―去年9月にリリースになった4年ぶりのアルバム『The Insulated World』からちょうど1年でのリリースですね。「The World of Mercy」のお話を伺う前に、前作について振り返らせてください。『The Insulated World』はバンドとしては10作目となるアルバムで、とにかく激しく、そしてエモーショナルで、音だけで圧倒される内容でしたが、リリースから1年が経過し、薫さんはどんな作品として捉えていますか?
もう次(「The World of Mercy」)が出来上がっているので、だいぶ昔のものっていう感覚ではあるんですけど、思い出してみれば『The Insulated World』を作るにあたっては、あまりこざかしい感じには聴かせないようにとか、変な意味じゃなく、得意分野をなるべく入れ込まないようにしましたね。あとは、激しいアルバムを作ろうという意識が強かったです。その激しさは、メタルっぽい激しさではなく、ハードコア寄りというか、感情を前面に出していく激しさに持って行きたいなと思って作ったアルバムでした。そういう意味では、時間が経ってみると「もっといけたな」って思うところもありますよ。でも、あの時点であの作品を作ったっていうのは大きかったと思っています。
―得意分野を使わないようにしたということですが、具体的に言うと?
アレンジですね。バンドのクセというか、これで曲として成立できるだろうというアレンジはなるべく使わないようにしました。例えば、メロディアスな部分は出てくるけど、そこを全面に押したアレンジにはしなかったり、少しだけ出てきて終わっちゃったりとか。あるいは、歌える箇所があったとしても、全曲通した時に歌が重要視されている風には感じないよう作りました。
―なぜ得意分野を避けたのですか?
いつもと同じになってしまうからです。先ほど話した通り、その時は激しさと感情を全面に出した作品にしたかったので、いつものように持っていくといつものような音像になることが予想できた。そうなると、前に作った『ARCHE』というアルバムの音像が残っちゃう感じになるなと思ったんです。
―では、感情を全面に出そうと思ったのは?
原点回帰とまで言わないですけど、バンドがもともと持っている感情的な激しい部分を今に置き換えて出してみるとどうなるのか、と思ったからです。
―制作は割とギリギリの進行だったと聞いていますが、敢えてギリギリに進めて、初期衝動のような感情の爆発を狙ったんですか?
狙ってギリギリにはしていないです(笑)。敢えてキリギリにして狙ったというよりも、初期衝動のように聴かせるのに時間がかかりましたね。”初期衝動でガッと作りました”みたいな曲でも、すごく時間をかけて作っているんです。はじめにメンバーみんなで曲出しをした時、割とミディアムな曲が多かったんですよ。年齢による俺らの旨味を出そうとすると、自然とそうなっていくんですが、それをグワーっと初期衝動を感じさせる音に捻じ曲げていったので、その作業に時間かかりました。
アルバムとは完全に異なるアプローチになった理由
―そんな前作のアルバムがあってこその今回のシングルだと思うんですけど、アルバムとは完全に違うアプローチですが、これは敢えてですか?
そうですね。俺は、次の新しいDIR EN GREYを作ろうとして、このシングルを書きました。
―その結果なのか、「The World of Mercy」は10分超えという長尺に。DIR EN GREY史上、シングルとしては最長ですよね?
