関和亮といえば、Perfumeのミュージックビデオやアートディレクション、「恋ダンス」で話題になった星野源「恋」のMVを作成した映像作家。ドローンによる空撮や斬新なCG加工、かと思えば手作りっぽいアナログな手法など、誰も考え付かないようなアイデアをふんだんに用いることにより、思わず二度見してしまうユニークな映像を数多く手掛けてきた。


1990年代の終わりから活動を始めた彼が、世間で大きく脚光を浴びたのは2010年、サカナクションの「アルクアラウンド」からだろう。タイポグラフィを模した歌詞のオブジェが次々と現れるそのトリッキーな映像は、ネット上で広く拡散される「バズ現象」を巻き起こした。このことが象徴するように、2010年代はまさに「SNSの時代」といえるだろう。これまでテレビや映像ソフトなどでしか見る機会のなかったMVが、YouTubeなどでいつでも簡単に見られるようになり、面白い作品はSNSであっという間に拡散されるようになった。

「何度も繰り返し見られるようになったことで、MVの作り方も確実に変わりました。一度見て理解し満足してしまうような作品ではなく、『あれ、これどうなっているんだろう?』『この映像にはこんな意味があるのでは?』など、見るたびに発見がある仕掛けを入れるようになっていきましたね」

また2010年代は、映像技術も大きく進化した。ホンダのUNI-CUB βを使用したOK Goの「I Wont Let You Down」では、ドローンを駆使したワンショットの映像が話題に。最近ではmiletのデビュー曲「inside you」で、まだ日本に数台しかない「BOLT」という巨大な撮影システムを導入し、これまで見たことのないような映像を作り上げた。「アルクアラウンド」ではテクノロジーに対するアンチテーゼを示した一方で、新しい技術や手法も積極的に取り入れていく。そんな関のフィロソフィーはどこにあるのだろうか。

「基本的に『あまのじゃく』なんでしょうね(笑)。『みんなが使っているから俺も使おう』みたいな考え方は全くなくて、『これはまだ誰も使ってないな』『これは今、誰もやってないな』というモチベーションで動いてる。
誰も手をつけてないところを見つけていくのが楽しいんです」

アーティストの世界観を映像化するため、監督をはじめ多くのスタッフやキャストによって制作されるMV。そこに「作家性」や「時代性」を意識して入れることは「まずない」と言うが、それでもやはり関和亮の「作家性」は作品の中に確実に宿っている。

「確かに、『これ、関さんっぽいと思ったらやっぱりそうだったよ』と言ってくださる方はいますね。ただ、それが何かは自分では分からない。さっき言った『あまのじゃく』な部分、人がやってないことをやろうという『外し』の部分が、僕らしさにつながっているんですかね。画を作っていて、『あれ、これどこかで見たことあるな』と思った部分はどんどん外しますから。ダンスが見えなくてもカメラをぶん回すとか(笑)、照明が顔に当たってなくても気にしないとか、あえて顔を映さないとか。そういう『違和感』が、見る人にとって引っかかるポイントになればいいなと思っていますね」

2017年に独立し、株式会社コエを立ち上げた関。表現の幅を広げると共に、後進の育成にも力を注いでいる。

「若くてやる気のある子はたくさん出てきているんですけど、意外と中堅どころが転職したり、違うことやり出したりしていなくなっちゃう現象が起きているんです。そうすると、僕らの代が何とかしてあげないと、若い子たちの指針がなくなってしまうんですよ。……で、結局ずっと働いてるなっていう(笑)。
でも、人に教えると自分も学べるので楽しいですね」

関和亮が選ぶ、2010年代の代表作

星野源

星野さんとの最初の仕事は「SUN」でした。打ち合わせのときに「思ったように作ってみてください」と言われ、10個くらいアイデアを持っていったら喜んでくれて。その中で、星野さんの1日を追っていくストーリーに決まりました。いくつも部屋が出てくるけど、実は1つの空間を利用して繋がっているように見せています。「踊りを入れたい」と言ったのは星野さん。それならコレオグラフィが重要なので、一番仲の良いMIKIKOさんを提案したら喜んでいただいて。「恋ダンス」を作ったときには、まさか全国を席巻するような現象になるとは想像もしていませんでした。現在、2億回も再生されているんですよね。どんだけ見てくれているんだ?っていう(笑)。「Family Song」の頃から吉田ユニさんもアートディレクターとして加わってくれて、星野さんと僕と3人でよく打ち合わせをしました。「アイデア」については、ダンサーの振り付けを三浦大知くんに頼んだり、途中でモノトーンになったりするのは星野さんのアイデアでした。かなり難産でしたが、その分いいものになりましたね。
ファンの間で深読みされていたのも面白かったです。

サカナクション 「アルクアラウンド」

ちょうど2010年代が始まった年に作った作品。これがきっかけで、音楽業界だけではなく広告業界や一般の人たちが僕のことを知ってくださったので、2010年代の代表作を選ぶとなったらやはり外せないですね。テクノロジーが発展していく中、逆手にとってアナログな手法を取り入れようというアンチテーゼはもちろんありました。そろそろグラフィックやCGを見飽きてた頃だったので、そこに一石を投じてやろうと。「変なビデオ作っちゃったな」と編集室で思った記憶がありますね(笑)。もちろん手応えも感じましたが、まさかこんなにウケるとは思っていなかったです。

Perfume 「TOKYO GIRL」

僕にとってのターニングポイントは間違いなくPerfumeと出会ったこと。彼女たちに関われたことが自分の進む道を大きく変えていってくれたところもあるので、全ての作品と言いたいところですが、2010年代で1本選ぶとしたら「TOKYO GIRL」。「アルクアラウンド」とは反対に、CGをふんだんに使って作りました。ただ東京の街を歩いてもらってもつまらないし、彼女たちをちょっと神的な存在にしたくてオールCGで塔を作り、その頂上までエレベーターで登って踊るというストーリーです。「だったら衣装はエレベーターガールかな!」みたいな軽い気持ちで作ったところもあるけど(笑)、アートワークも含めて一つの完成形だと思いますね。


関和亮が選ぶ、2010年代のベストミュージックビデオ

Sia「Chandelier」
(Dir:ダニエル・アスキル&シーア)

僕はあまり、人のMVを見ないんですよね。「こういうことをやってるなら、じゃあ自分はやらない」といったふうに参考にすることはありますけど。そんな中で「これはやられた」と思ったのが、まあ余りにも有名ですし、僕の作品とは全く関係ないけど、シーアの「Chandelier」。もう有無を言わさぬ素晴らしさ……これは奇跡の作品ですよ。ダンサーの女の子の存在が素晴らしいのですが、それを小細工一つしないで撮っているのも最高です。可憐な可愛らしさと気持ち悪さ、作り込まれた世界観と、このときにしかできない一回性の瞬間が凝縮されていますよね。

関和亮
1976年生まれ、長野県小布施町出身。音楽CDなどのアートディレクション、ミュージックビデオ、TVCM、TVドラマのディレクションを数多く手がける一方でフォトグラファーとしても活動。サカナクション「アルクアラウンド」、OK Go「I Wont Let You Down」、星野源やPerfumeのミュージックビデオなどを手がける。『第14回文化庁メディア芸術祭』エンターテインメント部門優秀賞、『2015 55th ACC CM FESTIVAL』総務大臣賞/ACCグランプリ、『MTV VMAJ』や『SPACE SHOWER MUSIC VIDEO AWARDS』等、受賞多数。

Edited by Yukako Yajima
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