5月8日に生放送された『ミュージックステーション』でRADWIMPSは正真正銘に生まれたばかりの新曲「新世界」を初公開し、翌日に配信リリースした。

新型コロナウイルスが振るう猛威によって世界中の人々が身動きをとれず、人と人が直接的なコミュニケーションを図ることさえもはばかられるようになった現在。
バンドのフロントマンである野田洋次郎はそんな”時代”の様相を直視し、そして「新型コロナウイルス前の世界」と「新型コロナウイルス後の世界」の相違をあぶり出しながら、新たな世界の扉を開く意志を込めた楽曲を完成させた。このメールインタビューはまさに彼が「新世界」を完成させる直前に応じ、したためてくれたものだ。この返信の筆圧の強さを裏打ちしている彼の覚悟と指針は、「新世界」を作り上げたモチベーションそのものと言っていいいだろう。ぜひじっくり読んでほしい。

ー最近はいかがお過ごしですか? どんなことをして過ごしてるんですか? 

作曲、作詞、掃除、料理、Netflix、買い出し(週二くらい)、電話、新たな音楽ソフトの勉強、etc。

ー「自分なりの部屋での楽しみ方」「最近好きな音楽、映画、本など」について教えてください。

こんな時なので久々に日記を書いています。毎日の気持ちのアップダウンなんかを。あっという間に忘れていく気持ちばかりなので。あとは全くしなかった料理を簡単なものだけしてみたり。

『BANANA FISH』、『ドロヘドロ』、『僕だけがいない街』なんかのアニメを結構観ています。あとまだ手をつけていなかったいわゆる名作と言われる映画も。
『ゴッドファーザー』『タクシードライバー』『2001年宇宙の旅』とか。僕自身好き嫌いが結構ハッキリしているので序盤で興味が湧くかどうかが決めてです。音楽は今ほぼ自分の作りかけばかり聴いていますがkZmのあたらしいアルバムやトム・ミッシュあたりを聴いたりしています。今(5月5日現在)はMステで新曲を作って披露すると言ってしまったので日々それに追われててんやわんやです。まだ完成していません。このインタビューも遅れてしまってすいません。

─家にいる時間が増えた中で新たな発見、気づきなどはありましたか? また情報疲れをしている人も多いと思いますが、洋次郎くんが情報収集、受け取り方などで心がけていることはなんでしょうか?

一人でいるのには慣れていましたが自粛期間もここまでくると、友達に会えないストレスが溜まってきます。どれだけ自分は友達に会うことで心が満たされていたか気づかされます。あとバンドで一緒に音を鳴らすことができないストレスもあります。

SNSを見る回数は極端に減らしました。ニュースも普段より見ません。疲れるし心が持っていかれるので。
「いかに情報を集めるか」、より「いかに余計な情報を排して必要なものだけを入れるか」がとても大事になっていると思います。あとはBBCとかCNN、海外のニュースサイトを見るようにします。これは昔からですが、なるべく広く違う角度から今回のCOVID-19も眺めるようにしています。

延期になってしまったRADWIMPSのドーム・アリーナツアーについて

─武田くん(武田祐介:Ba)、桑原くん(桑原彰:Gt)はお元気でしょうか? どのような話をしていますか?

たまにテレビ電話で話したり、あとは曲を作っているのでそのやりとりが主です。二人とも小さい子供がいるのでおそらくいろいろな苦労がこの時期ある様子でした。

野田洋次郎が語る「新世界」の指針と覚悟

左から桑原(Gt)、野田、武田(Ba)(Courtesy of EMI Records)

─RADWIMPSのドーム・アリーナツアーが全公演、延期となってしまいました。現在の率直な思いと、また本来であれば2020年の春~初夏にかけてのこのツアーでRADWIMPSはどのようなことを表現したいと思っていたのか。延期公演の内容に抵触することもあると思いますので、可能な範囲でお聞きできればありがたいです。

1月から今回のツアーを作り始めました。武田と桑原は俺よりもずっと先に今回のツアーの音の仕込みから、新たなサポートドラマーのエノくん(エノマサフミ)への引き継ぎなど全力で取り組んでいました。僕は2月の頭から合流し、そこから1カ月半ほぼ毎日リハーサルを繰り返しました。悔しい気持ちでいっぱいです。
デビュー15周年に突入することもありこのツアーを皮切りに、中国本土、北米、ヨーロッパ、アジアを回るワールドツアーを今年は予定していました。北米しかまだ発表していませんでしたが、各地昨年から調整を重ね、あとは発表のタイミングを待つだけでした。東京で五輪が開かれる前後、僕らは日本代表として世界各地で僕らの音楽を鳴らそう、と。正直3週間くらい前までは立ち直れないほどのショックでした。どこまで振り出しに戻るんだ、と。ドームツアーもそうですが、こう言ったワールドツアーは1年半とかそれ以上の時間をかけて準備します。ここに合わせてきた気力とモチベーション、スタッフの結束が無になるのが本当に悔しかったです。この2020年から良いも悪いも日本は変わると感じていました。その変化の一部に自分達もなるんだ、と。「こんにちは日本」というツアータイトルもそんな想いからつけました。ただCOVID-19は想像をはるかに超える変化でした。

でもやはり自分は音楽で自分自身のコントロールをしてきたんだなと改めて思いました。
今は次に向かう曲を作ることで、気持ちが整ってきている気がします。

─洋次郎くん自身、「新型コロナウイルス前の世界」と「新型コロナウイルス後の世界」で決定的に変化したことがあればなんだと思いますか?

