君は、映画の中の悪夢を全体的に思い返したり、利用したりして、劇場の壁を越えて起きている現実の恐怖とどのように張り合うのか? 2019年のホラー映画の場合、その答えは「張り合うことはない」だ。ひとつの非常に優れた例外を除いて、このジャンルが今年提供した最高のことは、「今日の私たちが生きている異常な世界」に関する特定の問題や実例を想起させることはなかったことだ。代わりに、2019年の作品は、ログインしたり窓の外を見たりする時に恐怖を感じてはその恐怖に我慢できない穏健派に目を向けたり、漠然とした不安のようなものに目を向けた。
そして、シリーズの続編の中にはまともな作品(『アナベル 死霊博物館』)もあったり、今や必要不可欠なスティーヴン・キングの原作の映画化――『ペット・セメタリー』やそれよりも優れた作品など――もあったりするが、パッとしなかった『IT/イット THE END ”それ”が見えたら、終わり。』からマイク・フラナガン監督によるキューブリック的な素晴らしい『ドクター・スリープ』までの2019年は、「ネクスト・ウェーブ」と名前を最近冠されたホラー映画が2作目のジンクスを破った年として記憶されることだろう。ジョーダン・ピール、アリ・アスター、ロバート・エガースは全員、確固たる2本目の映画を観客に届け、自分の持久力を証明した(『ババドック 暗闇の魔物』のジェニファー・ケント監督も同様で、素晴らしい復讐劇の映画『The Nightingale(原題)』はどのジャンルに分類するにせよ、鑑賞必須の作品だ)。次世代の脚本家兼監督たちが多数加わり、不足したこのジャンルを補った。たくさんのフレッシュな若者が映画の中で新鮮な情熱をぶちまいているような感覚がある。
以下では、非常に主観的ではあるが、今年のホラー映画ベスト10をピックアップした。
その10作品以外にも、見事な日本のメタ映画『カメラを止めるな!』、ジョシュ・ロボ監督の印象的なデビュー作『I Trapped the Devil(原題)』、ラリー・フェセンデン監督が抱えているテーマであるフランケンシュタインの伝説『Depraved(原題)』、そして、人気のあるヤングアダルト小説シリーズ『スケアリーストーリーズ 怖い本』をバカバカしいほどにセンチメンタルかつ目の回るような展開で映画化した作品にも感謝の意を送ろう。
10位 『Luz(原題)』

Screen Media Films
次の話を今までに聞いたことがあるのであれば、我々に教えてほしい。ある女性(ジュリア・リードラ)は、バーの中へと歩み寄り、ハンサムな精神科医に言い寄り、トイレに誘い込む。
9位 『パーフェクション』

Courtesy of Netflix
かつて、シャーロット(『ゲット・アウト』に出演したアリソン・ウィリアムズ)は世界的なチェロ奏者だった。だが、あるとき、半ば不可解な状況で引退することになってしまった。数年後、彼女はリジー(ローガン・ブロウニング)と出会う。リジーは若き天才音楽家で、シャーロットにとって代わり、スターになっていた。2人は親しくなり、バスに乗ってコンサートに向かっている最中、その2人のうちの1人は自分たちの皮膚の下に虫が這っているのを見えるようになると、ウジが湧いたベトベトな物体を吐き出してしまう。大包丁が出てきたり、切断術を行ったり、狂気な状況になったりと、さまざまなことが混ざり合わり、事態は『ブラック・スワン』的な状況から究極にとんでもなくクレイジーなものへと変わっていく。スラッシャー映画の要素で味付けされて、血まみれの生肉で盛り付けされたような復讐もののスリラーである本作は、現代的なエクスプロイテーション・フィルムのタイプだ。
8位 『Knife + Heart(原題)』

Memento Films Distribution
70年代後半、パリにあるヴァネッサ・パラディス演じるプロデューサーのゲイ専門AV制作会社で俳優を手際よく殺していく、黒い革のボンデージマスクを被った男は誰なのか? そして、彼女がその繰り返される殺人に基づいて作った最高傑作の映画は、その男をさらなる殺人の悪行へと駆り立てていくことになるのか? 監督兼共同脚本家のヤン・ゴンザレスによる過去を回帰する本作は昔ながらのスラッシャー映画と過去のいかがわしさに対するオマージュであり、アル・パチーノ主演映画『クルージング』を意識したり、鋭いディルドをクリエイティブに使ってみせたりしている。また、作品の印象としてスタイリッシュな残虐性があることを誇りの証とし、クィアのアンダーグラウンド・カルチャーと過ぎ去ったクィア芸術の時代への愛情にあふれている。事態がシュールなものに変わり始めたときでさえ、この驚くほどに猥褻なホラー映画には無駄がなく、意地悪で、君も知っていることのように切りつけてくる。
7位 『The Lighthouse(原題)』

