあった。
現在制作中の『Jazz The New Chapter 6』のため、僕がアルバムリリース前に行ったインタビューで、彼は『Flamagra』を生み出すためにサンダーキャットやミゲル・アトウッド・ファーガソンといった仲間たちに音楽理論を学び、熱心に鍵盤演奏を練習したと語っていた。そこから僕は、『Flamagra』というアルバムのキーワードは「学習」もしくは「勉強」ではないかと考えていた。コルトレーン一家の血を受け継ぎながらサックス奏者としては挫折したものの、クレイジーで創造性あふれるビートメイクに開眼し世界を驚かせてきた奇才が、ジャズミュージシャン達の作品に関与した経験を経て、もう一度「音楽を学び直す」という道を選んだ。僕はその意味をもっと深く知りたかった。このインタビューは『Flamagra』論であると同時に、フライローによる「学習論」でもある。
今の俺は、ミュージシャンとしての技術を磨くことに集中してる
―まず最初に、前から疑問だったことを聞きたいんですが、フライング・ロータスの楽曲はスティーヴ・エリソンが作曲していますよね。
フライロー:なかなかいい質問だね(笑)。フライング・ロータスとスティーヴ・エリソンは同一人物だけど、名前が作品の内容を反映しているんだ。プロジェクトによってクリエイティブなアイデンティティを構築したいんだよ。映画を作ったときは、万人向けの内容ではないことは自分でもわかってたから、フライング・ロータス名義で映画を発表したら、決まった方向性の映画をファンに期待されてしまいそうだと思った。映画を観る前から、みんなは既成概念を持ってしまうだろうし、それは俺が作った映画の内容と必ず異なるものになってしまう。それに、名義を変えることで、『KUSO』のような映画を見たくない人たちをふるい落とせると思ったんだ。
―では、今の「フライング・ロータス」は音楽的に、もしくは人間的にどういうモードにあると言えそうですか?
フライロー:今の俺は、ミュージシャンとしての技術を磨くことに集中してる。ここ1年間は、今までになかったくらいに、伝統的な方法で音楽を勉強してるんだ。ピアノを習ったりね。だからある意味、俺は一からやり直していて、音楽を勉強をしたおかげで、新い表現が可能になったんだ。
―『Flamagra』を作るにあたって、鍵盤に関する演奏技術を学んだんですよね。
フライロー:「Takashi」だね。テクニカルなわけじゃないけど、あの曲を作った時は、初めて勉強していたことが報われた気がした。それに、作っていて楽しかったんだ。喜びの瞬間を捉えた曲だから気に入ってるんだよ。遊びながら作った感覚だったから、あの曲のことを考えると笑っちゃうんだ。そういう感覚で音楽を作れるのがベストなんだよ。
―鍵盤といえば、本作ではブランドン・コールマンがかなり大きな役割を果たしているように思いました。ブランドン・コールマンの『Resistance』は近年のブレインフィーダーにとっても重要なアルバムだったと思います。ブランドンのサウンドが『Flamagra』に与えた影響はありますか?
フライロー:彼は俺の音楽全般に影響を与えてるよ。彼は俺のピアノの先生の一人なんだ。もっと真剣にピアノを勉強しようと思ったのは、彼をしょっちゅう雇うのが大変だったからなんだ(笑)。いつも彼に連絡して来てもらうと大変だから、自分で演奏できるようになろうって思ったのさ。
―彼のアルバムの影響もありますか?
フライロー:彼はクラヴィネットの音色のキングだよ。彼がクラヴィネットを演奏しているのを聞いたとき、「この音色をずっと自分の音楽の中に入れたかったんだ!」って思ったんだよ。彼は独特な演奏をするし、いつもインスパイアされてるよ。
フライング・ロータスによるブランドン・コールマン「Walk Free」のリミックス。2018年のコンピレーション『Brainfeeder X』に収録。
―『Flamagra』はこれまでの作品の中でもファンク色が最も強いアルバムだと思います。あなたがこれまでに影響を受けたファンクはアーティストは誰ですか?
フライロー:最も影響を受けたのは、パーラメントだね。俺は毎日起きるとパーラメントを聴くんだ。朝にファンクを聴くと、1日の出だしが良くなる感じがするんだ。コーヒーとか飲みながら聴いて、いいリズムで1日が過ごせる。ファンクを聴くと、すべてうまく行く感じがするし、ブルースの要素が入ってるけど、どこか希望が持てるんだ。ザップ&ロジャーも大好きだね。
―特に好きなファンクのアルバムは?
