世界中で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を振るう中、いま音楽家はどのように生活をし、何を考え、行動を起こしているのか。それを伝えるため、Kan Sanoにオンラインでインタビューを行った。
聞き手は『Jazz The New Chapter』シリーズで知られるジャズ評論家の柳樂光隆。

SKY-HIが4月7日に公開した新曲「#Homesession」にも”オリガミ付きのスキルはサビつかない”という一節があるように、コロナ騒動に揺れる音楽シーンにおいて、origami PRODUCTIONSの存在感はますます大きくなっている。ただ一挙一動にスピード感があるだけでなく、ミュージシャンやリスナーの視点に立って誠実に考え抜きながら、革新的なアクションを見せてきたことはもっと知られるべきだろう。

まずは3月30日に「origami Home Sessions」を始動。origami所属ミュージシャンが無償提供したインスト・トラック/アカペラを使って自由にコラボソングを制作することができ、そうして作られた楽曲の収益はリリースしたアーティストに100パーセント提供されるという試みで、有名無名を問わず多くのミュージシャンが反応し、数多くのコラボソングが生み出された。さらに4月3日には、レーベルCEOの対馬芳昭が、生活の危機が迫っている音楽関係者を救うべく、自身の個人資産2000万円を音楽シーンに全額寄付する「White Teeth Donation」を設立。「レーベル所属のアーティストに対してではなく、自分たちのいるフィールドを耕すこと」を目的としたドネーションは大きな注目を集めた。

origami PRODUCTIONSのアーティストが、ライブ収益が当面見込めないアーティストに楽曲を無償提供する「origami Home Sessions」を立ち上げました。
私達が提供するインストやアカペラを使って曲を作りリリースも可能です。リリースしたアーティストに全収益をご提供します。https://t.co/58oColTZ6w pic.twitter.com/Na7s9iN1en— origami PRODUCTIONS (@origami_PROD) March 30, 2020突然ですが私の自己資金2,000万円を全て音楽シーンに寄付します。
今、私は最高のスタッフと最強のアーティストがいるので裸一貫になっても大丈夫!
窮地に立たされている音楽関係者に少しでも支援できればと。

全文はNoteをご覧ください。https://t.co/rhoOAwfqle pic.twitter.com/8Z3kTgjDv7— T s u s h i m a (CEO of origami PRODUCTIONS) (@Yoshi_origami) April 3, 2020
Ovall(Shingo Suzuki、mabanua、関口シンゴ)やKan Sano、Michael Kanekoらを擁するorigami PRODUCTIONSは、渋谷のアンダーグラウンドで当時盛り上がっていた「東京ジャムシーン」を世界に届けるべく2007年に設立。「1枚の紙でなんでもできるオリガミのように、楽器1つでどんな音でも奏でることができるミュージシャンが集うクリエイターチーム、レーベル」というコンセプトの通り、所属アーティスト全員がプレイヤー兼プロデューサー/トラックメイカーとして、ソングライティングからレコーディング、ミックスまでこなせることから、ジャンルを問わず様々な現場で引く手数多となり、今では日本の音楽業界に欠かせない存在になっている。

●【写真7点】Kan Sano、自宅で撮影

今回はorigamiを代表して、Kan Sanoにコロナ以降の近況を語ってもらうことに。バークリー音大のピアノ専攻ジャズ作曲科を卒業後、キーボーディスト/プロデューサーとして八面六臂の活躍を見せてきた彼は、Chara、UAなどのライブ/レコーディングに参加しながら、昨年には新バンドのLast Electroを結成すると共に、歌、演奏、ミックス、プロデュースまで一人で仕上げた4thアルバム『Ghost notes』を発表。トム・ミッシュも彼のファンを公言し、日本・韓国公演のオープニングアクトに指名している。最近では、星野源「うちで踊ろう」にいち早くリアクションしたことでも話題となった。このインタビューを読めば、彼とorigamiがなぜ時代のキーパーソンになったのかよくわかるはずだ。

インスタが「オマケ」から「主戦場」へ

―ライブが中止になり始めたりしてから、Sanoさんがどういう状況だったかを聞かせてもらえますか?