社会、国の仕組みそのものだと思います。何十年と「なんとなく続けてきたから、これでいいだろう」と惰性で進んできた仕組みが悲鳴をあげたということだと思います。

経済は膨張して力を増していく一方だと信じられてきたけどもう何年も頭打ち状態、そしてコロナによって結局ここまで脆弱なものだったということが証明されました。ウィルスにあざ笑われているように感じます。死にものぐるいで感染を食い止めるなら政府があらゆる補償策を打ち出して経済活動を仮死状態にする。企業や事業主が終息後に再開できる手立てを講じてこの状況を乗り越える必要があるけどそれができない。すでに倒産する会社が増えてきています。僕の周り、友人の中でも「いよいよヤバい」という人が数人います。さらに1カ月続けばどれだけの数になるか。個人事業主、中小企業。末端から切られていく。
どこかで経済活動で命を危険に晒すか、ウイルスで命を危険に晒すか、個人が判断していくフェーズがくると思います。ここからは徐々に仕事に復帰する人も現れるでしょう。誰もその人を否定できません。そもそも自粛の「要請」なのですから。自分の命を自分で繋いでいくしかありません。スピードが遅い、決断ができない、道筋を作れない、国に救う力はないことが分かりました。
 
仮にワクチンができて、このウイルスとある程度の距離で共存できるようになったとして、今までのような世界には戻らないと思います。僕自身は国というものを信用しなくなりました。一切。一応この国に住むために税金は納めますが、(意識として)金輪際「国」というものから切り離した個体で生きようと思っています。要請や要望、税金の徴収、向こうからのリクエストはシコタマ飛んできますがこちらからの要望には応えない。まるで自分たちの財布の中身のように扱っていますが、税金はそもそも僕たちが支払ったお金です。
それを国民が困窮している時に、国民が安心できるレベルまで補償として使わない道理がわかりません。僕はもう期待もしない。自分と、自分の大切なものは自分で守る。今はそういう気持ちです。

企業のあり方もたくさん変わると思います。良い気づきもあったのではないでしょうか。無駄な打ち合わせが減ったり。杓子定規に定時に出社したり、遅くまで会社で残業する必要性を考え直せるタイミングでもあります。

企業が一番変わるべきこと、考えるべきことは何より、リスクの分散です。一つの形態に絞ったやり方ではもう立ちゆかなくなることが痛いほどわかったのが今回の一件だと思います。致命傷を負った時、バックアッププランのような違う業態や仕組みを持っておく。それらを常に同時に走らせておく、ということがとても大事になってくると思います。

「消費が落ち込んで景気が上向かない」などといつも国は言っていろいろな手段で消費促進を促しますが、結局こういう緊急事態に救ってもらえないことがわかった今、これから余計に国民が貯蓄に回るのは間違いない気がします。

新曲「新世界」について

─この状況の中、新しい曲は生まれていますか? 「新型コロナウイルス後の世界」に対して歌う最初の1曲はどのようなことを歌いたいか、可能であれば教えてください。

まさに作っています。今週(5月8日OA)のMステで披露します。この曲(「新世界」)はもしかしたらまだこの時期に聴いてもらうには早いのかもしれません。希望に満ちた曲こそが必要なのかもしれません。でも多くのアーティストがそういった曲をきっと演奏し、素晴らしいものになると思ったので僕はあえて少し先の未来に向けて曲を作りました。聴いたみんなが「僕らの新しい未来をどうしようか」と考えるキッカケになってくれたらとても嬉しいです。というか、自分で自分の未来を作っていく意識がなければ、もう生きてはいけない時代に突入すると思うのです。このウイルスによってこのままではダメだと奮起する人、声を上げる人、全体としてそういったエネルギーが増していけば今回失うものはあまりに大きいですが、一つの財産なになるのではないでしょうか。

─今、一番会いたい人は誰ですか? その人とどんなことを話したいですか?

誰だろう、両親、祖母、姪っ子、甥っ子。また逢えるようになったら全員に好きなものをいっぱい食べてもらうツアーをやりたいです。それまで無事でいてほしいです。あとはライブをとにかくやりたい。

─kZm氏の2ndアルバム『DISTORTION』収録のコラボレーション曲「追憶」は大きなインパクトがありました。以前から個人間の交流はあったと思いますが、どのような経緯で実現し、どのような思いでこの曲を完成させたのか教えてください。またkZm氏は現行の日本のラップシーンを牽引するラッパーでありながら、どこかロックアーティスト然とした刹那的なダイナミズムを感じさせるアーティストでもあると思います。洋次郎くんが覚えている彼のシンパシー、魅力について教えてください。