フライロー:『Mothership Connection』とか『Funkentelechy』(共にパーラメント)は大好きだね。
ジョージ・クリントンをフィーチャーした『Flamagra』の収録曲「Burning Down The House」
俺とサンダーキャットは、お互いの弱点をカバーし合っている
―本作ではサンダーキャットが大きな役割を果たしているように思いましたが、どうですか?
フライロー:そうだね。俺とサンダーキャットの場合、しょっちゅう一緒に何かを作ってるんだ。アルバムが完成したから休むわけじゃなくて、完成した次の日も一緒に音作りをしてるんだよ。一緒に音作りをして、どれが誰の曲かって特定することが難しいんだ。彼も俺も同時にアルバムを作ってたけど、一緒にレコーディングしてると、誰の作品のためにレコーディングしてるのかもわからなくなる。ただ純粋に一緒にクリエイトしてるだけなんだ。「この曲はこの作品にフィットするから入れよう」とか、そういう感じだね。最近のサンダーキャットは、プロデューサーとしての才能も開花していて、プロデューサーとしての個性とセンスに磨きをかけている。だから、一緒に作業していると、プロデューサー的視点でいいアイデアを提案してくれるんだ。二人とも、お互いの弱点をカバーしようとしていて、彼はプロデューサーとしてのスキルを上げてきてるし、俺はミュージシャンとしてのスキルを磨こうとしてる。
―ブレインフィーダーの近年のリリースでは、サンダーキャットやブランドン・コールマンの作品や、ルイス・コール『Time』のようにメロディアスでキャッチーな、ポップソング的な魅力がある作品が増えている印象があります。『Flamagra』も一曲ずつが「トラック」や「ビート」というよりは、「ソング」的な構造の曲が多くなっている気がしますが、その点についてはどう思いますか?
フライロー:そうだね。正直言って、彼らから結構インスピレーションを受けたよ。ルイス・コールとブランドンの作品はよく聴いてたし、彼らからは多大な刺激を受けた。それと同時に、俺は個人的に歌詞や言葉にもっと興味が出てきて、ボーカルを入れたくなるようなオープンで空間のある曲を作ってたんだ。だから、自分の中の自然な欲求に導かれて曲を作ってたんだよ。でも最近作ってる曲は、またインスト中心になってる。だから、常に変化してるんだ。
―例えば、「Spontaneous」はポップでメロウな楽曲ですが、これはどんなプロセスで作ったのか教えてください。
フライロー:Instagramに曲が生まれた瞬間がアップされてるよ。友人に撮影してもらっていて、「今すぐ曲を作ってみて」って言われたんだけど、あの曲はその時に誕生したんだ。こういう曲が生まれてくることは、自分でも想像できなかった。
―友達が撮影していて、あなたが即興的に演奏したフレーズが曲になったわけですか?
フライロー:そうなんだ(笑)。
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―あなたは『Flamagra』の制作にあたって、サンダーキャットやミゲル・アトウッド・ファーガソンから音楽理論を学び直したんですよね。本作はこれまでの作品の中でもハーモニーの響きは一番だと思います。彼らから教わったコードやハーモニーがきっかけで、それを発展させてできた曲はありますか?
フライロー:アルバム全体がそうだよ。特に「Find Your Own Way Home」「Andromeda」がそうだったかな。すごくテクニカルな曲じゃないけど、メロディの面で、ちょうど俺がレッスンで学んだ知識が反映されている。でも、クレイジーなプログラミングで言えば、さっきも挙げた「Takashi」が一番凄いと思う。
―「Andromeda」などは、今まで演奏したことがないコードから始まったんですか?
フライロー:その通り。どの曲もだいたいそう。やったことがないコード進行を試してみたり、いろいろ実験していくうちにアイデアが湧いてくるんだ。そのコード進行を指で覚えて、違うリズムやスピードで演奏してみて、そこから曲の形が見えてくるという。最近はピアノだけで作曲して、そこから曲を作ってるんだ。今ちょうど新曲を作ってるんだけど、1週間前からこの曲を演奏していて、まだレコーディングはしていない。どういう曲になるかまだわからないんだけど、雰囲気やコード、メロディの方向性だけは見えている。このメロディをシンセで演奏することもできるし、ストリングスの音色で演奏することもできるけど、今のところはアコースティックピアノの音色でしかメロディを聞けてないんだ。でもそれは後で変わるかもしれない。
―本作はこれまでの作品の中で、リズムセクションが作るグルーヴの気持ちよさも随一だと思います。彼らから教わったグルーヴの方法やリズムがきっかけでできた曲はありますか?
