それからさらに時を経て、各メンバーは大きく成長を見せ、アイドルシーンのみならず、J-POPシーンにおいても胸を張れるほどの歌唱力で人々を魅了する存在へと変貌を遂げていた。昨年発表された椎名林檎のトリビュートアルバムに提供した「自由へ道連れ」のカバーが、椎名ファンを中心に絶賛されたことも記憶に新しい。だからと言って、彼女たちは過去を捨て去り、歌だけで勝負する方向に路線変更したわけではない。これまでの10年の間に身に着けた技術をすべて飲み込み、アイドルというジャンルの枠と可能性を自らの手で押し広げているのだ。
今年2枚目となるフルアルバム『playlist』は、6人が真っ向から歌と向き合った内容に仕上がった。サウンドはバラバラだが、様々な表情を見せる彼女たちの歌声が作品に一本の太い筋を通している。そして、それは2020年以降に彼女たちが歩むであろう道筋のヒントを示しているようにも思える。
今回のインタビューでは、真山りか、柏木ひなた、中山莉子の3人に話を聞いた。自分たちも積極的に参加するようになったフェスやイベントでのセットリスト決めの話、先日公開され、話題となっている「ジャンプ」のMVの裏話、ファンに衝撃が走ったエビ中ヒストリー本の話、新作『playlist』の話、そしてエビ中の未来の話など、話題は多岐にわたった。興味深い話が多かったため、1万字超えのインタビューとなっている。
―11月末に開催された「Popnアイドル04」(私立恵比寿中学、アンジュルム、GANG PARADE、RYUTistらが出演したイベント)を観に行きました。あの日のセットリストはメンバーで決めたんですか。
真山 大枠は校長(私立恵比寿中学のチーフマネージャー・藤井ユーイチ氏)が決めて、そこからメンバーで「ここはこうしたほうがいいんじゃない?」って話し合いながら決めました。
―「アンコールの恋」にびっくりしました。
真山 お、(柏木)ひなたの案だ。
柏木 あれはハロプロファンに刺さってくれたらいいなと思って選んだんですけど、(GANG PARADEの)カミヤサキちゃんがTwitterに「『アンコールの恋』のイントロが流れた瞬間にビビった」みたいなことを書いてたらしくて(笑)。
真山 もともと、サキちゃんは「ロックリーおばさん」って呼ばれてて(「ロックリー」とは、エビ中のメジャー2枚目のシングル「Go!Go!Here We Go!ロック・リー」のこと)、エビ中の現場に「ロックリー」のMVの格好でよく来てたので、「サキちゃんに初心を思い出させるために」みたいな意味で「ロックリー」を入れたんですけど、「アンコールの恋」のほうが刺さってたっていう。あはは!
柏木 「アンコールの恋」ってフェスとかでは全くセットリストに入れないから、エビ中ファンとしても新鮮だったみたいです。
―僕の周りにいたエビ中ファンもざわついてましたよ。
柏木 そうですよね(笑)。
―あの日に初めて「あなたのダンスで騒がしい」を観たんですけど、ダンスがめちゃめちゃカッコいいですね。前回のインタビューで、「どんなフリがつくかわからない」と言っていましたけど、同じく披露していた「ジャンプ」も含めてダンスが大人っぽい雰囲気になってきているなと。
真山 それはいい視点かも。「あなたのダンス」と「ジャンプ」は振付が同じ方なので。
柏木 普段のエビ中だとああいう振付はあまりないんですけど、自分たちが大人になったというのもあるし、曲調も大人っぽくなってるので、「あなたのダンス」はガチガチに踊る振りだし、「ジャンプ」も歌だけじゃなくて振りでも魅せたいっていう先生の思いがあってすごくステキなものになりました。
中山 「あなたのダンス」と「ジャンプ」の振付をしてくださったNANOI先生は、「自由へ道連れ」からたくさんお仕事をさせていただいていて、まだまだいろんな表現のダンスがあるんだなって勉強になります。コンテンポラリーっぽかったり、曲にあったダンスをやらせていただけて、私は踊るのが好きなのですごくうれしいです。
―そうやって新しいものを取り入れることによって発見することって何かありますか。
真山 うーん、自分たちよりもファンのみなさんのほうが気づくことは多いかもしれませんね。昔からダンスに特化した歌はやってきたつもりなんですけど、「自由へ道連れ」から目に見えて「ダンスがすごくカッコいいね」って言ってもらえるようになって、そういう意味では、グループの方向性をダンスでも見せられるようになってるのかなって思います。
―振付だけ見たら「私立恵比寿大学」ですよ。
3人 あはは!
