音楽評論家・田家秀樹がDJを務め、FM COCOLOにて毎週月曜日21時より1時間に渡り放送されているラジオ番組『J-POP LEGEND FORUM』。

日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出していく。
2020年3月の特集は、1969年2月に設立され50周年を迎えた会員制レコードクラブ、URC。田家秀樹が選曲した3枚組ベストアルバム『URC 50th ベスト・青春の遺産』の全曲紹介をしながらURCの歩みを振り返っていく5週間。第2週目となる今回は、DISC1の11曲目からDISC2の3曲目まで解説する。

こんばんは。FM COCOLO「J-POP LEGEND FORUM」案内人、田家秀樹です。今流れているのは、斎藤哲夫さん「悩み多き者よ」。先月発売になりましたURC50周年ベスト『URC 50th ベスト・青春の遺産』からお聴きいただいております。今月の前テーマはこの曲です。

・斎藤哲夫「悩み多き者よ」

この3枚にはそれぞれテーマがあるんですね。単に代表曲が並んでいるというわけではないです。今の方達に届きやすいようなガイドラインを作ってみました。DISC1は「人生と暮らしの歌」。
DISC2が「旅と街の歌」。DISC3が「愛と平和の歌」。そういう選び方になっています。先週、DISC1の10曲目までお送りしたので、今日はDISC1「人生と暮らしの歌」の11曲目からお届けいたします。中川五郎さん「主婦のブルース」。

・中川五郎「主婦のブルース」

中川五郎さんは大阪の寝屋川高校の3年生のとき高石ともやさんの曲を聴いて音楽に目覚めた。そういう若者だったんですね。この曲は1969年11月に出た1stアルバム『終り・はじまる』の中に入っておりました。この曲を書いたとき、中川五郎さんは20歳になったばかり。団塊の世代ですね。団塊の世代っていうのは、ご両親が戦争に行っているんです。五郎さんのお母さんもそういう戦争体験の持ち主だったんでしょうね。
で、息子がベトナム反戦運動とかそういうところに首を突っこんでしまって、家に帰って来ては親に向かって議論を吹きかける。その中で、お母さんが感じていた「私の人生はこれでいいのか。私の幸せは何なんだろうか」という疑問を、息子が代弁しているという歌であります。

・三上寛「ひびけ電気釜!!」

「キンタマは時々叙情的だ。フンドシはときどき政治的だ」。詩人三上寛の面目躍如ですね。「ひびけ電気釜!!」。さっきの「主婦のブルース」の次がこの曲です。今月はアルバム51曲全部、曲順通りにお聴きいただいております。「主婦のブルース」はそういう受験生を持ったお母さんの歌ですが、これは三上寛さんの故郷・青森県北津軽郡小泊村の当時の情景ということでしょうね。三上寛さんは高校の生徒会長だったんです。その傍らバンドをやっていて、詩集も出していた。
こういう詩を書いていたんでしょうね。そして地元のヒーローの寺山修司さんに認められて、寺山さんのお墨付きももらっているんですよ。今は日本中が東京みたいですけど、70年代のはじめというのは、全国の田舎が東京化しはじめたときですね。田舎が東京の毒や欲にまみれていく様子が三上寛さんの目にはこういう風に写っていたんですね。72年2月に出たアルバム『ひらく夢などあるじゃなし / 三上寛怨歌集』に入っていました。URCは非商業的な音楽ですからね。商業的な歌では歌えないことがいっぱい歌われているわけで、歌っていけないことなんてないんだ、使っていけない言葉なんてないんだというのがURCの精神でもある。これはパンクロックの原点でしょう。この曲の次、13曲目です。

・ザ・ディランII「君の窓から」

ザ・ディランIIの「君の窓から」をお聴きいただいてます。1972年に発売になりました。1stアルバム『きのうの思い出に別れをつげるんだもの』の中に入っております。
さっきの「主婦のブルース」、「ひびけ電気釜!!」が暮らしに煮詰まったり行き詰まったり、ここからどこかに行きたいと思っている人の歌だとしたら、これはさあ窓から出て行こうよという歌、そういう曲順でもあるんですよ。ちゃんとアルバムの中に流れを作ったつもりなので、アルバムとして聴いていただけると嬉しい。配信のように1曲ずつ聴くとアルバムの妙味が感じられませんからね。そういう51曲でもあります。

