結成30周年を迎えたLUNA SEA10枚目のオリジナルアルバム『CROSS』。このアルバムを共同プロデュースしたのが、U2、ピーター・ガブリエル、ザ・ローリング・ストーンズ、トーキング・ヘッズ、モリッシー、MGMT、サーティー・セカンズ・トゥー・マーズなどを手掛けてきた世界的な音楽プロデューサーであるスティーヴ・リリーホワイト。
―まずは2人の出会いから教えてください。
スティーヴ:4年くらい前だったと思うけど、東京でコンベンションがあって東京に来たんだ。そこで共通の友人を介してINORANと初めて会って、お茶したり、ちょっと飲んだり。で、友達になったんだよ。その後今度バンコクでINORANのソロのライブがあった時に呼ばれて行って、その時一緒になにかやらないか?みたいな話をしたんだけれどもタイミングが合わなかった。その後INORANを通じて今度はLUNA SEA本体のバンドと知り合い、LUNASEAから仕事の話をもらったんだ。僕個人としては、ソロアーティストよりバンドと仕事をすることが自分には向いていると思っていて。それで、INORANのソロよりLUNA SEAとやってみようかと思ったんだ。でもバンドを理解するためにはやっぱりライブを観ることが大事なので、今度はLUNA SEAのライブを観に日本へ来た。やっぱりスタジオだと頭だけで考えてしまうけど、コンサートとパフォーマンスでバンドの真価がわかるからね。で、そこからすべてが始まったんだ。
―INORANさん的にはスティーヴさんに会ったときから一緒に出来たらいいなという思いがあったんですか?
INORAN:そこまで考えないよね。U2のプロデューサーだったスティーヴと仕事をするなんて夢の話に近いから。ただ、今まで音楽で出会った人ってタイミングだと思うんですよ。タイミングが合ったからLUNA SEAがスティーヴと一緒に出来た。LUNA SEAのメンバーは全員スティーヴが手掛けたアルバムが好きだしね。考えてみたら個性的なLUNASEAのメンバーに唯一共通している音楽=U2をやってるプロデューサーがスティーヴだからね。
―それは運命ですよね。
INORAN:そうなんですよ。ただ、実際にはスティーヴと話しているうちに、例えばビートの話とかクリックの話とかですごくいいなと思ったから、徐々にそういう意識が芽生えていった感じですね。
―運命的な存在だけど、話をしているうちに一緒にやれることを感じたという?
INORAN:そう! 例えばお店でも料理でもミュージシャンでもプロデューサーでも、素晴らしいものを作ってても人間的に素晴らしくないとやっぱりいろいろと無理でしょ? スティーヴはとにかくエナジーがすごかった!
スティーヴ:INORANがタイミングの話をしたけど、そのタイミングっていうのはすごく大事! 特にLUNA SEAの場合は今までプロデューサーがいなくて、みんな全部ご自身でやってきたわけで。ここで初めて「あなたが何を決めてOK!」って言える人ができたっていうことは、かなりの信頼を得ないとやっぱりできない。で、その信頼が得られたからこそプロデュースできたと思うんだ。
INORANがスティーヴに期待したこととは?
―なるほど。そこで2人にお聞きしたいのが、INORANさんはスティーヴさんにどんなことをプロデューサーとして期待をしたのか? 一方のスティーヴさんは今まで日本人アーティストのプロデューサーをしたことがない中で、LUNA SEAというバンドをどういう風に捉えてどんなことを自分だったらできると思ったか、それぞれお聞かせください。
INORAN:シンプルに音楽って人と作るものであって、そういう人としての科学反応、5人でLUNA SEAの中の化学反応を見てみたかったというか。ある意味メンバーがみんなそれぞれ頑固な部分があって、自分のスタイルももうある程度確立して、それぞれの音色を持ってるわけで。それに対していい意味で壊してほしかったですね。
Photo by Azusa Takada
スティーヴ:僕ができると思ったことは2点あった。1つは”スティーヴがプロデューサーなんだ”っていう意識がバンドの中にあるとバンド自身のレベルがアップする。スティーヴを唸らせてやりたいとかスティーヴにすごいって思わせたいってことでさらに自分たちのレベルを上げてより良くしようっていう、結果的にそういう気持ちを持たせることができたと思ってるんだ。
INORAN:俺たちレベル上がったかな?
