15年で急速に成熟したYouTube上のコンテンツ

本年でYouTubeは開設15年目となり、コンテンツもかなり成熟してきたようだ。ある程度発展したシーンが必ず辿るのがジャンルの細分化である。
この10年間でシーンの椅子取りゲームは急速に進行し、コンプライアンスの範囲内であれば、思いつく限り全ての種類の動画が存在するようにも思える。

釣りや筋トレなど、これまで比較的ニッチなジャンルと思われていたコンテンツが、数百万人規模のファンに支持され、熱狂を生む事態も発生した。それまで、緩やかに散在していたコミュニティを統合する存在としての役割もあるのだろう。

日本は立ち遅れている? アメリカの解説系動画が成立する理由

ところで、林立するニッチコンテンツの中でも、私が注目しているのが「解説系」の動画だ。音楽をキーワードに紹介していくと、往年の名曲をトラック毎まで分解して解説する、音楽プロデューサーでもあるRick Beato。10年代を切り開いた重要アーティストをケンドリック・ラマー、ビヨンセ、カニエ・ウェスト、テイラー・スウィフトデヴィッド・ボウイの5人とし、それぞれ圧巻の大ボリュームな批評動画を作ってみせたPolyphonicなどである。これらの動画を彩るのが実際の音源だ。当該アーティストの楽曲を音源で即座に参照できるので、理解の深さと満足度が大きい。

・How Kendrick Lamar Shaped the 2010s

・How Beyoncé Shaped the 2010s

そして、これを可能にするのがフェアユースというアメリカの著作権法が認める原則である。私は法律の専門家ではないので、非常にざっくりとした説明となってしまい恐縮なのだが、アメリカでは、YouTubeで楽曲や映像をこのような用途で使用することは、たとえそれが無断であっても、問題とされないようだ。動画の一部利益が著作者に分配されるケースもあるが、収益化することも可能で、これがYouTuberの収入源となっている。

手前味噌だが、私もYouTubeで音楽を論じる「みのミュージック」なるチャンネルを運営している。


マイケル・ジャクソン入門!いまさら聞けない疑問に答えます

日本でフェアユースは認められないので、トークを中心としたコンテンツだ。悲しいことにこういったジャンルの動画に於いて、日本は立ち遅れていると言える。いち作り手として、悔しい思いを覚えてしまう部分があるのが本音だ。

黒澤明の解説動画が海外で生まれる皮肉
フェアユースの封印の影響とは?

フェアユースは音楽だけに限らない。たとえば、Every Frame Paintingという、映画解説系YouTuberの動画に黒澤明を題材にとったものがある。代表作の映像をほぼ使用し、副音声として解説をオーバーダブする構成。例えば「雨」をキーワードに、贅沢にも巨匠の映像を縦横無尽にモンタージュするなど、大変見ごたえがある内容となっている。

・Akira Kurosawa - Composing Movement

この動画は現在、再生数も550万回を超えとなっている。古典の批評で500万回の再生回数というのは破格だ。加えて3300件以上のコメントが熱い議論を繰り広げている。批評がこの規模の反響を呼ぶことが現代、他の媒体であるだろうか。大衆による芸術への議論の中心はひょっとすると今はYouTubeに存在するかもしれない。
あくまでひょっとするとだが……。

しかし、フェアユースが認められないというハンデの結果、日本が誇る”クロサワ”のこういった動画が海外で生まれたのは、何とも皮肉な話である。

分析美学者ノエル・キャロルは、芸術批評の本質は「価値づけ」であるとしている。フェアユースを用いた批評コンテンツの不在は、日本人がアートの「価値づけ」に関する重要な機会を逸しているのかもしれない。「価値づけ」をせず、ぼんやりとした集団意識の下に、なんとなく優れていると思う作品を人々が選択し続けたら、シーンもぼんやりとしたものに、なってしまうのではないだろうか。フェアユースの封印は、巡り巡って国産アートの発展を鈍らせる要因になるかもしれない。

みのミュージック
https://twitter.com/lucaspoulshock
https://www.instagram.com/lucaspoulshock/
https://www.youtube.com/channel/UCDkAtIbVxd-1c_5vCohp2Ow

Edited by Aiko Iijima
編集部おすすめ