2016年までヒップホップ・グループのYENTOWNに所属、トラック・メーカーとして5lackやAnarchyなどに楽曲を提供しながら、自身もステラ・マッカートニーや、グッチ、サン・ローランのファッション・イベントでDJを務めるなど、ここ数年ハーコドア・アイコンとしての存在感を急速に増してきたリサクリス。

ソロとして発表した2枚のEPでは、ヒップホップという枠組みから完全にはみ出し、「インダストリアルな世界に産み落とされた新しい形のアンビエント」とでもいえる独自の音楽を展開していた。
さらに、2019年に入って突如Yüksen Buyers HouseのTaiki Aiyoshi らとElto Klinherszなるバンドを結成し、夏にはEPを発表。

今、彼女の脳内に何が起きているのか。

-なぜ今、バンドを結成したんですか?

ヒップホップのライブでは音をあらかじめ用意していることが多くて、私もそれに慣れていたんですけど、久しぶりに生のライブを体験したらけっこう感動しちゃったんですよね。何でも反動ってあるじゃないですか。トレンドの追いかけっこというか。ただ、『そろそろ生の音・声がくるな』っていうのは、時代どうこうは関係なく、自分の中で感じていた、ってことなんですけど。

-実際にバンドを結成してみて、何か大きな変化は起こりましたか?

最初は大変だった。みんなロックの人だから退廃的なムードがあって(笑)。こいつやる気ね~とか思っていたけれど、途中から、別にそんなことはないんだなと。自分はサーカス団長みたいな感じですよ。高校生の部活以来ですね、その立場は。今は自分が『こいつらだ』と思ったメンツとステージに立ちたいんです。


-今のバンド・メンバーとの出会いについても教えていただけますか?

ギタリストとドラマーは私が前に所属していたレーベルからCDを出していたバンド(Yüksen Buyers House)のメンバーだったんです。ベーシストはドラマーが誘ってきてくれて。ちなみに、私が(モデルの)宮本彩菜と組んでいるPisces(パイシーズ)の「Dareimo」っていう曲のMVで出てくる車は、今のドラマーが貸してくれました。彼自身も登場していますよ。

-バンドのメンバーを決めるポイントはどこにありました?

キャラ……かな~。キャラが合えば音楽の部分でもうまくやっていけると思う。

-ちなみに、リサクリスさんにとって人の好き嫌いの分かれ目ってどこにあります?

連絡を返さないのに自分のストーリーに足跡をつける人。クラブ界隈に多いんですよね。ハコの中に生きているな~って思っちゃう。そうじゃない人は好き(笑)。

トラック・メーカーとしてのリサクリス

-前作『Akasaka』でトラック・メーカーとしてのリサクリスはある程度完結したと思いますか?

うーん、完結したのかな~。そこまでは思っていないんですけど、すこしはあるかもしれない。
だからこそ生の音に向かえたし。

-前作で思い描いていた理想を具体的に教えていただけますか?

あの時はどう思ってたのかなあ……とにかくその時には『このサウンドが正しい』と思っていたから、とにかくそれを完結させようとしていました。打ち込みを聞いてほしいって感じでしたね。あとは、重なるメロディ。歌詞読んでもらうとわかると思うんですけど、音楽のテーマが壮大なんです。

-たしかに、リサさんの音楽に浸っていると、精神の中に宇宙が広がっている感じがしますよね。内面のミュージックというか。

そう、それを感じてほしかった。

-内面のミュージックという点で、崇めている存在はいますか?

あの時は、オウガ・ユー・アスホールをめっちゃ聴いていました。今はRADWIMPSなんですけど。

-お、ちょっと意外ですね。彼らのどこにグッときたんですか?

歌詞が半端ない。
野田(洋次郎)さんは本当に一途な人なんだと思います。曲自体も、ぜんぶ打ち込みかと思うくらい細かく作られていて。高校生の時はそのすごさに気づかなかったけれど、『天気の子』を観て、ヤバイなと。私は自分のバンドではあまり打ち込みを使うべきじゃないって思ってたんですけど、RADWMIPSみたいに使えばいいんだって。だから、今回のEPにはオウガとRADWMIPSの2つの要素が入っていると思います。

-では、よく聴いていた海外のバンドは?

10代の頃は、プライマル・スクリームとナイン・インチ・ネイルズですね。

-すごくよくわかります。まさに、ここにもヒリヒリとしたサイバー・パンクが鳴っていますよね。これまでリサクリスさんは一人で作業することが多かったと思うんですが、今バンド内で曲作りはどのように行なっているんですか?

最初にメンバーから各々の表現を集めて構築して、脱構築します。

-その脱構築のプロセスについて詳しく教えてもらえますか?

