KICK THE CAN CREWのLITTLEが、自身のレーベル「JIMOTO RECORDS」よりシングル「八王子少年~春よ、来い~feat.RYOJI」を配信リリースした。松任谷由実の名曲「春よ、来い」をカバーアレンジしたトラックに、LITTLEのラップとともに、ゲストボーカルとしてケツメイシのRYOJIが歌唱で参加。
リリックは、2019年1月28日に亡くなったLITTLEの父への想いが込められている。2015年にリリースされたアルバム『アカリタイトル2』以来となるソロ作品について、LITTLEにインタビューを行った。

―「八王子少年~春よ、来い~feat.RYOJI」は、亡くなられたLITTLEさんのお父さんのことを書かれた楽曲です。このタイミングで曲にしようと思った経緯を聞かせてもらえますか?

2019年の冬頃に、地元に戻ったんですよ。冬から春に変わる頃に「春よ、来い」のビートでラップしたいと思っていたのもあって、春が近づいてきたからオケも発注して制作に入ったときに父親が亡くなったんです。実家の近所に住み始めて「さあ親孝行してやるぞ」ぐらいのタイミングだったし、歌詞を書くとき、父親のことに触れないで仕上げるのもちょっと違うかなと思って、少しどこかで触れようと思ったんです。でも、少しどこかで触れるというのがとにかく難しくて。これでも本当に歌詞をいっぱい書き直しています。本当だったら7番ぐらいまで作りたいぐらいの気持ちでした。ちょっと匂わす程度じゃ無理だったので、八王子を軸にしながら父親の話がテーマになったという感じなんです。

―もともとは、八王子をテーマにした楽曲を作ろうとしていた、と。

八王子に戻ってきたタイミングだったので、出会いと別れを春の曲に合わせてと思っていたんです。
結果的に父親と一緒に救急車に乗れたりもしたし、本当に短い間だったけど帰ってきてよかったなと思っていて。葬式もそうだし、お墓もそうだし、本当に何から何まで初めての経験で。〈この町で大人になる〉というフレーズだけが最初にあって作り始めた曲なんですけど、父親の子どもだってことを再認識しつつも、子どもじゃなくなる感じというのを感じましたね。

―このタイミングで、LITTLEさんが八王子に戻られて、ご実家の近くに住まわれたというのは、どういう理由があったんでしょう?

今まで本当に好きにやらせてもらってきた部分があって。もともとよく地元に帰るタイプではあったので、コミュニケーションをとっている中で、親との関係も少しずつ変わってきたというか。孝行しやすい気持ちになってきた。今までは照れくさいからあまり孝行できなかったけど、照れくさいのを我慢したら喜んでくれるのかなと思えたタイミングだったんです。

―そう決められて帰ってから約3ヶ月でお父さんが亡くなられて、LITTLEさんはどんな心境だったんでしょう。

喪失感というか、こんなにも影響するものかと思いました。自分はわりと母親に懐いていたと思うんですけど、自分が歳をとればとるほどシンパシーを感じるのは父親だったりするんです。家庭の中の1人というより、独立している感じがするし、こういう時こう思っていたのかなと思ったり、自分の中にも同じ父親と同じような部分を見つけることが多くなっていって。月並みですけど、元気なうちにいろいろやっておけばよかったと思いますね。


―仕事に遅刻したことがなく、祭りが好きで最後まで近所の神社で神輿を担いでいらっしゃったそうですね。LITTLEさんから見て、どんな方でしたか?

本当に真面目で、子想いで、最後まで遅刻したことのない人でした。神輿を担ぐ人たちには仲の良い人も多いので、去年の夏には親の代わりじゃないけどちょっと自分も参加して。喪中だから担げはしなかったんですけど、知らないおじさんやいろいろな人から声をかけられて、父親が「応援して、自慢してたぞ」って話を聞いたりして。遺品の整理していたときも、自分のステッカーを貼ってある遺品を見つけて、そこまで言葉は交わさなかったけど応援してくれてたんだなっていうのはすごく感じました。すごくシャイな人だったので。

―父親と息子って照れ臭さというか、絶妙な関係性がありますよね。

そう。やっぱり子どもは子どもみたいで、いつまでも可愛く思ってくれていたんだなって。亡くなる前もスマホの使い方が分からなかったときがあったので、見せてもらっていじっていたら、自分のサイトがブックマークしてあって。それに気づかれて、父親は恥ずかしい顔をしていましたけどね(笑)。