スティーヴ:答えはもちろんイエスだよ! そして2つ目は、バンドがよりクリエイティヴになれた。
INORAN:うん、10歳はみんな若くなったね!
スティーヴ:じゃあ60になったということかい(笑)?
―(笑)今スティーヴさんがメンバーはクリエイティブに集中してもらえたんじゃないかと言っていましたが、INORANさん自身どんな変化がありましたか?
INORAN:ものすごくクリアな自分を映し出す大きな鏡が増えたなぁって感じながらレコーディングをやってましたね。自分を正直に映し出してくれるもの。それはストレートな言葉ではなくて、オブラートに包んでるわけではなくて、的確な姿を映してくれたんで、より高められた……そういう気がします。
スティーヴ:LUNA SEAの場合はメインソングライターが3人いる。INORAN、J、SUGIZO、その3人、それぞれスタイルが違う。
INORAN:で、実際、誰の曲が好きなの?(笑)
スティーヴ:ん(笑)? えーと……まずはレコーディングのことを話させて(笑)。SUGIZOのことを僕は「Mr.ディテール」と呼んでいたんだ。本当に細かいことまでこだわる人。SUGIZOのファイルは整理整頓がされていたね。INORANのファイルはぐちゃぐちゃ(笑)。
INORAN:で、本当は誰の曲が(笑)?
スティーヴ:本当のことを言ってます(笑)。本当に全部好きなんだ。Jの「Closer」もすごくいい曲だし、SUGIZOの曲もいいし。昨日も車の中で全曲聴いたけど、本当にどれもいい曲ばっかりだよ!
―LUNA SEAサイドとしては、楽曲のセレクトはスティーヴさんの意見で結構変えたんですか?
INORAN:何曲かあったのをこれは次回に取っておこうとかはありましたね。だから曲選びはアルバムのバランスを考えて、みんなで話はしました。
スティーヴ:INORANが言ったように、曲のテンポのバランスを考えてこの選曲になった。なので、収録されなかった曲が悪いからとかそういうことではまったくないですよ。
スティーヴから見たLUNA SEAの5人
―具体的にレコーディングはどんな風にしたんですか?
INORAN:レコーディングする前にスティーヴとスカイプしたりとかしましたね。で、ファイルをスティーヴに送って、アイデアが浮かんだら「こうした方がいい」とか「これはどうしようか?」とか。SUGIZOがそこは本当にマメにやってた。俺はたまにイエ~イって(笑)。
スティーヴ:(笑)。今風のやり方で同じ場所にいる必要はないわけで。でもさっきも言ったようにライブを観るというのは重要だったんで日本に来て、その時にみんなと一つテーブルを囲んで話すことが出来て、それが非常に重要だった。その時に一曲一曲ずつについて話したんだ。例えば11曲目の「so tender…」は「そこはもうちょっとフックが……」っていう話をしたし、2曲目の「PHILIA」では、SUGIZOのギターよりINORANのギターの方がいいとかね、本当にざっくばらんに、ファミリーの立場で話しをしたよね。ファミリーっていうのはダメだよってことも言える。そういう関係がちゃんと築き上げられたと思っているよ。
Photo by Azusa Takada
―先ほどコンポーザーとしてJさん、SUGIZOさん、そしてINORANさんのことを聞きましたが、プレイヤーとしての5人をどんな風に感じていますか?
