先日開催され、世界中が注目したチャリティイベント「One World: Together At Home」。同イベントを主催したグローバル・シチズンの共同設立者であるヒュー・エヴァンスCEOが大成功をおさめた音楽番組をたった2週間半で実現させた経緯、そしてその実現の裏にはレディー・ガガの実母のサポートがあったことを本誌に語ってくれた。


グローバル・シチズンのヒュー・エヴァンスCEOは、新型コロナウイルスの最前線で働く医療従事者を支援するチャリティ・イベント「One World: Together At Home」をどのようにして実現させたのか? ローリングストーン誌に語ってくれた。

米現地時間4月18日夜、国際支援団体グローバル・シチズン主催のチャリティ・イベント「One World: Together At Home」の一環として、ローリング・ストーンズポール・マッカートニースティーヴィー・ワンダーレディー・ガガテイラー・スウィフトビリー・アイリッシュをはじめとする幅広い世代の大物ヒットメイカーが2100万人近いオーディエンスの前でパフォーマンスを披露した。8時間に及ぶライブストリーミング・イベントのラスト2時間は、米3大テレビ局はもちろん、複数のケーブルテレビチャンネルでも同時オンエアされ、(日本でもフジテレビでオンエアされた)新型コロナウイルスと戦うさまざまなチャリティ団体のために企業やスポンサーから1億2800万ドル(約138億円)近い寄付を集めた。

「これは、まさに奇跡以外のなにものでもありません」と同イベントを主催したグローバル・シチズンの共同設立者・CEOのヒュー・エヴァンス氏は米ローリングストーン誌に語った。「175カ国の60のグローバル放送ネットワークと大手デジタルプラットフォームでオンエアするイベントを実現できるか? と3週間前の私に訊いたとしたら、そんなことは絶対に不可能だと笑って返したでしょう」。

新型コロナウイルス対応の認知向上と資金調達のサポートをアーティストたちに呼びかけるというアイデアは、本来アミーナ・J・モハメッド国連副事務総長によるものだった。モハメッド氏は、エヴァンス氏がかつて一緒に仕事をしたクリス・マーティン、ナイル・ホーラン、ショーン・メンデス、カミラ・カベロら複数アーティストを結集するよう依頼したのだ。エヴァンス氏は世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長と会談すると、テドロス事務局長はシンシア・ジャーマノッタにコンタクトを取った。シンシア・ジャーマノッタとは、メンタルヘルスの認知向上のためのWHO親善大使であり、レディー・ガガの実母だ。レディー・ガガは今回の試みを「まったく別の次元」に持っていきたいと語っている、とシンシアさんから聞いたエヴァンス氏は、ほどなくして2週間半以内でイベントを実現するという彼女の強い想いに気づかされることになる。

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大物アーティストが一堂に会するイベントの実現は、なかなか手強い挑戦であることがわかった。というのも、グローバル・シチズンが主催しているライブイベント同様、今回の企画はパフォーマンスだけではないのだから。
ジミー・キンメル、ジミー・ファロン、スティーブン・コルベアといった米国を代表する司会者たちもいれば、ビヨンセやアリシア・キーズのようなアーティストが音楽以外のステイトメントを発する場もある。2人の元ファーストレディーのコーナーもあれば、ウイルスと戦う一般市民たちのストーリー、さらには20社以上の企業ならびに慈善事業スポンサーによる費用負担も考えなければならない。「実現させるには、幾千にも及ぶハードルがあったと思います」とエヴァンス氏は振り返る。

イベント決定後、レディー・ガガは、自らポール・マッカートニー、エルトン・ジョン、リゾ等、多数のアーティストに声をかけた。だが、ローリング・ストーンズはイベントへ参加表明を17日まで保留にした。最終的には、4つに分けられた画面に映し出されたストーンズメンバーによる自主隔離版「You Cant Always Get What You Want(邦題:無情の世界)」は、イベントのなかでももっとも話題を集めた。ストーンズの返事が遅れた理由のひとつは、プロダクションの2日前までミック・ジャガーがほかのメンバーと今回のイベントへの参加について話し合うことができなかったからだ。メンバーは4~5日のあいだに動画を集め、エヴァンス氏に参加の意思を告げた。「これは人伝に聞いたことですが、ライブ・エイドに惜しくもバンドとして参加できなかったから、今回こそは機会を逃すまいと思ったようです」とエヴァンス氏は続ける。「(ストーンズの参加によって)本当に勇気づけられました」。