―面と向かって言わないけど、チェックはしていたんですね。


だからこそ、この曲を作ったら喜んでくれるんじゃないかという気持ちだったんです。この春まで元気だったら、タイトルも内容も違うけど聴かせられたかなとは思っていて。

―〈うちんち ユーミン家 わりとご近所〉というリリックがあります。お父さんがユーミンさんと幼稚園、小学校の同級生なんですよね。

本当にご近所さんで、14時になったらユーミンの曲がかかるし、冬になったら商店街は「恋人はサンタクロース」がかかる町なんです。ユーミンのお母さんと、うちのおばあちゃんが知り合いで、近くの和菓子屋で紹介してもらった記憶もありますね。

―八王子出身のミュージシャンの方は多いですが、八王子のことをすごく誇りに思ってらっしゃる印象があります。

地元意識が強いですよね、すごく。

―東京の中でもそこまで地元意識が強い場所ってそこまでないようなイメージがあるんですけど、実際どういう感覚なんでしょう。

東京じゃない感というか。昔の人ほどそう思っているんじゃないかな。昔はすごく勢いがいい町で、人もめちゃめちゃいてって感じだったので。
その時代に育った人はみんなもっと好きなんじゃないかなと思います。

―歌詞の中に〈なんかラッパーって親に感謝ばっかって いじられそうでやんなかったけど〉ともありますけど、別のインタビューで「フィクションとノンフィクションを上手く織り交ぜて歌詞を書く」ってことを以前おっしゃっていました。ここまでノンフィクションを織り込んだ歌詞というのは珍しいですよね。

作品性と言うと堅いけど、ノンフィクションでも創作物を作るのが好きなんです。自分の思ったことを吐露するだけではなくて、みんなのものにしていくのが好きなので、自分の話でもなんでも、作っていく時にラッパーならではのことを言うというか。ユーミンのカバーをしていて、ユーミンって言葉が歌詞に出るんだみたいな(笑)。普通のカバーだと、歌詞を足すこと自体もあまりないけど、こういう形だからこそできる生々しさがあった方がいいなと思って。自分じゃなきゃできないようなことを入れられたらと思ったうちの1つですね。

―表現者である以上、自分のやってきたフィールドで作品にすることから切っても切り離せないことであり、それが誠心誠意の表現なのかなと感じました。

自分が韻を踏むからということもあるんですけど、感情が言葉になったとき、似た音や言葉を探すようになってもう何十年経つし、自分の感情なんだけどフレーズっぽくなってしまうことはある気がしていて。だから、本当にリアルな時だけ歌にしないなんていうのもおかしな話だなと。ちょっとした感情が揺れたときでも「いいなこれ歌にしよう」みたいになっているのに、これだけ大きなことがあった時だけ歌にしないのも不自然だと思って。
本当にくだらない曲とか、ただ韻を踏みたかったから作った曲、くだらない歌もいっぱい作ってきたから、1曲ぐらい大切なことを歌ったところでバチが当たらないんじゃないかと思った部分もあります。

―「春よ、来い」の歌詞にも使われている「沈丁花」という言葉は、春の季語で「不滅」という花言葉も持っていて、本楽曲でも使用されています。すごく余韻のある言葉というか、「春よ、来い」の持つ詫びさびもリスペクトされているというのが伝わってくるリリックだと思いました。

今って、春の歌ってなると「桜」ってフレーズを入れとけっていう風潮もあるのかなと思うんですけど、その言葉数と世界観の湿り方はすごいなと思うし、なかなかできないことだなって。逆に、僕みたいにこんな言葉数の多さしかないタイプの曲を作っていて、少し思ったことをどれくらい広げて長く言うかという表現をしていると、「春よ、来い」はやっぱりすごいなって感じましたね。

LITTLEが「春よ、来い」に載せてラップする亡き父への想い


―『アカリタイトル』が出た時のインタビューで「キャリアを武器にしないといけない」ということもおっしゃっていました。「自分がジジイになった時に、どうラップするか」ということも語られていましたね。

結果、今回それをしていますね(笑)。昔はどのジャンル、どのトピックでも表現をしたいと思っていたし、楽しくラップとライブができればよかったけど、今は限られた時間と可能性の中で、大事なものを優先していくというか。それを歌う必要性がないと、すぐに曲にしようって考え方ではないというか。

―そういう意味で、地元・八王子は今ラップするべき大切な場所ということなんですね。

そうですね。
韻も活動もそうですけど、自分を作ってきたもの作っているものを深く掘って、研ぎ澄ましていこうという気持ちになっています。

―今回のリリースは新しく立ち上げたレーベル「JIMOTO RECORDS」からとなります。どうしてレーベルを立ち上げようと思ったんでしょう。

今回の曲は独特な性質もあり、自分たちでかなり進めていた部分もあったんです。なので発売しようというタイミングでは、制作陣とか関わった人間がかなり固まっていた。父親に対しての想いだったりを説明して分かってもらったからこそ、この曲ができていたと思っていて。それをそのまま届けるにあたって、あまり手を加えずに届けられればという意味で、自分たちのレーベルを出そうと思って。それでJIMOTO RECORDSと名付けたんですよね。

―2017年6月には、KICK THE CAN CREWでの活動を再開させたほか、いくつかのグループでもメンバーとして活動されています。その中で、ソロ曲を作る周期というか、タイミングというのは、どういうものなんでしょう?

