海外ベースで活動し、昨年は自身のレーベル〈Guruguru Brain〉より最新作『Masana Temples』をリリースした日本人5人組バンド、幾何学模様が2年ぶりに来日。東名阪を回るツアーの初日公演(10月5日)は先だってニュー・アルバム『新しい人』をリリースしたOGRE YOU ASSHOLEをスペシャル・ゲストに迎え、東京・渋谷のヴェニューWWW9周年・WWW X3周年の記念シリーズ「 WWW & WWW X Anniversaries」の一環としてWWW Xにて開催された。
「サイケデリック」を独自に解釈する両雄の共演とあって、この日のチケットはソールドアウト。土曜の18時開演という早い時間にも関わらず、会場には多くのオーディエンスが詰め掛けていた。

最初に登場したのはOGRE YOU ASSHOLE。濛々と立ち込めるスモークの中、青い照明が4人のシルエットを映し出すと、会場からは大きな声援が巻き起こる。シンセサイザーの発振音とギターのフィードバックがレイヤーされた、スペイシーなドローン・サウンドが徐々にフロアを満たし、あっという間に異次元へとトリップ。教会のオルガンを思わせる荘厳なギターフレーズに導かれ、まずは2012年リリースの通算5枚目『100年後』から「黒い窓」でライブはスタートした。

オリジナル音源よりもぐっとテンポを落とし、サビから歌い出すという意表を突いた展開。まるでジャックスを彷彿とさせる哀愁のメロディを、出戸学が艶やかなハイトーン・ヴォイスでブルージーに歌い上げる。続いて新作『新しい人』より「朝」。カウベル、シェイカー、ベース、キックの順に音が重なり、ミニマルなフレーズをひたすら反復するアンサンブルが、こちらの時間感覚を少しずつ奪い去っていく。PAブースではエンジニアの中村宗一郎が、ダブ・リミックスよろしくミキサーやエフェクターを駆使しながら、バンドが繰り出すサウンドスケープをリアルタイムで変調させていた。

幾何学模様×OGRE YOU ASSHOLE、日本発の「サイケデリック」が更新された一夜


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Photos by Yosuke Torii

さらにニュー・アルバムから「さわれないのに」を披露。
マイナーとメジャーを行き来する風変わりなメロディと、16ビートのシンコペーションが効いたタイトなリズム、掛け合いのような馬渕と出戸のギター・オーケストレーションが、一定の温度を保ったままひたすらストイックに繰り返される。

ミシェル・ウエルベックが1998年に発表した小説『素粒子』との”共振”を、出戸自らが認めた表題曲で幕を開ける『新しい人』は、これまで以上に抽象度を高めた歌詞世界と、中心に巨大な空洞がぽっかりと空いたようなミニマルなバンド・アンサンブルが、「サイケデリック=酩酊」という安易な連想をもきっぱりと拒絶する、どこまでも醒めたアルバムだった。「朝」も「さわれないのに」も、そんな世界観を象徴するような楽曲で、隅々までピントが合っているが故にかえって足元がおぼつかなくなるような、アンドレアス・グルスキーの写真にも通じるサウンドスケープはライブでも忠実に再現されていた。

幾何学模様×OGRE YOU ASSHOLE、日本発の「サイケデリック」が更新された一夜


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Photos by Yosuke Torii

そして、ここから怒涛のライブ後半。時空がグニャリとねじ曲がるような途中のダイナミックなテンポチェンジと、そこから展開される祭囃子的なビートが圧巻の「フラッグ(Alternative Ver)」、間髪入れずに繰り出された、宙を切り刻むような馬渕啓のファンキーなギター・カッティングは印象的な「見えないルール」という定番曲の応酬に、フロアから叫び声のような声援が湧き上がる。

そして最後は2011年の通算4枚目『homely』から「ロープ」。まるでラーガのようなインプロビゼーションからスタートし、ボトルネックを使った出戸のスペイシーなギター・フレーズと、シンプルだがツボを押さえた馬渕のアルペジオ、勝浦隆嗣によるトライバルなドラミングに、ねっとりと絡みつく清水隆史のベースラインが官能的に混じり合いながら、唯一無二のグルーヴを紡いでいた。

続いては、幾何学模様の登場だ。ステージ中央に配置された小ぶりなドラムにバンドのリーダーGo Kurosawaが座ると、彼を取り囲むように残りの4人のメンバーが並んで一斉に音を出す。寄せては返す、宇宙の波動のような煌びやかなサウンドが会場いっぱいに広がると、待ってましたとばかりにフロアからは大きな拍手が沸き起こった。そんな中、ビートルズの「タックスマン」を彷彿とさせるKotsu Guyのベースラインが響き渡り、まずは2016年の3rdアルバム『House in the Tall Grass』から冒頭曲「Green Sugar」でライブは幕を開けた。タイトな8ビートルの上で、KurosawaとギターのTomo Katsuradaが、儚いウィスパー・ヴォイスを響かせる。
その、モンドでラウンジな旋律は、どこかステレオラブやブロードキャストにも通じるものがあった。

