ティーンポップのスーパースターと、彼女のヒーローであるビリー・ジョー・アームストロングの対談が実現。グリーン・デイの初期、音楽業界で正気を保つための術、そして客と喧嘩になった時のことまで、ビリーがビリーに語った。
ビリー・アイリッシュのお気に入りのグリーン・デイの曲を知って、ビリー・ジョー・アームストロングは驚いた様子だった。それは彼らの代表曲ではなく、1994年作『ドゥーキー』に収録されているアコースティックな隠しトラック「オール・バイ・マイセルフ」だ。「あぁ、あれはトレ・クールさ!」。同曲で歌っているのがバンドのドラマーだということを、アームストロングは改めて強調した。「もちろん知ってる!」。そう話すアイリッシュを前に、彼はこう付け加えた。「他愛のないダーティな曲さ」
『ドゥーキー』が発表されたのはアイリッシュが生まれる7年前だが、彼女があのレコードに夢中になった理由は察しがつく。あのアルバムにおける退屈、不安、自信喪失といったテーマは、彼女が大ヒット作『ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー?』で極限まで突き詰めたものと同じだからだ。現在17歳のアイリッシュは、9歳の頃からグリーン・デイを聴いている。そして彼女の兄でありコラボレーターでもあるフィァネス・オコネルは、10代になったばかりの頃から「緩めた小さなネクタイからアイライナーまで」アームストロングのすべてを真似ていたほどの大ファンだという。「兄はあなたのできそこないってわけ」。そう話すアイリッシュを前に、アームストロングは笑ってこう答えた。
アームストロングが所有する60年製フォード ファルコンの後部座席で、2人は並んで座っている。Craigslistで1000ドルで購入した後、自身でエンジンを組み直したというその車を、彼はロサンゼルスのニューポートビーチにある自宅から持ってきてくれた。
「ヤバい」。最近初めて車(黒のダッジ チャレンジャー「私のドラゴン・ベイビーよ」)を買ったアイリッシュはそう言った。今日を楽しみにしていたという彼女にアームストロングが贈った箱の中には、「Billie」の刺繍が入ったメカニックのシャツが入っていた。現在47歳のアームストロングは、ソウルやニュー・ウェーヴ、そしてヴィンテージのR&Bまでを取り込んだグリーン・デイの13枚目のアルバム『ファザー・オブ・オール…』を完成させたばかりであり、1年に及んだ制作期間を終えて羽を伸ばしていた。バンドは先日、2020年夏にウィーザーとフォール・アウト・ボーイとスタジアムツアーに出ることを明らかにした。
一方アイリッシュは、来年3月から始まる全米アリーナツアーの準備中だ。2人に共通する点は少なくないが、対談では明らかにジェネレーション・ギャップを感じさせる場面もあった。写真撮影を前に、アームストロングがスタイリストの鏡を見て「眉毛もバッチリ(Fleck)だな」と言うと、アイリッシュは吹き出した。「Fleckだって。それを言うならFleek(チリバツ)だよ!」
ビリー・ジョーがビリー・アイリッシュを好きな理由とは?
アームストロング:変に思うかもしれないけど、俺は自由を感じさせる音楽に惹かれるんだ。
アイリッシュ:もちろん!
アームストロング:歌詞もすごくリアルだと思う。作り物ばかりに囲まれてるこの業界じゃ、それって重要なことだよ。
アイリッシュ:ありがとう。自分の音楽が受け入れられてることに、すごく驚いてるの。今ってみんな無関心で、音楽が何の役にも立たないような世の中だから。「bury a friend」について、ママとこう話してたの。「自分を抹消したい」みたいな歌詞の曲なんて、誰も見向きもしないだろうって。嘘じゃなくて、私は本当にそう思ってた。だからこそ、今の状況が不思議で仕方ないの。
アームストロング:あの曲で、君は死について歌ってる。それ以上にリアルなことなんてないよ。正真正銘の真実だからさ。幼いなりに曲を書いてた時、俺は20年後も歌っていられるような曲にしたいといつも思ってた。「バスケット・ケース」なんかは、正気を失うことについての曲なんだ。歳をとるにつれて、そういう感覚はますますリアルになってくる。色褪せないっていうのはそういうことだと思う。
アイリッシュ:そんな風に考えてたんだ。だからあなたは真摯に見えるんだね。
アームストロング:トレンドがやってきては去っていくのを、俺たちは嫌というほど見てきた。目の前に吊るされてる黄金のニンジンを無視することは容易じゃない。「時代遅れにならないよう、誰かの真似をするべきか?」.そう自問するたびに、俺はそれは絶対にダメだと自分を言い聞かせてきた。
ー 1994年に『ドゥーキー』は1000万枚を売り上げました。当時のことをどう記憶していますか?
