WWEに参戦中のASUKA(華名)やカイリ・セイン(宝城カイリ)を筆頭に、世界のプロレス界で現在熱い注目を集めている、日本の女子選手たち。その中でも、極めてユニークな存在といえるのが、ケニー・オメガ率いる新団体AEWの初代女子王座を獲得した里歩だろう。


写真を見ただけでは、彼女がプロレスラーだと信じられない人も多いはず。しかし、今年でキャリア14年目。国内はもちろん、世界各地での試合経験も豊富な人気選手なのだ。数奇な運命に導かれ9歳でデビューし、ついに世界の頂点へと昇り詰めた里歩のレスラー人生を、彼女の言葉とともに紹介しよう。

キャリア14年目の”スモールモンスター”が世界を震撼させた日

─これまでにもタイやシンガポール、イギリスなど海外で多くの試合を行ってきた里歩さんなので、今回のAEW参戦自体には驚きませんでしたが、まさか初代の女子王座まで奪取してしまうとは。倍以上の体格差があるナイラ・ローズを、得意技の蒼魔刀(ランニングダブルニーアタック)で仕留める姿には、世界中のプロレスファンが衝撃を受けたと思います。

里歩 海外の選手たちの中にいると、自分って本当に子どもみたいに見えますものね。そのイメージを試合で覆すのが、とっても楽しいんですよ。

22歳の女子プロレスラー・里歩は世界へ そして「まだ見ぬ場所」へと進む


─海外の選手を相手に闘うのって、やはり国内での試合とは勝手が違うものなんでしょうか?

里歩 AEWでの試合に関しては、特にやりにくさはなかったです。リングのサイズや質感も、日本とあまり変わらなかったし。強いて言えば、ロープがちょっと緩かったくらい。そもそも試合のスタイルについても、ケニーさん(ケニー・オメガ)から「日本の女子プロレスを世界に見せたいんだ」と言われていたので、むしろ海外での試合ということを、意識しないように心がけていましたね。


─ケニーさんが求める「日本の女子プロレス」って、アメリカを含む他国の女子プロレスとどのように違うのでしょう。海外のファンからは、常に高い評価を受けていますが。

里歩 うーん、言葉で説明するのってすごく難しいんです。よく使われる表現だと「繊細」とか? 技の正確さや試合の組み立ての丁寧さは、明らかに違いますよね。海外の選手のスタイルは、日本に比べると動きも大きくて、悪い言い方になるかもしれないですけど、見栄え重視みたいなところがあるんです。ただし逆に言えば、それが海外のプロレスの魅力なっているわけだし、日本の選手に足りない点でもあると思っていて。

─会場に集まるファンのノリも、日本と海外では結構違いますものね。

里歩 日本のファンは、じっくりと試合を見守るような楽しみ方をされる人が多いですよね。それに対して海外のファンは、とにかく自分が率先して楽しみたい! っていうノリの人が多いんです。選手だけでなく、ファンも一緒になってショーを創り上げている感じというか。

─規模はもちろん、会場全体の演出も特にアメリカは華やかですものね。そういえば、AEWでは選手のためにメイクアップアーティストやスタイリストも用意されているとか?

里歩 そうなんですけど、日本から参戦する選手は自分でメイクする人が多いんですよ。
向こうのメイクさんにお任せすると、やっぱり海外仕様になってしまって、自分の顔じゃないみたいになるので……。毎回、敢えてメイクを頼んでいるさくらさんは、流石だなぁって思います(笑)。

体操教室に通っているつもりが、なぜか9歳でプロレスデビュー

─ちょうど名前が挙がりましたが、里歩さんを語る上で欠かせない存在となるのが、AEWにも参戦しているさくらえみさんですよね。プロレス界でも屈指の鬼才として知られる。なにしろ、里歩さんをプロレスの道に引き込んだ張本人ですし。

里歩 そうですねぇ。最初にお会いしたのが、小学校2年生のときですから。当時、さくらさんが子ども向けのアクション体操教室を開催していて、そのチラシをたまたま目にしたのが、すべての始まりだったんです。

─その頃って、プロレスに興味を持っていたんですか?