5分以上にわたって展開された怒涛のインプロビゼーションに、どよめきのような歓声が上がる。続く「Kogarashi」も、『House in the Tall Grass』収録曲。どっしりと踏み鳴らされるキックの上を。ギターのアルペジオがひたすら反復し、牧歌的だがどこか物悲しさを覚える掛け合いのメロディに身を任せていると、まるで絵本の世界に迷い込んでしまったかのような錯覚を覚える。2013年リリースのデビューEP『Kikagaku Moyo』からのインスト曲「Tree Smoke」では、インドの巨匠モニラル・ナグに師事したシタール奏者Ryu(Kurosawaの弟)が、ギターのように肩から下げたシタールにワウをかけながら、エキゾティックなソロを展開。途中、ハードコアな変拍子を挟むと、そのまま10分を超えるスピリチュアルなインプロビゼーションへとなだれ込んでいった。

幾何学模様×OGRE YOU ASSHOLE、日本発の「サイケデリック」が更新された一夜


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Photos by Yosuke Torii

筆者が彼らのライブを観たのは、オーストラリアのサイケデリック・バンド、ポンドのオープニング・アクトを務めた前回の来日公演と、昨年カリフォルニア州のジョシュア・ツリー国立公園で開催された音楽フェス「デザート・デイズ」2日目に登場した時に続いてこの日が3回目となるわけだが、観るたびに演奏力も表現力も飛躍的に進化していてただただ驚くばかりだ。結成当時はメンバーも流動的で、楽器もほぼ初心者というメンバー編成のまま高田馬場などでバスキングを行なっていたというが、今やクルアンビンと共にツアーを周り、世界中のライブハウスやフェスにも引っ張りだこというだけあって、鍛え上げられたそのアンサンブルには貫禄すらうかがえた。

ライブ中盤は、メンバーが楽器を持ち替えアコースティック・セットでの演奏を披露する。アコギを抱えたKurosawaが、テンション・ノートをたっぷりと含んだコードをジャカジャカとかき鳴らしながら、フアナ・モリーナを彷彿とさせる美しい楽曲「Old Snow, White Sun」(『House in the Tall Grass』収録)のメロディを、繊細なファルセット・ボイスで歌い上げる。

「2年ぶりに日本で演奏するんですけど、こんなにたくさん来てくれて嬉しいです。
東京で始めたバンドなので、ホームに帰ってきたような気持ちです」とKurosawaが照れ臭そうに挨拶すると、「ホームだよ!」と客席から声が上がり、外国人客からの「I love you!!!!」という絶叫には「I love you, too!」と返すなど、終始ピースフルな雰囲気が会場全体を包み込んでいた。

幾何学模様×OGRE YOU ASSHOLE、日本発の「サイケデリック」が更新された一夜


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Photos by Yosuke Torii

アコースティック・セットでさらにもう1曲、カントリー・ソング風の「Cardigan Song」を演奏した後は、再びバンド編成に。キング・クリムゾンもかくやと言わんばかりのファズ・ギターが炸裂する「Entrance」、跳ねるリズムとヨナヌキの「和」なメロディ、どこかクルアンビンを彷彿とさせるエキゾティックなギター・フレーズがユニークな「Dripping Sun」、そして終盤に向けて徐々にテンポアップしていくプログレッシヴな「Gathers」と、昨年リリースされたニュー・アルバム『Masana Temples』からの楽曲を、3曲続けて演奏し本編は終了。アンコールでは「Nazo Nazo」、そして2014年のアルバム『Forest of Lost Children』からラーガ・ロックの名曲「Street Of Calcutta」を披露。めまぐるしい変拍子とキメの応酬で、オーディエンスを狂騒の渦へと巻き込んだ。

今回の公演で、前回よりも確実に大きな手応えを感じたはずの彼ら。おそらくまた近いうちに、さらに一回り成長した姿で戻って来てくれるだろう。

幾何学模様×OGRE YOU ASSHOLE、日本発の「サイケデリック」が更新された一夜


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Photo by Yosuke Torii

OGRE YOU ASSHOLE『新しい人』release tour

名古屋公演
2019年10月22日(火/祝)
会場:名古屋 CLUB QUATTRO

札幌公演
2019年10月26日(土)
会場:札幌ベッシーホール

東京公演(*ツアーファイナル)
2019年11月4日(月/祝)
会場:港区EX THEATER ROPPONGI

http://ogreyouasshole.com/

WWW & WWW X Anniversaries

「Mika Vainio Tribute」
2019年10月19日(土・深) 
会場:WWW X
出演:cyclo. / Yousuke Yukimatsu / Haruka / and more

https://www-shibuya.jp/
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