ザ・ディランIIは、大阪の喫茶店「ディラン」に集まった3人ですね。大塚まさじさん、西岡恭蔵さん、永井洋さんがザ・ディランというグループを作って、そこから恭蔵さんがソロになるために抜けてザ・ディランIIになりました。この曲の詞曲は恭蔵さんですね。恭蔵さんは1999年に50歳の若さで亡くなってしまいました。DISC2が旅の歌を集めたアルバムなんですけど、そうやって旅に出る人、誘われて旅に出る人、自分から旅立つ人、中には追われるように出ていく人というのもいるんではないでしょうか。

・休みの国「追放の歌」

今回ご縁があって51曲選ぶとなったんですが、URCは旅の歌が多いんですよ。当時の若者が、どこかに行きたいということを思いながら暮らしていたということの現れでもあるんでしょう。この「追放の歌」は旅の歌ではありますが、ちょっと旅のニュアンスというか質が違う感じがしたんです。
歌詞をご覧いただくとわかると思うんですが、追われる人の歌なんですね。仲間外れにされて追われるように出ていく。でも、その自分も昨日までは追放する側にいた。ちょっと曲が明るいので、なかなかそこの歌詞のニュアンスまで受け止められないという人が多いでしょうが、今の時代の歌かなと思ったんですね。つまり、いじめられて出ていく人、そしていじめられて出て行った人が昨日まではいじめる側にいたという歌だと思うと、この歌はすごい歌だなと思い、「人生と暮らしの歌」のほうに入れました。休みの国というのは、日本語のロックの創世記には忘れてはいけないジャックス。早川義夫さん、木田高介さん、角田ひろさん。和光大学の学生です。その運転手をしていた高橋照幸という若者が組んだバンドなんですね。ジャックスのメンバーもアルバムには参加している。そういうグループだったんですけど、高橋照幸さんも日本を捨ててヨーロッパに行ってしまったんですが、彼も亡くなってしまいましたね。そういう意味でも、それぞれの遺産というのがそれぞれのアルバムに集められています。
「追放の歌」のあとに、何を持ってくるのか悩んだんです。この歌を持ってきました。

・シバ「青い空の日」

シバ。本名が三橋誠さん。漫画家でもあります。絵を書いたりしていますね。ブルースギターの名手。さっきの「追放の歌」のあとに、この「青い空の日」。景色がつながっているような気がしたんですね。どんな風にお聴きになっているでしょうか。さっきURCには旅の歌が多いって言いましたけど、旅といっても新幹線の旅とかではなくて、はみ出してしまっているというんでしょうか。当時ドロップアウトという言葉がありました。みんなが仕事をしているときに原っぱや河原に寝転がって、空を見ながらぼーっと自分の明日を考えたり、自分の詩を書いていたり、絵を描いていたりという人生観。それが今の若い人に共感を持ってもらえるんじゃないかという気もしてます。競争社会で早く走れとか、あいつに負けるなとか、さあ次へ行けとか言われていることに対して、疲れてしまった人がたくさんいるんだろうと。改めてこの頃の歌を聴いたときに、やっぱり何か忘れてきたかもと思う。そのへんも「青い空の日・ブルースカイブルー」の中には出ている気がしました。

・斎藤哲夫「されど私の人生」

斎藤哲夫さんの「されど私の人生」。この曲は知っているけれども、全然違う演奏スタイルで聴いているっていう方のほうが多いかもしれませんね。吉田拓郎さんがカヴァーしてライブで歌っているものもあるので、拓郎さんの歌だと思ってらっしゃる方も多いでしょう。この曲のオリジナルは71年2月に出たシングルなんですけど、これはヴァージョンが違うんです。この曲はアルバムに入っていなかった。シングルだけだったんですが、1stアルバムの『君は英雄なんかじゃない』が再発をされたときに再発盤用のボーナストラックで入ったんです。URCは69年から70年代半ばまでだったんですが、その後権利者がいろいろ変わっているんですね。発売されているレコード会社も違うんです。今回はポニーキャニオンが発売している。そうやって東芝から出たり、avexから出たりしたときに、再発盤のときのボーナス的な何かということで、それまでアルバムに入っていないものを付け加えてアルバムを出すことも結構あって。このライブverというのも、『君は英雄なんかじゃない』の再発のときに未発表盤として入れられたんですね。今回のこの曲も再発盤ならではの曲ということでお聴きいただきました。

