動画プラットフォームとしてのYouTubeは、繊細さとは無縁だ。いつ何時も数十億人ものユーザーが、キャッチーでカラフルなサムネイルと大文字オンリーのテンション高めなSEO重視の見出しで、クリック数を競い合っている(「5 MCRIBS IN 5 MINUTES MCDONALDS MUKBANG CHALLENGE(マックリブ5個を5分で完食! モクバンチャレンジ・マクドナルド編)」。だが、黎明期のYouTubeは今よりもっと、ずっと静かだった。
YouTubeでも特に有名なサブジャンルのひとつが、自律感覚絶頂反応(Autonomous Sensory Meridian Response)、略してASMRだ。あまり知られていない神経学的な現象で、頭皮や首筋、背筋に走るゾクゾクするような感覚のことだ。少ないながらも現在公表されている研究によると、非常に強く感じると言う人もいれば、全く感じない人もいる。感じるという人の間でも、その効果は実に多種多様だ。「脳がうずくようだ」と表現する人もいれば、完全な「脳内オーガズム」だと言う人もいる。だが、確かにわかっていることは、ASMRは特定の、ただしこれまた多種多様な聴覚上・視覚上の刺激によって引き起こされるということだ。タップ音、ひっかき音、囁き声、摩擦音、リップ音、あるいは絵筆やペンを滑らせる音。
2010年、医療ITコンサルタントのジェニファー・アレン氏がASMRという用語を考案して以来、YouTubeがコミュニティーに集いの場を提供してきた。ASMRコミュニティーはこの10年で、フェチと揶揄されたひと握りのユーチューバー(通称ASMRtist)の手を離れ、大きなムーブメントへと成長し、ASMR動画の閲覧回数は数十億回にも及ぶ。
ASMRの誕生から過去に例を見ない成長までを追うべく、ローリングストーン誌はASMRtist、研究者、セラピスト、広告業界の重鎮らに話を聞き、彼らの(物静かな)言葉でコミュニティーについて語ってもらった。
序章:ASMRとはどんな感じ?
WhispersRed(ユーチューバー):
最初は頭のてっぺんで、弾けるような、ゾクッとするような感じがして、運が良ければそこから頭の後ろの方に降りてくるの。
カート・ラムゼイ(公認カウンセラー/セラピスト):
頭皮がモワモワッ、ゾワゾワッとする感じですね。
EphemeralRift(ユーチューバー):
気持ち良くて、恍惚して鳥肌が立つ感じ。でも身の毛がよだつとか、ブルッとするっていうような、嫌な感じはしない。もっと温かくて、心地いい感覚。
Amalzd(ユーチューバー):
お上品な表現が思いつかないね。脳のオーガズムっていうのが一番しっくりくるかな。
ASMRの刺激は、大きく4つに分けられる。
HeatherFeather(ユーチューバー):
誰かに髪の毛をいじられたり、ヘッドマッサージをしてもらう時。
カート・ラムゼイ:
手や顔を触られるのは何でもOKです。
クレイグ・リチャード博士(シェナンドー大学教授/ASMR大学創設者/『Brain Tingles』著者):
子供の頃は寝るのが嫌いでした。お話を読んでもらっても、母が何をやっても、なかなか眠れませんでした。でも母の指を取って、前腕の内側をすうっとなぞると、直ぐにウトウトしました。魔法みたいでしたね。
続いて聴覚。
リチャード博士:
最もよく知られているのは低い声、またはマイクに向かって囁く声です。紙を丸める音や擦る音など、物音の場合もあります。
WhispersRed:
昔公園でビー玉遊びしたときの、ビー玉の音。
カート・ラムゼイ:
トントン、と叩く音。
視覚。
マリア、またの名をGentleWhispering(ユーチューバー/ASMRtist):
誰かの視線、アイコンタクト、自分が世界の中心だという感覚。
カート・ラムゼイ:
優しい手の動きや、そっと顔を触れる仕草。
そして4つ目はその他諸々。
HeatherFeather:
(PBSの番組『ボブの絵画教室』の司会)ボブ・ロスを見ること。
リチャード博士:
高校から帰るなり、ボブ・ロスの番組をつけていたのを覚えています。彼を見ているうちに頭がうっとりして、床の上で眠りこけていたものです。
第1章:「変な感じが心地いい」 ASMRがASMRたるゆえん
ASMRを経験したという人の大半は、物心がついたときから感じていたが、批判されたり、性的興奮と誤解されるのが怖くて、誰にも言えずにいたという。この感覚にきちんと名前が付けられたのは2010年になってから。当時医療ITの技術者としてニューヨーク州北部で働いていたジェニファー・アレン氏が、SteadyHealth.comの2007年のフォーラム記事をたまたま目にしたのがきっかけだった。「変な感じが心地いい」と題したそのスレッドでは、匿名の投稿者がこぞって「脳のうずき」「脳内オーガズム」と呼ぶ感覚についてあれこれ語っていた。
HeatherFeather:
母に説明する時は、「衝撃」と呼んでいたわ。母にはさっぱり通じなかったから、私もそれについて話さなくなった。大きくなって友達と遊ぶようになると、レストランに行くじゃない? そうするとウェイトレスとかがすごく良い声をしてるわけ。私が「やだ、今のウェイトレスの声最高」って言うと、他の子は「えっ、あんた女の子が好きなの?」って。「ちょっと待って、何言ってるの、みんなも感じない?」って言うと、みんなは感じないって言うのよ。だからまたそれきり誰にも話さなくなった。