スティーヴ:まず真矢は本当に素晴らしくて、もしかしたらこのアルバムで最重要人物かもしれない。本当にエネルギッシュで素晴らしいし、各パートで創意工夫がなされていて上手いなって思いましたね。それと、スネアが非常に日本人っぽい。Jはベーシスト以外の何者でもない、本当に歩くベースって感じ。ベースを擬人化したような、そういう存在だ。で、面白い話があるんだけど、曲にはだいたい最初は仮タイトルがついてくる。INORANの仮タイトルは「NapaValley」と言った感じで地名からとってあって素晴らしいんだ。SUGIZOはSUGIZOらしい「Beyond」とか「ETERNAL」とか。Jの仮タイトルは酷いんだ(笑)。「ベースイントロ」とかそういう感じでロマンチック度がゼロ(笑)。そこにも明確な差があったね。RYUICHIのことはフランク・シナトラと呼んでいるんだけど、本当に素晴らしいヴォーカリストだ。ただ正直に言うと、ライブを観る前に最初にLUNA SEAの音源が送られて聴いた時には、RYUICHIのビブラートが僕の好みではなかったんだ。だから「うーん……どうかな」って半信半疑で、ライブでちゃんといいものが見られるかな?ってちょっと不安ではあったんだけども、実際にライブを観たら「あっ、RYUICHIは本当に素晴らしいシンガーだ」ってことがそこでわかったんだ。その時に僕が気づいたのは、僕が感じた気持ちはバンドが悪かったわけではなくて自分の捉え方に問題があったっていうこと。RYUICHIの歌をいかに自分の力で活かすことができるが逆に自分の課題なんだってことはわかった。だから音楽とRYUICHのヴォーカルをいかにうまくミックスさせられるかも僕の課題だった。でもこのニューアルバムで自分なりにそれは出来たなと思っているよ。
INORAN:僕もそう思います。
スティーヴ:サンキュー! 続けると、SUGIZOはMr.ディテール。すべてがきちんとしている。彼のギタートーンの素晴らしいところは、聴いてSUGIZOのギターだとわかることだよ。それって大事なことなんだ。独特のサウンドがある。ちょっとブライアン・メイが入ってるかなと思うけど……。
INORAN:顔が?
スティーヴ:ハハハハ(笑)。独自のサウンドを持っていて素晴らしいと思う。そして本当にきちんとしてる。まあ行ったことないからわからないけど、想像するにSUGIZOの家に行ったらすべてきちっ、きちっと置いてあるんじゃないかなって思うなぁ。
INORAN:俺行ったことあるけど、CDがちゃんとアルファベット順に置いてある!
スティーヴ:やっぱり!! えーと……誰か他にいたっけ? LUNA SEAって4ピースバンドでしょ?
INORAN:おーい(笑)!!
スティーヴ:ハハハ!! INORANはMr.ロックンロール。ジョニー・マーが好きで、ちょっとキース・リチャーズみたいな感じのリズムギターだね。常にベースとドラムとかっちりあったリズムギターを弾いている。そしてINORAN自身も女の子みたいなお顔なのに女の子にモテモテだね。
INORAN:コメントしようがない(笑)。
スティーヴ:ハハハハ(笑)。本当にこのバンドは各メンバーがすごく強い個性の持ち主でね、それが素晴らしいと思っているんだ。こんな方々と仕事できて光栄だよ。
Photo by Azusa Takada
INORAN:こちらこそ光栄です。やっぱりスティーヴと一緒に作れたおかげで、メンバー個人個人も今までよりも、今までにないくらい自分を客観的に見れたと思う。お題をくれたりとかお題を一緒に作ったりすると今までのルーティーンを変えなきゃいけないでしょ。そういう時に例えばドラムの録り方とか、言われたときは多少は「え?」って思ったとこもあるんだろうけど、やってみたら「あっ」って自分を客観的に見ることができたと思うんだよね。それはすごく感謝してる。
スティーヴ:僕のやることはほんのちょっとで、実際の作業はバンドがやったんだよ。
INORAN:でもやっぱり、スティーヴと一緒にやって教わったことは、音楽制作だけじゃなくて人生にとっても大事なことだったと思うんだよね。自分を客観視してくれる出来事があったり、人が関与することで自分を客観視することで、成長が出来ると思うだよね。例えば自分が悩んでたりする時に、自分を愛さないと結局問題は解決しないわけで。結局自分次第じゃないですか。その自分を客観視できることの大切さを音楽を通して、学んだんだよね。で、それは人生にとってもすごく大事なことだから人生についても学んだ感じですね。
スティーヴ:それがまさに僕がやろうとしていたことなので、そう思っていただけて本当にありがたいです。確かに僕が手がけたのはアルバムですけども、それだけじゃなくてその後のバンドというか人間としてのみんなの未来、それの役にも立ってくれたらすごくいいなと思ってやってるんで、そういう風に伝わったのなら本当に嬉しい。サンキュー!
