ライブ当日、取材陣は横浜アリーナではなく、所属レコード会社の会議室に集まり、長机1台につき1人というソーシャルディスタンスを保った状態で着席し、前方に設置されたスクリーンを見つめながら配信がスタートするのを待った。こういう形でライブレポートを書くのはもちろん異例。若干の戸惑いはあったものの、それ以上にセットリストや演出が気になって仕方がない。特に演出に関してはどこまで派手なものになるのか、通常よりも控えめなものになるのか非常に気になっていた。これはファンだけでなく、音楽業界関係者も固唾を呑んで注目していたはず。このライブが今後の日本のエンタメの新しい形を築いていく上で大きな手本のひとつになるからだ。
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配信は定刻を10分過ぎたあたりからスタート。客席にはスタッフ以外誰もいないという異様な光景が映し出され、視聴にあたっての注意が影アナによって告げられたあとに暗転。あからさまにSEだとわかる歓声(これはライブ中も曲の前後やMC中に挿入されることになるのだけど、意外にもかなり効果的だった)が大所帯のバンドメンバーを出迎える。桑田佳祐は首の左にキスマークのメイクつき。
1曲目に鳴らされたのは「YOU」。
MCでは、デビュー42周年にあたっての感謝の言葉をファンやスタッフへ伝え、今回のライブの意義を改めて語る。そして、「姿は見えないけど皆さんの魂がここにはあります」と締めくくったあと、桑田が「それでは、最後の曲です」と冗談を飛ばすとしっかりとSEでブーイングが飛んでくる。こういう芸の細かさがいい。ああ、そう言えば、目の前に観客はいずとも「スタンドー! アリーナー!」は健在。呼びかけられるエリアごとに空席が映し出されるのがシュールで笑えた。
セカンドブロックは「Big Star Blues (ビッグスターの悲劇)」「フリフリ65」とロックンロールをかき鳴らした後、歌謡ナンバー「朝方ムーンライト」につなぐというサザンらしい振り幅で飽きさせない。原由子のコーラスも耳に心地いい。「シャ・ラ・ラ」で聴かせた複雑なコーラスワークも見事だった。
自粛期間が長く続き、思うようなリハもできなかっただろう。
「天井桟敷の怪人」からはダンサーも登場。さらに、ステージにシャンデリアが現れ、スクリーンに映し出される映像の前で女性ダンサーがタンゴを舞う。続く「愛と欲望の日々」ではダンサーの数が一気に増え、ステージ前方では炎が揺らめく。演出にもまったく抜かりがないどころから、曲を重ねるごとにド派手になっていく。
映像面では無観客ならではの工夫が見られた。通常のライブでは配置されないような位置にカメラがあるのだ。まず、センター席最前列に鎮座する大型クレーン。

Photo by 岸田哲平

Photo by 岸田哲平
「真夏の果実」では、センター席も含めた全座席に2つずつ設置された、遠隔操作によって光を自在にコントロールするリストバンド型ライトが光ったり、「東京VICTORY」では火がともされた聖火台がセンター席のど真ん中に現れるという驚きの演出も。「エロティカ・セブン EROTICA SEVEN」ではリストバンド型ライトが再びド派手に場内を照らし、本編最後の「勝手にシンドバッド」では特効の銀テープとともにセンター席に現れた大量のダンサーがめちゃくちゃに踊りだし、さらにステージには防護服を来たカメラマンまで現れる始末。これには声を出して笑ってしまった。
こんなふうにして会場に観客がいないことを逆手に取ったアイデアの数々で、サザンはこの配信ライブをより特別なものにしたのだった。

Photo by 岸田哲平
このライブに込められた想いは計り知れないものがあったのだろう。「ロックンロール・スーパーマン~Rockn Roll Superman~」やアンコール終了後のエンディング映像で本公演の制作の模様を追った映像が映し出されていたことから、スタッフへの思いが相当強いことも十分に伝わった。しかし、サザンはこの120分強をそういった想いで完結させることはなく、これまでにお目にかかったことのない極上のエンターテイメントへと昇華させたのだ。日本ロック界の巨人は、42年前に「勝手にシンドバッド」でお茶の間を騒がせ、この2020年にも再びいい意味での「なんじゃこりゃ!?」の嵐を巻き起こしたのである。
ちなみに、本公演のチケット購入者は18万人、想定視聴者は50万人。通常では考えられないほど多くの人がこのエポックメイキングなライブを目撃した。さあ、ここからエンタメの逆襲が始まる。
●サザンオールスターズのプレイリスト企画~Rolling Stone Japan編 テーマは「闘うサザン!!」

Photo by 岸田哲平
〈セットリスト〉
01. YOU
02. ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)
03. 希望の轍
04. Big Star Blues(ビッグスターの悲劇)
05. フリフリ 65
06. 朝方ムーンライト
07. タバコ・ロードにセクシーばあちゃん
08. 海
09. 夕陽に別れを告げて
10. シャ・ラ・ラ
11. 天井棧敷の怪人
12. 愛と欲望の日々
13. Bye Bye My Love(U are the one)
14. 真夏の果実
15. 東京VICTORY
16. 匂艶(にじいろ)THE NIGHT CLUB
17. エロティカ・セブン EROTICA SEVEN
18. マンピーのG★SPOT
19. 勝手にシンドバッド
アンコール
20. 太陽は罪な奴
21. ロックンロール・スーパーマン ~Rockn Roll Superman~
22. みんなのうた
オフィシャルプレイリスト:
https://taishita.lnk.to/2020live625