2020年2月4日、愛知・ナゴヤドームで開催された登坂広臣の「LDH PERFECT YEAR 2020 SPECIAL SHOWCASE / HIROOMI TOSAKA」。1stアルバム『FULL MOON』に続く2ndアルバム『Who Are You?』を今年1月に発表した登坂。
約1年半ぶりのアルバムとライブ。昨年の「OVERDOSE」でソロアーティストとして更なるレベルアップを遂げた感があったが、果たしてその進化の具合やいかに? 会場で直撃した本人のインタビューも合わせてお届け。

「LDH PERFECT YEAR 2020」を祝う荘厳なイントロダクションの後、HIROOMI TOSAKAの名前がアナウンスされ、暗転した場内はザイロバンドが発光するピンクのカラーに包まれる。バンドが鳴らす低音がしっかりとボトムを支え、ハイブリッドなEDM「Who Are You?」で幕を開けると、続くアップリフティングな「Nobody Knows」のドロップ部分では「Put your hands up!」「JUMP!」とオーディエンスを煽る。SFスリラー映画のようなコンセプト映像を挟み、3曲目も『Who Are You?』からの「NAKED LOVE」。アンビエントなリバーブの中で有機的に絡み合う分厚いビートと登坂のヴォーカル。
巨大なステージをダンサー達と左右に移動し、終盤で見せた自身のダンスでもエンターテイナーっぷりを見せつけた。

登坂広臣の魅力は「陰」にあり ダンスミュージック隆盛を願う男が語ったビジョン

Courtesy of LDH

その余韻を残しつつ始まったのは「OVERDOSE」。派手な曲ではないが、筆者が昨年聴いてインパクトを受けた曲の一つである。三浦大知らの曲を手がけるUTAが作曲し、ミックスはD.O.I.が担当。現実ではなく夢心地というか、煙の中にいるような感覚を味わえる高品質な一曲だ。登坂の持ち味を活かしたトラップ・ソウルとでも言うべきサウンドで、浮遊感のあるファルセットとライブではさらにギターの鋭さが加わっていた。
冒頭からの前半4曲は前回のツアーとは明らかにモードが異なる姿を見せつけたのだった。

「WASTED LOVE」「LUXE」と続き、インタールードの後はフードを被ったダンサー達を従え、青い炎が上がる中で披露されたトロピカル・ハウス「BLUE SAPPHIRE」。華やかなサウンドとミステリアスな雰囲気を放つ登坂。そのギャップが印象的だ。MCであまり多くを語らない登坂だが、ステージの演出やインタールードで流れる映像を含め、ライブのクリエイティブには自身のこだわりを存分に発揮。オーディエンスと同じ目線に立って楽しく「対話」していくというより、自身の創作物をストイックに突き詰める「孤高さ」が、彼のソロライブの特徴でもある。
その妥協なき姿勢は、前回のツアーから共にしているMAKO-T(Key)、Lorenzo(Dr)、JUON(Gt, Cho)、MARIO(B)との息の合ったバンド演奏にも表れている。続けて披露されたバラード曲「One Way Love」「With You」の繊細な響き。ダンサー達と軽やかにステージを歩いていく「EGO」や「Not For Me」でのグルーヴ感。特に「EGO」では登坂のヴォーカルに呼応するかのようにギターのチョーキングが炸裂していた。

登坂広臣の魅力は「陰」にあり ダンスミュージック隆盛を願う男が語ったビジョン

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登坂広臣の魅力は「陰」にあり ダンスミュージック隆盛を願う男が語ったビジョン

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登坂広臣による『Who Are You?』解説

ジャンプを煽りつつダンサー達とともにセンターステージで披露したのは「HEY」。鍵盤の旋律と透明感のある登坂のファルセットがサウンドに溶け込む。
スクリーンに映し出された水色と白のカラーも重なり、海際でパーティをしている気分に(「UNDER THE MOONLIGHT」前には月明かりに照らされた海の映像が投影された)。本編最後は「DIAMOND SUNSET」。カリビアン風味をさりげなく忍ばせたドラマティックな曲でフロアを盛り上げる。炎が上がりレーザーが飛び交うソロ初期の「CHAIN BREAKER」、J-POPとトロピカル・ハウスを理想的なバランスで融合したかのような「HEART of GOLD」と、アンコールでも会場を多幸感で包み込む登坂。ファンとの一体感を大事にする一方、EDMライクなトラップ「UNDER THE MOONLIGHT」で聴かせたフロウのように、陰りを帯びたヴォーカリゼーションと有機的なバンド・サウンドが、幾層もの奥行きを作り出していた。