INORAN:本当にそれは5人それぞれがみんな学んだと思う。
スティーヴ:OK.Good!!
10枚目のアルバム『CROSE』を完成させた意味
―完成したアルバムのタイトルは『CROSS』。このアイデアはどこから? またスティーヴさんはこのタイトルをどんな風に受け止めていますか?
INORAN:真ちゃん(真矢)が考えてくれて。真ちゃんが出したらみんな全会一致で決まったんです。10枚目のアルバムで、クロスは漢数字の十であるし、十字架でもあるし、いろんな意味があっていいんじゃないかということで。
スティーヴ:確かにクロスっていろんな意味にとれる。英語だとちょっと腹たってるっていう意味もあるし、もちろん十字架っていうちょっと宗教的な意味合いもあって、見る人によっていろんな意味を想起させるので非常に面白いと思ったよ。
―改めてこの『CROSS』というアルバムを今どのように感じていますか?
INORAN:バンドとして新しい扉が開けたし、これからの扉を確実に開いたアルバムだと思います。大げさに言っちゃうと、日本の音楽史の歴史が動いたっていうか、そういうアルバムだと思しますね。そしてやっぱりたくさんの人の愛が詰まったアルバムをうまくパッケージングできたなって思いますね。
スティーヴ:日本の音楽史の一端を担えたのなら非常に嬉しいですけども、本当に今回3度目のエナジーをまたバンドがもらって、これでまたあと10年がんばってくれたら光栄です。
―スティーヴさんにとってアルバム『CROSS』はどんな作品に仕上がったと感じていますか?
スティーヴ:さっきも言ったけど、昨日車で聴いて素晴らしかった。本当にすごいエナジーがあった。30年というキャリアがあるバンドなのにこんなにフレッシュに聴こえるのが本当にすごい! いい意味でまるでまだバンドをはじめて5年しか経ってないような感じだよ。そんな風にフレッシュに聴こえるんだよ。すごくみんな喜んで楽しくやってるっていうのが伝わる。本当にこういうアルバムに関われたことがラッキーなんだけど、でもラック=運っていうのは、頑張れば頑張るほど運がついてくると思うんだ。本当にラッキーだったと思うよ。
INORAN:うん。自分もラッキーだったと思います。
―アルバム制作を通して、スティーヴさんはメンバーに素敵なニックネームを付けてくれたようですので、最後にINORANさんからスティーヴに素敵なニックネームをつけて頂くのはどうですか?
INORAN:ん? 明日まででいい(笑)?
スティーヴ:OK(笑)。ニックネームは我ながら良いの付けられたと思っているんだ。RYUICHIは「フランク・シナトラ」、SUGIZOは「Mr.ディテール」、INORANは「Mr.ロックンロール」、Jは「Mr.ラウド」、真矢は「Mr.ハッピー」(笑)!
INORAN:じゃあスティーヴは「Mr.ハッピー・キング!」
スティーヴ:ハンバーガー屋みたいだね(笑)
INORAN:ハハハハハ(爆笑)!
『CROSS』
LUNA SEA
Universal Music Japan
発売中
そのスティーヴ・リリーホワイトとLUNA SEA・INORANの対談が実現した。
―まずは2人の出会いから教えてください。
スティーヴ:4年くらい前だったと思うけど、東京でコンベンションがあって東京に来たんだ。そこで共通の友人を介してINORANと初めて会って、お茶したり、ちょっと飲んだり。で、友達になったんだよ。その後今度バンコクでINORANのソロのライブがあった時に呼ばれて行って、その時一緒になにかやらないか?みたいな話をしたんだけれどもタイミングが合わなかった。その後INORANを通じて今度はLUNA SEA本体のバンドと知り合い、LUNASEAから仕事の話をもらったんだ。僕個人としては、ソロアーティストよりバンドと仕事をすることが自分には向いていると思っていて。それで、INORANのソロよりLUNA SEAとやってみようかと思ったんだ。でもバンドを理解するためにはやっぱりライブを観ることが大事なので、今度はLUNA SEAのライブを観に日本へ来た。やっぱりスタジオだと頭だけで考えてしまうけど、コンサートとパフォーマンスでバンドの真価がわかるからね。で、そこからすべてが始まったんだ。
―INORANさん的にはスティーヴさんに会ったときから一緒に出来たらいいなという思いがあったんですか?