えっと、日々の自分の進化に沿って……つまり1週間後の自分の方が今の自分より絶対にイケているから、その時点で要らないと思ったものは削っていく、っていうことですね。そのためにスタジオとか部屋で一人になって、曲を死ぬほどリピートするんです。そこで異なる次元を感じたものだけ残す。
自分が大事にしているヴァイブスだけはよくわかるから。

テイストはダークでも姿勢は明るい

-その「ヴァイヴス」についてなんですが、リサクリスさんの音楽はインダストリアルな質感なのに不思議と明るい雰囲気が漂っていますよね。

嬉しい、それ。自分は逆だと思っていたから。こんなに暗くて良いのかなって。

-ドライで明るいと思いますよ。なぜでしょう……ハードコアなものに対する愛が素直に出ているから、テイストはダークでも、その姿勢が明るく聞こえさせているのかもしれません。

私は放っておいたらどんどん内面に行っちゃうんで、デモからミックスをかける時にドロドロな暗さを取り除いていく作業をやっているんですよね。それが仕上げのポイントで。あと、ミックスしていくうちに当初は聞こえてなかった部分が聞こえてきて、その曲の性格がわかってくるから、また再調整して。その繰り返しですね。

-ちなみに、リサクリスさんにとって理想的なバンドの1stアルバムってどれですか?

ビートルズの1stアルバム(『Please Please Me』)です。
あれってどうやら25時間で全部録り終えたみたい(*ほとんどの曲は一発録りだった)じゃないですか。でも、その手法をトレースするのではなく、私は彼らの自由な”マインド”を引き継ぎたかった。だから、新しいEPには一つの曲のいろんなバージョン、例えばオケをiPhoneで録ったものとかを入れているんです。あと前に、ステラ・マッカートニーのイベントで私がDJをやったんですよ。イエロー・サブマリンをテーマにしたコレクションのお披露目会だったんですが、その時に映画(『イエロー・サブマリン』)のDVDをいただいて、久しぶりに観てみたら、映像の色とかテイストが統一されていなくて「超自由じゃん!」って。私たちも同じ曲(「Senapi」)でMVを2バージョン作っていて、一つは私がiPhoneで撮っているからロケも光もバラバラなんですよね。でも、今回はそれでいいと思えた。

-自分の中でのクオリティの概念が変わった瞬間だったんですね。

私は洗練に対して、けっこうこだわりがある方だから。特に前のアルバム(『Akasaka』)とか。

-ではここで、Elto Klinherszの1stEP『SixPointTwo Dimension』に話を移しましょう。さっきプライマルの話が出ましたが、まさに僕は『Evil Heat』を思い出しました。
バンドだけど、打ち込みのノリは残したんですね。

最初は打ち込みを完全にシャットアウトしたかったんですけど、メンバーがそういうテンションじゃなくて(笑)。「せっかくキャリアがあるのに、それを全部捨てるの? 『Akasaka』みたいな感じで作っていこうよ」って。私はそれを聞いて「マジすか」ってなったんだけど(笑)、たしかに私はそのスキルをずっと磨いてきたし、使わないのはもったいないなと。だから、(打ち込みに)ちょっと距離を置いたからこそ、以前よりも大好きになる、みたいな体験でしたね。自分がもっとギターとか上手くなったら、王道のバンド・サウンドをやるかもしれないですけど。

-今作には、『Akasaka』でも2曲で共演していたUCARY & THE VALENTINEをヴォーカル・ゲストに迎えていますね。相変わらず2人は見事な相性だなと思うのですが、彼女はリサさんにとってのミューズという感じですか?

本当は全編でもいいくらい。彼女のヴォーカルはやばすぎるから。でも、自分のバンドに専念させるわけにもいかないから、(UCARY & THE VALENTINEが参加するかどうかは)その曲の運命として捉えていますね。

リサクリスならではの「音楽」とは?

-リサクリスさんはこれからどういうアーティストになっていこうと考えていますか?

まったく新しい音楽人。今、テクノロジーの進化によって音楽を作るのがすごく簡単になっているし、「歌う人が曲も書いている」なんて当たり前になっている。自分はDJからスタートして、他のアーティストにもトラックを提供してたけど、そんな彼女が今はバンドもやっていて、MVでは踊っているわけです。つまり、そういう姿が私の目指すところですね。

-ちょっとトム・ヨークみたいですね。

そうですか? そういえば、(ポール・トーマス・アンダーソンが手がけた)新しいムービーも超良かったですよね。

-ソロ名義、Pisces、バンドと、そうやってオルター・エゴ(別人格)をどんどん増やしていく理由は何ですか?

私はアーティストとして完璧主義なんですよ。何にしても、『自分はこのキャラじゃないよね』とか、そういうところにすごく敏感だし。だから、それぞれのポジションに合わせたキャラを作りたい、のかな。

-つまるところ、リサクリスさんは音楽というものをどう捉えているんですか?

最終的には、すべて自分の世界の遊びだと思っていますね。

リサクリス
幼少~ティーンの時期をアメリカ、イギリス、日本で過ごす。新しく結成したバンド・Elto Klinhertzの処女作『SixPointTwo Dimension』を9月23日にリリース。リスナーとしてはずっとTychoを愛聴している。

リサクリス、曇りなき実験精神を宿すハードコアの新女王

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