登坂広臣の魅力は「陰」にあり ダンスミュージック隆盛を願う男が語ったビジョン

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登坂広臣の魅力は「陰」にあり ダンスミュージック隆盛を願う男が語ったビジョン

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登坂広臣の魅力は「陰」にあり ダンスミュージック隆盛を願う男が語ったビジョン

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2018年のツアーと異なりセルフカバーやカバー楽曲は無く、全曲ソロアーティストとしてのセットリストで終えたこの日のライブ。
HIROOMI TOSAKAが目指すアーティスト像の輪郭が、これまで以上にハッキリしてきたと実感できたステージだった。

そして開演前、舞台裏で本人に話を聞くことできた。

ー今回のスペシャルショーケースは、2018年の『FULL MOON』ツアー以降のソロ活動を踏まえた続編的なライブとも言えますよね。まずは今年1月にリリースした2ndアルバム『Who Are You?』について聞かせてください。

アルバムを出すにあたって、前作『FULL MOON』のときもそうだったんですけど、大枠のストーリー性やテーマを考えるんです。将来の活動に向けての布石というか、最後に伏線がちゃんと回収できるようなものにしたくて。
そこで、今回はこの世界に入って10年経った自分にフォーカスを当てて、あらためて自分は何者だと自問自答する――それをテーマにしようと思いました。2020年は三代目 J SOUL BROTHERSでデビューして10周年を迎える年。これまでグループとしていろんな夢を叶えることができましたし、ソロでもアルバムを出したりアリーナツアーをしたり、そうかと思えば映画で主演を務めたり、常にいろんな自分を表現してきましたので。

ー全体のイメージは去年シングルを出してるときから描き始めてたんですか?

「SUPERMOON」(2019年4月リリースのシングルCD)を作ったときに「BLUE SAPPHIRE」(劇場版『名探偵コナン 紺青の拳』の主題歌)も作ったんですが、その頃から2ndアルバムのイメージは頭の片隅にありました。2018年の『FULL MOON』ツアーでやったことと「BLUE SAPPHIRE」という曲はテーマ的にも自分でもビックリするくらい連動していて、ミュージックビデオにもそのつながりを落とし込めた。そこから「NAKED LOVE」(2019年7月に配信限定でリリースされたシングル「SUPERMOON ~閃~」に収録)と続いて、「OVERDOSE」(2019年11月リリースのシングルCD)につながっていく。自分の中で「OVERDOSE」は「NAKED LOVE」のアンサーソングというか、対比するイメージで作っていて。実は「OVERDOSE」のほうが先に完成していたんです。でもストーリーの展開を考えると、先に「NAKED LOVE」を世に出したかった。そういう流れを経て、2020年の年明けに2ndアルバムという形でまとめて世に出すことができました。

「もっと踏み込んでもいい」

ー前作がどこか神秘的かつ妖艶な「歌」の世界だったのに対して、今回はミックステープ的というか、曲ごとにフォーカスがすごく絞れているなと思いました。より現場感があるというか。

『Who Are You?』というアルバムを作ろうと思いついた時点で、いつも一緒に音楽を作っているクルーにアイデアをすぐ投げたんです。なぜこのタイトルなのか?ということもそうですけど、2020年のドームツアー(「LDH PERFECT YEAR 2020 SPECIAL SHOWCASE RYUJI IMAICHI / HIROOMI TOSAKA」)も既に決まっていたので、今回はいつもの月に加えて新たなイメージカラーでピンクも使うつもりだからステージではこういう世界観でやりたいとか、ライブのイメージも伝えた上で皆でゼロから作り上げました。先日福岡のステージに立ったとき、アルバムを作ったときのイメージと現実に目の前にあるものが近くて、自分が思い描いたとおりのことができた感じがしましたね。

ーそう感じることができたということは、アーティストとしてさらにステップアップしたという証拠なのでは?