カズマは知り合って2年くらい経つかと思います。酒の場で知り合って、カズマ自身中学時代からラッドを好きで聴いてくれていて、カラオケでも歌ってくれたりしていて、自然とその流れで一緒にやってみようかという話になりました。自分の音楽に影響を受けた世代が今ラッパーとしてやっているのは大きな刺激になります。彼はラッパーでありながらPOPなバランス感覚、多ジャンルからの引用の加減が絶妙です。メロディセンスもある。才能のあるミュージシャンだなと感じます。CHAKIさんともとてもいい相性だなとレコーディングを見ていて感じます。彼の感覚は日本のヒップホップのキーになっていくと思います。こういう刺激と技術とセンスの交換のし合いがあるから、音楽はやめられません。

これからのアートやカルチャーの役割

─『ANTI ANTI GENERATION』のリリース時に実施したRSJのインタビューで洋次郎くんはクロスオーバーな動きが進むバンドや自身を指して「バンドというキーワードが”音楽集団”という意味を持ち続ければどこにだって行けるはず」とおっしゃっていて、その通りの動きを見せてくれていると思います。ジャンルをクロスオーバーしていく音楽集団=RADWIMPSとして、あるいは野田洋次郎個人として実現したいと思っていることがあれば教えてください。

RADWIMPSとしてはさらに「表現集団」になれればと思っています。まだまだメンバーには期待していますし、RADWIMPSがハブとなっていろいろなクリエイターやクリエイティブの中継地や乗り合い場所になってくれたらなと思っています。それは僕個人において同様に思っています。

・RADWIMPSインタビュー「野田、桑原、武田が語るバンドの歩みと現在地」

ー現在の状況で音楽(アート、カルチャー)にできることはどんなことだと思いますか?

ここからおそらく3段階くらいに分けて、役割があると思います。

第一に、現状行き場のない怒り、恐怖、苛立ち、不安で世の中は溢れている気がします。そんな時にふとした瞬間だけでも、心の筋肉を緩められるようなことが音楽やアートにはできると思います。そっと、優しく寄り添ってくれるような。

第二に、この自粛期間が明けた時、晴れて街に人が出ていけるようになり、開放感でいっぱいになると思います。きっとそこには様々な音楽が流れ、人々の多幸感をより後押しするでしょう。繁華街の通りやカラオケやライブハウスやクラブ。あらゆるところに音楽が流れ出します。祝福に音楽は必要です。

第三に、そんなお祭りムードもひと段落し、いよいよ新しい「日常」を作っていく段階になると思います。これからの新しい時代をどう作っていくのか。そのムードを敏感に感知し、さらに提言も含めて牽引できるような音楽が必要になる気がします。迷子の僕たちが、さぁどこに向かって歩きだすんだ?というメッセージ。そんな意識で僕は音楽を鳴らしていきたいと考えています。

そして大きな視点で見ると、先ほど述べたように末端の小さな企業から行き場を失い、大企業が生き延びていく構図になっていきます。学生でバイトをして学費を払いながら学校に通っていた学生はバイトもロクにできず補助ももらえず退学せざるを得ない人もいます。決まっていたはずの内定が企業側から取り消される例もあります。力やお金がある人が選択肢や可能性を多く持ち、その他は限られた選択肢の中でもがく。このような状況が日本だけでなく世界中で生まれています。音楽やカルチャーはいつだってマイノリティや権力から遠い場所での葛藤や苛立ちから産まれ、育まれ、メインストリームに影響を与えるまでになっていきました。これからの役割はとても大きく、誤解を恐れずに言えばこういった状況はアートにとって最大のチャンスでもあると思っています。

・RADWIMPS 野田洋次郎が見てきたポップカルチャーの原風景

ー読者へのメッセージ、この機会に伝えたいことがあればおっしゃってください。

会社や学校や政府や地域や家族に少しでも不満があるのなら、愚痴をこぼすのなら、苛立ちをおぼえるのなら、変化を望むのなら、あなた自身がその変化になることがまず一番の近道です。この状況下での政府の対策に不満があるのなら声にしましょう。選挙に行き自分の声を届けましょう。誰かのせいにするのならまず自分が行動を起こしましょう。会社も、学校も、家族もそう。勇気を持って伝えましょう。そして話し合いましょう。何も提言せず、行動も起こさずして文句だけを言う時期は終わりました。

自分という存在の小ささに、世界というものの大きさに悲しくなる時があります。無力感でいっぱいになります。でもそんな小さな「個」で世界は出来上がっています。僕たち、自分自身が「変化」そのものになる時だと思います。

ー今後について、何か計画していることがあれば教えてください。

言えることはまだそこまで多くありませんが、今年予定していたワールドツアーはなんとしても、来年以降改めてやりたいと思っています。アフターコロナの世界をこの眼で見たいし、見た上で改めて僕が生きているこの国を見つめてみたいです。

野田洋次郎が語る「新世界」の指針と覚悟

「新世界」
RADWIMPS
EMI Records
主要音楽配信サイト・各種サブスクリプションサービスにて配信中
https://umj.lnk.to/RadShinsekai

RADWIMPS SHOP
https://radwimps-shop.radwimps.jp/
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