Sano:現状最後にライブしたのが、2月22日の『BIG ROMANTIC JAZZ FESTIVAL 2020』。その頃、海外ではコロナのニュースがいっぱい出ていたけど、日本はそこまでなかったし、僕も大丈夫だろうと甘く見ていました。その時はCharaさんと一緒に演奏する予定だったんですけど、最終的には入場時に全員の体温を測って、お客さんにマスクを着けてもらって開催されました。その後、3月のライブは全部キャンセルになって、3月末に予定していた自主企画「counterpoint #01」も延期して(12月17日に振替公演を予定 )。
3月頭の時点ではライブをやるつもりでいたので、今思うと考え方が甘かったですけど、その頃は割とそういうムードだったんですよね。だから徐々に気付き始めたっていうか。

―2月22日のことは僕も覚えていて。その辺りを境に公演延期/中止の流れが一気に進んでいきましたよね。

Sano:そうそう、超ギリギリでした。

―ライブが中止になってからは、どんなことをやってました?

Sano:もともとライブの本数自体はそんなに多くなかったし、基本は家で仕事をしているので、やることはそんなに変わってなくて。家でずっと制作してましたけど、徐々に人と会い辛くなっていって、お互い探り合うような感じになりましたね。「僕は会ってもいいと思ってるけど、あなたはどう?」みたいな。

Kan Sanoが語るコロナ時代の表現と暮らし「音楽と生活、政治が地続きなのは間違いない」


―もともと自宅に籠って地道に作るタイプだから、仕事としてはそこまで大きな変化がなかったわけですか。

Sano:僕は引き籠ってるのは平気な方で、むしろ好きなんですけど、ライブをやったり、カフェに行ったり、そうやって外に出ることが気分転換になっていたので、息抜きができなくなっちゃったのは困ったところで。だから、一日一回は散歩したり外の空気を吸うようにしているけど……最近はSNSはギスギスしていますしね。僕は発信する側だし、SNSも仕事としてやっているので、そこでも気分転換ができない。


―SNSでは告知や宣伝もやりづらい雰囲気ですよね。

Sano:ライブを夏以降にリスケするにしても、それが無事開催できるのかどうかもわからないし。今、告知したところでお客さんも決めづらいでしょうしね。難しいところです。

―SanoさんはLast Electroってバンドを組んだり、近年はアクティブに動いてる印象ですけど、バークリーに留学してた頃やその後の数年は引き籠ってたわけで、その頃に戻ったような感覚もあります?

Sano:そうですね、僕はがっつり引き籠りタイプ。でも、制作だけが続いてるとそれはそれでしんどくなっちゃうんですよ。ライブだけが続いても嫌になっちゃうんですけど(苦笑)。両方やることでバランスを取っていて、精神衛生的にも良かったんですけど、それが崩されちゃった感じはありますよね。

―こういう状況になって、ライブをやることの意味を改めて感じたりしますか?

Sano:それはあります。インスタライブをやったり、オンライン・フェスに出演したりもしてますけど、やっぱり実際のライブとは違うので。早くライブやりたいですね。

この投稿をInstagramで見るKan Sano(@k.an.s.an.o)がシェアした投稿 - 2020年 4月月6日午前1時45分PDT
―その一方でSanoさんはコロナ以前からインスタに演奏動画を上げたり、インスタライブやったり、そういったことを定期的にやってきたアーティストでもありますよね。
そして、コロナ以降も日々やっている。それは「いつも通り続けてる」という感覚ですか?

Sano:いやいや、更新の頻度は上がっていると思います。それに(コロナ以降で)インスタのアクセス数がすごく増えたんですよね。みんな娯楽を求めているんだなって。そこで僕に何ができるかっていうと、インスタやYouTubeだったり、そういうものなのかなと。これまではライブハウスでやる現場のライブが主軸にあって、インスタライブはその入門編というか、オマケというか、あくまで現場に来てもらうためのきっかけ作りとしてやってたんですけど、今はインスタがメインになってきている感覚ですね。

今、求められているのは熱量とスピード感

―最近だと4月の終わり頃にスピッツ「チェリー」のカバーをアップしてましたが、あれもみんなが楽しめるようにと思って?