今回すごく感じたのは、もっと踏み込んでもいいんだなってことでした。自分のことだけしか考えなくていいんだったら、ただ単に僕が好きなことだけやればいいけど、実際にステージに立つ姿を想像すると、自分のファンの存在や、その方々がどんな音楽を求めているのかってことを自然と意識してしまう。もうちょっとキャッチーなものにしたら喜んでもらえるだろうとか、このフレーズはこういう風に変えたほうがいいなとか、どこかで加減してしまうところがあったんですけど、今回それは止めたんです。表に立つ自分じゃないもう一人の自分で俯瞰にて、セルフプロデュースしていく。それに世界の音楽のトレンドを日々チェックしていると、なおさら余計に「もっとやっていいんだな」と思えるようになったし、このアルバムを作ったことで吹っ切れました。今はこれまで考えつかなかったような、いろんなアイデアが湧き出てきていますね。早く形にしていきたいです。

ー楽曲製作陣にUTAさん、SUNNY BOYさん、エンジニアにはD.O.I.さんが参加されています。彼らとの制作はどうでしたか?

UTAくんとSUNNY BOYは付き合いが長いですから。「One Way Love」というバラードはUTAくんが深夜にピアノで弾いた動画を送ってきて、「このメロディ、コード進行好き? 臣くんの声が一番きれいに出るファルセットに合わせて、音もこのレンジがいいと思うんだよね」と。その後、次の日スタジオでSUNNY BOYとUTAくんの3人でメロディをスケッチしてリリックまで完成させたんです。長年一緒にやっているから自分の得意な部分とそうじゃない部分も知っている。それを踏まえて自分にはない引き出しも用意してくれるし、「こういうの好き?」ってポンポン球を投げてきてくれるから、そのやり取りが刺激的ですごく勉強にもなるんです。プロデュースされる側の自分、プロデュースする側の自分の両方の面で成長している実感があります。あと別の方から「このご時世だから『OVERDOSE』という曲のタイトルは変えたほうがいいんじゃないですか」という意見をもらったんですけど、何か特定のトピックを揶揄しているわけではなくて、今の時代感を伝えたくてこういうタイトルにしたので変えずに進めました。音楽は自由なものであるべきだと思うし、それがさっき言った「踏み込んでもいい」ってことだと感じました。だから仲間と一緒に自分がやりたいこと、伝えたいことが表現できる環境をこれからも作っていきたいです。

「自分に制限をかけなくてもいい。J-POPという括りに縛られても面白くない」

ー作曲スタイルで言うと、いろんな人が複数携わって曲を作るという意味で「コライト」に今回は近いですよね。

『FULL MOON』に比べて外部の方に頼むことが多かったんですけど、今回の曲は自分に無いものを欲していた感じがあるというか。もちろん「Who Are You?」みたいに自分のリリックじゃなきゃダメな曲は自分で書く。でも今回は任せるところは任せてみて、一緒に作っていった感じです。僕一人だとどうにでもできちゃうじゃないですか。でもこの曲は赤色だと思って外の人に投げたら、緑色で戻ってきてビックリしつつ、しかもそれがすごくいいこともある。周りにクリエイターがたくさんいるから、自分のビジョンを共有して彼らに任せることで、僕の視野も広がる。そんな感覚で今回のアルバムは作れましたね。結果的にコライトが多くなったのは、そういうことかもしれません。

ー登坂さんのソロワークスを突き動かすものって、クリエイティブなものを作りたい!という衝動の他に、いまの日本の音楽を取り巻く環境を変えていきたいという気持ちもあったりするんですか?