アームストロング:やれやれ。当時俺はまだ22歳だったんだけど、その頃に子供ができて結婚もした。あの年はいろんなことがありすぎて、マジで気が狂いそうになってた。音楽をやる上で、何もかもがそれまでとは比べものにならないスケールになってた。でも俺が本当にやりたかったのは、とにかく曲を書き続けることだった。そういう追い風の状況を利用してやろうとは思わなかったし、ペースを落として人生を楽しもうなんて考えたりもしなかった。後になって、「俺はあの頃楽しんでいたか?」って自問したよ。だってミュージシャンとしてブレイクする感覚って、一度しか味わえないものだからさ。
アイリッシュ:それで、楽しんだの?
「何でオーディエンスの頭を蹴っ飛ばしたの?」(アイリッシュ)
アームストロング:どうだろうね、途方に暮れてるような感じだったな。ライブの規模は大きくなり、オーディエンスからの反響もすごかった。でも俺にとって本当に大事なのは、リアルであり続けることだったんだ。今思うと、そのことにとらわれ過ぎてたのかもしれない。何があってもルーツを見失ってはいけないと、俺はまるで強迫観念のように自分に言い聞かせてた。その次に出た『インソムニアック』がすごくダークなのは、そういう理由なんだ。何もかもに対して、感覚がすっかり麻痺してしまってたんだよ。
アイリッシュ:(次回作のことは)私もプレッシャーを感じてる。私って音楽を楽しんでるのかなって、疑問に思った時期があったの。ツアーがあまりに長く続いたせいでね。ライブのことを言ってるんじゃないの、それってむしろ一番好きな部分だから。
アームストロング:わかるよ。ツアーで1年くらい家を空けて、帰って来たら誰かが結婚してたり、状況がいろいろと変わってるんだよな。そういう生活の中で正気を保つには、優れたチームに支えてもらうことと、気晴らしの手段を見つけることだよ。
アイリッシュ:あのさ、これって聞いちゃっていいのかわかんないんだけど、オーディエンスの頭を蹴っとばしたっていう話があったでしょ? 何でそうなったの?
アームストロング:人の頭を蹴っただって? 俺、そんなことしたっけ?
アイリッシュ:動画があるんだけど、すごく強烈なの。フロアで何かしらやってる客に、ステージから降りて来たあなたが飛びかかるの。マジでハードで、本物のギャングスタだと思った。一体何があったのかなと思って。
アームストロング:多分ヤジかなんか飛ばされて、口論になったんじゃないかな。そのうちに堪忍袋の尾が切れて、そいつに飛びかかっちまったんだろうね。悪いことは言わない、やめときな。
アイリッシュ:もちろんやらないけど、あれはドープだよ。それに、私のオーディエンスは全然タイプが違うしね。
アームストロング:君のショーを観た時、同じエネルギーを感じたよ。素晴らしいライブだった。客がみんな一緒に歌ってて、イギリスのサッカーの試合みたいだった。でも歌ってる内容はダークで、まるで大聖堂にいるみたいに感じたよ。
Photo by Brad Ogbonna for Rolling Stone
アイリッシュ: Hair by Tammy Yi at Exclusive Artists Makeup by Rob Rumsey
アームストロング: Grooming by Stanton Duke Snyder
ビリー・ジョーが語るツアーのプレッシャーを乗り切る術
アイリッシュ:ビリー・ジョー・アームストロングが観に来てるって知ってたから、あの時はいつになく集中できたの。でも観てくれたのがあのショーで良かった。ひどいやつじゃなくてね。
アームストロング:ひどいショーもあるのかい?