GentleWhispering:
今までずっと、(ASMRを感じると)妙にゾクッとするというか、「くすぐったいような感じ」がする、って言い続けてきた。すると周りは変な顔で私を見るの。私の言っている意味がさっぱりわからない、って感じで。だから、あんまり話題にしなくなった。
ジェニファー・アレン:
私の初ASMR体験は19歳のとき、初めてのデスクワークに就いたときでした。あの時の感覚は今も覚えています。
一人ではないことに勇気づけられたアレン氏は、この奇妙な、名前のない感覚について語り合うFacebookグループの立ち上げを思いついた。だがそれには名前をつける必要があると思った。
ジェニファー・アレン:
”Autonomous(自律)”という言葉は、個人個人でそれぞれ違うこと、本人がコントロールできる場合もあることを示す、私なりの表現です。(次に)とても激しく、上り詰めるような感覚なので、頂点を指すような表現がしたいと思いました。でも”Climax(クライマックス)”という言葉は使いたくなかった。
第2章:「もっと大きな声で話しなよ、なんでヒソヒソ声なの?」 『ビッグ・ブラザー』から囁き文化が生まれた
2009年、ASMRの原型ともいえる史上初の”囁き動画”がYouTubeに投稿された。音声のみの2分足らずの動画は、イギリス英語の女性が真っ黒な背景で囁くというものだった。「囁き声が大好きだから、自分が囁く動画を作ってみようと思ったの。すっごい変でしょ」と、WhisperingLifeという女性が動画の中で語る。WhisperingLifeの動画が人気を集めたことで、数十名のユーチューバーが独自の”囁き”動画を作り始めた。
WhisperingLife(ユーチューバー):
YouTubeを見てたら偶然『ビッグ・ブラザー』シーズン8の動画にたどり着いて、出演者が互いに囁き合っているの。何人かがコメント欄に「うわ、すごく気分が落ち着く」って書いてた。もっと囁き声がないかと思って検索してみたんだけど、ひとつも見つからなかったから、自分で作っちゃえば?って思ったの。すごく変わってるね、とか、「もっと大きな声で話しなよ、なんでヒソヒソ声なの?」と言う人も何人かいたけど、全体的にはかなり好感触だった。『ビッグ・ブラザー』シーズン8の動画にチャンネルを立ち上げたってコメントを残したら、そこから大勢の人が私のチャンネルに流れてきたわ。
QueenOfSerene(ユーチューバー):
ある女の子は文字通りテーブルに携帯を置いて、テーブルの上に積まれたエプソムソルト(バスソルト)を摘んでは落とす、ってことをやっていたの。なんてことない音だけど、うっとりしちゃった。
HeatherFeather:
メイク動画がたくさんあったね。メイクしてるところや、友達とおしゃべりしてる様子とか、その手のもの。あとは、ただひたすら自分のコレクションを列挙したり、披露したりとか。
QueenOfSerene:
昔は本当に少人数だった。お金も絡んでなかったしね。
WhispersRed:
昔は新しいクリエイターが出てくると、みんなすぐに見に行ったわ。あら、今週はまた違う子が来たわね、って感じ。
Amalzd:
グループチャットとかもやったこともあったわね……どのサーバーだったか覚えてないけど。プライベート・チャットルームでおしゃべりしたり、Skypeしたり。必ず私たちを目の敵にする人がいて、よく話のネタにしてたわ。「この人、何してるんだろうね?」って。まだ新しかったものを通して、絆を深めることができた。秘密を共有するみたいな感じだったわね。
第3章:「インターネットの秘密の花園」 ASMRコミュニティーが発言権を得る
2010年末には、「ASMR研究&サポート」と題したアレン氏のFacebookグループは100人強のメンバーを抱えていた。オーストラリアのセロトニン研究者など、いわゆる「脳のうずき」の原因に対するそれぞれの解釈を提唱する科学界の人間も少数紛れ込んでいた。別の一派はどちらかといえばスピリチュアルで、原因解明よりも形而上学的な意義に興味を持っていた。この頃には、多くのメンバーがASMRを引き起こすとされる”囁き”動画を投稿するようになっていた。動画を投稿する際、クリエイターは”ASMR”というタグを使い始めた。
WhisperingLife:
名前があるっていうのはいいなと思ったわ。以前は「囁き声とかタップ音が好きなんです」って言うと、周りから「ちょっとおかしいんじゃない」って言われた。でも今は、「実際はASMRって呼ばれてて、こういう理由で好きなんです」って言える。ずっと受け入れてもらいやすくなったわ。
Gibi ASMR(ユーチューバー):
インターネットの秘密の花園みたいだったわね。
そうした初期の囁きアーティストの1人が、GentleWhisperingことマリアだ。ロシアからアメリカに移住してきた20代のブロンド女性も、今ではASMRの女王として広く知られている。7年以上も前に作られた彼女の人気動画は2200万回も再生されている。
メリンダ・ロウ(ASMRのライブ体験を提供する企業、WhisperLodge社の創設者):