チャーリー・ワッツが披露したエアドラムについて質問されると、エヴァンス氏は声を出して笑った。「全部がエアドラムというわけではないと思いますよ。
最初のカットを観た時は、そばにドラムセットがなかっただけのことだったので、あるもので間に合わせなければいけませんでした。だから、終始エアドラムというわけではありません」とエヴァンス氏は言う。「でも、どうでしょうね。私の専門分野ではありませんから。私の専門は貧困の緩和と経済ですから、チャーリー・ワッツの演奏がエアドラムだったかどうかはわかりません。たとえそうだとしても、面白いことに変わりありません。確かなのは、チャーリーが家中探し回ってさまざまなものをかき集め、家の掃除に来てくれるお手伝いさんにiPhoneを持ってもらいながら動画を撮ったということです。ですから、チームワークの成果と言えるでしょう」。

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イベントの大物サポーターたちが注目を集めるなか、エヴァンス氏は今回のイベントによって成し遂げたいことに集中するよう努めた。「どれだけ多くの人が大切な人や仕事を失い、医療従事者の方々がいまどれだけ一生懸命働いてくれているかを考えると、何かをしたいという気持ちが込み上げてくるのです。彼らこそがこのストーリーのヒーローなのですから」とエヴァンス氏は続ける。「彼らの真価を表現できるような何かをしたいとずっと考えていました。
素敵なショーを提供するだけでなく、不正を正せるような何かを。大勢の人が命を落とし、愛する人を失い、仕事を奪われている苦しい状況下でこうした想いを表現するにはどうするべきか? その点においては、まだまだ不十分だったと思います。でも、ベストを尽くしたかったからこそ、私たちは持てるすべてを注ぎました」。

今回のイベントによって集まった多額の寄付金は、来月中にしかるべき団体の手にわたるとエヴァンス氏は語った。WHOの新型コロナウイルス感染症対応連帯基金には、医療従事者のための5500万ドル(約59億円)の寄付金とともにゴーグル、マスク、フェイスシールドといった個人防護具がおくられる。7200万ドル(約78億円)はホームレスや社会的弱者を支援する世界各地のローカルチャリティ団体に寄付される予定だ。

さらにエヴァンス氏は、この数週間にわたって米政府が非難し続けているWHOへの支持を表明した。先週、トランプ大統領はWHOへの出資金をストップしたばかりだ。「国際連合総会の全面的なサポートを得ている機関はWHOだけです」とエヴァンス氏は語る。「世界規模の対応ができるのはWHOだけなのです」。

「世界レベルで対策がとられない限り、アメリカは経済活動を完全に再開させることなんてできません」と同氏は続けた。「なぜなら、国際線を再開したとしても、私たちはどこにあるかわからないウイルスがそこら中に広まる様子を見てきたのですから。
誰もが職場に戻りたいと思っていますし、仕事を返してほしいと思っています。誰もがコロナ後の"新しい普通"を求めているのですが、当面は不可能です。世界でもっとも貧しい国々の医療システムは非常に脆弱ですから、今回のような感染拡大に対応できず、それが原因となってアメリカに感染拡大の第二波を引き起こしかねない、という事実を把握しなければなりません」。

「私は、これを啓蒙的利己主義とあえて呼んでいます」と同氏は言い足した。「チャリティという観点で他国に興味を持っていなくても、正しい情報にもとづいた利己主義的視点から積極的に支援するべきなんです。あなたの家族、そして私の家族にも関わることです。医療制度が不十分な国は、私たち全員に影響を与えるのですから」。

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