REDLINEは、CDディストリビューションやアーティストマネージメントなどを手掛けるJMS所属のKTR氏が主催する音楽イベント。
―元々、REDLINEはジャンルの壁を超えた異種格闘技戦を意識したイベントで、全国をツアーするという形で2010年に始まりました。
僕はライブハウスで育った人間なので、全国のライブハウスを回ることによって、リリース前の新人や自分がいいと思うバンドをあちこちに広めたいというところから始まっていて。しかも、僕はパンクやロックはもちろん、ヒップホップやクラブミュージックも好きだったので、ジャンルごちゃまぜにしてイベントをやろうかなって。10年前って意外とそういうイベントがなかったんですよ。あの頃はシーンとかジャンルごとに束になるのが主で。

2012年出演、Donavon Frankenreiter(Courtesy of REDLINE)

2013年出演、Northern19(Courtesy of REDLINE)
―思い返してみると、2010年ぐらいって日本のパンクシーン全体が行き詰まっている感じがありましたよね。
そうですね。もちろん、売れているバンドもいましたけど、シーンとしては確立されていなかった時期でした。
―CDの売上も落ちていて、何をやっても伸びないという。
かといって、ダウンロードが伸びるわけでもなく。
―状況を打開するためには、これまでなかったようなことをやらなければいけないと。
自分から何かアクションを起こさないと何も変わらないと思ったし、自分が好きなバンドがちょうど増えてきたタイミングでもあったので、新たにシーンをつくろうっていうことでいろんなバンドに協力してもらって、初年度からコツコツとやってきました。
―その初年度は単発のイベントではなく、いきなり全国ツアーという。なかなか思い切りましたね。
当時、一夜限りのイベントは多かったですけど、ツアー形式のものはなかったんですよ。あと、僕は元々、アメリカのワープドツアーをお客さんとして観に行ったりしていて。あのイベントはいろんな都市をみんなで回るじゃないですか。ああいうカルチャーが僕は好きだったので、日本でも東京のみならず全国に足を伸ばして伝えることが大事だと思って。もちろん、そうすることによるリスクはあるんですけど、やっぱり、みんながやってないことをやろうという意識があったので。

Photo by Mitsuru Nishimura
―今でこそ幕張メッセで開催するぐらい規模が大きくなっていますけど、当時は成功の見込みなんてなかったわけですよね。
それはもう、探り探りというか。売れているバンドよりもこれからのバンドに出てもらいたかったので、初年度は恵比寿リキッドルーム公演しかソールドしなくて。その日は、FACT、ivory7chord、Nothings Carved In Stoneでやったんですけど、他の会場は半分ぐらいしか埋まらなかったですし、渋谷eggmanですら当日にようやく300枚売り切るっていう。SiM、ROTTENGRAFFTY、Fear, and Loathing in Las Vegas、BlieAN、A MAD TEA PARTYっていう、今となってはけっこうなメンツなんですけど。
―今なら余裕で幕張メッセが埋まるような並びですね。
でも、当時はギリギリで。そういうところから始めてきてるんですよ。
「出演してくれたバンドの規模感が上がっていくイメージはありました」
―KTRさんは元々、J-POP好きですし、ジャンルをごちゃまぜにする楽しさはわかってたわけですよね。
そうですね。あとはライブがいいバンドが好きで。音源がよくてもライブが「う~ん……」ってバンドも世の中にはいるので、実際にライブを観て、いいと思ったらオファーするっていうスタンスでやってましたね。
―企画として、なんとなくイケるんじゃないかという予感はあったんですか。
イベントとしてというよりは、出演してくれたバンドの規模感が上がっていくんじゃないかっていうイメージはありましたね。でも、REDLINE自体の規模感が上がるとは思ってなかったです。
―声をかけたバンドの反応はどうでしたか。
「お客さん入るの?」って言ってるバンドもいたんですけど、普段のツアーではなかなか一緒にならないアーティストも多かったので、出会いのきっかけとして喜んでくれるバンドは多かったですね。実際、REDLINEをきっかけにお互いのツアーに呼び合うっていうこともけっこうあって。出会い系イベントです(笑)。

2016年出演、yonige(Courtesy of REDLINE)