GentleWhisperingは昔から大好きなの。ちょっとロシア訛りがあるところが好きだったわ。彼女はすごく思いやりがあって、誠実そうな感じの人。作ってるような感じじゃない。
Amaldzd:
ASMRと言って、真っ先に思いつくのが彼女。ASMR界のマイケル・ジャクソンってとこね。
QueenOfSerene:
あの当時は誰も顔を表に出していなかった。タブーだったのよ。クリエイターがこの手の「顔出し」動画をやると100万回は再生されたわ。みんなクリエイターの素顔に興味津々だったからね。
GentleWhispering:
当時はみんな真っ黒な画面でしゃべってるだけで、カメラに向かってロールプレイしてる人が1人もいないことに気づいたの。今ほど動画フォーマットを活かしてる人は多くなかったのよ。それで私が始めたってわけ。
QueenOfSerene:
マリアが最初に顔出しを始めたときは、ある意味ポルノ的だった。「えっ、彼女、顔出ししてるわよ」って……間違いなくASMRコミュニティーの転換期だったわね。
HeatherFeather:
マリアがよく話してたわ、顔出ししてASMR音声に対抗してASMR動画を作ったことに、周りがどれほど驚いたかって。そのせいで反感もたくさん買ったみたいだけど。
QueenOfSerene:
(でもあれは)完璧なタイミングだったと思う。みんな思い切って顔を出したがっていたのよ。
HeatherFeather:
それで、もっと奥の深いロールプレイが出てくるようになった。動画の良さをフルに活用して、みんなどんどんクリエイティブになっていったわね。
QueenOfSerene:
カメラを直視するって、実はとても怖いのよ。ポジティブな感想がもらえるなら気にならなくなるんだけど、でも妙よね。慣れるまでは変な感じがするわ。リビングには自分とカメラしかないのに、カメラに向かって甘い声を出したり、撫でたりね。
第4章:「それって性的なもの?」という質問
最初期から、大半の人々はASMRを性的なものと決めつけ、”囁き”動画はある種のフェチだと思い込んだ。こうした外部による思い込みはコミュニティーが誕生してすぐの頃からあり、コミュニティー内部の人々は過敏にならざるを得なくなった、とジェン・アレン氏。SteadyHealthのスレッドでも、一部のユーザーがASMRを「脳内オーガズム」と表現し、すぐに別の人間が「これは性的なものではない、と擁護する12ページにも及ぶ投稿をする」といったことがよくあった。特に最初の頃は、人気コンテンツのクリエイターが若くて魅力的な女性だったことも裏目に出た。
ジェニファー・アレン:
匿名の健康関連のフォーラムでも、最初は明らかにみんな口にするのを憚っていましたね。「家族に話したら笑われた」とか「変だとかキモいとか言われたり、どうせセックス絡みだろうと思われた」とか。
ヴァレリー・ファリス(『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』共同監督):
感覚が刺激されて、身体的反応が引き起こされるんです。官能的ではありますが、必ずしも性的とは限らないと思います。
WhispersRed:
ものすごく静かに、物音を立てずに、ゆっくりカメラに近づく。顔の表情ひとつひとつが見えるくらいにね。昔ながらの普通のメディアならたいていこういうのは性的な映像だから、その視点から見ると変だと思われるのよ。
EphemeralRift:
男が囁くっていうのは、少しハードルが高かった。まだそれほどポピュラーじゃないからね。普通家でゴロゴロしながらいきなり囁いたりしないだろう。父は僕たち兄弟に囁いたりしないし、周りにも「さっきのNFLの試合どう思う?」なんて囁く奴はいないだろ?妙な内密さがあるんだ。
だが現在公開されているASMR研究の大半は、全く性的ではないと反論している。
クレイグ・リチャード博士:
ASMRの最中はどんな気分か、という質問を投げかけます。2万人以上のASMR経験者にアンケートをとって、反応リストの中から――「リラックスする」「怖くなる」「心地いい」「性的に興奮する」――該当するものにチェックを入れていただきます。すると、「性的に興奮する」にチェックを入れた人は10%未満ですが、「リラックスする」にチェックを入れた人は90%を超えているんです。
WhisperingLife:
性的に興奮して、同時にリラックスなんてあり得る? 私に言わせれば、それこそおかしいわ。
メディアが煽る偏見と勘違い
しかしながら、コミュニティーが拡大し、GentleWhisperingをはじめとするASMRtistが数十万人のチャンネル登録者を集めるようになると、後からやってきたユーチューバーが再生回数を稼ぐために性的要素を盛り込んだ筋書のロールプレイをするようになるまでそう時間はかからなかった。ある程度は理解できる、というASMRtistもいる。ASMR動画の大半が親密さを売りにしている以上、GentleWhisperingも言うように、「正直、囁き声に性的要素や官能的要素が含まれるのは当然」だ。しばしば”官能ASMR”と呼ばれるこのサブジャンルは、2010年代初期からすでに存在している――と同時に大きな波紋を呼び、今もその余波が続いている。