Eric Chakeen/A24 Pictures
ロバート・エガース監督による『ウィッチ』に続く本作は、過去を掘り下げて人間の内面に迫る恐怖を引き出す監督の傾向が見られ、2人だけの灯台守――熟練した海の男(ウィレム・デフォー、彼は最高な役者だ)と若き見習い(ロバート・パティソン)――が徐々に精神的に参っていき、2人揃って狂気に陥ってしまう姿を追っていく。2人とも、沈黙で何かを物語るべき時や、陳腐なまでの状況にするべき時を理解している。デフォーが酔っ払って、八つ当たり的に相棒にトリトンの呪いがかかるように要求する場面は、2019年における映画製作において最も狂乱的な3分間かもしれない。従来的なホラーの方を好む観客の気持ちを満たすために、エガースは、怪奇小説や幻想小説の第一人者であるラブクラフトから影響を受けたり、獰猛な人魚などを入れ込んだり、ヒッチコック監督の『鳥』を意識した作りにしたりしている。君はこの作品に度肝を抜かれることだろう。
6位 『CLIMAX クライマックス』

Courtesy A24
喪失感に踏み込んだことは忘れて、地獄を楽しんでほしい。ギャスパー・ノエ監督による地獄のダンスパーティーは無邪気に始まり、ソフィア・ブテラやアンダーグラウンドのミュージックシーンで現実に先端をいく者たちがヴォーグやクランプのダンスをしまくる。
5位 『クロール -凶暴領域-』

『ジョーズ』に対するオマージュには素晴らしい系譜がある中で、アレクサンドル・アジャ監督によるこのサバイバル・ホラー映画は、フロリダ大学の競泳選手(カヤ・スコデラリオ、最高の絶叫クイーンになるべく訓練中)と彼女の父親(バリー・ペッパー)を母なる自然の小さな歯――この作品では、フロリダ州の沼地から飛び出してきた巨大なワニ――と戦わせている。フランス人のアジャ監督が歯を特徴とした水中の肉食動物からマジックを作り出したのはこれが初めてではない(彼は2010年に作られた『ピラニア』のリメイクを恐ろしく気味の悪いゴア映画にした男だ)。しかし今回は、特に追うものと追われるものが争うことになる第3幕に入ると、彼は甘ったるく、わざとらしい作風をやめて、ストレートに虐殺性に徹した。『クロール -凶暴領域-』が役目を果たすのは、この映画で中心的な存在として這い回るワニのように、1番残忍な野生の本能が優位になる時だ。
4位 『In Fabric(原題)』

Courtesy A24
亡霊にとり憑かれた1着のドレス、2人の客、6人の魔女、そして限りのないフェティシズムの倒錯――その通り。この作品はピーター・ストリックランドの映画だ! 『バーガンディー公爵』を世界に送り出したイギリス人のストリックランド監督は、霊にとり憑かれた服が超自然的な大混乱を引き起こすミシン仕掛けの神の物語であり、暗くジメッとしたユーロスプロイテーション映画の果てを切り開き続けている。
3位 『ミッドサマー』

Courtesy A24
『ヘレディタリー/継承』での暗く、影に満ちた熱狂的な夢の次はどんなものだろうか? アリ・アスター監督なら、恐怖を光の中に引きずり込む。それは具体的に言うと、太陽がほとんど沈まないスカンジナビアの夏祭りだ。一人の女性(万歳、フローレンス・ピュー!)をはじめとするアメリカ人のグループが、民俗の風習と神話を研究するために、遠く離れた一生に一度のイベントに訪れる。『ウィッカーマン』を思い出すよりも早く、表面上は笑顔を見せて幸せそうに見えるそのすぐ裏で何か悪いことが起こっている感覚が支配し始めていく。現代の不快な男らしさや、別れは辛いことを希望なく伝える寓話、春の儀式でのひときわ不安な表情などに対して、この映画以上にしっかりと応じている映画を見つけるのは困難なことだろう。しかし、何よりも、『ミッドサマー』はゆっくりと舵を取ることを楽しんでいる映画のようなもので、ホラーであるかどうかさえ確信できない。だが、この映画は間違いなくホラーであり、座席の下の床が抜けるぐらいに確実に驚く。
2位 『ザ・マミー』

Courtesy Shudder
カルテルに関係した暴力が、メキシコのある街を事実上ゴーストタウンに変えてしまった。またたく間に、母親が「消失」してしまい、エストレヤ(パオラ・ララ)という少女は独りきりになる。絶望の最中、彼女はシャイネ(フアン・ラモン・ロペス)という少年が率いる同じような境遇のホームレスの子供たちと友達になる。
1位 『アス』

Claudette Barius/Universal Studios
その少女はビックリハウスのゆがんだ鏡にどうやって現れたのか? 血まみれの手をした男は海辺の端になぜ立っているのか? はさみは全てどうしたのだろうか? 私道の端に立っている赤いつなぎを着た4人は一体誰なのか? そして、休暇中のゲイブとアデレードのウィルソン夫婦とその子供たちにどんな用があるのか? ジョーダン・ピール監督の2作目の映画は、案じられていた2作目のジンクスを打ち負かすだけでなく、『ゲット・アウト』がまぐれではなかったことを証明している。我々が敵を目撃してきた手法には新鮮味がなくなってきたが、それを面白く膨らませるのは、本当に恐ろしい話だけだ。それは……つまり、もう一度この映画のタイトルをチェックしてみてほしい。この物語の中心的存在で驚くべき演技をする4人の俳優は、四面楚歌にある平均的な中流階級の家族と、その家族をストーカーしている精神的に異常なドッペルゲンガーの両方をうまくこなしたが、このひとつの映画で(場合によってはひとつの同じシーンで)2人分の最高の演技を見せたルピタ・ニョンゴをぜひ称賛してほしい。