アイリッシュ:そんなには悪くないけど……。
アームストロング:それでいいんだよ。
アイリッシュ:私の足りない脳みそが「あのショーはクソだった」って決めつけちゃうの。
アームストロング:ライブをたくさんやってると、それが日常の一部になる。来る日も来る日も別の会場で演奏する。そういう中でひどいショーをやってしまった時は、休暇を取ったと思えばいいのさ。すごく集中できる時もあれば、やっつけっぽくなってしまうこともある。そういうもんだよ。
ー ビリー、あなたはツアーのプレッシャーを乗り切る術をどうやって身につけましたか?
アームストロング:感謝の意味を知ることで、俺は変われたと思う。俺の人生がまるで違う方向に進んでしまわなかったのは、ライブに来てくれる人々のおかげさ。でも今じゃひどいライブをやっちまっても、あんまり気にしないんだ。何もかもがうまくいくはずなんてないんだよ。ステージで声が全然出なかったり、ギターがぶっ壊れることだってある。マイク(・ダーント/Ba)のことがムカつく時もあるし、やつが俺に腹をたてることもある。トレ(・クール/Dr)からドラムスティックを投げつけられる時だってあるよ。
でもさ、それって俺がパンクに惹かれた理由のひとつでもあるんだよ。未熟でなんぼっていうかさ。華麗にゴミを出そうとするようなもんなんだから。無様でいいと思うんだよ。君はステージでオーディエンスに向かって、完璧でなくていいって感じのことを言ったけど、すごく響いたよ。
アイリッシュ:私はこう言ったの。「みんな醜いけど、それでいいの」
アームストロング:そうだっけ?
アイリッシュ:嘘。ちょっとからかっただけ。
アームストロング:「自分がイカれてると思うなら、あなたは正常」みたいなことを言ったと思うんだ。俺自身よくそんな風に思うし、多くの人がそういう結論にたどり着くと思う。「wish you were gay」は素晴らしい曲だけど、多くの人があの曲を聴いて救われるんじゃないかと思うんだ。マジでさ。
アイリッシュ:ウォールペーパーにするぐらい憧れてた人からそんな風に言われるなんて、何だか信じられない。
アームストロング:俺の写真を?
アイリッシュ:そう、携帯の待ち受け画像にしてたの。
アームストロング:ああ、そっちのウォールペーパーか。嬉しいな。
「ジャンルってやつには我慢できない」(アイリッシュ)
ー あなた方はどちらも、兄弟に教わる形で音楽にのめり込んでいきました。家ではどんな曲がかかっていましたか?
アイリッシュ:私は何でも聴いた。私の知ってる音楽は全部、両親と兄から教わったの。ビートルズ、グリーン・デイ、マイ・ケミカル・ロマンス、サラ・マクラクラン、ペギー・リー、あとフランク・シナトラとか。
アームストロング:ヒップホップを聴き始めたのはいつ頃?
アイリッシュ:11歳か12歳の頃かな。タイラー・ザ・クリエイターを聴いて、私はずっとこれを求めてたって感じたのを覚えてる。
アームストロング:あらゆる音楽に触れている君らの世代が、ジャンルを気にかけないのは素晴らしいことだと思うよ。
アイリッシュ:確かにあれは我慢できない!
アームストロング:何に我慢できないって?
アイリッシュ:ジャンルってやつ!