QueenOfSerene:
性的な動画を作るユーチューバーには本当迷惑してたの。あれほどムカついたことはなかった。あれのせいで、何年かはコミュニティーから離れていたぐらいよ。
WhispersRed:
私に言わせれば、ガッカリだわ。私は自分のためだけじゃなく、ASMRの偏見をなくして身体的感覚の奥深さを理解してもらうおうと、コミュニティーのために頑張っているっていうのに。子供がいるんだけど、前にうちの子たちが学校から帰ってくると、他の子に「お前のママはポルノ動画作ってるんだろ」って言われたって報告してきたの。うちの子は「違うよ、ママはそんなことしてない」って言い返さなきゃならなかった。
GentleWhispering:
私も最初の頃は、特に音の部分に官能的な要素を盛り込もうとしたわ。今はもうやっていないけど……全然普通だと思うし、ASMRにも2つを融合するコンテンツクリエイターがひとつのジャンルを確立している。そういうのが見たい人にとってはいいことだと思うわ。(でも)最近は明らかに、私のようなチャンネルには、露骨に性的なものを匂わせるものはないわ。
こうした偏見は初期のASMRのメディア報道でも見られ、ほとんどがセンセーショナルに騒ぎ立てたり、人気女性クリエイターに特化していた。例えば2012年のViceの記事は、ASMRとタグ付けされたYouTube動画の「悩ましいほどに官能的な」一面をテーマにしている。
HeatherFeather:
ユーチューバーもメディアも、私たちのやってたことを面白半分に取り上げて、性的フェチとして扱ってた。
WhispesrRed:
イギリスの『This Morning』っていうTV番組に出たことがあるんだけど、プロデューサーがみんな優しくしてくれたから「ワオ、みんな理解してくれてるんだ」って思ったわ。いざオンエアになると、画面の下1/3のところに「囁きポルノ:お試しなさいました?」 みたいな私の紹介テロップが出てて、私はスツールに座ってカメラがパンするのを待ち構えてた。カメラが向けられたとき、「ちょっと、一体どういうこと?」って気持ちだった。それでメイン司会者の1人に近づいて、ヘッドマッサージャーを使ったんだけど、マッサージを始めた途端バリー・ホワイトの音楽ががんがん鳴り出して、みんな大笑いよ。出演依頼を受けたときは、まともなインタビューっていう話だったのに。ASMRを知ってもらう最高のチャンスになるはずだったのが笑いものにされただけだった。身も心もボロボロ、いいカモにされた。本当、ASMRコミュニティーをバカにしてるわよね。
第5章:いざメインストリームへ
「インターネットの奇妙な世界」と呼ばれる場所で何年もくすぶっていたが、ある日ASMRtistは妙なことが起きているのに気がついた。メインストリームになりつつあったのだ。2015年、ASMRの検索件数は倍増し、年を追うごとに着実に増えていった。
WhispersRed:
3年ぐらい前から急に話題になったのよね。
GentleWhispering:
新規ユーザーが大挙してチャンネル登録してくれた。
Amalzd:
あれがピークだったわね、本当にうなぎ上り。動画を投稿したとたん、再生回数がバカみたいに増えていった。
ASMRが趣味以上のものとして認められることになろうとは、黎明期の大半のユーチューバーにはとても考えられないことだった。だがGibi ASMRやGentleWhisperingといったユーチューバーらは実際に昼間働いていた仕事を辞め、何百万人ものチャンネル登録者を集め、その結果広告収入をがっぽり手にした(ただし、ローリングストーン誌が取材したASMRtistで具体的な数字を挙げたものは誰もいない)。過去にASMRtistを紹介したことがあるPewDiePieやRooster Teethといったチャンネルが18~25歳を中心とする膨大なオーディエンスを獲得したことで、YouTubeは若者カルチャーの中心となった。
HeatherFeather:
GibiとかASMR Darlingとか(いずれも2016年にPewDiePieのチャンネルで取り上げられた)第3世代のクリエイターが現れて、若者を引き入れてくれたの。
ベン・ディーニー:
YouTubeカルチャーとコンテンツ作成カルチャーが盛り上がっているのが目に見えた。この2つが同時に発生したことで、新人クリエイターが大量に生まれたんだと思う。
HeatherFeather:
若い子は、自分の趣味嗜好を恥ずかしいとは思わない。自分の好きなものに一生懸命で、ファンページも作ってくれる。熱狂的なファンとして宣伝してくれる。それでASMRにのめり込んだ若者が、ASMRtistを応援し始めた。世間から受け入れられるようになったのは、そのおかげだと思う。
メリンダ・ロウ:
インターネット上のニッチなものから、誰もが知ってるジャンルのひとつ、日常のものになったんです。