そうですね。順番に話していくと、去年9月にアルバム『The Insulated World』が発売された時から次のシングルに向けて曲作りが始まっていたんです。その時はまだ漠然としていたんですが、とりあえずメンバーみんなで曲を選んで、全員でいじり始めた2曲があったんです。その時に、京君が「歌詞がある」と持ってきて、「この歌詞は俺の中では『The Insulated World』から繋がっていて、これが『The Insulated World』の最後なんだ」と。「だから、この歌詞を乗せられる曲を作ってほしい」「かつ長尺な曲がやりたいし、それをシングルで出したい」というリクエストがあったんですね。『The Insulated World』を制作していた時から京君は長尺の曲をやりたいと言っていたんです。それで「絶縁体」という7分超えの曲ができて、アルバムに収録しました。でも、まだ作りたかったんでしょうね。京君がそう言ってきた時に、その2曲のメロディとかのパーツを少しずつ集めて新たな曲にアレンジをして、長尺な曲を作ってみるっていうことを俺が京君に言ったんです。その時に、自分が作ろうとしたイメージに辿り着いた感じですね。
―かなりドラマチックな展開での楽曲ですよね。冒頭は静かに立ち上がりますが、中盤から激しくなっていく。『The Insulated World』がハードコアだとしたら、今作は構成的にはプログレに近い感じだと思いました。どんな2曲が合体したのかが気になります。
合体というよりも、それぞれの曲からパーツを持ってきて、新たに曲を作っていったような感じです。メロディは元の曲から結構持ってきましたが、アレンジは元の2曲とは全然違います。リフもほぼ新たに作ってますし、元の曲から持ってきたのは、メロディとほんの少しのギターのアルペジオの雰囲気くらいですかね。それから、元の2曲はテンポ感も違ったので、上手く合わせました。
―ストリーミング全盛の時代で、ヒットするには頭30秒ぐらいでサビが始まらないと受けないと言われています。そんな時代に……かなり挑発的にも言えるシングルです。
そうなんですよね。シングルって、その後にアルバムのリリースが控えていて、アルバムに繋げるための名刺代わりみたいなものなら難しく考える必要はないと思うんです。
―それは間違いないです。
意味は何でもいいと思うんですよ。例えば「こういうジャケットに挑戦したかった」とか「こういうMVを作りたかった」とか、本当にやりたいことがあるなら、それでいい。ただ漠然と「シングルを出さないといけないので作りました」とか、そういう雰囲気だともう出せないなって。今回は京君の歌詞が、前回のアルバムから付随しているっていうこともあったし、最終的には10分という長い曲になったし、意味を作ることができた。そういう意味では、今回のシングルはDIR EN GREYを知らない人達に向けての一枚ではないんです。ただ逆に、尺が10分の曲だとか、そういう新たなフックはあるので、ひょっとしたら知らない人にも興味を持ってもらえるかもしれないですよね。
音楽を作ることの意味とは?
―何か意味がないと、シングルを作るモチベーションはないというのはDIR EN GREYらしいなぁ。
例えば、「タイアップがあったから作ってみました」っていうのも、それだけで意味はあるじゃないですか。
―薫さんが音楽を作ることの意味も変わってきている?
音楽を作る意味は変わっていないです。だけど、より頑固になってきているというか。だから、一曲を作るのが昔ほど簡単にはできなくなってきているのも事実なんです。それは時間がかかってしまうことの言い訳でもあるんですけど(笑)。でも、それも含めて、何かしら自分の中で意味がないと、っていう想いが強くなってきてる。簡単にパッとできたものに意味があったなら、それが一番いいじゃないですか。早くできれば、それに越したことはないんですが、意味を求めると、どうしても時間がかかってしまうんです。
―表現に正解はないので、沈殿したものを出したからって必ずしもいい作品になるとは限らないし、瞬発力で作ったからといって軽いとも限らない……。
ただ、ファンの人たちは気づくと思うんですよ、「完全に置きにきたな」とかって。
―そういう意味でも今回のシングルは、薫さん的にも納得するものができたと?
もちろん今まで作ったものも、そういうつもりで作っています。だけど、今回は特に強くそれが見えるだろうなっていう気がします。
―そして、この「The World of Mercy」は次の展開への扉になっていくと?
京君の歌詞は『The Insulated World』の完結的な意味合いだけど、俺は新しいところに行っているので、この曲は次に繋がると思っていますね。
―次に繋がるというのは、具体的には?
それは作ってみないとわからない。でも何となく、いけるところはあるだろうなっていうのはあります。
―手応えはあると?
それもやってみないとわからないですね。メンバーがそれでいいと思うかどうかもわからないですし。
―早く次を作ってほしいですね。
もう作ってます。ずっと作ってますもん(笑)。去年のアルバムが出た後から、曲作りはずっとしているので。どんどん作ってはいますけど、やっぱり時間がかかりますね。
―時間がかかるのは、一曲を作ること自体に?
もちろん曲のアイデアが浮かぶまでも時間かかります。『The Insulated World』を作っていた時は、ちょっと曲を思いついたら絶えず「こんな感じにしてみた」「こういうアレンジにしてみた」とメンバーに投げていたんですが、それをやっているとメンバー的には的を絞れないだろうなと思って。今は、自分の中である程度出来上がったものを聴かせようと思っているので、時間がかかっちゃうんです。なのでメンバーは、「まだ?」って感じだと思うんですよ。「全然音沙汰ないけど……」って(笑)。この曲もそうだったんです。4カ月ぐらいずっと一人でやってたんで、「どうなってるの?」ってメンバーに言われました。

DIR EN GREYの薫(Courtesy of DIR EN GREY)
―ちなみに今、薫さんの音楽への興味ってどの辺が中心ですか?