アームストロング:ジャンルを気にしないっていうのが気に食わなかったのかと思ったよ。
アイリッシュ:ジャンル分けが当たり前だった時代って、きっと大変だったんだろうなって思う。今は誰であれ、どんなジャンルにも挑戦できるから。今だってバリアが全くないわけじゃないけど、昔は他と違うことをやるのってハードルが高かったんじゃないかな。「こんなの変だ!」って感じる人が多かったと思うの。
アームストロング:今の状況は素晴らしいよ。最近は何もかもがすごいスピードで移り変わっていく。Instagramで写真を次々にチェックしていくのと同じ感覚で、世間は音楽を消費してると思う。(グリーン・デイにとって)全く新しいこの状況に、すごくワクワクしてるよ。レコード会社も必要ないってのは最高だね。好きな時に好きなものを出せるわけだからさ。ザ・ロングショット(アームストロングの別プロジェクト)の曲はSoundCloudに上げたしね。パンクだとかポップだとかヒップホップだとか、今は誰も気にしない。そんな住み分けはもう無意味なんだよ。
アイリッシュ:「ジーザス・オブ・サバービア」のビデオに出てる男の子とはどう知り合ったの?
アームストロング:彼(ルー・テイラー・プッチ)は『サムサッカー』っていうアートっぽいインディ映画に出てたんだ。あのビデオの監督のSam Bayerが見つけたんだよ。
ー 若い頃の自分に何かアドバイスするとしたら?
アームストロング:特にないな。っていうのも、若い頃の俺は誰の話も聞こうとしなかったからね。
アイリッシュ:私はアドバイスって信じないの。誰かからアドバイスをもらうと、私はまるで逆のことをやっちゃったりするし。私ってこれまでもずっとそんな感じだったの。自分とまったく同じ経験をした人なんて、この世に存在しないもの。(ビリー・ジョーとしての)人生を歩んだのは彼だけだし、他の人は誰も理解できない。いろんなことを経験した彼が今も正気で、いまだにゴージャスで、自分を見失ってないっていうのはすごいことだと思う。それに比べたら、今の私にはアドバイスする資格なんてないもの。
ビリー・アイリッシュのお気に入りのグリーン・デイの曲を知って、ビリー・ジョー・アームストロングは驚いた様子だった。それは彼らの代表曲ではなく、1994年作『ドゥーキー』に収録されているアコースティックな隠しトラック「オール・バイ・マイセルフ」だ。「あぁ、あれはトレ・クールさ!」。同曲で歌っているのがバンドのドラマーだということを、アームストロングは改めて強調した。「もちろん知ってる!」。そう話すアイリッシュを前に、彼はこう付け加えた。「他愛のないダーティな曲さ」
『ドゥーキー』が発表されたのはアイリッシュが生まれる7年前だが、彼女があのレコードに夢中になった理由は察しがつく。あのアルバムにおける退屈、不安、自信喪失といったテーマは、彼女が大ヒット作『ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー?』で極限まで突き詰めたものと同じだからだ。現在17歳のアイリッシュは、9歳の頃からグリーン・デイを聴いている。そして彼女の兄でありコラボレーターでもあるフィァネス・オコネルは、10代になったばかりの頃から「緩めた小さなネクタイからアイライナーまで」アームストロングのすべてを真似ていたほどの大ファンだという。「兄はあなたのできそこないってわけ」。そう話すアイリッシュを前に、アームストロングは笑ってこう答えた。
「今やすっかり一人前になったみたいだけどね」
アームストロングが所有する60年製フォード ファルコンの後部座席で、2人は並んで座っている。Craigslistで1000ドルで購入した後、自身でエンジンを組み直したというその車を、彼はロサンゼルスのニューポートビーチにある自宅から持ってきてくれた。
「ヤバい」。最近初めて車(黒のダッジ チャレンジャー「私のドラゴン・ベイビーよ」)を買ったアイリッシュはそう言った。今日を楽しみにしていたという彼女にアームストロングが贈った箱の中には、「Billie」の刺繍が入ったメカニックのシャツが入っていた。現在47歳のアームストロングは、ソウルやニュー・ウェーヴ、そしてヴィンテージのR&Bまでを取り込んだグリーン・デイの13枚目のアルバム『ファザー・オブ・オール…』を完成させたばかりであり、1年に及んだ制作期間を終えて羽を伸ばしていた。バンドは先日、2020年夏にウィーザーとフォール・アウト・ボーイとスタジアムツアーに出ることを明らかにした。
一方アイリッシュは、来年3月から始まる全米アリーナツアーの準備中だ。2人に共通する点は少なくないが、対談では明らかにジェネレーション・ギャップを感じさせる場面もあった。写真撮影を前に、アームストロングがスタイリストの鏡を見て「眉毛もバッチリ(Fleck)だな」と言うと、アイリッシュは吹き出した。「Fleckだって。それを言うならFleek(チリバツ)だよ!」
ビリー・ジョーがビリー・アイリッシュを好きな理由とは?
