彼らと長い時間をともにすることで、FAITHというバンドの結束力の高さや地元愛の深さを間近で感じることになった。そして、思った。Akari Dritschler〈アカリ・ドリチュラー〉(Vo)、ヤジマレイ(Gt)、レイ・キャスナー(Gt)、荒井藤子(Ba)、ルカ・メランソン(Dr)――こんなにも愛すべき5人組を自分はほかに知らない。
2月2日、時間は午前10時。見事な晴天で上着がいらないぐらいの陽気だ。集合場所は伊那市駅近くにあるメンバー行きつけのカフェ。伊那市駅というぐらいだから大きい駅だろうと思っていたら、意外なぐらいこじんまり。早い時間ということもあって、人はそれほど歩いていないが、寂しいというよりは穏やかな雰囲気だ。
カフェに入ると、5人のメンバーがすでに談笑中だった。午前中にもかかわらずテンションが高い。ヤジマを中心に、最近ハマってるというサウナについて楽しそうに話している。

コーヒーとサンドイッチ おかもと(伊那市駅前)にて(Photo by Kazushi Toyota)

Akari Dritschler〈アカリ・ドリチュラー〉(Vo)Photo by Kazushi Toyota

ヤジマレイ(Gt)Photo by Kazushi Toyota

レイ・キャスナー(Gt)Photo by Kazushi Toyota

荒井藤子(Ba)Photo by Kazushi Toyota

ルカ・メランソン(Dr)Photo by Kazushi Toyota

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カフェで軽く撮影したあと、彼らが活動の拠点としていたライブハウスGRAMHOUSEへ徒歩で移動。

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そこで待ち受けていた店長の大澤良太朗氏に軽く話を聞いた。彼がFAITHのメンバーと初めて出会ったのは、彼らがまだ中学生の頃だったという。GRAMHOUSEにやってきた「えらくちっちゃいヤツら」(大澤)がバンドを始めたと聞いたときは、その若さもあって、将来に期待していたという。そして、高校2年生ぐらいの頃にはすでに「いいバンドになった」と感じていたという。

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大澤氏が思うFAITH最大の魅力は、「バンドを楽しんでやっていること」。「ステージを観ていても楽しそうだし、フレッシュですよね。音楽に関しても、アメリカに出ていってもそのままやれるようなサウンドになってると思います」と高く評価している。
GRAMHOUSEの2階は広いバースペースになっている。そこに飾ってあった一枚の絵に目が留まった。夕日の上に「FAITH pre. Time Leap」と白くペイントされているこの作品はヤジマの手によるもの。高校の美術の授業で、福井のキャンプ場から見える大好きな夕日をモチーフにして描いたそうで、その上に大胆に文字を書き足し、自分たちの企画イベント用に流用したという。それがいまだに飾ってあるのだ。GRAMHOUSEのFAITHに対する愛情を感じる。

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バースペースの別の壁には3枚の写真が飾られていて、そのうちの一枚に荒井藤子が演奏する姿が収められていた。「この写真を撮ってくれたカメラマンが高校の後輩で、私のこと大好きでいてくれて」と荒井は笑った。

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話を聞いてみると、FAITHのメンバーは3年前にGRAMHOUSEが現在の場所に移転する際に引っ越しを手伝ったり、そもそもギターのヤジマとレイは2人ともここでバイトをしていたぐらい繋がりが深い。学生時代は毎週末、GRAMHOUSEに集まっていたそうで(Akariの家からは車で30分以上もかかるそうだが)、この場所を”おうち”と表現する荒井の言葉は誇張でもなんでもないのだろう。ふと壁を見やると、2年以上前、彼らがまだ全員10代の頃にリリースした1stミニアルバム『2×3BORDER』のポスターが貼ってあった。そこにはメンバーの字でこう書いてあった、「大人になったら呑みにきます!」。

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「同じ信州人として応援している」
GRAMHOUSEを出たあとは、メンバーおすすめの撮影スポットに連れて行ってもらった。伊那スキーリゾート、通称「イナリ」だ。