ついにメジャー映画にも飛び出した。最も有名なのが、エマ・ストーンとスティーヴ・カレル主演の映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』だ。この映画のシーンは、ASMRにヒントを得た史上初の長編作品、と言っても過言ではあるまい。主人公のビリー・ジーン(ストーン)が、後に恋人となる美容師のマリリン(アンドレア・ライズブロー)と初めて出会うシーンだ。共同監督のヴァレリー・ファリス氏とジョナサン・デイトン氏はポストプロダクションの音声編集チームと密接に協力し、ハサミの音をサラウンドで加えて美容室の椅子に座ったときの感覚を再現。ライズブローとストーンには声量を落として話すよう指示した。
CM、音楽をきっかけにさらに注目を集めるASMR
ヴァレリー・ファリス(『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』共同監督)
椅子に座って、他の人に髪を触られ、シャンプーしてもらい、パーソナルスペースの内側で話しかけられる。その感覚は誰もが知っています。その感覚を可能なところまで引き出して、ビリー・ジーンになったつもりで感じてほしかったんです。
ジョナサン・デイトン(『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』共同監督)
映画館でもASMR体験を生み出せるかどうか、という実験でもありました。
ヴァレリー・ファリス:
あの映画で、他のどのシーンよりも特に話題になったのが髪を切る場面でした。みんな無意識のうちに(ASMRの存在に)気づいているんですよ。
大手ブランドも目をつけはじめた。先陣を切ったのは、初のアメリカ農務省認定オーガニックビールを謳ったMichelobのライト・ウルトラゴールドの画期的なCMだった。
フレッド・レヴロン:(FCB Global社、ワールドワイド・クリエイティブ・パートナー)
全てが騒々しくて、CMが次から次へと映し出される時代に、最大手の自然派ブランドが45秒間のピュアなオーガニック体験を、数十万人のアメリカの視聴者に提供できたら最高だろうと思いました。そういもの全てから視聴者を解放したかったんです。
ハワイの熱帯雨林の真ん中で、テーブルに腰かけたゾーイ・クラヴィッツが囁きながらボトルをそっと叩くCMはたちまち大きな話題になった。Michelob Ultraのマーケティング副部長、アザニア・アンドルーズ氏によると、CM放映後ビールの売上本数は倍増したそうだ。これもまた、ASMRコミュニティーを全く新しいオーディエンスに紹介する橋渡しとなった。
GentleWhispering:
スーパーボウルの最中にあの広告が流れた後、チャンネル登録者が一気に増えた。みんなそれまでASMRなんて聞いたこともなかったのね。大勢の人々がコミュニティーに集まったわ。
フレッド・レヴロン:
抜群のタイミングだったんでしょうね。既存のオーディエンスには十分知られていたけれど、メインストリームのオーディエンスにはまだ知られていませんでしたから。
Gibi ASMR:
翌日、いろんなブランドから「弊社もASMRをやります」っていうメールが10件ぐらい来てたわ。「へぇ、なるほどね」って思った。
ASMRはポップ・ミュージックにも登場した。中でも有名なのが、ビリー・アイリッシュのアルバム『When We All Fall Asleep, Where Do We Go?』だ。
Gibi ASMR:
ビリー・アイリッシュとASMRはものすごくウケた。彼女の独特の歌声が良かったのよ。ちょっと低めで、気持ちが安らぐ感じ。だから、ASMR界との結びつきはごく自然だった。
クレイグ・リチャード博士:
歌にASMRの手法を取り入れたと言われるビリー・アイリッシュが、グラミーで最優秀シンガー賞を受賞するということは、ASMRへの認知に繋がります。
両者の結びつきは、200万人以上のチャンネル登録者を誇るASMRtistのGibi ASMRがアルバムをカバーしたことで、不動のものとなった。Gibi曰く、カバーアルバムの話はアイリッシュのレコードレーベル側から声がかかって実現したそうだ。
Gibi ASMR:
彼女があの動画を見たかは知らないわ。でも確か、何かのインタビューで「私は囁いてるんじゃない」って言ってたのを聞いたことがある。ASMRtistと比べられて、囁いてるって言われるのが嫌だったみたい。実際彼女は歌ってるんだからね。でもユニークよね。私たちみたいに、マイクにすごく近づいて歌ってるように聞こえるでしょう。そして本当に耳心地がいいのよ。
第6章:ASMRtistとYouTube:トラブルだらけの関係
クリエイターがYouTubeに群がり始めると同時に、ASMRtistは動画で広告収入を得るべきか、という議論も激しさを増していった。ごく初期のユーザーは、たいていリラックス目的や睡眠目的で動画を活用していたため、騒々しい爆音広告を見せられると怒り狂った。ASMRが資本主義のビジネスとして見られるのでは、という抵抗もあった。
ASMRが性的なものだという偏見も、ユーチューバーと同プラットフォームの関係にひびを入れた。ローリングストーン誌の取材に応じたASMRtistはみな口を揃えて、累計何十億回もの再生回数を誇るジャンルであるにも拘らず、YouTubeから「性的コンテンツ」とみなされたり、収益化を止められたことがあると言った。
HeatherFeather:
クリエイターやユーザーの中には、広告は断固反対っていう人もいる。ASMR動画を作る人は、まるで聖人か何かみたいに、おまんまを食ったり家賃を払ったりする必要はない、って思ってるみたいよ。