アームストロング:変に思うかもしれないけど、俺は自由を感じさせる音楽に惹かれるんだ。
でもって俺は、君の音楽にまさにそれを感じるんだよ。新しいサウンドを使って自分をさらけ出している、そういう真摯さが感じられる。中にはジャズのように聴こえるものもある。褒め言葉になってるかな?
アイリッシュ:もちろん!
アームストロング:歌詞もすごくリアルだと思う。作り物ばかりに囲まれてるこの業界じゃ、それって重要なことだよ。
アイリッシュ:ありがとう。自分の音楽が受け入れられてることに、すごく驚いてるの。今ってみんな無関心で、音楽が何の役にも立たないような世の中だから。「bury a friend」について、ママとこう話してたの。「自分を抹消したい」みたいな歌詞の曲なんて、誰も見向きもしないだろうって。嘘じゃなくて、私は本当にそう思ってた。だからこそ、今の状況が不思議で仕方ないの。
アームストロング:あの曲で、君は死について歌ってる。それ以上にリアルなことなんてないよ。正真正銘の真実だからさ。幼いなりに曲を書いてた時、俺は20年後も歌っていられるような曲にしたいといつも思ってた。「バスケット・ケース」なんかは、正気を失うことについての曲なんだ。歳をとるにつれて、そういう感覚はますますリアルになってくる。色褪せないっていうのはそういうことだと思う。
アイリッシュ:そんな風に考えてたんだ。だからあなたは真摯に見えるんだね。
アームストロング:トレンドがやってきては去っていくのを、俺たちは嫌というほど見てきた。目の前に吊るされてる黄金のニンジンを無視することは容易じゃない。「時代遅れにならないよう、誰かの真似をするべきか?」.そう自問するたびに、俺はそれは絶対にダメだと自分を言い聞かせてきた。
セルアウトっていう選択肢もアリだけど、俺はやっぱりリアルであり続けたい。毎朝鏡で自分の顔を見るたびに、俺は自分のことを誇りに思いたい。そう思うのは、俺が胸を張れないこともやってきたからなんだよ。
ー 1994年に『ドゥーキー』は1000万枚を売り上げました。当時のことをどう記憶していますか?
アームストロング:やれやれ。当時俺はまだ22歳だったんだけど、その頃に子供ができて結婚もした。あの年はいろんなことがありすぎて、マジで気が狂いそうになってた。音楽をやる上で、何もかもがそれまでとは比べものにならないスケールになってた。でも俺が本当にやりたかったのは、とにかく曲を書き続けることだった。そういう追い風の状況を利用してやろうとは思わなかったし、ペースを落として人生を楽しもうなんて考えたりもしなかった。後になって、「俺はあの頃楽しんでいたか?」って自問したよ。だってミュージシャンとしてブレイクする感覚って、一度しか味わえないものだからさ。
それ以降は自分自身を退屈させないために、新しいものを作り続けないといけない。
アイリッシュ:それで、楽しんだの?