柏木 高校飛ばした(笑)。
真山 ありがたい。
「ジャンプ」MV公開後の反応について
―その「ジャンプ」ですが、MVが公開された直後、見事にトレンド入りを果たしました。あんなに多くの反応があると思っていましたか。
柏木 私たちもこの曲には力を込めたし、今回のアルバムの表題曲としてハネてくれたらうれしいなっていう気持ちはありました。
―あのMVは、バスの運転手のソロカットが意味深で。
中山 なんか、そう言ってる人いるよね!
真山 ねえ。
―特に深い意味はないんですか。
真山 多分、監督のなかにはあるんでしょうけど、私たちは……。
柏木 深い意味は……(笑)。
真山 みなさんが想像を膨らませやすい作りになっているんだと思います。私たちの意図とは違う方向に想像が膨む部分もあるでしょうし、こっちの狙いどおりの反応もあるし。私たち自身はわりと和気あいあいと撮影させていただきました(笑)。「寒い!」とか言いながら。
―飛行場の滑走路のシーンで、さり気なく6人の影が映っているのがいいですね(安本彩花は休養中のため、今作の撮影を欠席)。
3人 (満面の笑み)
―それにしても、今年は駆け抜けましたね。この1年はどうでしたか。
真山 今年は特になんですけど、ライブの本数がとにかく多かったので、ファンのみなさんとお会いする機会が多くて。あと、今年はアルバムを2枚も出すし、シングルも出してるしで、それにともなうイベントでもファンのみなさんにお会いする機会が多かったです。
―確かにそうですね。
真山 そのなかで「10年やってきたんだ」っていう実感が湧いたことがあって。私は、昔からのファンの方が握手会とかに来るといつも気軽に話しかけちゃうんですけど、あるファンの方にもそんなふうに話しかけたら、その方がエビ中の現場に来るのは実は5年ぶりだったりして。そういう会話をすると「もう10年経ったんだ」って実感しますね。久しぶりに来てくださる方も、エビ中のことをずっと忘れないで気にしてくださってたんだなって思うとうれしいし、そういう方々がいてくれてこその10年なんだなって感じることができました。これからも、そうやって応援してくださる方々が私たちのことを思い出せる機会を増やしていきたいし、気にしていただけるようなグループでありたいと思います。
2019年、一番笑ったエピソード
―ところで、今年一番笑ったエピソードはなんですか。
柏木 え~。
中山 すごく最近の話になっちゃうんですけど、「ジャンプ」のMVでバスと向き合って踊るシーンがあって、その先頭にいるのが美怜ちゃんだったんですよ。それで、あるタイミングで振り返ってバスを背にして歩いていかなきゃいけないのに、美怜ちゃん1人だけバスに向かってずっと踊ってたのがすごく笑いました。
柏木 私、美怜ちゃんの斜め後ろにいたから、「美怜ちゃんっ!」ってすごい呼んだのに全然気づかなくて。
中山 バスvs星名美怜になってた(笑)。
柏木 そう!(笑)スタッフさんたちも含めてみんなで、「なんで美怜ちゃん帰ってこないんだろう」って笑ってたら、美怜ちゃんが自分の後ろに気配を感じなくなったみたいで、パッと振り返ったらうちらがだいぶ遠くにいたから、「へぇ!?」ってなってて(笑)。
真山 あれは面白かったね(笑)。それでテイク2のときに、ちょっと引きの画でリップが見えないシーンだったから、ひなたが「美怜ちゃん、行くよ!」って(笑)。
柏木 テイク2が始まる前に美怜ちゃんから「絶対わかるけど、一応言って……!」って頼まれたから、「さっきも言ったんだけどなあ……」と思いながら、「美怜ちゃん、行くよ!」って(笑)。
真山 犬の散歩みたいだった(笑)。
中山 そのおかげで、寒かったけど笑っていられました(笑)。
―グループの10年を赤裸々に振り返った一冊「私立恵比寿中学HISTORY 幸せの貼り紙はいつもどこかに」を拝読しました。
柏木 自分たちも取材を受けながら、「けっこう際どいとこまで聞くなあ。どこまで話したらいいんだろう……?」って思ってたらあんなことになったっていう。
真山 確かに。
柏木 でも、ファンの方が「エビ中の知らない部分がまだまだたくさんあったよ」って気づいてくださったり、私たちが赤裸々に語ったことがうれしかったみたいで。さっき言ってくださったように、「共有してくれてうれしい」みたいな。
―そうでしょうね。
柏木 あの本は、ひとつの出来事に対してけっこう長く扱ってるところもありますよね。例えば、美怜ちゃんのこと(星名が写真週刊誌にスクープされたときの話)で私と(小林)歌穂が怒ったこととか。
真山&中山 あはは!