2013年出演、NOISEMAKER(Courtesy of REDLINE)
―あはは! そして、次の年から一気に規模を拡大しました。初年度とは違い、LOW IQ & THE BEAT MAKERのようなベテランも出演したり。
そうですね。イチさんやOi-SKALLMATESみたいなクラシックな世代とHEY-SMITHみたいな若い世代が交わることがなかったので。
―なるほど。初年度はジャンル間、次の年は世代間の融合を意識したんですね。
例えば、HEY-SMITHとOi-SKALLMATESが世代を超えて、REDLINEを通じて共演してもらったり、そうやってバンドのことを考えた組み合わせはずっと意識してきましたね。
―2012年のSIMI LABとROTTENGRAFFTYの対バンなんてなかなか思いつかないですよ。
こういう組み合わせは今後も永遠にないと思います。ここにG-FREAK FACTORY、SiM、Mop of Headなんかもいたわけですからね。
―しかも、この組み合わせを新木場STUDIO COASTにぶつけるという。
はい、(客が)入んなかったですけど(泣)。

Courtesy of REDLINE
―でも、試みとしてはすごく面白いですよね。
異種格闘技の動員の難しさは肌で学びましたね。実際にお客さん同士が交わるかと言われたらそうじゃないことのほうが多かったし。でも、これまでヒップホップを全然聴かなかったお客さんがこの日をきっかけにヒップホップを好きになったりすることが少なからずあったので、そういう人が1人でもいるなら続けようと思ってました。
―動員はひとまず置いといて、そういうお客さんがいれば成功なんじゃないかと。
もちろん、アーティストに出てもらってるので、1人でも多くの人に観ていただくことも考えてはいましたけどね。
―これまでに印象的だった年はありますか。
2013年に恵比寿リキッドルームでやった10日連続ライブですね。これは肉体的な疲労も含めてカオスだったと思います。この年は初めて海外のバンドにもオファーしてるんですよね。SiMと、彼らのルーツの一部にもなっているSKIDREDをどうしてもかけ合わせたくて。

2013年出演、SKINDRED(Courtesy of REDLINE)

2013年のREDLINE、KTR氏と制作スタッフ一同(Courtesy of REDLINE)
―なんでこんなことをやろうと思ったんですか。
元々、リキッドルームは新宿にあったときから大好きなハコで、恵比寿に移ってからもうちのバンドのツアーファイナルとかでけっこう使ってきたし、REDLINE初年度でも使っていたので、リキッドルームというフィルターを通して何か面白いことができないか考えたときに「10本やってみようか!」っていうことになって。あのハコを10日間押さえられること自体がけっこう奇跡なんですけど。
―今だったらまず不可能ですよね。
まず不可能ですね。当時もリキッドルームさんにこっちのわがままを聞いてもらいました。
「今回はチケット1万8000枚を絶対に完売させたかった」
―KTRさんは、発想がやんちゃなキッズですよね。
そうなんですよ(笑)。ずっと客目線なのかもしれないですね。この年は10日通し券を販売したんですけど、けっこう売れたんですよ。そういう無理やりなチケッティングの面白さが少しでも伝わる喜びは感じてましたね。
ーそうやって10年間積み重ねてくるなかで、REDLINEの変化を感じることはありましたか。
一番感じたのは、初年度から出てくれているバンドの規模感がどんどん上がってきていることですね。初年度はeggmanを売り切るのが大変だったのに、ここ4、5年で武道館でやれるバンドが増えたり、みなさんの成長は見ていて面白いですね。残念ながら活動休止してしまったバンドも多いんですけど、これまで続けてきたバンドが自分たち自身のプラットフォームをつくっているのが一番嬉しいです。

2015年出演、THE STORY SO FAR(Courtesy of REDLINE)

2013年出演、MY FIRST STORY(Courtesy of REDLINE)
―この10年でシーンが変化していくなか、JMSも変化していくわけですよね。
そうですね。JMSは流通会社として始まって、REDLINEを通じてイベント制作をやるようになったし、自社レーベルやマネージメントを立ち上げるきっかけにもなってるんで。それから10年経って、今はそれぞれが事業部としてしっかり成立しています。
―REDLINEの成長はJMSの成長でもあるんですね。
だと思います。
―となると、10年目となる今年はかなり感慨深いものがありますね。
そうですね。これまでREDLINEはライブハウスで続けてきて、最大規模でもZeppだったし、万人規模のイベントにはしたくなかったんですよね。