フライロー:わからないな、逆にライターはどう思ってるんだろう?(笑)。「Pilgrim Side Eye」はクレイジーだと思う。あの曲を聴くと「俺は何を考えてたんだろう?」って思うよ。シャバズ・パレセズをフィーチャーしてる「Virtual」もすごいね。クレイジーなパーカッションが入ってるんだ。
―それはプログラミングから生まれたんですか? それとも生のドラム?
フライロー:プログラミングだね。自然とあのリズムが出てきたんだ。「Pilgrim Side Eye」を作った時は、俺とサンダーキャットとハービーハンコックがスタジオで演奏していて、あのヘンなリズムに合わせて、ハービーがアニメっぽいメロディを演奏し始めたんだ。なんか『ルーニー・テューンズ』っぽいなと思って、すごく面白いから曲に仕上げたんだ(笑)。
自分の好奇心を育んであげれば、インスピレーションは無限だと思う
―音楽理論を学んだことで、改めて凄さに気付いた作曲家はいますか?
フライロー:すべての音楽家だね(笑)。音楽理論を勉強したことで、音楽を聴くときに、もっと深いレベルで良さがわかるようになったんだ。シンプルな音楽でも、そこから学ぶものはある。音楽を聴いてると、トリップしてるような、サイケデリックな感覚があるんだ。マトリックスを見透かすことができるというか、その音楽に含まれる暗号を解読することができる。それに、音楽の歴史からずっと何が繰り返されてきたかがわかるようになったし、その繰り返されてきた音楽が、どのようにつながっているかも見えてくる。誰かが、音楽理論を知っていながら、音楽の伝統を皮肉っぽく使ってる時もわかるようになった。以前は気づかなかったことに気づけるようになったんだよ。自分が作品を作るときのパレットの幅が広くなったのは嬉しいことさ。
―具体的な作品はありますか?
フライロー:正直に言って、自分の親族でもあるアリス・コルトレーン、ジョン・コルトレーンの音楽を聴くときの感覚が変わったね。子供の頃から、彼らのレコードをよく聴いていたけど、音楽理論を理解できるようになってから、その凄さがもっと理解できるようになった。年齢を重ねてきて、音楽の知識が増えるにつれ、彼らの作品の素晴らしさが身にしみてわかる。音楽理論がわかると、彼らがいかに天才だったかがわかるんだ。さらに、自分で彼らの音楽を実際に演奏してみることで、彼らの視点や思考がもっと理解できるようになった。そうすることで、さらに一つ上のレベルで彼らの音楽を理解して、素晴らしさが理解できるようになった。
―じゃあ「ジャイアント・ステップス」とか練習してるんですか?
フライロー:そうだね、難しいけどね(笑)。

―『Flamagra』のために音楽理論を勉強し、その前には『KUSO』のために映像制作や映画などを独学で勉強していますよね。ここ数年、積極的に方法や理論を「学ぶ」機会が多かったと思います。あなたにとって「勉強」や「教育」とはどんな意味を持つものでしょう?
フライロー:学び続けて、成長し続けることの重要さに気がついたんだ。大人になってある年齢を超えてくると、怠惰になって、自分の状態をそのまま受け入れてしまいがちだよね。そうなると、新しいことに挑戦しなくなってしまう。俺はそういう風に生きていけない。だから、いつも何か新しいことに挑戦したり、新しいことを学ぶことは、自分にとってのモチベーションにもなるんだ。そうすることで、インスピレーションを得続けることができるからね。自分の才能を磨き続けて、好奇心を育んであげれば、インスピレーションは無限だと思うんだ。あと、常にクリエイティブでいて、学び続けて、新しいことに挑戦し続けると、もっと長生きできると思うんだ。俺が知っている年配の現役アーティストは、クリエイティブであり続けているから健康面での心配もない。人は、脳からクリエイティブなものを生み出すことをやめて、食事や健康を気にしなくなると徐々に衰えていく。だから、自分を大切にすることは大事さ。そうすればベストな人生が送れる。
―音楽制作を独学だけのアプローチをやっているのでは、限界を感じていたんですか?