「何でオーディエンスの頭を蹴っ飛ばしたの?」(アイリッシュ)
アームストロング:どうだろうね、途方に暮れてるような感じだったな。ライブの規模は大きくなり、オーディエンスからの反響もすごかった。でも俺にとって本当に大事なのは、リアルであり続けることだったんだ。今思うと、そのことにとらわれ過ぎてたのかもしれない。何があってもルーツを見失ってはいけないと、俺はまるで強迫観念のように自分に言い聞かせてた。その次に出た『インソムニアック』がすごくダークなのは、そういう理由なんだ。何もかもに対して、感覚がすっかり麻痺してしまってたんだよ。
アイリッシュ:(次回作のことは)私もプレッシャーを感じてる。私って音楽を楽しんでるのかなって、疑問に思った時期があったの。ツアーがあまりに長く続いたせいでね。ライブのことを言ってるんじゃないの、それってむしろ一番好きな部分だから。
でも移動ばっかりで友達にも会えないし、食べ物はまずいし、寒いバスでヨーロッパ中を巡って、やっと帰って来たと思ったらみんなとの間にちょっとズレが生まれてたりするの。ちゃんと楽しめたのは前回のツアーが初めてだった。自分がすごいことを経験してるんだって、やっと実感し始めたの。
アームストロング:わかるよ。ツアーで1年くらい家を空けて、帰って来たら誰かが結婚してたり、状況がいろいろと変わってるんだよな。そういう生活の中で正気を保つには、優れたチームに支えてもらうことと、気晴らしの手段を見つけることだよ。
アイリッシュ:あのさ、これって聞いちゃっていいのかわかんないんだけど、オーディエンスの頭を蹴っとばしたっていう話があったでしょ? 何でそうなったの?
アームストロング:人の頭を蹴っただって? 俺、そんなことしたっけ?
アイリッシュ:動画があるんだけど、すごく強烈なの。フロアで何かしらやってる客に、ステージから降りて来たあなたが飛びかかるの。マジでハードで、本物のギャングスタだと思った。一体何があったのかなと思って。
アームストロング:多分ヤジかなんか飛ばされて、口論になったんじゃないかな。そのうちに堪忍袋の尾が切れて、そいつに飛びかかっちまったんだろうね。悪いことは言わない、やめときな。
アイリッシュ:もちろんやらないけど、あれはドープだよ。それに、私のオーディエンスは全然タイプが違うしね。
アームストロング:君のショーを観た時、同じエネルギーを感じたよ。素晴らしいライブだった。客がみんな一緒に歌ってて、イギリスのサッカーの試合みたいだった。でも歌ってる内容はダークで、まるで大聖堂にいるみたいに感じたよ。

Photo by Brad Ogbonna for Rolling Stone
アイリッシュ: Hair by Tammy Yi at Exclusive Artists Makeup by Rob Rumsey
アームストロング: Grooming by Stanton Duke Snyder
ビリー・ジョーが語るツアーのプレッシャーを乗り切る術
アイリッシュ:ビリー・ジョー・アームストロングが観に来てるって知ってたから、あの時はいつになく集中できたの。でも観てくれたのがあのショーで良かった。ひどいやつじゃなくてね。
アームストロング:ひどいショーもあるのかい?
アイリッシュ:そんなには悪くないけど……。
アームストロング:それでいいんだよ。
アイリッシュ:私の足りない脳みそが「あのショーはクソだった」って決めつけちゃうの。
アームストロング:ライブをたくさんやってると、それが日常の一部になる。来る日も来る日も別の会場で演奏する。そういう中でひどいショーをやってしまった時は、休暇を取ったと思えばいいのさ。すごく集中できる時もあれば、やっつけっぽくなってしまうこともある。そういうもんだよ。
ー ビリー、あなたはツアーのプレッシャーを乗り切る術をどうやって身につけましたか?
アームストロング:感謝の意味を知ることで、俺は変われたと思う。俺の人生がまるで違う方向に進んでしまわなかったのは、ライブに来てくれる人々のおかげさ。でも今じゃひどいライブをやっちまっても、あんまり気にしないんだ。何もかもがうまくいくはずなんてないんだよ。ステージで声が全然出なかったり、ギターがぶっ壊れることだってある。マイク(・ダーント/Ba)のことがムカつく時もあるし、やつが俺に腹をたてることもある。トレ(・クール/Dr)からドラムスティックを投げつけられる時だってあるよ。
でもさ、それって俺がパンクに惹かれた理由のひとつでもあるんだよ。未熟でなんぼっていうかさ。華麗にゴミを出そうとするようなもんなんだから。無様でいいと思うんだよ。君はステージでオーディエンスに向かって、完璧でなくていいって感じのことを言ったけど、すごく響いたよ。
アイリッシュ:私はこう言ったの。「みんな醜いけど、それでいいの」
アームストロング:そうだっけ?