それでいうと、プライベートでは、ほぼ自分から聴こうと思って音楽を聴いてないですね。聴くよりも、作ろうとしている感じのほうが多いです。例えば、自分は画(え)を描くんですけど、画を描く時に音が流れているとダメなんです。もってかれちゃうんです。「面白そうだな」って聴いちゃうから。だからあんまり音楽を聴かなくなっていますね。
―では最近興味があることは? 今年は画の個展もやりましたが。
個展に関しては、こういうことやりたいなみたいなのはありますね。
―画を観に行ったりは?
頻繁ではないですが観に行ってますよ。
薫が考える表現の本質
―その流れで聞きたいのが、中止に追い込まれた「あいちトリエンナーレ」の「表現の不自由展・その後」を巡る問題についてです。DIR EN GREY自身も”表現の自由”と格闘しているバンドですし。表現の自由について何か思うところはありますか?
「表現の不自由展・その後」については正直ちゃんと追いかけてないので、なんとも言えません。うーん、表現ねぇ………。「表現」というもの自体、どこまでが表現でどこからが表現じゃないのかわからないし、今って何でもかんでも「これはアートです」って言ったら、アートになっちゃうじゃないですか。確かにそうなんですけど……自分も画を描いてますけど、自分の作品を「アートだ」と言ったことはないんです。作る側が言うことでもないのかなと思いますし、見る人が判断すればいいかなって。自分のものを持ち上げるというか、高く見せる感じはあんまり好きではないです。
―なるほど。
例えば平仮名で「え」って描いただけで「うわ! スゲえ、アートだ!」って思う人がいればそれでいいんでしょうけど、作った本人は、別にどうでもいいじゃないですか。表現の本質って、そんな感じかなと思います。それと、画を観てもらいたいとか、展示することとかはまた別だと思うし、それも別に悪いことではないですし。まぁアートや表現というのは、観た人がそれをアートや表現だと思う、思わないはどうでもよくて、感じてくれればいいものだと思います。
―それを音楽に置き換えた時に、DIRの音楽、薫さんが奏でる音楽も同じことですか?
自分達の中にはもちろんありますよ、表現としてこういうものを形にしたかった、っていう想いとかは。でも俺らは音楽だけでなく、こうしていろんな話を引き出してくれる人がいる。でも自分達のほうから直接受け手に「これはアートなんで」って言い出すと、「うわ、やっかいな感じやな」って思っちゃうじゃないですか。音楽って形じゃないので、そういう意味ではこうして言葉や文章という形にしてくれる人がいる。こっちから何も言わなくても線を作ってもらえたりするので、助かってはいますね。
―確かにアーティストが直接オーディエンスに何かを語り出したらシラケますよね。特に音楽はシラケるかもしれない。
そこで喋らないために、はっきりと言葉にできないからバンドがあるんじゃないの?みたいな(笑)。そこで喋っちゃったらもうそれでいいじゃん、みたいな。
―そんな風に言葉で説明できることだったら音楽じゃなく文章を書けばいいよって話になってくるわけですからね。でも画は描き続けているんですよね。
今はそんなにたくさんは描いてないですが、描いてはいます。
―それは音では表現できない領域みたいなものを?
まぁ探りつつですね。何か新しいものを作りたい、描いてみたいっていう中で探りつつです。いろんな人の画を観ると、最近は手法に目がいきがちなんですよ。それはよくないなって思って。「あ、これこうやってるんだ」っていう見方をしたら何かダメだなって思って(笑)。
―そうなると技法をコピーしたくなりますからね。
そうそう(笑)。そうじゃなくて、好きなものを「あー、これ好きだな」って観るのがいいですね。
―画もどんなところまで描くのか、興味深々です。
ありがとうございます。でも、画は二番手三番手ですね。やっぱり音があって、空いているちょっとした時間に描くぐらいなんで。音楽があるから、画を観てくれる人達も画から感じてくれる部分が大きいと思うので、DIRの音がなければ、たぶん「なんだそりゃ」ってなっちゃうと思うんです。やっぱり、この音があるから感じるところがあるんだろうなと思っています。
―そもそも画は、右手のリハビリを兼ねて始めたということでしたが、右手の調子はどうなんですか?
手はまぁまぁですね。
―さて、全国ツアーが始まりますが、どんな内容になりますか?