さて、DISC1「人生と暮らしの歌」が16曲目まで来ました。次は最後の曲です。17曲目。こうやって週をまたいでいるので流れとしてはお耳に入ってらっしゃらないと思うんですが、1枚として聴いてくると最後これでほっとするという、そういう締めくくりであります。

・岡林信康「申し訳ないが気分がいい」

DISC1「人生と暮らしの歌」17曲目最後の歌。岡林信康さんの「申し訳ないが気分がいい」。どうしてこんな当たり前のことに今まで気づかなかったのか、という歌で終わっております。DISC1の1曲目が「ゆきどまりのどっちらけ」ではじまったわけで、最後にこれを持ってきたのは、岡林さんの当時悩んでいたことはURC全体のそれぞれの若者が同じような悩みを抱えながら葛藤や模索をしながら生きていたんだなという象徴の意味もあって、岡林さんではじめて岡林さんで終えるという順番にしました。実はこの3枚のアルバム、全部岡林さんで終わっているんです。これは岡林さんに対するリスペクト以外の何ものでもないですね。岡林さんのURCから出ている3枚のアルバムは、音楽に興味を持って歌い始めて、フォークの神様に祭り上げられて、そのためにバッシングもされて、シーンから失踪して、京都の山中に隠遁して、ここに辿りつくまでの時間がアルバムに込められていると思うんですね。最後に「申し訳ないが気分がいい」で終わったのは、そんなに大げさな事ではなく、ここに日本の未来があるのかもしれないなと、どうして当たり前のことに気がつかないんだろうという曲だったからです。一旦ここで終わるんですが、ここからDISC2なので気分を入れ替えて1曲目をお届けします。DISC2のテーマは、「旅と街のうた」。1曲目はこの曲です。友部正人さんで「まちは裸ですわりこんでいる」。

・友部正人「まちは裸ですわりこんでいる」

『URC 50th ベスト・青春の遺産』DISC2の1曲目友部正人さん「まちは裸ですわりこんでいる」。これは72年1月に出た『大阪へやって来た』というアルバムに入っております。その前にシングル盤『一本道』のカップリングとしても発売されました。で、DISC2のテーマが「旅と街の歌」です。このURCのベストアルバムで選曲をお願いしますよと言われた時に1番悩んだのが、どういう基準で選べばいいか、どういうテーマで集めればいいか、それをどういう順番で並べればいいかっていうことだったんですね。これまでもURCのベストは何種類か出てます。中にはURCに関わった人、URCが好きだった人、有名な人、無名な人、あまり音楽に関係ない役者さんとかタレントさんが曲を選んでいるものもあるんですけど、もっとテーマというんですか、何かが見えてくるアルバムができないだろうか、1枚のトータルアルバムが作れないかと思って、思いついたテーマがこれですね。DISC1は人生とどう向き合っていたのか。総論的なテーマで、DISC2はそこからどう行動していったか、どう旅に出て行ったか。友部さんのこの歌なんかはまさにそういう典型でしょう。友部さんはこのとき21歳です。さて、DISC2「旅と街の歌」2曲目です。再びザ・ディランII「ガムをかんで」。