里歩 いや、存在すら知らなかったです。もちろん、さくらさんのことも。純粋に体操教室だと思って通い始めて、教わるとおりに身体を動かしていたら、実はそれがプロレスの基本動作だったという。で、気が付いたら9歳でリングに立っていて(笑)。


─騙されたようなものじゃないですか(笑)。

里歩 そういう意識すらなかったですよ。自分としては、習い事の延長というか。普通の子でいえば、ピアノの発表会に出るくらいの感覚だったのかも。さくらさんが設立したアイスリボンという団体に所属していた時代は、ずーっとそんな感じで試合をしていたんだなって、今となっては思いますね。

22歳の女子プロレスラー・里歩は世界へ そして「まだ見ぬ場所」へと進む


─小学生の女の子をプロレスラーにするっていう発想もぶっ飛んでいましたが、その後2012年にはなんと、女子プロレスを広めるためにタイへ渡るじゃないですか、さくらさんって。結果的には、そのために自分が創った団体を突如離脱してしまうような形で。

里歩 さくらさんがアイスリボンを退団されたとき、実は本気で引退しようと思っていたんです。デビューしてからずっと、さくらさんの姿を追うようにプロレスをしていたので、さくらさんがいない状態で、どうすればいいのか、本当にわからなくなったんですよね。

─それで、里歩さんもさくらさんが新たに旗揚げした我闘雲舞(ガトームーブ)に合流したわけですね。ファン目線の印象ですが、我闘雲舞に合流しリングネームを現在の「里歩」に改めて以降、試合内容が大きく変わったように思えました。

里歩 アイスリボン時代は本当に何も考えてなかったんですよね。
言われたとおりに試合すればいいんだって思っていたから。

─アイスリボン内でのポジションも目立つ位置にいたものの、どちらかといえばジョーカー的な存在になっていましたしね。

里歩 そんな自分が我闘雲舞では、人数が少なかったこともあり、いきなりエースに置かれてしまったんです。そうなると、やっぱり自分で考えて行動しないといけなくなるわけで。

─エースとしての自覚が芽生えたと。

里歩 あとは、自分が直接面倒を見る後輩ができたのも大きかったですね。2017年に引退した「ことり」っていう、妹みたいな存在の選手がいたんですけど、彼女を育てていく経験を通じて、自分も人間的に大きく成長できたのかなって。

プロレス界の”母”さくらえみを超えるためにフリーの道へ

─というように、里歩さんの成長にとってターニングポイントとなった我闘雲舞から離れる決意をした理由って、どこにあったのでしょうか?

里歩 直接的には、2019年5月に実現したAEW初参戦ですね。こう見えてデビュー14年目なので、海外を含めいろんな試合を経験してきたんですけど、それでも、まだまだ自分が見たことのない景色があるんだなって、強い刺激を受けてしまったんです。この先、レスラーとしての寿命がどれくらいあるのかわからないけど、その間にもっともっと、新しい世界を体験しておかなきゃって。

22歳の女子プロレスラー・里歩は世界へ そして「まだ見ぬ場所」へと進む


─とはいえ、まさにプロレス界のお母さん的存在である、さくらさんの元を離れるのには、相当な勇気が必要だったのでは?

里歩 自分で言うのも何ですけど、我闘雲舞の人気を自分が支えていることもわかっていたので、当然躊躇はありました。でも、さくらさんに相談したら、即返事で退団を勧めてくれて。


─そこが凄いところですよね。さくらさんにとっても、かけがえのない”娘”だったはずなのに。

里歩 だからこそ一緒にいるうちは、さくらさんを超えることができないと思った、というのもあるんです。同じ団体にいたら、やっぱり後を追ってしまうじゃないですか。でもそれだと、どんなに頑張っても、さくらえみにしかなれないから。超えるためには、さくらさんの教えを活かしながら、違う場所で、自分の力で走っていかないとダメなんですよ。そのことを、さくらさんも理解してくださっているんじゃないのかな、って。

─プロレスラーとして、さくらさんに教わったことで、肝に銘じていることはありますか?

里歩 「人の真似をするな」ですね。プロレス技にもトレンドがあって、人気の技はすぐに広まるんですよ。でも、さくらさんは、他人の技を安直に取り入れることを、とても嫌っていて。人真似に頼らず、自分の技を信じて大切に磨いていく、という教えは今でも忠実に守っているつもりです。だから、蒼魔刀でAEWのベルトを奪取できたのは、本当に嬉しかったですね。
自分が磨き続けた技が世界に通用したわけですから。

「やりきった」と思えるときが来るまで新しい世界を探し続けたい

─11月3日に開催されるDDT両国大会では、ケニー・オメガとタッグを組み、アントーニオ本多&山下実優組と対戦する、男女混合のミックスドマッチが予定されています。この試合形式って、実は里歩さんが得意とするところですよね?