「The World of Mercy」はやります。あと、アルバム『The Insulated World』を全曲やります。前回のツアーでは「絶縁体」だけ演奏していなかったんですが、今回はやります。なので、見応えはあるんじゃないですかね。
―そして、12月から来年の2月までワールドツアーですね。
ええ。国内ツアーの流れを踏まえてやれればなと思っています。
―海外ツアーは何年ぶりですか?
ヨーロッパは去年も行っていますが、アメリカは4年ぶりぐらいですね。去年のロンドンでは機材トラブルがあって、アルバムの曲をほとんど演奏できなかったんですよ。同期で回している「Ranunculus」という曲は映像もリンクして流すんですが、そういう同期ものが全部ダメになっちゃって。急遽その場で曲を決めて、バンドだけでやれる曲をやったんですよ。だからアルバムの曲がほとんどできなかった。だから今回はその時のお返しというか、それを今しっかり見せたいなと。ロンドンは特にそう思っていますね。
―海外ツアーで何か期待していることは?
トラブルなきツアーになるといいですね(笑)。前回は、バスが止まったこともあったので。とにかくトラブルがないように回れればいいなと思っています。
―その後、来年の春以降は? 曲を作っているということはそれがまとまれば早々にアルバムですか?
そんな簡単にはまとまらないです(笑)。しかもツアーをやっているので。ひとまず、ツアーに来て欲しいですね。
<INFORMATION>
『The World of Mercy』
DIR EN GREY
発売中
特設サイト
http://direngrey.co.jp/special/the-world-of-mercy
【完全生産限定盤】

【初回生産限定盤】

【通常盤】

DIR EN GREY
TOUR19 This Way to Self-Destruction
2019/9/28(土) 【北海道】小樽GOLDSTONE
2019/9/29(日) 【北海道】小樽GOLDSTONE
2019/10/5(土) 【千葉県】市原市市民会館・大ホール-「a knot」only-
2019/10/9(水) 【埼玉県】大宮ソニックシティ 大ホール
2019/10/11(金) 【石川県】金沢市文化ホール
2019/10/16(水) 【福岡県】Zepp Fukuoka
2019/10/19(土) 【沖縄県】沖縄ミュージックタウン音市場
2019/10/20(日) 【沖縄県】沖縄ミュージックタウン音市場
2019/10/27(日) 【岩手県】盛岡市民文化ホール
2019/11/5(火) 【大阪府】なんばHatch
2019/11/6(水) 【大阪府】なんばHatch
2019/11/13(水) 【愛知県】Zepp Nagoya
2019/11/15(金) 【三重県】NTNシティホール(桑名市民会館)
2019/11/19(火) 【東京都】新木場STUDIO COAST
2019/11/20(水) 【東京都】新木場STUDIO COAST
[TOTAL INFO] NEXTROAD 03-5114-7444 (平日14:00~18:00)
OVERSEAS (NORTH AMERICA)
TOUR19 This Way to Self-Destruction
2019/12/5(木) The Regent Theater -Los Angeles, CA / USA-
2019/12/6(金) Ace of Spades -Sacramento, CA / USA-
2019/12/8(日) Marquis Theater -Denver, CO / USA-
2019/12/10(火) House of Blues -Chicago, IL / USA-
2019/12/11(水) House of Blues -Cleveland, OH / USA-
2019/12/13(金) The Gramercy Theatre -New York, NY / USA-
2019/12/16(月) House of Blues -Dallas, TX / USA-
2019/12/17(火) House of Blues -Houston, TX / USA-
2019/12/19(木) EL PLAZA CONDESA -Mexico City,MX / MEXICO-
OVERSEAS (EUROPE)
TOUR20 This Way to Self-Destruction
2020/1/25(土) Glavclub -Moscow / Russia-
2020/1/26(日) Aurora Club -St. Petersburg / Russia-
2020/1/28(火) The Circus -Helsinki / Finland-
2020/1/29(水) Technikum -Munich / Germany-
2020/1/31(金) FZW -Dortmund / Germany-
2020/2/1(土) Astra Kulturhaus -Berlin / Germany-
2020/2/3(月) Concert Center A2 -Wrocław / Poland-
2020/2/5(水) Islington Assembly Hall -London / UK-
2020/2/7(金) Le Rocher de Palmer -Bordeaux / France-
2020/2/8(土) Elysée Montmartre -Paris / France-
[TOTAL INFO] NINE LIVES ENTERTAINMENT www.nle.rocks
【DIR EN GREY official SNS】
site http://direngrey.co.jp/
Twitter https://twitter.com/DIRENGREY_JP
Instagram https://www.instagram.com/direngrey_official/