柏木 その出来事に関する登場人物が2人しかいない!(笑)
真山 出てくるコメントがずっと、小林柏木小林柏木……(笑)。
柏木 そう、ずっと! だけど、すごく性格がよくて人に対して怒らないと思われてる歌穂ちゃんがめちゃくちゃ怒るっていうことをファンの方は知らないから、本を読んで「歌穂ちゃんって怒るの!?」って気づいたり、知ってるようで知らなかったことをこの本でちょっとでも知ってもらえたのはよかったなって思います。
―みなさんがあの本で初めて知ったことってあるんですか。
真山 ありますよ! メンバーが6人になってから彩ちゃん(安本)がエゴサーチしたら、Twitterに「クソしか残ってねえ」って書いてあるのを見たっていう話は初めて知りました。「私たち、世間にクソだと思われてたんだ!」って(笑)。
中山 あの時に知らなくてよかったよね(笑)。
柏木 あと、大人が考えてることも普段はあまり聞くことがないから、「あ、そう思ってたんだ」っていうのはありましたね。
中山 私も、加入前の出来事をメンバーから直接聞いたことがそんなになかったので、「こんなことがあったんだなあ」って。
「HISTORY」の歌詞にこめられた想い
―あの本を読んだ後だと、今作『playlist』に収録されている「HISTORY」の歌詞がより強く響きます。これはメンバーが初めて作詞にチャレンジした、この10年を振り返る曲ですが、いい歌詞ですね。
柏木 なんか恥ずかしい(笑)。
―どういう経緯で生まれた曲なんですか。
真山 今回のアルバムは歌以外でも何かに関わりたいっていうことで打ち合わせがありまして、そのなかで「メンバーで歌詞を書きたい」っていう話になったんです。それで、メンバーそれぞれが書いた詞や文章をいしわたり淳治先生に送って、ワーズプロデュースという形で先生にひとつの歌詞にしていただきました。でも、先生があとから言葉を付け足すわけではなく、全部私たちの言葉の中からチョイスしていただいた形になってます。
―プロの作詞家には出てこないであろうワードがたくさんあるし、キレイにまとまっていないところがいいです。<友達だけど友達じゃない>なんて、グループの歴史を振り返る楽曲の歌詞にはなかなか出てこないと思うし、こういうことを歌えてしまうところにグッとくるんですよね。書いた本人としてはどうですか。
真山 (柏木に向かって)どうですか? (ぼそっと)<本当に最高>(笑)。
柏木 や! もう!(笑)「書き方なんてどうでもいいから、自分が思ったことを書けばいいよ」って言ってもらったからバーっと書いたのに、出来上がったものを見たら「みんな、ちゃんと歌詞になってるじゃん……!」って。
真山&中山 あはは!
柏木 「私なんてバカ丸出しで、<本当に最高>とか書いちゃってるよ!」みたいな。「どうしようどうしよう」って。
真山 メンバー的には刺さったよ(笑)。
柏木 それはありがたいけど……。メンバーそれぞれの個性が歌詞に出てるし、出来上がったものを見て初めて歌詞を全部知ったから、「こんなこと思ってたんだ」とか、「この気持ちは一緒だな」とか思ったりして、「自分たちで歌詞を書くのは面白いな」と思いましたね。
―なるほど。
柏木 例えば、<臭い>なんてヤス(安本)からしか出てこないワードじゃないですか
―確かに(笑)。歌割りは自分が書いた歌詞を担当する形ですか。
真山 そういうところとそうじゃないところがあります。
柏木 でも、きっとファンの方は「ここの歌詞はこの子が書いたんだろうな」ってわかると思います。
―これはライブで聴いたらみんな泣いちゃいますよ。
3人 あはは!