Sano:そうですね、サービスというか(笑)。

―その「チェリー」は単なる弾き語りではなく、わざわざビートも組んでましたよね。

Sano:そんなに時間はかけてないですけどね。でも、ある程度の手間はかけないと。今はいろんなアーティストが動画や音源、写真などをアップしてて、クオリティの高いものはいっぱいあるんで、ビートを組むくらいは全然普通ですよ。時間だってありますし。


この投稿をInstagramで見る#スピッツ #チェリー Kan Sano(@k.an.s.an.o)がシェアした投稿 - 2020年 4月月26日午前1時09分PDT
―星野源さんの「うちで踊ろう」にも、かなり早い段階で反応してました。

Sano:たまたまフォロワーさんが教えてくれたのかな。まだ誰もやってなくて、「これ本当にやっていいのかな?」と思いつつ、「とりあえずやってみよう」ということで、軽いノリでパッと作って、(「うちで踊ろう」がアップされた)翌日にパッて出しました。ああいうのはスピード感が大事というか。その後にいろんな人が出し始めましたけど、最初の方に出せたのは良かったですよね。

この投稿をInstagramで見るsession with @iamgenhoshino ! #うちで踊ろう #星野源 #kansano Kan Sano(@k.an.s.an.o)がシェアした投稿 - 2020年 4月月3日午前2時45分PDT
―あとはインスタのストーリーズで質問に答えたり、ファンと交流してますよね。

Sano:世の中があまりに息苦しくなっているので、自分の中でガス抜きをしないと精神を保てないような感覚があるんですけど、それはフォロワーの人たちも同じっぽくて。世の中が厳しくなればなるほど、僕の中でサービスが過剰になっていくんですよね。

―Sanoさんって毎年クリスマスソングをアップしたり、SNSを積極的に活用してる印象だったから、最近の投稿も「いつものノリなのかな」と思ってましたけど、そういう意図もあったんですね。

Sano:うん、今は何かやってないと落ち着かないっていうか。みんなに楽しんでもらいたいし、同時に自分自身の精神を保つためにやっているところもあって。

―演奏したものをSNSにアップして、それを見てもらったりすることが、自分にとってのセラピーになると。


Sano:僕の場合はそうかもしれない。もちろん、単純にフォロワーを増やしたいっていうのもありますよ。平常時に戻ったときの集客やCDの売り上げにも繋がりますし。まずは自分の音楽を届けたいというのが先にあって、そのためにSNSをやってますから。

―ちなみに、配信するとき持ってると便利な機材とかあります?

Sano:まあ、基本的にはiPhone一台あればできちゃいますよね。今は配信用のオーディオ・インターフェイスを買おうか迷ってるところではありますけど。

―言われてみれば、以前から撮影自体はラフですよね。例えばorigamiのレーベルメイト、関口シンゴさんが配信するときは毎回同じアングルじゃないですか。自分のなかでフォーマットが決まっていて、それを着実にブラッシュアップしてる感じがあるけど。

Sano:あれはメチャクチャすごいですよね。

―それに比べて、Sanoさんは思い付きを大事にしていますよね。アングルというかiPhoneを置く位置も毎回バラバラだし。

Sano:僕は自分の中でモードがよく変わるんですよね。ファッションも髪型もそうなんですけど、ずっと同じっていうのが耐えられない。セッキー(関口)が毎日アップしてる動画は本当にすごいですよね。勤勉というか、もはやサラリーマンですよね。最初はそんなにアクセスがなかったみたいですけど、続けていくことでフォロワーも増えたみたいで、立派ですよね。

―でもSanoさんみたいに、カッチリやらずにiPhone一台で、思いついたときのフィーリングでやればいいってのも面白いんですよ。

Sano:最近はインスタのストーリーズを一日一回は更新すると決めてるんですよね。星野源さんのもそうだけど、スピード感が勝負だと思うんですよ。何かやろうと思ったらパッとすぐに出す、その熱量みたいなものがフォロワーのみんなにも伝わるんじゃないかと思ってます。

―なるほど。映像含めて作り込んだクオリティよりも、スピード感やパッション、テンションだったりを大事にしてると。

Sano:その話で思い出したんですけど、音楽評論家の中山康樹さんがビートルズの全曲解説をした『これがビートルズだ 』って本があるんですけど、あれも熱量がすごいんですよ。中山さんも実際、一気に書いていったみたいで。僕はそういうライブ感が好きなんですよね。

origamiの根底にある「共存共栄」の精神

―あと、参加型の企画と言えば「origami Home Sessions」が話題になってますね。origamiのアクションはものすごく早かったし、さっきの話でいうスピード感やパッションが、他のどのレーベルよりも遥かにすごかった。

Sano:あれは社長の対馬さんのアイデアなんですけど、こういう状況になったときにいろいろ考えていたっぽくて。その話をレーベルのみんなにしてから数日後にはスタートさせてましたね。対馬さんは自分たちの持っているスキルやメリットを、みんなとシェアすることをためらわないんですよね。持ってるものを広めたいしシェアしたいタイプの人なので、ああいう発想に繋がるんですかね。

―origamiのミュージシャンは音源素材を提供してるわけですけど、あの音源はどういうものですか?