INORAN:そこまで考えないよね。U2のプロデューサーだったスティーヴと仕事をするなんて夢の話に近いから。ただ、今まで音楽で出会った人ってタイミングだと思うんですよ。タイミングが合ったからLUNA SEAがスティーヴと一緒に出来た。LUNA SEAのメンバーは全員スティーヴが手掛けたアルバムが好きだしね。考えてみたら個性的なLUNASEAのメンバーに唯一共通している音楽=U2をやってるプロデューサーがスティーヴだからね。
―それは運命ですよね。
INORAN:そうなんですよ。ただ、実際にはスティーヴと話しているうちに、例えばビートの話とかクリックの話とかですごくいいなと思ったから、徐々にそういう意識が芽生えていった感じですね。
―運命的な存在だけど、話をしているうちに一緒にやれることを感じたという?
INORAN:そう! 例えばお店でも料理でもミュージシャンでもプロデューサーでも、素晴らしいものを作ってても人間的に素晴らしくないとやっぱりいろいろと無理でしょ? スティーヴはとにかくエナジーがすごかった!
スティーヴ:INORANがタイミングの話をしたけど、そのタイミングっていうのはすごく大事! 特にLUNA SEAの場合は今までプロデューサーがいなくて、みんな全部ご自身でやってきたわけで。ここで初めて「あなたが何を決めてOK!」って言える人ができたっていうことは、かなりの信頼を得ないとやっぱりできない。で、その信頼が得られたからこそプロデュースできたと思うんだ。
僕は単に有名プロデューサーだからっていう風に見られたくなかった。自分はこういうことがバンドのためにできるんだよってことをちゃんと示さないといけないと思っていたんだ。だから、バンドが僕のことを本当に人としてもプロデューサーとしても信頼できたというところで上手くいったんじゃないかなって思っているよ。
INORANがスティーヴに期待したこととは?
―なるほど。そこで2人にお聞きしたいのが、INORANさんはスティーヴさんにどんなことをプロデューサーとして期待をしたのか? 一方のスティーヴさんは今まで日本人アーティストのプロデューサーをしたことがない中で、LUNA SEAというバンドをどういう風に捉えてどんなことを自分だったらできると思ったか、それぞれお聞かせください。
INORAN:シンプルに音楽って人と作るものであって、そういう人としての科学反応、5人でLUNA SEAの中の化学反応を見てみたかったというか。ある意味メンバーがみんなそれぞれ頑固な部分があって、自分のスタイルももうある程度確立して、それぞれの音色を持ってるわけで。それに対していい意味で壊してほしかったですね。

Photo by Azusa Takada
スティーヴ:僕ができると思ったことは2点あった。1つは”スティーヴがプロデューサーなんだ”っていう意識がバンドの中にあるとバンド自身のレベルがアップする。スティーヴを唸らせてやりたいとかスティーヴにすごいって思わせたいってことでさらに自分たちのレベルを上げてより良くしようっていう、結果的にそういう気持ちを持たせることができたと思ってるんだ。
INORAN:俺たちレベル上がったかな?
スティーヴ:答えはもちろんイエスだよ! そして2つ目は、バンドがよりクリエイティヴになれた。
というのは、今まではバンドがクリエイティヴな面とプロデューサーの仕事も両方しなきゃいけなかった。今回はプロデューサーの仕事を全部僕が請け負ったことによって、バンドはクリエイティヴなことに集中ができて、アーティストとしてより成長をすることができた。だからいわば僕は安全ネットみたいな役割を果たした。それでメンバーをインスパイアさせることができたと思う。ミーティングをみんなでやった時も、僕がいろいろと提案するとみんな「ああ、なるほどね」って思ってくれた。そうやって深く交じり合いながら成長出来たと思ってる。それと、このアルバムはすごく若くてフレッシュな感じになったと思うな。
INORAN:うん、10歳はみんな若くなったね!