Photo by Mitsuru Nishimura

Courtesy of REDLINE

Courtesy of REDLINE

Courtesy of REDLINE
―たしかに。
でも、REDLINEってなんだろうって自分なりに考えていくなかで、やっぱり10周年というのは1度きりだし、今や万人規模のハコでやる力のあるバンドの成長やREDLINEの歴史をより多くの人に伝えたいと思って、幕張メッセに踏み切りました。だから、来年の11年目は初年度みたいな感じにしようかと思っています。
―今年は、誰に声をかけるか相当困ったんじゃないですか。
困りましたねえ。今回はチケット1万8000枚を絶対に完売させたかったので、悩んで悩んだ末に1年前からオファーをさせていただきました。でも、みんな二つ返事でOKをくれたので、ブッキング自体は半年前にはすべて終えてました。
ちなみに、今年のメンツでこれまでREDLINEに出たことがないのはMAN WITH A MISSIONとFOR A REASONだけなんですよ。実は、過去もオファーしたのですが、なかなかスケジュールが合わなかったりしていて。しかも、MAN WITH A MISSIONがインディーズの頃に使っていた流通がJMSだったりして、けっこう繋がりがあるんですよ。それで今回、やっとタイミングがあって出てくれることになったんです。
―デカ箱だから声をかけたわけじゃないということは言っておきたいですね。それにしても、今年もいい意味でいびつな顔触れですね。
いびつですね! ”REDLINEなりのリアル”の集大成を見せたかったので。ストリートを感じてほしいというか。
―tricotがいるのもいい。
そうなんですよね。あと、FOR A REASONもめちゃめちゃアンダーグラウンドだけど、幕張メッセで観れるという。
―そして、見事にソールドアウトしました。
はい、即日でした。
―第一の目標をクリアした今、YouTubeでREDLINE出演者関連の動画を上げたりしていますよね。
そうですね。REDLINEの歴史だったり、アーティストと僕との関係をお客さんにも理解してもらったほうが、当日来たときにもっと楽しめると思うんですよ。なので、これからも各バンドに協力してもらって、コンテンツを毎週アップしてます。
―KTRさんとバンドとの関係性がしっかりしてるからこそ、そうやって協力してくれるんでしょうね。
僕は世の中からしたらなんのバックボーンもない人間だし、お客さんも主催者の顔は見えてないと思うんですよ。Twitterでも「なんでこんなバンド呼べるの?」みたいに話題になってたりするし。だから、関係性をしっかり見せるためにこういう企画を思いついたんです。
―KTRさんはビジネスマンとしてもREDLNEを運営しないといけない部分もあるわけですよね。
そうですね。ちゃんとお金が残らないと次につながらないんで。だから、チケットが売れなかったら協賛金を集めるようにしたり、ちゃんと補填するようにはしてます。アーティストにもちゃんとギャラを払いたいし、そうなるとイベント興行の予算だけでは足りないので、協賛企業さんの予算だったり、出資してくれる企業さんの予算も含めてちゃんと考えてます。
―協賛企業への営業もKTRさんがやってるんですか。
はい、自分でやってます。自分が主催してるイベントだから、自分で説明したほうが早いんですよね。
―クソ大変じゃないですか。
大変です。DIYって大変ですね、マジで。しかも、今回はイベンターをいれてないので……。こういうイベントは若い裏方の子にもどんどん仕掛けていってほしいと思います。REDLINEを始めたときは僕も20代だったし。だけど、今、そういう人がいないんですよ。やっぱり、いいスタッフがいないといいカルチャーはつくれないし、いいアーティストも生まれないんですよ。そこは心配ですね。
「裏方は一歩引いて、あくまでも縁の下の力持ちでいるという意識です」
―個人的に思っているのは、昔はそこまで音楽に思い入れのないけど面白い人たちが音楽業界にいて、いろいろと奇抜なことをやってたイメージだけど、業界が下り坂になった時点でそういう人たちがあっという間にいなくなってしまって。
そうですね。
―だから、本当に音楽が好きな人しか業界にいなくなってしまった結果、音楽が好きすぎて面白いアイデアが出てこないという状態になってるように感じます。
音楽だけじゃなくて、カルチャーに興味を持ってほしいですよね。ファッションでもフードでもなんでもいいんですけど。音楽好きな子は音楽だけで終わっちゃって、楽しくやれない。そういうパターンはかなりあると思います。音楽業界は無茶してなんぼだと思うんで、そういう子が増えてほしいですね。JMSではそういう子を常に募集してます。