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そこへの道中、様々な話をメンバーから聞いた。高校時代、レイとルカは学校帰りにわざと知らない道を通って、スケボーができそうなスポットを探していたこと、女子チームは電車と徒歩で何分もかけてアピタ(地元のショッピングモール)まで遊びに行ったり、リサイクルショップのセカンドストリートに入り浸ってたこと……東京で聞いたらなんてことない話も、ここ、伊那で聞くとやたらとリアリティがある。そんな話を彼らはつい昨日のことのようにイキイキと話すのだ。

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撮影が押してしまい、本日のリリースイベント会場である平安堂伊那店に着いたのはスタート1時間前。しかし、勝手知ったる場所ということもあり、メンバーに焦りはなく、テキパキとセッティングを進める。平安堂は長野県内に展開している、書籍、CD、DVD、文具・雑貨など取り扱う店舗で、かなり広い作りになっている。店内ではFAITHの最新作『Capture it』ももちろん大展開。そのそばにはメンバー宛のメッセージを綴るためのノートが置いてあって、小さな子供からお年寄りまで、様々な層の人々が次々とメッセージを書き込んでいく。そのノートを少しめくってみたところ、「ロックのことは何も分からぬ中高年」と名乗る人物が、「同じ信州人として応援している」と達筆な文字で思いを伝えていた。

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即売スペースに陳列されたCDは飛ぶように売れていき、まだリハ中にもかかわらず、どんどん人がやってくる。最終的には300人以上の人が集まっていたのではないだろうか。東京などの大都市とは違って、この店は誰もが徒歩で簡単に来られるような場所ではない。そんな場所に300人も集めるというのがどれだけすごいことか。予想以上の集客に店側も嬉しい悲鳴をあげ、何度も注意喚起のアナウンスをし、最終的には本来は使わないはずだったステージ裏に位置する2階エリアを開放することになった。

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ミニライブは定刻どおりにスタート。1曲目は新作のオープニングナンバー「Party All Night」。軽やかなコーラスワークと、Akariの跳ねるような歌声が実にFAITHらしい1曲。歌い終わるとAkariは「ヤバい! 最高です! さすが地元!」と喜びを隠さない。ヤジマも「めちゃくちゃうれしいです!」と顔を上気させている。そのあとも、テイラー・スウィフト「Mine」のカバーや、再び最新作から「By My Side」と披露していく。

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「Yellow Road」は上京して最初のスタジオ練習の時にできた
個人的に『Capture it』のポイントになっていると思うのは等身大の10代の感情を綴った「19」。「サビでギターにシンセをユニゾンで入れたり、現代の音楽をFAITHがやったらどうなるかっていう感じでつくりました」(ヤジマ)と語っているように、これまでのFAITHにはなかったEDMっぽいテイストがありつつも、彼ららしいいなたいサウンドも損なわれていない。それはインストアイベントという環境でもしっかり伝わってきた。
最新作は、「自分たちの音楽のためにも流行りは追わないといけないと思ってるんだけど、それをやりすぎちゃうと曲が先行しちゃって、誰がやってるのか関係なくなっちゃうような気がして。聴いてすぐにFAITHってわかるような曲にしたい」(レイ)というように、90年代アメリカンオルタナティブをベースにしたサウンドからの彼らなりの進化を図ろうとしている。そのために、今回の制作に5人はより多くの時間を割いたという。
「今まではアレンジができたら歌をつけて、それをそのまま出してたんですけど、今回はアレンジをつくって、歌をつけて、その歌を聴いてからまたアレンジを歌に寄り添わせるっていう工程が加わったので、歌がより前に出てる」(ヤジマ)
「自分の声をすぐ近くに感じて欲しくて、もっと感情を込めたり、歌詞の意味を考え直して、こういうことを伝えたいからこういう感情で歌おう、みたいに意識しました」(Akari)
「これまではギタリストとしての考え方のまま曲をつくってたから、俺が俺がっていう感じが強かったんですけど、お客さんが聴くのはボーカルだし、FAITHらしさも真ん中にAkariの歌があってこそだから、今回は引くところは引いて、頭を使って曲を作れたかな」(レイ)
「ベースの役割を考えるようになったし、FAITHのベーシストはどうあるべきなんだろうってことを考えるようになりました。今回はそれを確立できたと想います。『2×3BORDER』に比べたらフレーズはシンプルだけど、これまで以上にしっかりと支えるリズム隊になってると思います」(荒井)
「うん、しっかり支えてるね」(ルカ)
と試行錯誤の末に獲得した自信が5人の言葉からもうかがえる。
話を戻そう。