スティーヴ:じゃあ60になったということかい(笑)?
―(笑)今スティーヴさんがメンバーはクリエイティブに集中してもらえたんじゃないかと言っていましたが、INORANさん自身どんな変化がありましたか?
INORAN:ものすごくクリアな自分を映し出す大きな鏡が増えたなぁって感じながらレコーディングをやってましたね。自分を正直に映し出してくれるもの。それはストレートな言葉ではなくて、オブラートに包んでるわけではなくて、的確な姿を映してくれたんで、より高められた……そういう気がします。
スティーヴ:LUNA SEAの場合はメインソングライターが3人いる。INORAN、J、SUGIZO、その3人、それぞれスタイルが違う。
INORANはインディーロック、Jはアメリカンロック、SUGIZOはプロブレッシヴ。同じロックでもみんな違う。どれも僕は好きだし、しかもどのスタイルのバンドもこれまで僕は手掛けてきた。それがLUNA SEAには全部入ってるんで、僕としても非常に満足のいく充足感のある仕事だったよ。やっぱりそういったところが僕のバンドが好きな所以でね。ソロだと一人のスタイルだからね。でもバンドだとこうやっていろんなスタイルが混ざってより幅広い視野で音楽ができるんで、そこが好きだし、それを今回は十分に味わえたよ。
INORAN:で、実際、誰の曲が好きなの?(笑)
スティーヴ:ん(笑)? えーと……まずはレコーディングのことを話させて(笑)。SUGIZOのことを僕は「Mr.ディテール」と呼んでいたんだ。本当に細かいことまでこだわる人。SUGIZOのファイルは整理整頓がされていたね。INORANのファイルはぐちゃぐちゃ(笑)。
SUGIZOの逆。INORANのファイルはごちゃごちゃしてるんだけどハートがあった。僕はそれを選り分ける作業がすごく楽しくかったよ。これはいらないなっていうものもあったけれども、でもこれはすごくいいっていうものもあって。だからそういう最高のものを選んで形づくっていくのがINORANの曲だった。で、INORANの曲もSUGIZOの曲も良くて、ただフー・ファイターズが僕はあんまり好きじゃないってことなんですけど、でもJの曲は本当にキャッチーでポップでこれはまたこれですごくよかった。だから今聴き返してみても甲乙つけがたいなというとこが正直なところだよ。
INORAN:で、本当は誰の曲が(笑)?
スティーヴ:本当のことを言ってます(笑)。本当に全部好きなんだ。Jの「Closer」もすごくいい曲だし、SUGIZOの曲もいいし。昨日も車の中で全曲聴いたけど、本当にどれもいい曲ばっかりだよ!
―LUNA SEAサイドとしては、楽曲のセレクトはスティーヴさんの意見で結構変えたんですか?
INORAN:何曲かあったのをこれは次回に取っておこうとかはありましたね。だから曲選びはアルバムのバランスを考えて、みんなで話はしました。
スティーヴ:INORANが言ったように、曲のテンポのバランスを考えてこの選曲になった。なので、収録されなかった曲が悪いからとかそういうことではまったくないですよ。
スティーヴから見たLUNA SEAの5人
―具体的にレコーディングはどんな風にしたんですか?
INORAN:レコーディングする前にスティーヴとスカイプしたりとかしましたね。で、ファイルをスティーヴに送って、アイデアが浮かんだら「こうした方がいい」とか「これはどうしようか?」とか。SUGIZOがそこは本当にマメにやってた。俺はたまにイエ~イって(笑)。
スティーヴ:(笑)。今風のやり方で同じ場所にいる必要はないわけで。でもさっきも言ったようにライブを観るというのは重要だったんで日本に来て、その時にみんなと一つテーブルを囲んで話すことが出来て、それが非常に重要だった。その時に一曲一曲ずつについて話したんだ。例えば11曲目の「so tender…」は「そこはもうちょっとフックが……」っていう話をしたし、2曲目の「PHILIA」では、SUGIZOのギターよりINORANのギターの方がいいとかね、本当にざっくばらんに、ファミリーの立場で話しをしたよね。ファミリーっていうのはダメだよってことも言える。そういう関係がちゃんと築き上げられたと思っているよ。

Photo by Azusa Takada
―先ほどコンポーザーとしてJさん、SUGIZOさん、そしてINORANさんのことを聞きましたが、プレイヤーとしての5人をどんな風に感じていますか?