普段から歌いたいこととか言いたいことがあるタイプなので、こんな韻を踏みたいとか曲は想像していて。それが欲求として出したいってなってきたらかな。

―YouTubeチャンネル「愛韻TV」でもゲストを呼ばれて、韻の研究とというか探求をされています。そこへの意欲は尽きないというか。

自分でやっていて探求追求しているっぽい感じはしているんですけど、みなさんが言うシステムみたいなものがあまり分かっていなくて。だから、本当にずっと愛でているだけというか(笑)。もちろん、やっている中でできているはずと思ってはいるんですけど、楽しむ側をずっとやってるって感じですね。今回は言葉遊び発信ではなくて、自分の中でライミングに寄ってない曲なので、気持ちを吐露している感がすごく強くて。恥ずかしいんですけど、ずっと聴いてくれている人には、もしかしたら言いたくてここは言っているんだろうなっていうのがバレるんじゃないかと思う。韻が多少甘くなることによって、ここは本当にいいたいことだったんだろうなって、バレることがあるかなって。そこもこの曲の別の楽しみ方というか。

―今後のソロ活動の予定は、現在ある程度考えていらっしゃるんでしょうか?

このまま制作はしていこうと思っていて。八王子に戻ったり、自分の中でもかなり変わった時期なので。環境が変わると言葉も変わるし、気づくことが多くなる。こんなことを歌いたいということも出てきているから、そこまで間をあけずに楽曲を作り続けていければと思っていますね。今って配信が主流だから、あまり関係ないのかもしれないけど、1曲1曲刻んでいったらアルバムにしたいじゃないですか? 1曲出すってことはアルバムを出すって気持ちではいる世代だし、そこで一区切りつくというか。この数年は、他のユニットをやったり、わりといっぱいアウトプットした時期で、そのままKICKの制作に入ったって感じだったので、ここ2年ぐらいがわりと自分の中でまた一つの区切りだったんですね。

―本作には、同じ八王子出身のケツメイシのRYOJIさんが参加されているのも大きなトピックの1つですよね。

サブスクで聴く人が多いと思うんですけど、最後まで聴いてもらうとRYOJIくんがすごいいいよっていう(笑)。最後のRYOJIくんのコーラスを聴いて、うおって思ったんですよ。だから、そこまで聴いてもらえるといい感じだなと思います。

―最後の〈この町で大人になる〉が1番はじめにあったというのを知った上で聴くと、また違った気持ちで聴こえてくると思います。

アウトロをと思って作った歌詞ではあるんですけど、その時にはこんな形で、自分がこの町で大人になったことを実感するとは思っていなくて。むしろ「大人になったぜ!」って気持ちで作ろうと思っていたから。リリックの部分では、そんなに「春よ、来い」感を出していなくて。だからこそ、RYOJIくんのフレーズを聴いて「おーそっか! そんなのやっていいんだ!」と思ったというか。俺はラッパーだから歌詞をいじっているけど、RYOJIくんは流石だなと思って。しかも、そこがすごくいい! おーすげーと思いましたね。

―サブスクで「春よ、来い」を検索すると、いくつかカバーは出てきますけど、ここまでアレンジしている曲は珍しいと思います。

なかなかこの曲に新たな要素とか入れにくいじゃないですか? RYOJIくんのパートはそこはすごく新鮮に感じました。もとの曲にあるオリエンタルな感じもあって、ちょっと怖いというか。和モノだからこその怖さみたいなものが少し出て背筋が伸びるというか、自分たちの日常とは違う力が感じられるフレーズだと思うんですよね。ぞわーっとするというか。こういう内容の曲だからこそ、すごく神秘的なものを感じましたね。マスタリングとか、ずっとRYOJIくんのパートを大きくしてくれって、いつも言っていました(笑)。なので、最後まで聴いてもらえたらと思います。


<リリース情報>

LITTLEが「春よ、来い」に載せてラップする亡き父への想い


LITTLE
デジタル限定リリース
『八王子少年~春よ、来い~feat.RYOJI』

配信日:2020年3月1日(日)

LITTLE OFFICIAL HP:http://little.vc
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