真山 ちゃんと歌えたらいいなって思ってます。この曲、先に詞が出来上がってあとから曲がついてるんで、実は今回のアルバムのなかで一番難しいんですよ。
中山 レコーディングですごく苦戦しました(笑)。
真山 1Aと2Aで音が違ったり。
中山 あと、言葉のハメのリズムがすごく難しい!
真山 そういう意味で、作詞家さんってすごいなって思った曲でもありますね。
「今回のレコーディングの方向性は、歌い方の統一」
―今作『playlist』は、かつて「不安定な歌唱力」という自虐的なキャッチフレーズがついていたグループとは思えないほど、真正面から歌と向き合った作品になりました。こういう作品になるとわかったときはどう感じましたか。
柏木 アルバムを出すたびにほめていただくんですけど、『MUSiC』は特にほめていただいたんですよね。
真山 あれはポップなアルバムだったよね。
柏木 そうそう。だから、今回はどうするんだろうなと思ってたら、おふざけ曲が少ないというか……。
―ほぼないという。
柏木 「オメカシ・フィーバー」ぐらい。
―それがギリですよね。
真山 一応、「シングルTONEでお願い」もおふざけ曲なんだけどね(笑)。
柏木 でもなんかさあ! 曲を聴いたらおふざけでもなくて、「あれ!? なんか普通にいい曲!」みたいな感じだから、このアルバムができたときは不安になったもん。
中山 不安になったあ!
柏木 あと今回はラップが全体的に多くて、ライブで披露するときにどんな反応になるのか楽しみです。
―サウンド的にはバラバラなのに、みなさんが歌うとまとまって聴こえるのが面白いですよね。
真山 今回のレコーディングの方向性は、歌い方の統一だったんですよ。もちろん、基盤となるのは仮歌さんや楽曲の提供者さんの歌い方なんですけど、最初にレコーディングした子の歌い方に合わせて順々に歌っていくっていうやり方だったんです。私は最後に録ることが多かったんですけど、行き詰まったりすると「じゃあ、最初の子のを聴いてみようか」ってなったり。
―そういうことだったんですね。
真山 なので、これまではメンバーの声の特徴とか歌い方のクセをほめていただくことが多かったんですけど、今回はユニゾンがユニゾンになるようにちゃんと歌いました。だから、曲はバラバラなのに1枚の作品として聴き心地がいいんだと思います。
―なるほど。とはいえ、個性は出まくってますけどね。
真山 それはうれしいです。
―今回は編曲も含めて初めての作家さんが多く、しかも若い方ばかりです。そういう意味で学んだことや気付いたことはありますか。
中山 ラップが多いっていうのは今のサブスク時代ならではなのかなって思いました。ほとんどの曲にラップが入ってて。
―これはたまたまなんですか。
3人 たまたまです。
真山 うちの音楽スタッフも「好きなようにお願いしますって発注するとこういうふうになるんだ」って言ってたし、それは新しい発見でしたね。今の音楽シーンの流行に沿ったものがくるんだなって。
―安本さんのラッパーとしての才能がより発揮されてると思いました。
柏木 「熟女になっても」(2018年発表のシングル「でかどんでん」のカップリング曲)のおかげで、”ラップ=ヤス”みたいなイメージがあると思うんですけど、私たちも全員ラップをやってるのが新鮮だし、意外とラップって難しいなってレコーディングしながら思いました。「熟女になっても」のときは、ラップをレコーディングする子としない子がいて。
真山 ラップ担当があらかじめ決まってたんだよね。
柏木 そう。だから私はほぼ初めてのラップで。私、今回のレコーディングは全曲一番最初に歌ったから、指示されることすべてに対して「はい!はい!」って感じで、自分でもできてるのかできてないのかわからなかったので、全部ディレクターの方に投げちゃいました(笑)。
―最初に歌うってことは……。
柏木 そう、私の歌が他のメンバーみんなに聴かれてるってことですよね。
真山 聴いたー。
柏木 こわいわ! 今、初めて知ったもん。一番最初だと自分の前に歌ってる人が誰もいないから、私がいろんなパターンを歌って試してみて、「この曲にはこういう歌い方がいいんだな」っていうことをディレクターの方が判断してくださって、2番目以降の子から歌い方が統一されるっていう流れでした。
―じゃあ、ひなたさんは余計に時間がかかるんですね。
柏木 そうですね。いつも30分ぐらい押してました。
真山 そう? いつの間にか巻いてたよ?