Amalzd:
「ASMRで金儲けするべきじゃない、ASMRを貶める行為だ」って激怒した人もいたわ。私はそんなことないと思う。だって、ミュージシャンなら歌でお金をもらうけど、歌うのが好きなことには変わらないでしょう。
ベン・ディーニー(ASMRtistのマネージャー):
みんな、ASMRを汚されたくないんだね。
HeatherFeather:
Patreon[訳注:アーティストやクリエイター向けのクラウドファンディングプラットフォーム]も相当物議をかもしたわね。最初に使い始めたのは男性アーティストなのに女性のASMRtistが真っ先に袋叩きに合った。それで女性も同じように使い始めたら「この女はASMRを台無しにした。ASMRを商業目的にした」って言うのよ。
ASMRの収益化は、最初のうちは確かに波紋を呼んだかもしれないが、ASMRが浸透するにつれ次第に認められるようになった――だが収益化に伴って、収益化停止という別の問題も持ち上がり、クリエイターの頭を常に悩ませている。
HeatherFeather:
「ASMRは脳内オーガズム」っていうキャッチーなイメージをメディアが定着させたせいで本当に困ってるわ。そのせいでYouTubeは私たちにかなりの影響力を持てるようになってしまった。
WhispersRed:
YouTubeは特にASMRコミュニティーに良くしてくれたわけでもないと思う。その時々よね。
Amalzd:
私の知人は定期的に動画を投稿しているわ。ただ手が写ってる、性的じゃないやつ。でも「ASMR囁き声」とかいうタイトルだったら(YouTubeから不適切だと)警告されるのよ。
Gibi ASMR:
私が一番カチンと来たのは、手術着を着たナースを演じたときね。前の週、病院に行ったときの経験を100%忠実に再現した内容だったの。手術着を着て、実際にナースにされたのと同じことをした。「これが性的だっていうの? だとしたら、医者を訴えるべきじゃない?」 本当に頭に来たわ。
YouTube、そしてアンチとの戦い
WhispersRed:
アルゴリズム、コンピューターの仕業だよ。ある意味、完全にASMRの世界とは正反対ね。ASMRは身体的感覚、人と繋がるためのツールだけど、プラットフォームは人間にアルゴリズム化を促すもので、一にも二にも再生回数、再生回数、再生回数。
Gibi ASMR:
1年ぐらい前かな、みんな収益化を止められて、さっぱり理由がわからなかった。「ASMRは終わり? 私たち、もう生計を立てられないの? どうしよう?」 YouTubeの言いなりになってるから、彼らの好きなように収益化を止められちゃうのよね。契約も何も結んでないし。
WhispersRed:
前にYouTubeが「#SeduceMeInFourWords(4文字でその気にさせて) 自立感覚絶頂反応”っていうツイートをしたことがあるの。ようするに、”その気”っていう言葉を使った段階で、YouTubeでその言葉を使った人間はASMRを全く理解していないってことよね。
Gibi ASMR:
「YouTubeは本当にバカね、何にもわかってないんだから」って感じだわ。
160万人の登録者を抱える14歳のユーチューバーLifeWithMakはガイドラインに違反しているとして動画12本を削除され、YouTubeからしばらく姿を消した。削除された動画のひとつは、YouTubeによるところの「思わせぶり」な仕草で、彼女が巣蜜を食べるというものだった。
LifeWithMak:
巣蜜を食べる動画が、不適切なコンテンツだという理由で削除されたの。えっ? なんで? って言う感じだった。だって、トナカイ柄のパジャマを着てたのよ。どうしてそれが不適切なわけ?意味わかんない。
YouTubeは声明を発表し「弊社には、ASMRコンテンツを禁じるポリシーはございません。事実、YouTubeはASMRコンテンツを歓迎しております」と述べ、さらに「広告に関しては、YouTubeの全てのコンテンツ同様ASMRコンテンツも、広告掲載の資格を得るためには広告ガイドラインを遵守していただかなくてはなりません」と続けた。
ソーシャルメディア上の多くのコミュニティーがそうであるように、ASMRtistも長いこと嫌がらせに悩まされてきた。
HeatherFeather:
脅迫は日常茶飯事。レイプ予告もね。
ベン・ディーニー:
実は今朝もひとつ問題が起きてね。クリエイターのクライアント企業に、彼らのディープフェイク映像を送りつけた奴がいたんだ。
Amalzd:
「ジハードの戦士は故郷に帰りやがれ」なんて言われることもあるわ。「中東出身なのに、なんでヒジャブをつけてないんだ?」っていうコメントもよく見る。
HeatherFeather:
みんなそんな”醜い”ものから視聴者を守ろうとしている。こっちはみんながリラックスできるコンテンツを一生懸命作ってるんだから、心穏やかでないものは極力目に入ってほしくない。それに安全面の問題もある。公に何か言うと、どうしても悪意のある人から嫌なことをたくさん言われる。だからそれ以上傷つく人が出ないように、裏側は裏側に留めておく人が多いと思う。
第7章:ASMRは芸術、エンターテイメント、それともセラピーか?