自分が何かすることで日本の音楽業界が大きく変わるかと言ったら、絶対そんなことないんですよ。でも絶対にないからこそ、やっちゃえばよくない?って。自分に制限をかけなくてもいい。J-POPという括りに縛られても面白くないと思いますし、それは僕がいるLDHに対してもすごく感じているところで。気づけば先輩より後輩が多くなって、グループも増えました。だからこそ我々がもっと日本の音楽を面白くするような価値観や仕掛けを発信していかなきゃいけない。別に今のクオリティが云々という話ではなく、外向きのマインドでやる・やらないという意識を持ち続けるだけで全然変わると思うんです。

最近の日本の音楽シーンだと、米津玄師さんやKing Gnuさんのようなミュージシャンの方が鳴らすサウンドが人気じゃないですか。でも僕らのベースにあるのはヒップホップ、R&B、ダンスミュージックで、そういう音楽のカルチャーを日本で盛り上げるためには、自分たちの存在をもっと強くしていかなきゃいけない。あと2~3年したら何周かしてダンスミュージックが日本でまた流行る気がするし、そういう状況を作り出せるようにいろいろ動くことが必要。少なくとも自分は常にそのスタンスで音楽をやっているし、そういう点でLDHも今以上に攻めてもいいんじゃないかなとは感じていて。

自分が「月」だとするとLDHのエンタテインメントは「太陽」

ー今回のSPECIAL SHOWCASEはセルフカバーやカバー楽曲は無く、全曲ソロアーティストとしてのセットリストですよね。そんな中、アルバムでは2作続けてCrazyBoyがフィーチャリングされてますけど、彼とはお互いに刺激を与え合う関係?

そうですね。グループでいるときにあまりそういうことは話さないんですけど、二人でいるとリンクする部分がたくさんあって、お互いのアイデアやクリエイティブなこととか話がすごく合うんです。「LION KING」で一緒にやることになったのも、新曲用のデモをいろいろ聴いていたときに「この曲どう?」ってELLYに投げたら「いいね!」と返事があって、そのときには「LION KING」という曲のタイトルもすぐに浮かんで、ELLYも「それいいじゃん!」と返してきて「じゃあリリック作ろう!」という流れで進めていったんです。「このヴァースはこういう風にして」とか「ここでラップして」とか「こっちのほうがうまくハマるんじゃない?」とか、会話のキャッチボールも自然にできるというかお互いに直感型なので、いいものはいい、ちょっとコレ違くない?の判断も早い。やりやすいですね。

ーHIROOMI TOSAKAとしての活動は、2017年夏前のソロプロジェクト始動より前から登坂さんが考えていたことが根幹にあると思います。月とか青とかのモチーフ。アパレルブランドとかも。それだけ先を見据えて動いてきた登坂さんの「今」の視線の先にあるものは何でしょう?

LDHはHIROさんが作ったものですが、自分が「月」だとするとLDHのエンタテインメントは「太陽」だと思っていて。2020年はLDHのPERFECT YEAR。きらびやかで派手で、太陽のような輝きを放っている。一方で自分は月をテーマにした表現をしているじゃないですか。だからLDHとは異なるエンタテインメントを作るプロジェクトをやらせてほしいと、いま会社に相談しているところです。今後は自分がプロデュースするグループが出てくるかもしれないし、自分がプロデュースする音楽を世に発表できるタイミングがあるかもしれない。あとは「CLAIR DE LUNE」(登坂がプロデュースするプロジェクト)のポップアップ・ストアのように、音楽を通していろんなカルチャーを発信していきたいですし、日本ならではの面白いものを絡めていきたいと計画中です。その根本にあるのは、とにかく何よりも自分が楽しみたいっていうだけなんですけどね。いまは準備段階という感じなので、ぜひまた取材に来ていただけたら(笑)。

「LDH PERFECT YEAR 2020 SPECIAL SHOWCASE / HIROOMI TOSAKA」
SET LIST

01 Who Are You?
02 Nobody Knows
03 NAKED LOVE
04 OVERDOSE
05 WASTED LOVE
06 LUXE / HIROOMI TOSAKA feat. CrazyBoy
07 BLUE SAPPHIRE
08 One Way Love
09 With You
10 One Last Time / HIROOMI TOSAKA feat. BENI
11 EGO
12 Not For Me
13 HEY
14 DIAMOND SUNSET
ENCORE
15 UNDER THE MOONLIGHT
16 CHAIN BREAKER
17 HEART of GOLD

<INFORMATION>

登坂広臣の魅力は「陰」にあり ダンスミュージック隆盛を願う男が語ったビジョン

2nd Album『Who Are You?』
HIROOMI TOSAKA(登坂広臣 / 三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE)
rhythm zone
発売中