スティーヴ:まず真矢は本当に素晴らしくて、もしかしたらこのアルバムで最重要人物かもしれない。本当にエネルギッシュで素晴らしいし、各パートで創意工夫がなされていて上手いなって思いましたね。それと、スネアが非常に日本人っぽい。Jはベーシスト以外の何者でもない、本当に歩くベースって感じ。ベースを擬人化したような、そういう存在だ。で、面白い話があるんだけど、曲にはだいたい最初は仮タイトルがついてくる。INORANの仮タイトルは「NapaValley」と言った感じで地名からとってあって素晴らしいんだ。SUGIZOはSUGIZOらしい「Beyond」とか「ETERNAL」とか。Jの仮タイトルは酷いんだ(笑)。「ベースイントロ」とかそういう感じでロマンチック度がゼロ(笑)。そこにも明確な差があったね。RYUICHIのことはフランク・シナトラと呼んでいるんだけど、本当に素晴らしいヴォーカリストだ。ただ正直に言うと、ライブを観る前に最初にLUNA SEAの音源が送られて聴いた時には、RYUICHIのビブラートが僕の好みではなかったんだ。だから「うーん……どうかな」って半信半疑で、ライブでちゃんといいものが見られるかな?ってちょっと不安ではあったんだけども、実際にライブを観たら「あっ、RYUICHIは本当に素晴らしいシンガーだ」ってことがそこでわかったんだ。その時に僕が気づいたのは、僕が感じた気持ちはバンドが悪かったわけではなくて自分の捉え方に問題があったっていうこと。RYUICHIの歌をいかに自分の力で活かすことができるが逆に自分の課題なんだってことはわかった。だから音楽とRYUICHのヴォーカルをいかにうまくミックスさせられるかも僕の課題だった。でもこのニューアルバムで自分なりにそれは出来たなと思っているよ。
INORAN:僕もそう思います。
スティーヴ:サンキュー! 続けると、SUGIZOはMr.ディテール。すべてがきちんとしている。彼のギタートーンの素晴らしいところは、聴いてSUGIZOのギターだとわかることだよ。それって大事なことなんだ。独特のサウンドがある。ちょっとブライアン・メイが入ってるかなと思うけど……。
INORAN:顔が?
スティーヴ:ハハハハ(笑)。独自のサウンドを持っていて素晴らしいと思う。そして本当にきちんとしてる。まあ行ったことないからわからないけど、想像するにSUGIZOの家に行ったらすべてきちっ、きちっと置いてあるんじゃないかなって思うなぁ。
INORAN:俺行ったことあるけど、CDがちゃんとアルファベット順に置いてある!
スティーヴ:やっぱり!! えーと……誰か他にいたっけ? LUNA SEAって4ピースバンドでしょ?
INORAN:おーい(笑)!!
スティーヴ:ハハハ!! INORANはMr.ロックンロール。ジョニー・マーが好きで、ちょっとキース・リチャーズみたいな感じのリズムギターだね。常にベースとドラムとかっちりあったリズムギターを弾いている。そしてINORAN自身も女の子みたいなお顔なのに女の子にモテモテだね。
INORAN:コメントしようがない(笑)。
スティーヴ:ハハハハ(笑)。本当にこのバンドは各メンバーがすごく強い個性の持ち主でね、それが素晴らしいと思っているんだ。こんな方々と仕事できて光栄だよ。

Photo by Azusa Takada
INORAN:こちらこそ光栄です。やっぱりスティーヴと一緒に作れたおかげで、メンバー個人個人も今までよりも、今までにないくらい自分を客観的に見れたと思う。お題をくれたりとかお題を一緒に作ったりすると今までのルーティーンを変えなきゃいけないでしょ。そういう時に例えばドラムの録り方とか、言われたときは多少は「え?」って思ったとこもあるんだろうけど、やってみたら「あっ」って自分を客観的に見ることができたと思うんだよね。それはすごく感謝してる。
スティーヴ:僕のやることはほんのちょっとで、実際の作業はバンドがやったんだよ。
INORAN:でもやっぱり、スティーヴと一緒にやって教わったことは、音楽制作だけじゃなくて人生にとっても大事なことだったと思うんだよね。自分を客観視してくれる出来事があったり、人が関与することで自分を客観視することで、成長が出来ると思うだよね。例えば自分が悩んでたりする時に、自分を愛さないと結局問題は解決しないわけで。結局自分次第じゃないですか。その自分を客観視できることの大切さを音楽を通して、学んだんだよね。で、それは人生にとってもすごく大事なことだから人生についても学んだ感じですね。
スティーヴ:それがまさに僕がやろうとしていたことなので、そう思っていただけて本当にありがたいです。確かに僕が手がけたのはアルバムですけども、それだけじゃなくてその後のバンドというか人間としてのみんなの未来、それの役にも立ってくれたらすごくいいなと思ってやってるんで、そういう風に伝わったのなら本当に嬉しい。サンキュー!