Sano:他のメンバーはわからないけど、僕のはアルバム用にもともと作ってたトラックです。新たに作っても良かったんですけど、たまたまいいトラックがあって、コラボに使いやすいかなってところで、それをそのまま使いました。

―その音源を使って曲を作ってる人がたくさんいると思うけど、チェックしてます?

Sano:めっちゃしてますよ。SUKISHAさんのとか、すごいかっこよかった。あと、TOSHIKI HAYASHI(%C)ってビートメイカーが作ったやつとか、プロのミュージシャンも参加しているので、クオリティ高いのがいっぱいありますよ。

―その後、対馬さんは自分の資産2000万円を投じて、音楽関係者に向けたドネーション「White Teeth Donation」を立ち上げたわけですが。

Sano:あれも一応、事前に報告というか、こういうことをやろうと思っているってのは聞きましたよ。

―その話を聞いたときにどう思いました? みんな驚いたし、普通じゃないことですよね。

Sano:対馬さんのなかで考えがあって、何年も前からお金をずっと貯めてきたみたいで。それでコロナのことがあって、「今だ!」って思い立ったんでしょうね。

―へー、何年も前から考えていたことなんですね。

Sano:だと思いますよ。対馬さんは常に音楽シーン全体のことを考えている人だし、この業界では珍しくミュージシャン・ファーストな人なので、僕やレーベルのアーティストは恵まれてると思います。こういう状況になっても一応仕事はあるし、困ることはないだろうっていう妙な安心感があるんですよね。

―こういう非常時に安心感を感じられるレーベルって、アーティストにとっては有難みが違いますね。

Sano:そうなんですよね。2011年の震災の前後辺りに、origamiも僕も崖っぷちでやっていて、そのときの経験があるので。今も楽ではないんですけど、どん底を乗り越えてやってきた感覚があるから、スタッフもアーティストもタフになってると思うんですよね。全然仕事がなかった頃を経験しているので。

―ちなみに今、こういう状況でも仕事を回せているのはなぜでしょう?

Sano:うちのレーベルにいるアーティストは、楽曲提供やプロデュース系の仕事とライブの仕事の両方をやっているんですけど、収入のメインはどちらかというとプロデュース系なので、こういう状況になっても割と大丈夫なんですよね。みんな制作は続けられているので。

―origamiのアーティストは演奏もできるし、プロデュースもできるし、一人で全部できるタイプのアーティストばかりですよね。

Sano:そうそう。みんな自分ひとりで全部できてしまうので、こういうときでも自宅で完結できちゃう。それは大きな強みですね。

―逆にいえば、対馬さんや所属アーティストの皆さんが、長い時間をかけてそういう体制を整えてきた成果とも言えますよね。そして、対馬さんのシェアしたいという気持ちと、震災時の辛い状況を経験していることが、困ってる同業者を助けようという動きに繋がっていると。

Sano:同じミュージシャンでも、演奏の仕事をメインでやってる人たちは(ライブができなくなってから)大変なことになっていて。僕がライブするときにサポートしてくれる仲間たちも含めて、そういうミュージシャンが周りにたくさんいるなかで、自分たちはまだ仕事が回せてる方なので、彼らのために動いていきたいって気持ちは、対馬さんにも僕にもありますね。

誰だって政治の話はしてもいいし、したほうがいい

―少し音楽から離れて、Sanoさんの日々の生活に関しても聞きたいんですけど。

Sano:僕は音楽しか趣味がない感じでずっとやってきちゃったので、本当に何もやることがないんです。今年からNetflixを始めたので、映画を観たりはしてますけど、そのくらいですよ。

―日常的なことに関して変化はありますか?

Sano:それも特にないかな。家でメダカを飼ってるんですけど、春になると繁殖の時期で毎日卵を産むので、それが唯一の楽しみになってますね。

―実はうちにもメダカいるんですよ(笑)。卵が産まれたら別の水槽に分けたりしてあげてるんですか?

Sano:やってます、やってます。親メダカが稚魚を食べちゃうので、分けないとダメなんですよね。100匹くらいいるんですよ。あとは例年、この時期だったらバーベキューだったり、友達とキャンプに行くとか、いろいろやってたんですけど、全部できないですから。コロナはもちろん怖いけど、精神をいかに保つか。そこの方が大きな問題ですね。

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Kan Sano宅のメダカ

―セルフケアみたいな意識でやってることは?