フライロー:アイデアがなくなっていると感じていたわけじゃない。アイデアは常にあるんだけど、音楽理論を学ぶことで、それを形にするプロセスが早くなったんだ。頭の中にアイデアがあっても、以前はそれが遠くにあって手が届かないと感じていた。頭の中で聞こえるアイデアを形にしようとするときに、指が思うように動かなかったり、どうすればいいかわからないことがあった。家族と夕食を食べてるときに、家族に伝えたいことがあっても、うまくしゃべれなくて、ずっとどもってるような感覚だよ。でも音楽理論を学ぶことで、自分が伝えたかったことが伝えやすくなった。時間がかかっても、最終的に家族に言いたいことは言えるかもしれない。でも、自分をフルに表現するのは難しい。だから音楽理論を学ぶことで、コミュニケーションがもっとスムースになったような感覚だよ。
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―そういえば、あなたのインスタで見ましたが、坂本龍一とレコーディングしたようですね。どうでしたか?
フライロー:素晴らしい経験だったよ。人間的にも素晴らしいし、クリエイティブなスピリットを持った人だ。彼といることで、俺は数日間とても静かな気持ちになれた。美しい経験だったよ。彼と作業していると、針を床に落としても、それが聞こえるような感覚になるんだ。スペシャルな経験だったね。彼とレコーディングした素材を開いて、そろそろ作業しなくちゃ。
―「静かな気持ちになれた」というのは、彼のキーボードの演奏を聴いて、そういう気持ちになったということですか?
フライロー:それもあるし、彼が持っている人間としてのエネルギーの話だよ。とてもリラックスしていて、思慮に富んだ人間だから、彼といると静かな気持ちになれて、人の足跡とか、なんでも敏感に聞き取れるようになるんだ。そういう気持ちにさせてくれる人間は、俺にとって非常に少ない。叔母のアリス(・コルトレーン)といると、そういう気持ちになった。叔母が部屋に入ってくると、みんなは叔母の存在感に圧倒されて静かになって、行儀よく振る舞って、誰もおかしな行動を取らなかったんだよ(笑)。
―坂本龍一との音源は、次のアルバムに収録されるんですか?
フライロー:まだわからないね(笑)。
―「教育」の話に戻りますが、音楽理論を長年学んで”教授”になったとしても、必ずしも素晴らしい音楽を作れるわけではないですよね。それについてはどう思いますか?
フライロー:それはトリッキーな問題だよね。ルールをすべて学んでから、どこかのタイミングでルールをすべて捨てないといけない瞬間がいつかやってくる。同時に、理由があってそのルールが存在しているわけだから、それをまず学ぶことは大切だと思うんだ。基本を押さえるのは悪いことじゃない。クレイジーなものを作るには、基礎がまず必要なんだ。そうじゃないと、すべてがクレイジーなものになっちゃうからね(笑)。だから、バランスが必要なんだ。例えば、モチーフについて学んだ場合、それはすでに数え切れないほどやり尽くされているから、「俺はそこに何か新しいアプローチを提供できるのか?」ということを考えないといけない。でも今まで音楽理論を学んでなかったから、そういうテクスチャーを自分の音楽に取り入れることがなかったし、それが自分にとっては新鮮だったりするんだ。だから、俺にとっては面白いし、実験的に使ってみたくなる。リスナーの期待を覆すことも面白いんだよ。俺がわざとらしいメロディーを演奏していたかと思いきや、その後にクレイジーな世界観になったり、逆にクレイジーなサウンドからスタートして、ポップなサウンドになったり、それをすべて表現できるのは素晴らしいことだよ。新しいことに挑戦するために、最初にメロディを作ってからコード進行を決めることで、選択肢が広がることも分かった。そこからおもしろい展開を生み出すことができるんだよ。やりたいことが自由自在にできるようになるまで、まだまだ時間がかかりそうだ(笑)。
今度のライブは全く新しい体験になる
―ライブについても聞かせてください。今回は『Flamagra』をリリースし、世界各所をツアーしてからの来日公演です。最新アルバムがライブや映像にどのように反映されそうでしょうか?
フライロー:新曲がいっぱいあるし、ヴィジュアルショーも新しいものになるから、ライブは全く新しい体験になるはずだ。今まさにライブの構成を決めてるところだし、来週から新しいライヴを披露し始めるから楽しみだよ。いつもライブをやる直前まで手を加えてるんだ(笑)。日本では、前回と違うヴィジュアルと音楽を披露するよ。次のツアーでは、ステージでキーボードの生演奏もするんだ。今まで練習したきたのは、ステージで自信を持って演奏するためだったのさ。今回のツアーは、その第一歩だよ。キーボードを演奏するのが一番楽しみだね。ソロとかも演奏するつもり。でも、ステージでは俺一人だけだよ。
―前回の来日(2018年のソニックマニア)での3D映像はすごかったです。巨大な宇宙船が飛び出してきたり、驚きの連続でした。ああいったヴィジュアルに関してはどういうイメージで作っているのでしょう?
