小柄な体躯と抜群のボディバランスを活かした、アクロバティックな技の数々は、まさに魔法少女そのもの。男子プロレスのスタイルを基本としている点も含め、従来の女子プロレスラーとは一線を画す異質な存在となっている。両国国技館で行われるタイトルマッチを控えた坂崎ユカに、彼女を生み出した東京女子プロレス、そしてDDTに対する想いを語ってもらった。
「男色ドライバー」に魅せられ決意したプロレスラーへの道
─プロレスラーの道を選ぶきっかけとなったのは、「THE夏の魔物(2019年解散)」の前身である「DPG」という音楽ユニットへの参加でした。
坂崎 そうです。元々、お笑い芸人になりたくてスクールに通っていたんですけど、その時の知り合いがDPGを主宰していた成田大致という人とつながっていて。その縁でオーディションを受けて加入したんです。で、そのメンバーにDDTで活躍されているプロレスラーのアントーニオ本多さんや、福田洋(現・トランザム★ヒロシ)さんがいたんですよ。
─現在、東京女子プロレスに所属している辰巳リカ選手も、同じくDPGのメンバーでしたね(当時の芸名はケンドー・リリコ)。それまで、プロレスに興味はあったんですか?
坂崎 いや全然。私の故郷では、プロレスのテレビ中継もなかったですし、女子プロレスラーもアジャ・コングさんや神取忍さんの名前を知っていたくらい。
─そこで、いきなりプロレスにハマってしまったと。
坂崎 そうですねぇ。特に衝撃を受けたのが、男色ディーノさんの試合。プロレスって聞いて、まずイメージするのって、蹴ったり殴ったり絞ったりとか、そういう”普通の”闘いじゃないですか。でも、ディーノさんは自分のパンツの中に相手の頭を捻じ込んで、そのままマットに叩きつけるという……。
─得意技の「男色ドライバー(変形?のパイルドライバー)」ですね。
坂崎 なんだこれは! って思いますよね。なんというか、イメージしていたのとはまったく異質の闘いが繰り広げられていて。ディーノさんに限らず、DDTのリング上で行われていることすべてが、すごく刺激的だったんですよ。選手だけじゃなく、お客さんも一緒になって会場を盛り上げている様子も楽しくで。自分も、その輪の中に入りたい! と思ってしまったんです。

─ならばファンとして楽しむ選択肢もあったわけですよね? そこで、敢えて選手になりたいと思ったのは何故なんでしょう? 痛かったり辛かったりするのは、明らかなわけですし。
坂崎 うーん。何故なんでしょうねぇ。確かに試合をしている人は痛そうだし辛そうだけど、それもまたキラキラして見えたといいますか。お笑いは、頭が悪くってネタが全然おぼえられないので挫折したんですけど、身体を動かすことには自信があったので、プロレスならできるかも! と思ってしまったのかも。
─それまで、何かスポーツをされていたとか?
坂崎 それが、まったくと言っていいほどないんですよ。学生時代、一応バレー部に所属してましたけど、身体が小さいから特に活躍もしていなかったし。
─それは、かなり意外ですね。デビュー初期から、抜群のボディバランスが印象的だったので、てっきり何かスポーツに打ち込んでいたのかと思っていました。
坂崎 何故だか子どもの頃から運動は得意だったんですよね。スポーツテストも、いつもA判定だったですし。山奥で育ったので、木登りとかしてるうちに、自然と鍛えられたのかも。
世界を驚かせた「魔法少女」が憧れるレスラーは意外にも……
─「魔法少女スプラッシュ」(トップロープに飛び乗ってから放つボディプレス)みたいな、坂崎さんが得意とするロープを活かした技も、わりと初期から使っていますよね。ケニー・オメガ率いるアメリカのAEWに参戦した際にも、坂崎さんのアクロバティックな技の数々が、観客を魅了していました。
坂崎 ああいう技も、実は誰かから指導を受けて始めたわけではないんですよ。練習の合間の休憩時間にロープで遊んでたら、たまたまできちゃった、っていう感じなんです。