柏木 ウソ!? でもそれは後半でコツがわかってきたからじゃない? ハモも全部取るし。
―ハモも全部ひなたさんなんですか?
真山 いや、スタッフ側が楽曲のイメージがしやすいように全員分録ります。
柏木 この子の声だったらここのハモがいいなっていうのもあるし、低い声が得意な子と得意じゃない子がいるので。
集大成的な『MUSiC』と11年目以降の未来が見える『playlist』
―今回、新しい作家さんもいる一方で、たむらぱんさんや池田貴史さんのように、エビ中には欠かせない作家さんの楽曲がないというのが攻めてるなと思いました。
真山 『MUSiC』でも新しい作家さんはいましたけど、あの作品のテーマが「今までお世話になった方の曲」っていうことだったし、スケジュールが合う限りそういった方々とはお仕事できたので寂しさはないですね。それに10周年のタイミングで、集大成的な『MUSiC』と11年目以降の未来が見える『playlist』が作れたことはうれしいし、希望が見えるなと思います。
―前回のインタビューでは、各メンバーがこの10年で全体的にどう変化したかをうかがったので、今回は歌唱面にスポットを当てて、今作の収録曲とともに振り返っていけたらと思います。まず、真山さんのメイン曲「愛のレンタル」ですが、<踊ればいい>の歌い方がいいですよね。
真山 うれしい。私、マカロニえんぴつさんが好きでよく聴いてるので、自分のなかにはっとり(作詞作曲を手掛けたマカロニえんぴつのメンバー)さんを宿す感覚で歌いました。
―真山さんのヴォーカルは年々大人っぽくなってますよね。
柏木 そうですね。「愛のレンタル」では力の抜き方を知ってる歌い方ができてると思います。
真山 あ、うれしい。そんなにほめてもらえるなんて(笑)。
―感情がより出ているというか。
真山 声質の話になっちゃうんですけど、私の声はどうしても明るくならなくて、レコーディングのときも「とにかく明るく」って言われることが多いんですよ。自分としては明るく歌ってるんですけどそれが声の色として出てこなくて、それが自分のなかではずっと課題だったし、アイドルらしく歌わなきゃいけない、グループとして声を統一しなきゃいけないっていう苦しさがあったんですけど、「愛のレンタル」はそういうことを考えずに楽に歌えました。
―「老醜ブレイカー」(2013年発表のソロ曲)は背伸びした大人っぽさが魅力でしたけど、「愛のレンタル」はしっかり大人になった今の真山さんの歌ですよね。
真山 うれしい。ありがとうございます。
―続いて、「Ill be here」のひなたさんですが……。
真山 もう、無双だよ!
―オープニングの喉の使い方からとてもいいですね。
柏木 喉の使い方はすごく言われました。レコーディングのときに、作詞作曲をしてくださったiriさんご本人が来てくださって、喉の使い方とか声の出し方とか全部アドバイスをしていただいてから歌ったんですけど、自分のなかでこの曲が『playlist』のなかで一番のお気に入りで、「好きだなあ」と思いながらレコーディングに行ったらご本人がいらっしゃったので、「ああ、どうしましょう!」みたいな気持ちになって……。
―そうなりますよね。
柏木 私、レコーディングであまり緊張しないんですよ。緊張したら絶対に力が入るから。でも、このときはどうしていいかわからないぐらい緊張して。で、レコーディングが終わったあと、スタッフの方から「珍しく緊張してたね」って言われてしまって、「うわ、緊張が伝わってしまった!」って思ったんですけど、1番丸々を自分のパートとしていただくことはなかなかないので、ライブでやるときの緊張感は半端ないだろうなって思います。レコーディングが終わって歌割りをもらったとき、真山が先にこの曲を聴いてて、「ひなた、1番全部じゃん!」って言われたんですよ。だけど、私はまだ何も知らなかったから「何事だ!?」と思って聴いたら、「おおっ!」って。うれしいですね、こうやって使っていただけて。
真山 カッコいいよね。この曲に限らずなんですけど、ひなたってまっすぐスコーン!って声が出るイメージが強くて、それがエビ中の強みだし安心感があるんですけど、そこにさらに色がついたなって。天才がさらにレベルアップしたみたいな感覚ですよ。
柏木 いやいやいや!