アイリッシュ:嘘。ちょっとからかっただけ。
アームストロング:「自分がイカれてると思うなら、あなたは正常」みたいなことを言ったと思うんだ。俺自身よくそんな風に思うし、多くの人がそういう結論にたどり着くと思う。「wish you were gay」は素晴らしい曲だけど、多くの人があの曲を聴いて救われるんじゃないかと思うんだ。マジでさ。
アイリッシュ:ウォールペーパーにするぐらい憧れてた人からそんな風に言われるなんて、何だか信じられない。
アームストロング:俺の写真を?
アイリッシュ:そう、携帯の待ち受け画像にしてたの。
アームストロング:ああ、そっちのウォールペーパーか。嬉しいな。
「ジャンルってやつには我慢できない」(アイリッシュ)
ー あなた方はどちらも、兄弟に教わる形で音楽にのめり込んでいきました。家ではどんな曲がかかっていましたか?
アイリッシュ:私は何でも聴いた。私の知ってる音楽は全部、両親と兄から教わったの。ビートルズ、グリーン・デイ、マイ・ケミカル・ロマンス、サラ・マクラクラン、ペギー・リー、あとフランク・シナトラとか。
アームストロング:ヒップホップを聴き始めたのはいつ頃?
アイリッシュ:11歳か12歳の頃かな。タイラー・ザ・クリエイターを聴いて、私はずっとこれを求めてたって感じたのを覚えてる。
アームストロング:あらゆる音楽に触れている君らの世代が、ジャンルを気にかけないのは素晴らしいことだと思うよ。
アイリッシュ:確かにあれは我慢できない!
アームストロング:何に我慢できないって?
アイリッシュ:ジャンルってやつ!
アームストロング:ジャンルを気にしないっていうのが気に食わなかったのかと思ったよ。
アイリッシュ:ジャンル分けが当たり前だった時代って、きっと大変だったんだろうなって思う。今は誰であれ、どんなジャンルにも挑戦できるから。今だってバリアが全くないわけじゃないけど、昔は他と違うことをやるのってハードルが高かったんじゃないかな。「こんなの変だ!」って感じる人が多かったと思うの。
アームストロング:今の状況は素晴らしいよ。最近は何もかもがすごいスピードで移り変わっていく。Instagramで写真を次々にチェックしていくのと同じ感覚で、世間は音楽を消費してると思う。(グリーン・デイにとって)全く新しいこの状況に、すごくワクワクしてるよ。レコード会社も必要ないってのは最高だね。好きな時に好きなものを出せるわけだからさ。ザ・ロングショット(アームストロングの別プロジェクト)の曲はSoundCloudに上げたしね。パンクだとかポップだとかヒップホップだとか、今は誰も気にしない。そんな住み分けはもう無意味なんだよ。
アイリッシュ:「ジーザス・オブ・サバービア」のビデオに出てる男の子とはどう知り合ったの?
アームストロング:彼(ルー・テイラー・プッチ)は『サムサッカー』っていうアートっぽいインディ映画に出てたんだ。あのビデオの監督のSam Bayerが見つけたんだよ。
ー 若い頃の自分に何かアドバイスするとしたら?
アームストロング:特にないな。っていうのも、若い頃の俺は誰の話も聞こうとしなかったからね。
アイリッシュ:私はアドバイスって信じないの。誰かからアドバイスをもらうと、私はまるで逆のことをやっちゃったりするし。私ってこれまでもずっとそんな感じだったの。自分とまったく同じ経験をした人なんて、この世に存在しないもの。(ビリー・ジョーとしての)人生を歩んだのは彼だけだし、他の人は誰も理解できない。いろんなことを経験した彼が今も正気で、いまだにゴージャスで、自分を見失ってないっていうのはすごいことだと思う。それに比べたら、今の私にはアドバイスする資格なんてないもの。
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