この数週間でストリーミング件数やセールスが急上昇。気分を高揚させる応援歌から世界の終わりの唄まで、ソーシャル・ディスタンスの最中にヒットを記録した8曲を紹介する。


混迷の時期、我々はみな心の平穏や感情の高まり、現実逃避を求めて音楽を聴く。コロナウイルスが全米を席捲し、大半のアメリカ人が自宅待機を余儀なくされてからというもの、まさにそうした状態が続いている。ソーシャル・ディスタンシングが実施された最初の数週間は音楽ストリーミングも落ち込んでいたが、ローリングストーン誌の音楽チャートにデータを供給しているAlpha Dataの数字によると、ゆっくりと平常に戻りつつある。

とくに人々の心に響いたのはどの曲か? ベン・E・キングの「スタンド・バイ・ミー」やビートルズの「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」といった名曲が依然好調を続ける一方、ローリングストーン誌は2~3ケタの伸び率を示した楽曲に注目。3月12日――自宅待機命令が一部の州で少しずつ定着し始めたころ――から4月23日までのアメリカ国内の楽曲セールスとオンデマンド・ストリーミング件数を検証し、もっとも急増した楽曲を調べてみた。

●【写真】コロナ隔離で「あのプレイ」も人気急上昇

1:R.E.M.「Its the End of the World As We Know It (And I Feel Fine)」(邦題:世界の終わる日)

オルタナ・インディーロックのヒーローが歌う、荒廃した地球に捧げる冷笑的でヒステリックな頌歌が、33年の年月を経て再浮上した。3月から4月にかけて、ストリーミング件数は110%ジャンプアップして総計560万件。「嘘つきのトーナメント」のくだりのせいか、はたまた「出し抜かれて困惑顔の、鎖でつながれ、タマをチョン切られた報道陣たちが勢ぞろい」という歌詞のせいか? Tで始まる誰かさんのせいか?

2:ポリス「Dont Stand So Close to Me」(邦題:高校教師)

リリースから40年、楽曲の本来のメッセージ――教師と女子生徒の間に芽生えた愛欲――はなりを潜め、キャッチーなコーラスと時代に即した新たな文脈に席を譲った。楽曲セールスは508%増、ストリーミング件数も81%上昇した(調査期間中340万件)。

3:ジョイ・ディヴィジョン「Isolation」

知る人ぞ知る、1980年の隠れた名曲のひとつ。80年代初期のシンセサイザーの音色は、淡々と繰り返されるタイトルとなんともミスマッチだ。ストリーミング総計はそれほど多くないが(29万8000件)、上昇率は112%。
ストリーミング件数も、封鎖が始まった1週目の3月6日から倍増してのあの数字だ。

4:アンドラ・デイ「Rise Up」

自立と再生を謳った応援歌が最初にリリースされたのは5年前。ガンと戦う友人を見守った経験から着想を得たこの曲は、新たに大量のオーディエンスを獲得した。「立ち去りましょう/山々を轟かせましょう」という気持ちを奮い起こさせる歌詞は、オーディエンスの心に新鮮に響いた。ストリーミングは130万件。セールスも307%急増した。

5:ティアーズ・フォー・フィアーズ「Mad World」(邦題:狂気の世界)

1983年の楽曲に散りばめられた心象風景――「すさんだ場所、すさんだ顔」「楽しくなれる日を待ちわびる子供たち」「学校に行ったけど、すごく気分が落ち着かない」――は、コロナウイルスの何十年も前に書かれたものだ。だが、今年の春に書かれたと言ってもおかしくない。おそらくそれが、3月13日から4月23日の期間中この曲のセールスが倍増した理由だろう。

6:マライア・キャリー「Hero」

ニューヨークの911トリビュートコンサートでも本人が熱唱した1993年のバラードは、全米各地の医療従事者に捧げる献歌に生まれ変わった。「そしてヒーローがやってくる/強さを携えて/恐れを振り払えば/きっと生き残れるわ」 楽曲セールスは75%増、ストリーミング件数は170万回を突破した。

7:キャロル・キング「So Far Away」(邦題:去りゆく恋人)

「戸口にあなたの顔が現れたらどんなに素敵でしょう/こんなに遠く離れてしまったと考えても仕方がないのに」キングの代表作となったアルバム『つづれおり』の中の1曲。
セールスが75%上昇したのもとくに不思議ではない。3月末、キングはこの曲の一節を、歌詞を変えて歌った動画を公開した。「誰もが同じ場所にとどまらなくてはならないの/戸口にあなたの顔が現れたらどんなに素敵でしょう/今は遠く離れていると考えても仕方がないのに」

8:ザ・ファイヴ・ステアステップス「O-o-h Child」

1971年に最初にヒットした時、この心温まるポップ賛歌は戦後や市民権改正後の明るい未来を暗示していた。曲の歌詞――「いつか素敵な日差しのもとを歩きましょう/世界がずっと明るくなったいつの日か」――は、今の世相にもぴったり当てはまる。ニーナ・シモンからダリル・ホール&ジョン・オーツ、カマシ・ワシントンまで、様々な面々がカバーしてきたが、シカゴのソウル一家が歌うオリジナルバージョンのセールスは72%増。ストリーミング総計は320万件にのぼった。
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