─プロレスラーとして天性の素質があった、ということなんですね。
坂崎 基礎体力は、たぶん普通の女の子よりあったと思いますね。あと、性格的にできないことをそのままにしておけないタイプなんですよ。むしろ、できないことが見つかるのが嬉しいというか。
─課題を見つけて克服するのが楽しい、みたいな。
坂崎 ですね。だからプロレスの基礎練習は、東京女子の誰よりもしっかりやってる自信はありますよ。デビューしてからは、プロレスのことしか考えてないですし。
─目標にしている選手とかって、誰かいるんですか?
坂崎 試合映像をたくさん見て勉強した中で、いちばん好きになったのはWWEのエディ・ゲレロ(故人)さんですね。
─なんと! それまでプロレスを知らなかった女子が注目するには、かなり渋い選手ですよね。どこに惹かれたのでしょう。
坂崎 動きを見ただけで、私でも基礎がとてもしっかりしている人だってわかるじゃないですか。あと、なによりプロレスが大好きなんだな、ってことが試合を通じて伝わるんです。対戦相手に対するリスペクトがよくわかる試合をされる方でしたよね。
─言われてみれば納得ですが坂崎さんもまた、自分だけでなく相手を輝かせるような試合を、常に心がけているように思えます。とはいえ勝負へのこだわりをしっかりと持っているのも、エディ・ゲレロ的といえるのかもしれません。
坂崎 負けず嫌いっていうのは、自分に限らずレスラーなら誰でもあるじゃないですか。でも、それだけじゃ良い試合にはならないと思っていて。勝負という意味でもそうですよね。勝つためには、まず相手のことを考えないと。

─考えながら闘うという点では、シングルよりもタッグ戦のほうが楽しかったりしますか?
坂崎 そうかもしれないですね。タッグのほうが相手やパートナーの裏をかきながら闘う楽しみがあるというか。
─敵だけではなく味方も出し抜いちゃう。
坂崎 パートナーもアッと言わせたいんですよ。そのほうが、みんなでより刺激的な試合ができると思うから。最初はなんにも知らないで始めたけど、今は自分や東京女子プロレスの可能性をもっと広げていきたいんです。
生まれも育ちも「文科系プロレス」 DDTの一員として最高の恩返しをしたい
─当初はアイドルグループに混じり、ライブハウスのイベントでリングを使わないマットプロレスを行っていた東京女子プロレス。そこから約6年の歳月を経て、今年は遂に両国国技館で行われる大会の”本戦”で試合が組まれるまでになりました。旗揚げメンバーとして、やはり感慨はありますか?
坂崎 東京女子プロレスって、他の女子プロレス団体に比べると、まったくの”異質物”としてスタートしているんですよ。アイドルイベントに参加するのもそうだったし、そもそも試合のスタイル自体も、男子プロレスがベースになっていて。
─やはり女子と男子では、プロレスのスタイルが違うんですね。
坂崎 そういうことも知らなかったんです、最初は。基本的に、他団体の女子選手とは交流をしない鎖国状態なので、試合のスタイルだけじゃなくて、たとえば業界のマナーとかも全然わかってなくて。
─教えてくれる女子の先輩もいなかったから「女子プロレス」という世界を、理解するすべすらなかったと。いわば、絶海の孤島で生まれ育ったようなものからですね。
坂崎 そこにコンプレックスがあるわけじゃないんですけど、やっぱり”異質物”扱いされているんだろうな、という気持ちは今でもありますよね。でも、運営側の人たちや親団体にあたるDDTの方々は、それでいいんだよ、っていつも励ましてくれて。
─実際、そういうユニークな出自が東京女子プロレスならではの魅力を醸成したわけですしね。だからこそ、坂崎さんや、今回のタイトルマッチで闘う中島翔子選手のように、海外からも注目される選手が育った、ともいえるでしょうし。
坂崎 しょこたん(中島翔子)も、旗揚げからずっと一緒にいるメンバーなんですよね。練習でも、だいたい隣同士になるので、マット運動とかの基礎錬もレスリングの練習も、いつも一緒にしてたんです。

