10月3日(木)、EX THEATER ROPPONGIにてミゲルの来日公演が行われた。2013年のグラミー賞ベストR&Bソング受賞をはじめとして数々の音楽賞に輝く、現代R&Bシーンの旗手が日本でライブを行うのは今回が初めてとなった。


本国ではフランク・オーシャンやザ・ウィークエンドとも肩を並べる、ジャンルの枠組を拡張する最重要R&Bシンガーであるにも関わらず、最新アルバム『War & Leisure』のリリースから2年もの年月が経過した時期の悪さもあってか、客入りはやや寂しい。だが、そこに集まったオーディエンスの熱気は数の少なさを補って余りあるものだった。

まずステージに登場したのは、演奏隊のドラマーとギタリストの2人。オープニングとして始まった凄まじい手数のドラミングと速弾きギターはまるでハードロックのライブさながらで、初手からR&Bの固定観念を破壊するかのようだ。黄色い歓声を浴びてステージに現れたミゲルが歌い出したのは、『War & Leisure』のオープニングトラック「Criminal」。ミゲルの歌声に合わせて、前方の観客からはシングアロングの声が聞こえてくる。

ミゲルにとって初めての本格的なアジアツアーということもあってセットリストはミゲルのグレイテスト・ヒッツとも言えそうな選曲。デビューアルバム『I Want You』、彼の出世作である2nd『Kaleidoscope Dream』、全米2位を記録した3rd『Wildheart』、そして最新の4th『War & Leisure』から満遍なく楽曲が披露されていく。序盤のハイライトとなったのは、『Kaleidoscope Dream』収録の「How Many Drinks?」。それまでのロック的なアンサンブルから一転して、オーセンティックな演奏とシルキーなメロディが会場全体を包み、後方の観客までを巻き込んでの大合唱となった。

現代R&Bシーンの旗手、ミゲルが初来日で見せた「甘美な夢」

Photo by Naoki Yamashita

その後、ミゲルは東京でライブする喜びを話して、「日本に来るのは2回目なんだ。初めての時はただ遊びに来たんだけど、着いた瞬間に俺みたいな奴らがたくさんいるって感じた。
でも、一個だけ確かめさせてくれ。Do You Like Drugs?」と次の曲「Do You…」へ。この曲も『Kaleidoscope Dream』収録のシングルで、雄大なドラムブレイクとギターカッティングに乗せて壮大なコーラスが展開された。

今回、日本での公演が東京一カ所のみだったこともあって、ミゲルが「遠くから来た人はいる?」と問いかけると多くの手が上がった。また、ラグビーワールドカップ中ということもあってか、海外から来たオーディエンスも多数。大阪、マニラ、サモアと、会場から上がる返答の一つひとつに丁寧にリアクションして、親密なコミュニケーションを取るミゲルの姿が印象的だった。

その後、ミゲルは自分の出自=LA出身で、祖母はメキシコからの移民だったこと、その祖母が昨年亡くなったこと、祖母がミュージシャンになる道を後押ししてくれたことなどを話し、「俺たちは何でもなりたいものになれるんだ」と語りかけた。その真摯な姿を受けて、会場の熱気は一段とヒートアップ。「Adorn」「Waves」と続いた演奏中を通して、大合唱と黄色い歓声が鳴り止まなかった。

現代R&Bシーンの旗手、ミゲルが初来日で見せた「甘美な夢」

Photo by Naoki Yamashita

ライブが終盤に入ると、ミゲルがドラマーと少しの間話し込み、「本当はやらない予定だった曲をやるよ」と話して「Quickie」へ。「本当に若かった頃に作った曲なんだ」と語った同曲は1st『I Want You』収録曲で、オールドスクールなブレイクビーツが新鮮に響いた。

失恋の経験をもとに書いたという「Sure Thing」から、4月に発表されたスペイン語バージョンのEP「Te Lo Dije」収録の「Caramelo Duro」を経て、ライブは大団円へ。
ラストの「Skywalker」ではスクリーンに青空へと伸びる階段が映し出され、オーディエンスは天にも昇る恍惚とした表情でステージ上のカリスマを見つめていた。

アンコールにはほぼエレキギターの弾き語りで美麗な歌声を聴かせて帰っていったミゲル。オーディエンスの溢れんばかりの熱気も手伝って、終演後の会場には甘美な夢を見た後のような、気怠くも充足したムードが漂っていた。
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