真山 「もう、どこまで行っちゃうの!?」って。
―悟空が超サイヤ人になったみたいな。
柏木 ないないないない!
真山 そう! この曲では特にそういう感じが出てるから……ドキドキしました! あはは!
―新しい扉を開けた感じはありますよね。続いて、「PANDORA」は美怜さんのハイトーンボイスが曲を引っ張ります。
柏木 あの声は美怜ちゃんしか出せないもん。
―今までで一番高いですよね。
柏木 高いです。
―完全に喉を殺しにかかってるっていう。
中山 でも、美怜ちゃんは普通に出るんですよね。
真山 そうなんですよ。
柏木 ミックスボイスなのかな。地ではないよね。
真山 地ではないかもね。でも、「喉の調子が悪い」って言いながらあの声が出るからすごいなって。
柏木 「ウソつくなよ!」っていつも思うもん。「出てるじゃん!」って(笑)。
真山 しかも、キレイに出るんですよ。だから、そうやって歌ってるのを聴くと「今日も美怜ちゃんは元気だな」って思う(笑)。
―「勉強してない」って言いながらいい点を取るパターンだ。
中山 うん、それだそれだ!
真山 そう、器用なんですよね。美怜ちゃんのそういう器用さってこれまで伝わってなくて。これまでのエビ中ではかわいらしい部分を担ってたけど、この曲は美怜ちゃんのカッコよさが全面に出てるし、これからも印象が変わっていくだろうなって。美怜ちゃんの新たな一面が感じられる曲だと思います。
―イメージが変わると言えば、「シングルTONEでお願い」の莉子さんの落ちサビですよ。
柏木 ああ、これね! 大好き!
真山 うん、かわいい。
中山 でも、歌い方が最初と全然変わってるんですよ。レコーディング前にいつもボイトレの先生と1時間トレーニングをするんですけど、1時間じゃ足りないぐらい、イチから私の歌い方を変えるみたいな感じで(笑)。この曲も自分では「これでいいのか?」って思ってたんですけど、先生が「今回の歌い方はそれなんだよ!」って言ってくださって。それでも「本当にこれでいいのか……?」と思いながらレコーディングしたら、結局、それでよかったっていう。
―迷いながらやったものが正解だったんですね。あがったものを聴いてみてどうですか?