2012年出演、COUNTRY YARD(Courtesy of REDLINE)

2015年出演、REDLINE RIOT ALL STARS(Courtesy of REDLINE)

2017年出演、FOMARE(Courtesy of REDLINE)

2015年出演、Crystal Lake(Courtesy of REDLINE)
―では、最近の日本のバンドシーンをどう見てますか。
さっきも少し話しましたけど、フィジカルよりもストリーミングが台頭してきたり、映像を駆使してプロモーションしたり、ここ2、3年で音楽の売り方が変わってきてる感じがありますよね。
―そうですね。
新人のバンドもレーベルに所属しなくても自主で音源を出せるようになってきてるし、バンド数は増えてきてるんですよ。だけど、泥臭いバンド、ライブ力のあるバンドは減ってきてるし、淘汰されてるバンドも多いと思います。
―なるほど。
今の子たちってテクニックがめちゃめちゃあるので、音源を聴くと「おお、ヤバい!」って思うんですけど、ライブやツアーを積極的にやっていこうとしていないし、音楽の配信だけして名前が広がっていけばいいと考えてる部分がすごく大きいんですよ。僕はライブバンドを意識して昔から見てきてますけど、そういう理由でいいバンドを探すのが難しくなってますね。ライブでグッとくるバンドはなかなかいないです。だから来年のREDLINEも悩みますよ。若い世代の力が必要になってくるのに、そこが困窮しているというか。
―そういう状況なんですね。
あと、新人でMVの再生回数が1000回ぐらいのバンドと話すと、だいたいメジャーのレーベルがついてるんですよ。各社の新人開発チームみたいなところが声をかけまくっていて、そういうのもよくない気がするんですよね。音源がよければライブの力がなくてもとりあえず囲っておくっていう。スカウトの人もそのバンドの本質を見極めた上で声をかけないと、結局そのバンドがダメになっちゃうと思うんですよね。
―20年前ぐらいにも、メロコアバンドが続々とメジャーにいくっていう流れがありましたよね。
ありましたねえ。昔はメジャーってバンドの最終的な目標って感じになってたけど、今はインディーズのほうがバンドをめちゃめちゃ絞る一方で、メジャーのほうがどんどん契約していくっていう。
―逆転現象が。
起きてると思います。インディーズの敷居が高くなっていて、そこからこぼれたバンドをメジャーがガサッと抱えていくっていう。バンドもそういう状況に甘えちゃって、自分で考えて自分でマネージメントすることを止めてしまっているんですよ。で、結局、大人が敷いたレールに乗っかって、結果が出ずに契約が切れると自分たちでどうすることもできなくなってしまう。僕はちゃんとマネージメント能力があるバンドをちゃんと見つけていきたいと思ってます。
―ところで、JMSって自分たちをブランドとして前に押し出そうとしないですよね。
してないですね。
―それはなぜですか。
基本、JMS自体は業界の裏方だし、アーティストとお客さんありきなので。裏方は一歩引いて、あくまでも縁の下の力持ちでいるという意識です。バンドやお客さんのほうから嗅ぎつけてもらえるぶんにはすごくうれしいですけど、自分たちからコマーシャルは打たないって感じですね。
―今後についてはどう考えてますか。
これからのアーティストというか、何年も生き続けていくバンドと共に歩みたいという気持ちは昔と変わらないんで、バンドは常に探してますし、バンドだけでなく、ファッションや音楽につながるようなことに関しても面白いことをやっていきたいなと思ってます。

Photo by Mitsuru Nishimura
REDLINE ALL THE BEST 2019 ~10th Anniversary~
2019年12月1日(日)千葉県・幕張メッセ国際展示場9~11ホール
OPEN 10:30 / START 12:00
出演アーティスト
My Hair is Bad / クリープハイプ / ハルカミライ / SiM / SHANK / yonige / KOTORI / FOMARE / 04 Limited Sazabys / HEY-SMITH / Nothings Carved In Stone / COUNTRY YARD / Crystal Lake / NAMBA69 / NOISEMAKER / Northern19 / SHADOWS / EGG BRAIN / FOR A REASON / tricot / MAN WITH A MISSION / MY FIRST STORY / ROTTENGRAFFTY
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