フライロー:以前から視覚的にストーリーテリングをするのが好きだし、自分のライブにおいてヴィジュアルは重要な要素だね。俺はフィルムメーカーでもあるから、映像を作るのが大好きなんだ。だから、俺にとって音楽と映像は切っても切り離せない関係だね。常にライブを進化させようとしてるし、新たな限界に挑戦したい。いつも、どうすればみんなを驚かせることができるのか考えてる。アーティストっていうのは、同じことを繰り返したくないからね。
―ここ数年は3D映像でのパフォーマンスが続いていますが、3Dにこだわっている理由はありますか?
フライロー:3D Liveという会社で働いてる友人から、「このテクノロジーをチェックするといいよ。たぶん気にいると思う」と言われたんだ。最初は3Dには興味がなかったんだけど、あるコンベンションでこの会社のテクノロジーのデモンストレーションを見て、彼らが開発している機材を買うことにした。それで、この会社とコラボレーションをすることになったんだ。映写するための特殊な3D用の壁をここは開発していて、それを使っている。ただ、これからも映像技術は進化していくから、どこかのタイミングで映像はまた別のものになるかもしれない。今は3Dをやり続けるけど、1年後にはまた別の映像を使うようになるかもしれない。新たなテクノロジーが開発されたら、それを使いたくなるかもしれないしね。
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―新しい映画を発表する予定はありますか?
フライロー:ああ。現在、Netflixのために「YASUKE」というアニメの制作に関わってる。おそらく2021年に発表されると思う。来年発表される可能性もあるけど、2021年に発表される可能性が高い。日本のMAPPAというアニメ会社と手を組んで製作している、次のプロジェクトはこれだよ。「弥助」というのは、実在した黒人のサムライなんだ。織田信長に仕えていた人物だったんだけど、ヤスケの生涯を少し脚色してアニメとして発表するんだ。歴史における彼の人生が、あるポイントからどうなったかを憶測してストーリーを書き上げた。すごくエキサイトしてるよ。俺はストーリーの一部のアイデアを提供して、企画段階の監修を務め、アニメの音楽も担当している。『アトランタ』や『Death Note/デスノート』にも出演していた、役者のキース・スタンフィールドが弥助の声を担当するんだ。
―2019年にリリースされた作品のなかで、特に気に入っているアルバムや曲があったら教えてください。
フライロー:正直言って、2019年はあまり豊作ではなかったかもしれない。デンゼル・カリーのアルバムはかっこよかったよ。トム・ヨークの新作も好きだったな。最近は実は、古い音楽を聴くことの方が多いんだよね。
―前作『Youre Dead!』から『Flamagra』までの約5年間で、音楽のトレンドや業界の構造も大きく変わったように思います。ストリーミングが主流になったことや、トレンド/業界の変化が、自分の音楽制作に変化を与えている部分はありますか?
フライロー:わからないけど、それは色々な方法で解釈できるからね。俺は、あまりトレンドを気にしたくないし、ブレインフィーダーに関しては、俺自身が面白いと思う音楽、俺が好きなもの、新しいことに挑戦してる音楽をリリースしたいんだ。レーベルは世の中にいくらでもあるから、トレンドは他のレーベルに任せているよ。俺のレーベルからは、これからも変人や、行き場のない孤児たちの作品をリリースしていくつもりだ。だから、ブレインフィーダーに所属してるアーティストははみ出し者ばかりなんだよ(笑)。

FLYING LOTUS in 3D
スペシャルゲスト:ルイス・コール
日程:2019年9月26日(木) ※SOLD OUT
会場:新木場 STUDIO COAST
時間:OPEN 18:30 / START 19:00
料金:前売:¥7,500(税込/別途1ドリンク代/スタンディング)
企画・制作:BEATINK03-5768-1277
INFO:BEATINK03-5768-1277

フライング・ロータス
『FLAMAGRA』
発売中
初回盤紙ジャケット仕様
ボーナストラック追加収録 / 歌詞対訳・解説書付
(解説:吉田雅史/対談:若林恵 x 柳樂光隆)