・ザ・ディランII「ガムをかんで」

これは1973年に発売になった2枚目のアルバム『secound』に入っておりました。先ほど「君の窓から」をお聴きいただきましたが、この曲は大塚まさじさんの詞曲ですね。もうこのとき恭蔵さんはいません。ディランIIも旅の歌が多いです。大塚まさじさんは今でもそういう旅をされているんでしょう。旅の詩人です。さっきの「まちは裸ですわりこんでいる」もこれも旅立つ歌ですね。72年73年っていうあの頃の話をしますと、ディスカバー・ジャパンという言葉をご記憶の方いらっしゃいますよね? 電通と当時の国鉄がはじめたキャンペーンで、田舎に出よう、旅に出ようという。当時、そういう旅ブームの中で、よく交わされた議論がありました。旅行と旅はどう違うのか。違うんですよ。JALパックとか始まった時ですからね。旅行というのは、パッケージされている旅。目的地も日程も決まっていて、泊まるホテルとかツアーコンダクターもいるみたいなそういうのが旅行。旅っていうのはそうじゃない。ゴールも行き先も決まっていない。予定も何もないから旅なので、旅行と人生を一緒にしちゃいけないという議論がしきりと交わされました。若かったと言えば若かったんでしょうが、今の旅、どうなんでしょうね。猿岩石くらいまではそういう旅だったのかもしれませんが、今はどうなのかなと思ったりします。次の曲は、今日最後の曲になります。このスタンダードソングで終わりたいと思います。

五つの赤い風船「遠い世界に」

これはたぶん70年代フォークの中で最も有名な1曲と言っていいでしょう。五つの赤い風船はURCの主要なグループでした。69年2月の第一回会員向け配布アルバムというのがありまして、片面が高田渡さんで片面が五つの赤い風船という変則アルバムだったんですね。その中に入っていたのがこの曲です。その前68年に、ビクターからこれはシングルでも出ているんですね。愛唱歌として知っている方が多いのは、そういうメジャーで出たということもあるんでしょう。でも、同時にこの曲は、「戦争を知らない子供たち」がそうだったように賛否両論の対象となったりしました。頭脳警察のPANTAさんのように、生ぬるいという意見もあったり、甘っちょろいとか、そういう声もあったんですが、でもやっぱりみんなが口ずさめる歌としてずっと歌われてきました。URCは男性が多いって話をしてきましたが、五つの赤い風船は、西岡たかしさん、藤原秀子さん、中川イサトさん、長野隆さん。この藤原秀子さんの歌声というのもグループの魅力でしたね。で、西岡たかしさんは23歳になるときです。僕たち若者がいるっていうこの僕たち若者っていう、実は、当時もこそばゆい感じもあったんですけど、これが今の23歳の若者たちはどんなふうに感じるのだろうと思いながらお送りしました。

竹内まりや「静かな伝説(レジェンド)」

「J-POP LEGEND FORUM」URC50周年『青春の遺産』パート2、日本で最初の大規模なインディーズレーベルURCの50周年を記念して発売された3枚組ベストアルバム『青春の遺産』の全曲紹介。今週はパート2、DISC2「旅と街の歌」の3曲目までお送りしました。流れているのは、この番組の後テーマ竹内まりやさんの「静かな伝説(レジェンド)」です。

今回50周年で、アルバム21タイトルが再発売されるんですね。ベスト盤を作ってくれと言われたときに21枚全部聴いて、さあどうしようというところから始めたんです。今聴くと、とても素朴な歌とか、地味な歌とか、ほのぼのとした歌とか、胸に染みる歌とか、いろんな歌がありますね。これが今の若い人たちにどう聴かれるのだろうというのが、選んでいるときに1番の関心の的でもありました。きっと地味だな、暗いなと思われるんじゃないかと思いながら、でもその中に何か通じ合えるものがあるのではないかという密かな願いも込めて選んでみました。何しろ、誰でも歌える歌なんです。本当に難しい歌はありません。ギターを持ってコードを5つくらい知っていれば歌える歌が多いです。この自分の歌をうたえるんだよ、こんなふうに18でも22でも25になっても、年齢関係なく自分の歌をうたえるんだよということを改めて、もう一回思い出してみるのはどうだろうというのがテーマでもありますね。歌の背景、歌の内容、時代によって変わっています。変わるものと変わってしまったもの、いろいろあります。中でも旅の形というのは1番顕著に変わっているんだなと。旅と街の歌を選んでいるのはおもしろかったです。旅は冒険との引き換えではなくなっているのかと思いながら、来週もDISC2の4曲目から『青春の遺産』をお聴きください。

<INFORMATION>

田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソナリティとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp

「J-POP LEGEND FORUM」
月 21:00-22:00
音楽評論家・田家秀樹が日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出す1時間。
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