『ゲーム・オブ・スローンズ』の魅力の一つは、いわゆる一般的なTVシリーズとは一線を画したショットのカタルシスにある。

その立役者となったのが、シーズン5から参加したミゲル・サポチニク監督だ。
この2010年代を代表するグローバルなメガ・コンテンツを、「ショットの魅力」という観点から、映画・音楽ジャーナリストの宇野維正が解説する。

アメリカの映画ブログ・サイトFilm School Rejectsが運用している、One Perfect ShotというTwitterの人気アカウントがある。映画の劇中の文字通り「一つの完璧なショット」の写真を、撮影監督と監督のクレジットと共にポストするだけのシンプルなアカウント。かつてその対象は映画だけだったが、時代の変化に応じて、近年はかなりの割合でTVシリーズの「完璧なショット」もピックアップされている。

今、そのアカウントで最も頻繁に取り上げられているのが『ゲーム・オブ・スローンズ』だ。シーズン6エピソード9「落とし子の戦い」で兵士の死体の山から顔を出すジョン・スノウ。
シーズン7エピソード4「戦利品」でラニスター&ターリーの連合軍を焼き尽くすドラゴン。ここぞというタイミングで一気に大放出されるスペクタクル性と、そこでのキメの画(ショット)がもたらすカタルシスは、『ゲーム・オブ・スローンズ』の大きな醍醐味の一つだ。

もっとも、『ゲーム・オブ・スローンズ』においてそんな「完璧なショット」が頻出するようになったのは、シーズンをいくつか重ねてからだった。特に物語の導入部分においてはスタティックな画面構成の会話劇が主軸だったが、最初の呼び水となったのはシーズン2エピソード9「ブラックウォーターの戦い」だ。お約束の舞台転換は一切なし、エピソードの全尺をつかってブラックウォーター湾でのスタニス・バラシオンの艦隊とラニスター軍の戦闘を描いたこのエピソードで、製作陣は映画『センチュリオン』で歴史劇の戦闘シーン演出経験のあるニール・マーシャルをシリーズに引き入れた。

「映画のような作品」から「映画でも観たことがないような作品」へと飛躍させた最重要パーソン

マーシャルはその後、同じくほぼ全編が戦闘シーンのシーズン4エピソード9「黒の城の死闘」でも貢献することになるが、『ゲーム・オブ・スローンズ』をスペクタクル劇として「映画のような作品」から「映画でも観たことがないような作品」へと飛躍させた最重要パーソンは、シーズン5から参加したミゲル・サポチニクだ。


初演出となったシーズン5エピソード7「贈り物」でのウォームアップを経て、続くエピソード8「堅牢な家」でのホワイトウォーカー率いる亡者の群れとの壮絶な戦闘シーンとその顛末の衝撃は、(シリーズの人気にともなう制作費の拡大という背景も見逃せないものの)『ゲーム・オブ・スローンズ』がエンターテインメント作品として新たな次元に突入したことを強く印象づけた。

サポチニクが演出したシーズン6エピソード9「落とし子の戦い」は、その年のエミー賞監督賞をはじめとして、単独エピソードとしては『ゲーム・オブ・スローンズ』史上最多の賞に輝くことに。画面が暗すぎると世界中で大騒ぎになったホワイトウォーカーとの最終決戦回、シーズン8エピソード3「長き夜」も彼の仕業。最終的にサポチニクが演出面においていかに強い主導権を握るようになっていたかがわかる、全シーズンを通して最もエクストリームなエピソードだった。

Edited by The Sign Magazine