思えば、現在blink-182でヴォーカル&ギターを務めるマット・スキバの加入は概ね好評だったようだ。

2015年に脱退したトム・デロングの代わりに、アルカライン・トリオのマット・スキバを迎えたblink-182は、2016年に新しいライナップで前作『カリフォルニア』をリリースしているのだが、トムのようなフロントマンでソングライターの後任というのは、普通なかなかその役を果たせるものではないと思う。


しかしマットはblink-182の本質を変えることなく、バンドのポテンシャルをさらに高めることに成功している。バンドにとって前作から約3年ぶりの通算9作目、新体制になってからの2作目となる『ナイン』は、blink-182がバンドとして非常に良い状態にあることを証明したアルバムとなった。

blink-182はいろいろな意味で規格外の存在だと思う。90年代のいわゆるメロディック・パンクの流れから出てきて、先人たちのメロディ・センスや等身大のリリックを継承してはいるのだが、そこからさらに音楽とリリックの幅を広げていき、パンクの枠を超えた自由なアプローチをしていった。そして、それは2000年代に盛り上がったポップ・パンクをリードすることにもなったのだ。

音楽的には、ポップ・パンクの精度を上げるとともに、オルタナやポスト・ハードコアの要素もあれば、ビートルズにも通ずる極上のポップ感覚も備えつつ、ゴスをも含むニューウェイブに対する愛があったり、後にはエレクトロニック・ミュージックを取り入れたりするなど、音楽性に限界がなかった。トラヴィス・バーカーがドラムに入ってからは、彼ならではのパワフルなドラミングとヒップホップ愛から来る独特のグルーヴがプラスされたのも大きな魅力となった。そしてリリック的には、女の子のことから郊外での日常、トイレのジョーク、ピーターパン・シンドローム的な若者の心情まで歌い、後になると、抑圧感や喪失感、意思の疎通などダークなテーマも歌にしていった。

その魅力は『エニマ・オブ・ザ・ステイト』(1999年)、『テイク・オフ・ユア・パンツ・アンド・ジャケット』(2001年)、『blink-182』(2003年)で全開となり、多くのファンにとってのblink-182はこの3枚のアルバムのイメージが強いはずだ。そのためか、トム・デロングが復帰した『ネイバー・フッズ』(2011年)は少し軌道が外れた感があったし、前作『カリフォルニア』はblink-182らしさを大きく取り戻したアルバムとして好評だったのだと思う。

ブリンクの強みとは何だったのか?

blink-182の強みは、トレンドセッターでゲームチェンジャーであったことが大きいし、どれだけ幅を広げようとも、そこには必ず彼らならではの歌とメロディがあり、自分たちの経験を言葉にしたリアルなリリックがあったことも大きい。そういう意味で、新作『ナイン』はblink-182の様々に異なる魅力を上手く伝えた、非常にバランスが良く取れたアルバムだと言える。


アルバム・タイトルの『ナイン』の意味することは数字の「9」で、1994年の『ブッダ』をデビュー・アルバムとして数えた場合、このアルバムが9枚目になるという理由でこのタイトルがつけられた。そして、「9」は無条件の愛の番号でもあり、天王星の番号らしいのだが、そうやってタイトルに意味を持たせない感じは、『blink-182』(本国では『Untitled』と呼ばれている)に通じるものがある。

『ナイン』はblink-182らしいアルバムではあるのだが、驚いたことに、このアルバムにはジョークの歌が1曲もなかったりする。アルバム全体を通して、彼らのパーソナルでダークな面が何度も出てくるのだ。冒頭を飾る「The First Time」にしても、何ごとも「初めて」に勝るものはないと歌い、そこはかとなく喪失感を漂わせる曲になっている。もちろんサウンドの方は、おなじみのキャッチーで楽しいアゲアゲ感はバッチリある。しかし他の曲でも、人生の苦悩や絶望を歌っていたり、別れや喪失感、孤独、過ぎ去りし日のことを歌っていたりして、シリアスなテーマが多かったりするのだ。そして、曲の中には若い世代への目線もあったりして、ある意味大人になったblink-182というイメージが加わっているのも興味深い。