中山 正直、ライブでやるのが怖い(笑)。
柏木 確かにこれはね! この曲のレコーディング、ほぼ息みたいな感じでしたよ。囁いちゃって。
中山 マイクとの距離感がよくわからなくなっちゃって(笑)。
―「SHAKE! SHAKE!」の歌穂さんは声が笑ってますね。
真山 歌穂ちゃんはもともと倍音がある歌声で、裏声が苦手ってぐらい地声でスコーンといけちゃうタイプだから、「SHAKE! SHAKE!」はぴったりなんですよね。歌穂ちゃんは最近、大人になることについて悩んでたらしいんですけど、この曲のおかげでその悩みから抜けられたみたいで。<私、このまま 何も知らないまま歩いていく スキップしてさよなら>っていう歌詞から学んだらしくて、その喜びみたいなものも感じられますよね。
―<大器晩成さ>も裏声じゃないですよね。
柏木 裏じゃないですね。2番の私と真山は裏にいきました。無理でした。地声で出したら強くなっちゃうから。
真山 そう。だから、歌穂ちゃんみたいにニコニコしたまま出せるのはすごいよね。
柏木 歌穂ちゃんは一時期、私とか真山みたいな太い声に憧れてた時期があったって言ってましたけど、逆に「こっちも小林の声はうらやましいんだよ!」って。
真山 すごいうらやましい。
柏木 それぐらい、あの声は歌穂にしか出せないから、自分の武器としてずっと持っててほしいですね。何にも憧れなくていいよ! あなたはあなたでいいんだよ! って。
真山 唯一無二だよね。
―そして、先ほども言いましたが、安本さんは「熟女になっても」のイケイケなラップがハマるのかなと思ったら、今回のように比較的クールなラップもカッコいいというのが発見でした。
柏木 確かに。でも、ちょっとかわいい感じだよね。「SHAKE! SHAKE!」の<ハイ!>が好き。
真山 ああ、あそこね! 彩ちゃんは音感もいいですけど、リズム感も昔からよくて。リズムに感情を乗せるのがすごく上手だし、本人もそれを意識して歌ってるから、このアルバムでは彼女のリズム感がばちこんハマってると思います。
「エビ中って常に試験みたい」
―『playlist』は10周年のタイミングだからこそ生まれた作品なのか、それとも今後のエビ中にも引き継がれていくものなのか、どちらだと思いますか。
真山 それは先生(スタッフ)方次第だからな~(笑)。でもエビ中はわちゃわちゃしててセリフの多いアイドルらしい楽曲もできるし、今回みたいなJ-POPらしい楽曲も歌えるっていう幅の広さをいただいているので、来年以降もまた「でかどんでん」みたいな突拍子もない曲が登場するとは思うんですけど、それもエビ中の味のひとつなんですよね。だから、今回の雰囲気はこの1枚で終わらないでほしいなって思います。
―「これもエビ中の新しい顔だよ」っていう。
真山 アンパンマンみたいに、エビ中もコロコロ顔を変えていきます。
―来年はどんなエビ中を期待したらいいですか。
柏木 どうでしょうねえ。来年の想像が全然つかないんだよなあ。
中山 ねえ、つかないねえ。
真山 来年何するの?
中山 11周年。
―11周年(笑)。
柏木 ファンの方はわかってくれてるとは思うけど、エビ中は10周年で終わらないし、これからのエビ中にも期待してもらえるような1年にできたらいいなと思います。いつものように普通なことはしないと思うんですよ(笑)。今年は曲をたくさん出させていただいたから来年は何も出さないってことはないだろうし……いや、何も出さないっていうのも逆に面白いけども!
真山 え、いいんじゃない? 別に出さなくても。
中山 え~、こわい!
柏木 『playlist』の曲をライブでひたすら成長させる一年とかね。
真山 何にしても、ファンのみなさんは来年もまた試される一年になりそうだよね。
柏木 そう! エビ中って常に試験みたいだよね。いつもいつも予想ができない! 私たちも知らないし、新しいことを知るときはいつもファンのみなさんと一緒なんです。
真山 最近はほんのちょっとだけ早く知れるようになったけどね(笑)。
柏木 MVも公開する3日前ぐらいに観せてもらえるようになったから(笑)。前まではファンのみなさんと同じタイミングで観てたし。
中山 公式LINEから送られてくるお知らせで知ってたよね(笑)。
―僕は『中人』(2013年発表のメジャー1stアルバム)のリリース時にもインタビューさせていただいてますけど、あのときも「先のことは全くわからないんです」って言ってましたよ。
中山 そこは全く変わってないね(笑)。
真山 10年間ずっと同じですよ。前々から決まってたものが、「やるって言ってたけどいつになるんだろうね~?」って話してたら、やるってことを直前になって聞いて、焦りながら「やりますっ! 頑張りますっ!」ってなったり(笑)。
柏木 忘れかけてた頃に急に飛んでくるから!
―そのノリは今も変わらないんですね(笑)。
柏木 変わらないですね!
真山 アイドルテンポ(笑)
柏木 いや、エビ中テンポだね。こんなのエビ中しかないよ!(笑)
<INFORMATION>
『playlist』
私立恵比寿中学
SMEレコーズ
発売中
初回生産限定盤A

初回生産限定盤B

通常盤

https://www.sonymusic.co.jp/Music/Info/ebichu/playlist/