里歩 そうですね。以前所属していた我闘雲舞でも、何度も経験していますから。男女混合の試合って、プロレスファンでも観たことがある人って結構少ないじゃないですか。特殊な形式の試合だと思われがちだし。でも、日本で行われているミックスドマッチは、本当にクオリティが高くて、それこそ世界に誇れるレベルだと思うんです。

22歳の女子プロレスラー・里歩は世界へ そして「まだ見ぬ場所」へと進む


─本当にそうですよね。ケニーさんとのタッグで言えば、2013年2月に我闘雲舞で行われた、ケニー・里歩組vsマサ高梨(高梨将弘)・米山香織組戦は、リングを使わないマットプロレスという、さらに特殊な試合形式でしたが、ミックスドマッチの歴史に残る名勝負だったと思います。ケニーさんが米山さんを「片翼の天使」で仕留めるという、衝撃の結末も含め。本誌で以前、当時IWGP王者だったケニー選手にインタビューしたとき、オフレコでしたが、この試合について熱く語っていたんですよ。

里歩 今年の夏にも、台湾でケニーさんと組んでミックスドマッチをしたんですけど、「こんな試合があったのか!」ってファンからとても驚かれました。今回の両国も、ファンの注目はAEWのスーパースターになったケニーさんの参戦にあると思うんですけど、私としてはミックスドマッチの魅力も楽しんでほしいですね。そのうえで、里歩という選手の存在をしっかりアピールしたいな、と。

─ケニーさんと組むということで、やはりAEW代表という意識もありますか?

里歩 それは、まったくないですね。だってAEWには私なんかより、もっと凄い選手がいっぱいいますから(笑)。フリーになったばかりということもあるけど、今は自分のために闘うことだけで精一杯ですよ。

─9歳からプロレスを初めて今年で14年目。数十名弱の小さな会場からスタートして、現在では世界にその名を知られる存在となりました。ズバリ、これからの里歩さんの”行く先”は?

里歩 さっきも言いましたけど、あと何年続けられるかわからないので、それまでに、まだ見たことのない世界をなるべく多く体験したいですよね。これまで接点がなかった団体のスターダムに参戦することも、そのひとつですし。

22歳の女子プロレスラー・里歩は世界へ そして「まだ見ぬ場所」へと進む


─今後、再び引退を考えることはあると思いますか?

里歩 あるとしたら、自分の中で「やりきった」と思えたときでしょうね。今のところは、何をして「やりきった」と言えるのかも、わからない状態ですけど。

─ということは、少なくともAEWのベルト戴冠は「やりきった」ことではないと。

里歩 ですね。ベルトはゴールではないので。言われてみると今もプロレスを続けている理由って、自分の人生の中で「やりきった」と思えることを探すためなのかもしれない。なにしろ、プロレス以外のことを、ほとんどしてこなかった人生ですから(笑)。

試合写真提供=DDTプロレスリング

里歩(りほ)
東京都出身。2006年、9歳の若さでプロレスラーとしてデビュー(対戦相手は高橋奈苗(現・奈七永)。小学生レスラーとして話題を集める。2012年の我闘雲舞移籍後は、タイやシンガポールなどアジア地域にも活動の場を広げ、2017年には初代スーパーアジア王座を戴冠。2019年にフリーとなり、海外ではAEW、国内ではスターダムを主戦場としている。

<大会情報>
Ultimate Party 2019~DDTグループ大集合!~
2019年11月3日(日)
東京・両国国技館
開場13:30 開始15:00

【里歩選手参戦カード】
○総研ホールディングス presents ドラマティック・ドリームマッチ
ケニー・オメガ&里歩 vs アントーニオ本多&山下実優

【その他主要カード】
○メインイベント~BLACK OUT presents KO-D無差別級&DDT EXTREME級両選手権試合
<KO-D王者>竹下幸之介 vs HARASHIMA<EXTREME王者>
○ユニオンMAX選手権試合
<王者>関根龍一 vs 高梨将弘<挑戦者>
○インディペンデントワールド世界ジュニアヘビー級選手権試合
<王者>石井慧介 vs 阿部史典<挑戦者>
○プリンセス・オブ・プリンセス選手権試合
<王者>中島翔子 vs 坂崎ユカ<挑戦者>
○KO-Dタッグ選手権試合~4WAYハードコアマッチ
<王者組>佐々木大輔&高尾蒼馬 vs 彰人&勝俣瞬馬<挑戦者組> vs FUMA&久保佑允<挑戦者組> vs 藤田ミノル&下村大樹<挑戦者組>
○第2代KO-D10人タッグ王座決定戦
男色ディーノ&朱崇花&飯野雄貴&瑞希&トランザム★ヒロシ vs スーパー・ササダンゴ・マシン&まなせゆうな&黒潮”イケメン”二郎&大和ヒロシ&大石真翔

他全14試合予定(アンダーマッチ含む)

【団体公式サイト】
DDTグループの生中継&過去の試合はこちら。
DDT UNIVERSE(月額900円で初月無料)
https://www.ddtpro.com/
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