Photo by Kazushi Toyota
いつの日か「イナフェス」を
まさかのアンコールまで起こったライブは40分にわたって行なわれ、終演後はCD購入者への特典としてサイン会が開催された。これがまたとんでもない行列で、150枚以上用意したポスターは1枚しか残らなかったという。

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「おめでとう」「応援してるよ」「伊那出身って言ってくれるのがうれしい。もっと広めて」。そんな言葉をメンバーは地元の人々から直に受け取ったようだ。メンバーの家族はもちろん、中学の同級生、ピアノや歌の先生、小学校の校長先生といった人たちも大きくなった5人の姿を見に駆けつけてくれた。「お世話になった人に観てもらえたのがめちゃくちゃうれしい」というAkariの言葉にメンバー全員がうなずいていた。

Photo by Kazushi Toyota

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この日、一日一緒に気づいたのは、メンバーの口からやたらと「イナフェス」という言葉が出てくること。彼らはフェス不毛の地である伊那で、いつの日か自分たち主催のフェスの開催を目論んでいるのだ。「うちらが活躍すればするほどこの伊那っていう場所の存在も全国に知ってもらえるはずだから、そうなったらいつかきっと実現できるよねって」(ヤジマ)。それはたしかにそうだろう。FAITHにとって伊那は、「ホーム」というひと言では決して説明しきれないほどの想いがある場所。今日はその序章にすぎない。FAITHが故郷に錦を飾るその日まで、5人の活躍を見守っていたい。心が温かくなりっぱなしの一日だった。FAITH、本当にいいバンドだ。

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<PROFILE>
FAITH
長野県伊那市発。Akari Dritschler[アカリ ドリチュラー](Vo) 、ヤジマレイ(Gt&Vo)、レイ キャスナー(Gt&Vo)、荒井藤子(Ba) 、ルカ メランソン(Dr)からなる平均年齢20歳の男女5人組バンド。
2015 年、別々の高校に通うメンバーが伊那GRAMHOUSEに集まり結成。メンバーのうち3名が日米のハーフというユニークな構成。90年代洋楽をルーツに感じさせるサウンドにメインストリームのメロディが融合した、新世代が鳴らすグローバルポップ。ボーカルAkariの瑞々しく伸びやかな歌声も魅力。
2017年開催の10代限定夏フェス「未確認フェスティバル2017」ファイナリスト。同年11月リリースの1st Mini Album『2×3 BORDER』がApple Musicの今最も注目すべき新人アーティスト作品に選出される。
2018年12月、”ロックプリンセス” クリッシー・コスタンザ率いるAgainst The Currentワールドツアー東京公演のオープニングアクトに抜擢。
2019年4月リリースの2nd EP『Yellow Road』がタワーレコードの推薦作品 ”タワレコメン”に選出され、楽曲が「テラスハウス」のBGMに起用される。
2020年1月15日、Major 1st Album 「Capture it」をVAPよりリリース。全編英詞の新人としては異例となる全国71ものラジオ/TV局・番組でアルバム収録曲がパワープレイに選出され、ラジオオンエアチャート国内月間1位を獲得するなど、音楽へのピュアな熱量とボーダーレスな本格サウンドを兼ね備えた新時代のニューカマーとして話題を呼んでいる。
Ofiicial Site≫ http://www.office-augusta.com/faith/
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<INFORMATION>

『Capture it』
FAITH
VAP
発売中