オフィシャルのプレスリリースによれば、マーク・ホッパスはこのアルバムについて、「27年間このバンドでやってきて、俺はさらにこのバンド押し進めて新しいことがしたいと思ったし、これまで行ったことのない場所にブリンクを連れて行きたかったんだ。このニューアルバムでは本当にそれをやろうとしてたし、2003年の『blink-182』でやったようなことをやりたかった。自分たちの土台に立ちつつ、完全にヘンテコな方向に突き進むっていうアルバムを」と語っている。

僕はバンドが『blink-182』を制作している時、運良く制作現場のスタジオに居合わせたことがあるのだが、この時も、自分たちに課せられた枠のようなものを打ち破るべく、コンセプト的にもサウンド的にも実験を何度も重ねているバンドの姿があった。
『ナイン』にはこの『blink-182』を彷彿とさせるような、ダークなテーマとキャッチーなソングライティングのバランス、内省と外に向かうエナジーのバランスの絶妙さが感じられる。様々な曲のバリエーションも楽しめるし、パンク/ハードコアのルーツに回帰したような曲やマット・スキバらしいゴス感がバッチリ出た曲があるのも聴いていて楽しい。そして、トラヴィスの叩くドラムがさらに人力の打ち込みビートと化していて、バンドのグルーヴを進化させているのも聴きどころだ。

ブリンクが体現するストリート・カルチャー感

そしてもう一つ、blink-182の持つストリート・カルチャー感にも注目したいのだが、このアルバムのアートワークは、LAのグラフィティ界のレジェンド、RISKが手がけていたりする。これまでにも、アルバムや配信曲のジャケットはストリートでのプロップスの高いアーティストたちが関わってきたのだが、これは特にトラヴィスのストリート系人脈によるところが大きそうだ。

音楽的にも、ヒップホップやEDMのアーティストとのコラボレーションも数々手がけているし、そういう音楽とカルチャーのクロスオーバーにかけてはかなりのキーマンとなっている。このクロスオーバー感は、夏に行われた全米ツアーにも表れていて、ヘッドライナーをラッパーのリル・ウェインとともに務めたのも話題となった。しかも、そこでは1999年発表の『エニマ・オブ・アメリカ』の20周年を祝して、このアルバムの楽曲全曲を再現して見せたという。そういうレガシーもクロスオーバーも体現してしまうblink-182にとって、『ナイン』は自分たちの「今」というものを表現しようと格闘したアルバムなのかもしれない。

<INFORMATION>

blink-182『ナイン』考察、レガシーもクロスオーバーも体現してしまうバンドの今

『ナイン』
blink-182
ソニーミュージック・インターナショナル
発売中

各配信サイトにて配信中。
https://sonymusicjapan.lnk.to/BLINK182NINE

収録曲
1. The First Time | ザ・ファースト・タイム
2. Happy Days | ハッピー・デイズ
3. Heaven | ヘヴン
4. Darkside | ダークサイド
5. Blame It On My Youth | ブレイム・イット・オン・マイ・ユース
6. Generational Divide | ジェネレーショナル・ディヴァイド
7. Run Away | ラン・アウェイ
8. Black Rain | ブラック・レイン
9. I Really Wish I Hated You | アイ・リアリー・ウィッシュ・アイ・ヘイテッド・ユー
10. Pin the Grenade | ピン・ザ・グレネイド
11. No Heart To Speak Of | ノー・ハート・トゥ・スピーク・オブ
12. Ransom | ランサム
13. On Some Emo S**t | オン・サム・エモ・シット
14. Hungover You | ハングオーヴァー・ユー
15. Remember To Forget Me | リメンバー・トゥ・フォーゲット・ミー
16. Out Of My Head | アウト・オブ・マイ・ヘッド ※日本盤ボーナストラック

【関連サイト】
オフィシャルサイト(英語) https://www.blink182.com/
ソニー・ミュージック アーティストサイト(日本語) https://www.sonymusic.co.jp/artist/blink182/
オフィシャルFacebook @blink182 https://www.facebook.com/blink182/
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