初めの頃はASMRの性的一面ほど注目されなかったものの、ASMR動画をセラピー目的で使う人たちもいる。コメントの多くは精神的障害に悩んでいる人や、鬱やPTSDを抱えている人たちからだ。たいていは何らかの不眠症、あるいは睡眠障害を抱えていた。
GentleWhispering:
シングルマザーから消防士、救急隊員まで、あらゆる年代層の人たちからコメントをもらうわ。みんな毎日ストレスを抱えていて、一日の終わりには正気を保ってられないって言うの。でもASMR動画を聞くと、ようやく気分が収まってリラックスできるんですって。
Amalzd:
一人の女性から一度手紙をもらったことがあってね。出産中に私の動画を見たんですって。おかげで無事、落ち着いて出産できましたって。忘れられないわ。
QueenOfSerene:
ある男性が自分は今アフガニスタンにいるんだって言って、同じ部隊の仲間の名前とか、仲間内でどの動画が人気だとか、部隊のこととか、現地での任務とかを語ってくれた。みんなで集まって動画を見てくれているんですって。胸がぎゅっと熱くなったわ。だって、彼らは本当に大変なことをしているのよ。たくましいタフな男たちが、戦争で戦うために派遣されて、夜になると私がメイクとかしてるだけの動画を見てるの――そう考えると、なんか気恥ずかしくなっちゃった。
HeatherFeather:
Redditのユーザーからメールをもらったんだけど、軍隊に所属しててPTSDを抱えていたんですって。それまで床で寝ていたけど、私の動画のおかげでまたベッドで眠れるようになったって言うのよ。これぞまさに、人と人との繋がりって感じだわ。
QueenOfSerene:
(ASMRコミュニティーに加わった時)私は鎮静剤中毒から回復しているところだった。リハビリをして、人生の生きがいを探していたの。回復してはいたけど、何カ月もずっと眠れなくて苦労してた。だから、「おかげでPTSDが良くなりました」っていうメッセージをもらうと、嘘じゃないのがわかる。私も経験者だから。
GentleWhispering:
本当はこんなこと言うべき立場じゃないんだけど、間違いなく癒し効果はあると思う。私自身、動画を作っているときにその効果を感じるもの。他の人たちのためにペースを落とすことで私も助かっているの。
WhispersRed:
(2010年の冬に)交通事故に遭って、何度も手術を受けたの。子供の面倒が見られなくて、本当に助けが必要だった。最悪の時期だったわ。長い間車椅子生活だった。身体を動かせるようになって、また歩けるようになったと思ったらPTSDの症状が出てきたけど、自分ではPTSDだという実感はなかった。単に母親業に疲れてるんだと思った。睡眠や瞑想のために波の音を検索してたら、最終的にASMR動画にたどり着いた。みんな精神疾患のことを、ものすごくオープンに語っていたわ。鬱とか、PTSDとか、そういうの。私も自分を観察したら同じ問題を抱えるってことに気がついたの。それまでは自分が問題を抱えているなんて思いもしなかった。ただ中途半端な人生を送っていた。そのとき、助けを求めたの。ASMRコミュニティーは本当に私の人生を変えてくれたのよ。
ASMRの効果を巡る研究
何年間も、クリエイターたちは治療目的でのASMR利用の可能性を探るべく、さらなる研究の必要性を訴えてきた。2015年、初めての学術論文がスウォンジー大学から発表された。475人の参加者を対象にトリガーや感覚に伴う身体的反応などについてまとめたものだ。慢性的な痛みにASMRを使っている(全体の19%)と答えた人のうち、42%がASMR動画を見ると効果的だと答えた。2016年の研究ではfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて、ASMRを体験している人とそうでない人の脳を比較した。その結果、前者のグループは後者よりも多くの機能的結合性が見られた。だが、こうした研究は小規模で行われることが多く、多くの研究者や医学専門家はASMRを治療目的に使うことに未だ懐疑的だ。
ホイットニー・ローバン博士(一般及び法人向け睡眠スペシャリスト):
今日に至るまで、(ASMRに治療効果があることを)証明する科学的データが十分にあるとは言えません。
リチャード博士:
懐疑的になるのもご尤もです。科学の出発点は疑うことですからね。
ローバン博士:
ASMRが不安障害や鬱、PTSD、睡眠障害の改善に効果があるらしい、と発表している研究はわずかながらありますが、その大半はASMRに敏感だと自称しているだけの人たちに基づいたものです。
2018年、10人の被験者で行われたとある研究は、ASMR体験中の脳の動きにスポットを当てた。リチャード博士が共同研究者を務めたこの実験では、被験者をMRIにかけ、ASMRの動画を見せて、いわゆる”ゾクゾク感”を感じたらボタンを押してもらった。
リチャード博士:
うずきを感じていないときと比較すると、脳の主要エリアの数カ所がより活性化していました。特に範囲が大きかったのは前頭前皮質内側部という部分で、オキシトシンに反応することで知られ、身繕いといった親和的行動、または社会的行動に関係するエリアです。もうひとつは報酬行動やドーパミンに関係するエリアで、脳のこのエリアが活性化しているときは何かいいことが起きているということを意味しています。
ローバン博士:
興味深い研究ですね。ドーパミンは実際、脳のメラトニン生成を抑制する働きがあります。それでもやはり、ASMRが不眠症やその他睡眠障害にどれほど効果があるかという点では疑問が残ります。リラクゼーションには効果があるかもしれませんね。眠りの前段階として確かにリラクゼーションは重要ですが、睡眠前にASMR動画を見るのはいかがなものでしょう。睡眠前はメラトニンの生成を抑えるのではなく、増やしたいところですから。
被験者の数は極めて少ないものの、実験結果はリチャード博士が現在取り組んでいる説をある程度裏付けている。ASMRは身嗜み、接触、ハグなど、社会的繋がりを確固たるものにする、いわゆる”親和的”行動、または社会的交流と関連した、画期的な反応ではないだろうか。
リチャード博士:
これまで行われたfMRIを用いた親和的行動についての研究は、大切な人と時間を過ごしているとき、好きな人のことを考えているとき、ポジティブな社会的行動や他者との社会的交流を行っているときなどに焦点を当てており、共通して活性化する部分が多く見られました。これを踏まえると我々の研究結果は、ASMR動画を見ると脳はまるで大切な人と一緒に同じ部屋にいるかのように反応する、と解釈できます。
第8章:ASMRの未来
今日、ASMRは間違いなくYouTubeの人気ジャンルのひとつだ。セレブやブランドもこのブームに飛びつき、進取的なZ世代の若者はフォロワーを増やすため、検索に引っかかりやすいタイトルをつけ、定期的に自作の動画を投稿している。ASMRが性的なものだという偏見は未だ残るが、メインストリームに少しずつ進出しているおかげで、それも急激に払拭されつつある。黎明期からコミュニティーを支えてきた人々の多くは、爆発的ブームに複雑な思いを抱く一方、いつか科学的権威が本気で研究してくれるだろうと期待を寄せている。
GentleWhispering:
昨今、ASMRはなんでもありね。モクバン、スライム、知覚玩具にハンドスピナー、昔だったらASMRとは呼べなかったものまでね。
QueenOfSerene:
今は何かヒネリが必要ね、「ASMRを感じない人向けのASMR」とか「5分で眠れる」とか。
Amalzd:
昔は何かを食べてる動画はそんなに多くなかったと思う。でも今じゃASMRの中でも大きなジャンルになってる。マイクに向かって舌なめずりする1時間の動画なんてすぐ見つかる。
EphemeralRift:
”快感”動画っていうのが流行り出してるんだ。「快感」ってワードで検索すると、スライムをいじっているような動画が上がってくる。それはそれで構わない、好きなことをやればいい。だけど一部の人が特定のキーワードやぱっと目を引くものを使うようになったとは思う。
メリンダ・ロウ(WhisperLodge創設者):
スーパーボウルでASMRのCMが流れてから、いきなり問い合わせが殺到し始めました。The WingやMoxie Hotelから仕事が来たり、つい先週もHerbal Essencesと仕事をしました。Kahluaの新商品の立ち上げも我々がやりました。
ジェニファー・アレン:
KFCのCMもそうですね。カーネル・サンダースがムシャムシャかぶりついて、ハンカチーフをたたむ動画をYouTubeに投稿してた人がいました。面白かったとは思いましたが、何かが欠けているような気がしたんです。たぶん、ASMRは少し迷走しているんじゃないでしょうか。みんな再生回数に踊らされて、要点をちゃんと理解していないと思います。
QueenOfSerene:
それが一番大きく変わった点だと思う。注目集めに必死。飽和状態ね。もはや人助けなんてそっちのけ。
Amalzd:
この先、もっと拡大していくんじゃないかしら。
QueenOfSerene:
私は治療目的で使ってほしい。何らかの認定があったらいいなと思う。今は催眠術師とかヨガの先生とかも資格があるでしょ。もっと資金を投入して、もっと多くの研究が行われれば、そういう風になると本気で信じているの。
クレイグ・リチャード博士:
次の大きな目標は臨床研究です。まだ臨床研究を行った人は誰もいません。行うなら不安障害や不眠症などの診断を受けた患者を募集し、ASMR治療を受けてもらいます。そのためには治療内容を策定、定義し、すでに実証されている不安障害や不眠症の治療と比較しなくてはなりません。
これまでの変化とこれからの展望
より多くの研究が進められる中、カウセリングの専門家や睡眠スペシャリストの中には、施術にASMRの原理を取り入れている者もいる。
カート・ラムゼイ:
カップルを診るときは相手と共感できるような生産的な会話の仕方をいつも教えています。最近は「お二人には座って会話をしていただきます。話題は何でも結構です。ただし、互いに囁き声でしゃべってください」と言うようになったのですが、非常に面白いことが起きるんです。オフィスのソファに座ったカップルの身体が近づいていくんですよ。普段は大声で喧嘩するカップルも、囁き声で話し出したら「なんだか親密な雰囲気。これなら上手くやれそう。今は意見が合わないけど、これなら上手くやれそうだ」って気分になるんです。
ASMRは大企業に今後もさらに大金をもたらすだろう。
メリンダ・ロウ:
ASMRは今伸び盛りの健康業界全体の一部です。誰もが次の健康トレンドとして狙っています。
フレッド・レヴロン:
非常に活動的で、感度の高い巨大なオーディエンスが確実に存在します。企業にとっては間違いなく狙い目ですね。
GentleWhispering:
航空会社が機内エンターテインメントにASMRを導入し始めているわね。それが次のステップじゃないかしら。理に適ってると思うの。フライト時間は長いし、ASMRは睡眠にぴったり。これぞ理想の組み合わせね。
Gibi ASMR:
私が興味あるのは、次にどのプラットフォームが来るか、ということ。YouTubeはこの先もずっとASMRのホームグラウンドであり続けると思うけど、YouTubeがどの方向に進むかが見えないのよ。Spotifyでも上手くやってるし、これからはあらゆる大手プラットフォームを制覇するんじゃないかしらね。
ジェニファー・アレン:
私が今まで見てきた大きな変化のひとつはみんな(ASMRを)当たり前のものとして受け入れられるようになったことで、本当に喜ばしいことです。個人的にも、それがコミュニティーの大きな目標のひとつでした。だから、皆さんが自由にASMRについて話しているのを見ると嬉しいんです。もう恥ずかしがる必要もないし、作り話だと思われることもないんです。
WhispersRed:
ヨガだって、日常生活に馴染むまで20~30年かかったのよ。子供の頃、年配の女性がよく「ヨガなんかに現を抜かして」って言ってたわ。ニューエイジのヒッピーのものだと軽視されてたのね。今じゃ完全に普通だし、みんなフィットネス目的でやってる。ASMRも、同じような形で認められるにはまだまだ時間がかかるでしょうね。
QueenOfSerene:
インターネット版『裸の王様』ね。他のみんなは変だと言うけど、ある日はたと気がつくの。ちっとも変じゃないって。