INORAN:本当にそれは5人それぞれがみんな学んだと思う。
スティーヴ:OK.Good!!
10枚目のアルバム『CROSE』を完成させた意味
―完成したアルバムのタイトルは『CROSS』。このアイデアはどこから? またスティーヴさんはこのタイトルをどんな風に受け止めていますか?
INORAN:真ちゃん(真矢)が考えてくれて。真ちゃんが出したらみんな全会一致で決まったんです。10枚目のアルバムで、クロスは漢数字の十であるし、十字架でもあるし、いろんな意味があっていいんじゃないかということで。
スティーヴ:確かにクロスっていろんな意味にとれる。英語だとちょっと腹たってるっていう意味もあるし、もちろん十字架っていうちょっと宗教的な意味合いもあって、見る人によっていろんな意味を想起させるので非常に面白いと思ったよ。
―改めてこの『CROSS』というアルバムを今どのように感じていますか?
INORAN:バンドとして新しい扉が開けたし、これからの扉を確実に開いたアルバムだと思います。大げさに言っちゃうと、日本の音楽史の歴史が動いたっていうか、そういうアルバムだと思しますね。そしてやっぱりたくさんの人の愛が詰まったアルバムをうまくパッケージングできたなって思いますね。
スティーヴ:日本の音楽史の一端を担えたのなら非常に嬉しいですけども、本当に今回3度目のエナジーをまたバンドがもらって、これでまたあと10年がんばってくれたら光栄です。
―スティーヴさんにとってアルバム『CROSS』はどんな作品に仕上がったと感じていますか?
スティーヴ:さっきも言ったけど、昨日車で聴いて素晴らしかった。本当にすごいエナジーがあった。30年というキャリアがあるバンドなのにこんなにフレッシュに聴こえるのが本当にすごい! いい意味でまるでまだバンドをはじめて5年しか経ってないような感じだよ。そんな風にフレッシュに聴こえるんだよ。すごくみんな喜んで楽しくやってるっていうのが伝わる。本当にこういうアルバムに関われたことがラッキーなんだけど、でもラック=運っていうのは、頑張れば頑張るほど運がついてくると思うんだ。本当にラッキーだったと思うよ。
INORAN:うん。自分もラッキーだったと思います。
―アルバム制作を通して、スティーヴさんはメンバーに素敵なニックネームを付けてくれたようですので、最後にINORANさんからスティーヴに素敵なニックネームをつけて頂くのはどうですか?
INORAN:ん? 明日まででいい(笑)?
スティーヴ:OK(笑)。ニックネームは我ながら良いの付けられたと思っているんだ。RYUICHIは「フランク・シナトラ」、SUGIZOは「Mr.ディテール」、INORANは「Mr.ロックンロール」、Jは「Mr.ラウド」、真矢は「Mr.ハッピー」(笑)!
INORAN:じゃあスティーヴは「Mr.ハッピー・キング!」
スティーヴ:ハンバーガー屋みたいだね(笑)
INORAN:ハハハハハ(爆笑)!

『CROSS』
LUNA SEA
Universal Music Japan
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