Sano:うーん、自分へのご褒美ってことでネットショッピングすることが増えたり(苦笑)。でも、ネットで頼むとそれを配達する人がいるわけでね。ごめんなさいって思いながら、つい頼んでしまう。

―うちも毎日CDとか本が届いてます。

Sano:僕もいいウィスキーとか頼んじゃって……(笑)。あとはインスタとかでふざけるのも多少はストレス発散になってる気がしますね。SNSとはいえ、人とコミュニケーションはとれるので、それで救われることはありますよね。さっきも話したように、シンドかったり疲れることもありますけど。

Kan Sanoは今年3月から、自身のセレクトによるプレイリストを毎月更新中

―あと、Sanoさんは小規模なライブハウスにもよく出演してますよね。

Sano:そうですね。

―バーやカフェでささやかな規模のライブをやったりもしている。そういうSanoさんから見て、今のライブハウスの状況ってどう感じてますか?

Sano:メチャクチャ辛いですよ。全国各地のライブハウスのスタッフさんたちの顔をいつも思い浮かべてます。海外ではどんな感じで国が動いているのかわからないけど、日本はあくまで「自粛を要請」って言い方をするじゃないですか。そのしわ寄せがライブハウスや飲食店に来ちゃってますよね。

―自粛を余儀なく強いられているのに、行政からの補償がなくて厳しい状況になっている。sanoさんが以前、インスタのストーリーズでファンの質問に答える形で、政治に対する自分の姿勢について言及していましたけど、それもこういう話と関係あるのかなと思ったんですが。

Sano:そうですね。ただTwitterを見ているときも、誰かの政治的なツイートに考えが近い部分があったりすると「いいね」を押したくなるけど、フォロワーが引くだろうなとか思って躊躇してしまうんですよね。いきなり政治の話をすると引かれたりするじゃないですか。自分はそういう部分を変えていきたいとは思いつつも、前のめりになりすぎるとみんな引いちゃうかもしれないので、そこは上手く小出しに忍ばせていって、自分なりに発言なり表現したりしているつもりなんですよね。

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―少なくとも僕には、その姿勢は思いっきり伝わってますよ。

Sano:そういえば最近、『ポスト・サブカル焼け跡派』って本をTwitterで知って読んだんですけど、今の日本における政治への無関心や事なかれ主義も、元を辿れば70年代くらいから始まっていたみたいなことが書いてあって。そう考えると根が深過ぎる問題だなって。今回のことをきっかけに、今後良い方向に向かうかもって考えてる人もいますけど、そう簡単には変わらなさそうな気もするし、僕はそこまで期待していないかもしれないです。震災の時にも「これから日本が変わるんじゃないか」って期待がありましたよね。でも、何も変わらなくて、あれがトラウマになってるんですよ。だから、そう簡単に期待できないし、今は自分自身や周りの人間が幸せに暮らしていけるよう考えることで精一杯なので。もちろん投票に行ったり、できることはやりますけどね。

―とはいえ、期待はしてないけど、諦めてもいないから、時折メッセージをSNSに忍ばせたりしてるんですよね?

Sano:そうですね。ミュージシャンが政治について発言をするのを良しとしない風潮って謎じゃないですか。ミュージシャンに関わらず、誰だって政治の話はしてもいいし、したほうがいいはずだと思うんですけど、日本はなんでこんな空気になったのかなって。2000年代前半は(バークリー留学で)アメリカにいて、東京に来たのはその後なので、こんなふうになった過程がわからないんですよ。だから、さっきの『ポスト・サブカル~』とかを読んだりして、ようやく流れを理解しようとしているところです。

―ここまで話してきたように、Sanoさんの中では音楽と生活がそんなに離れたものではないって意識があると思うんですよね。さらに、その生活の中に政治も含まれているという認識が、直接的ではないけど、Sanoさんの活動からも伝わってくるというか。

Sano:僕は政治的なメッセージを音楽に直接込めたりはしないタイプですけど、政治と生活が地続きなのは間違いないと思っています。

Kan Sanoが語るコロナ時代の表現と暮らし「音楽と生活、政治が地続きなのは間違いない」


Kan Sanoが語るコロナ時代の表現と暮らし「音楽と生活、政治が地続きなのは間違いない」

Kan Sano
『Ghost Notes』
発売中
http://kansano.com/music/ghost-notes/

公式サイト:http://kansano.com/
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