─いうなれば、2人のプロレスラーとしての歴史が、そのまま東京女子プロレスの歴史でもあると。
坂崎 そうなんですよね。”異質物”として生まれ育った自分たちが、ここまで成長できたってことを、たくさんの人たちに観てほしいですし、何よりも自分たちを生み出してくれたDDT(グループ)に試合で恩返しをしたい。それが、今回のタイトルマッチにかける、いちばんの想いですね。
─やはり自分たちはDDTグループの一員である、という意識が強いんですね。
坂崎 東京女子プロレスとは何か? と聞かれたら、私にとってその答えは女子プロレスよりも先に(DDTが標榜する)「文化系プロレス」なんですよね。それは、プライドを持って伝えたいこと。だから、他の女子団体と横並びにしてほしくない、ということではないけど、「文化系プロレス」では何処にも負けたくないかな。

Photo by Yoko Yamashita
─お笑いタレント志望からDPGを経てプロレスラーになり、今年でキャリアは約6年。こうしてお話を伺ってみれば、プロレスをまったく知らなかった人とは思えないほど、深く真摯にプロレスと向き合っているように思えます。坂崎さんが、そこまでハマってしまった、プロレスの魅力ってどこにあるんでしょうか?
坂崎 うーん。本当になんなんですかねぇ。なんというか、プロレスには自分がやりたかったことがすべて詰まっていたんですよ。だからフィジカルもメンタルも、試合をするときには、自分が持っている能力をすべて使い果たしたくなるような刺激があって。そういう感じのことを”中毒性”っていうのかな……。とにかく、今はプロレスをすることが楽しくて仕方ないんです(笑)。
試合写真提供=DDTプロレスリング
坂崎ユカ(さかざきゆか)
プロフィール上の出身地は「サウスタウン」。2013年12月、東京女子プロレスの旗揚げ戦でプロレスラーとしてデビュー。2017年6月、それまで無敗だった優宇を破りTOKYOプリンセス・オブ・プリンセス王座を戴冠。タッグ部門でも初代(パートナーは中島翔子)、第4代(パートナーは瑞希)の王座に就いている。2019年にはAEWへの参戦も果たし、世界に知られる存在となった。
<大会情報>
Ultimate Party 2019~DDTグループ大集合!~
2019年11月3日(日)
東京・両国国技館
開場13:30 開始15:00
【里歩選手参戦カード】
○プリンセス・オブ・プリンセス選手権試合
<王者>中島翔子 vs 坂崎ユカ<挑戦者>
【その他主要カード】
○メインイベント~BLACK OUT presents KO-D無差別級&DDT EXTREME級両選手権試合
<KO-D王者>竹下幸之介 vs HARASHIMA<EXTREME王者>
○ユニオンMAX選手権試合
<王者>関根龍一 vs 高梨将弘<挑戦者>
○インディペンデントワールド世界ジュニアヘビー級選手権試合
<王者>石井慧介 vs 阿部史典<挑戦者>
○KO-Dタッグ選手権試合~4WAYハードコアマッチ
<王者組>佐々木大輔&高尾蒼馬 vs 彰人&勝俣瞬馬<挑戦者組> vs FUMA&久保佑允<挑戦者組> vs 藤田ミノル&下村大樹<挑戦者組>
○第2代KO-D10人タッグ王座決定戦
男色ディーノ&朱崇花&飯野雄貴&瑞希&トランザム★ヒロシ vs スーパー・ササダンゴ・マシン&まなせゆうな&黒潮”イケメン”二郎&大和ヒロシ&大石真翔
○総研ホールディングス presents ドラマティック・ドリームマッチ
ケニー・オメガ&里歩 vs アントーニオ本多&山下実優
他全14試合予定(アンダーマッチ含む)
【団体公式サイト】
DDTグループの生中継&過去の試合はこちら。
DDT UNIVERSE(月額900円で初月無料)
https://www.ddtpro.com/