頭脳警察がドキュメンタリー映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』の公開を記念して、6月28日に渋谷La.mamaにて無観客配信ライブを開催。当日の模様を現地レポートでお届けする。


ライブハウスの自粛要請が解除されたのが6月19日。ライブハウスが手探りで営業を再開するなか、6月28日に渋谷の老舗ライブハウス、渋谷La.mamaのステージに頭脳警察が立った。この日はバンドにとって「最初で最後の無観客配信ライブ」というふれこみだ。頭脳警察は3月に渋谷La.mamaで新曲3曲「絶景かな」「ソンムの原に」「雨ざらしの文明」をライブ・レコーディング。その模様をYouTubeにあげていて(現在も視聴可)、頭脳警察と渋谷La.mamaは縁の深い関係だ。

会場に観客はいないものの、スタッフや取材のカメラマンがフロアで準備。メンバーは楽器を持って持ち場でスタンバイしている。舞台中央には、オリジナル・メンバーのPANTA(Vo, Gt)とTOSHI(Dr, Per)。そして、二人を取り囲むように、向かって左手から宮田岳(Ba)、おおくぼけい(Key)、樋口素之助(Dr)、澤竜次(Gt)と、昨年バンドに加入した若手メンバーが並ぶ。親子以上に年の差が離れたバンドだが、舞台に立っている姿に違和感はなく、オリジナルメンバーと新メンバーの間に緊張感は感じられない。「あと、5分です!」とスタッフが声をかけると、TOSHIが「みんなチンチン出すんじゃねえぞ。チャック閉めろ」と声をかけて笑い声が起こる。
横で集中していたPANTAも思わずニヤリと笑った。

頭脳警察、無観客配信ライブで見せた「ロックという終わらない青春」

Photo by 菊池茂夫

頭脳警察、無観客配信ライブで見せた「ロックという終わらない青春」

Photo by 菊池茂夫

そして、ついに配信がスタート。PANTAがドイツ語で詩を読み始める。1曲目はブレヒトの詩にメロディーをつけた「赤軍兵士の歌」。伝説の1stアルバム『頭脳警察1』(1972年)に収録された曲だ。叩きつけるようなギターのリフに乗って、「おれたちの地球が喰いあらされて」という最初の歌詞の一節から、一歩も引かない怒りのパワーに満ちている。続く「R★E★D」はPANTAのソロ・アルバム『R★E★D』(1986年)収録曲だが、今回は新バンドで制作した『乱破』(2019年)でカヴァーしたヴァージョン。コーラスの「SOS!」でシンガロングせずにはいられないパンキッシュなナンバーだが、国境や主義を超えて地球が悲鳴をあげている状況を歌った歌詞が、今の世界にピタリと重なる。そして、同じく『乱破』から「乱破者」。ファンキーなドラムとパーカッションから生み出されるうねるようなグルーヴ。緩急を際立たせたバンド・アンサンブルも見事で、ライブ開始から3曲、畳み掛けるように聞かせていく。

ここで初めてPANTAのMCが入り、90年生まれの新メンバーとバンドを再結成したことに触れながらメンバー紹介。
そして、ドラムとパーカションに導かれて「ふざけるんじゃねえよ」「飛翔」と間髪入れずに続けて、この日、初めてのスロウなナンバーで、バンドの代表曲「さようなら世界夫人よ」を演奏。まるで銃弾を込めるように、言葉ひとつひとつに想いを込めて吐き出すPANTA。そこにブルージーなギターと美しいピアノが寄り添う。歌い終わった後、「ついピックを投げそうになるな」とPANTAが笑った。MCを挟んでPANTAが「こんな曲を書きたかったんです」と紹介して演奏を始めた「紫のプリズムにのって」は、これまでの曲の傾向とは違ったサイケデリックな雰囲気の曲で、澤はダブルネックのギターに持ち替えてプレイ。複雑な構成を持った長尺のナンバーを、緻密なバンド・アンサンブルでじっくりと聞かせる。この曲がライブの折り返し地点で、ここから後半戦へ。

印象的なベース・ラインから始まる「ソンムの原に」は、18歳の時にPANTAが書いた曲。昨年公開された映画『1917』を観て、俺はこの戦いを歌にしたことがある、と思い出したそうだ。第一次世界大戦の激戦地を題材にした曲で、デビュー前からPANTAの眼差しが世界や歴史に大きく向けれられていたことがわかる。そして、「雨ざらしの文明」「絶景かな」とLa.mamaでライブ・レコーディングした新曲を続けて演奏。「絶景かな」はドキュメンタリー映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』の主題歌で、アレンジはおおくぼが担当。
サビに向かって力強く盛り上り、サビで「絶景かな」とPANTAが見得を切る。コロナ禍のなかで、頭脳警察が未来に向けた荒ぶるメッセージが胸に刺さった。

頭脳警察、無観客配信ライブで見せた「ロックという終わらない青春」

Photo by 菊池茂夫

ライブ本編はここで終了なのだが、PANTAいわく観客の「心の拍手」に応えてアンコールを披露する。「戦士のバラード」では、澤がPANTAの横にやってきて並んでプレイ。曲には雄大な広がりと開放感がある曲で、メンバーも清々しい表情で演奏している。そこから、ストレートなロックンロールが全開する「コミック雑誌なんていらない」へ。まだ、こんなエネルギーが残っていたのかと驚かされるほどハイテンションな演奏で、TOSHIのパーカッションが疾走する。このヌケのいいパーカッションの響きは、ライブで聴くとひと味もふた味も違う。メンバーが順番にソロをとっていく王道の演出も含めて、ロック・バンドの楽しさを凝縮したような演奏だ。そして、ラストナンバーは「アウトロ」。ライブのエピローグ的な穏やかな曲で、「いつだって恋と革命」「いつだって誇りと情熱」というフレーズが、ロックという終わらない青春を象徴しているようにも思えた。

拍手も歓声もないなかでのライブは、いつもと勝手が違っていただろう。
配信ライブのことをPANTAが冗談まじりに「背信(配信)行為」と言っていたことを宮田がMCで明らかにしていたが、ライブ開始前に「無観客ライブなのでお静かに」と言い渡されて、演奏に痺れながらも、拍手をしたり歓声をあげられないのは背信行為めいていて苦しかった。重量感も躍動感もあり、観る者の感情を引き出さずにはいられない演奏を、息を殺して目撃していたことはこれからも忘れられないだろう。ロック・バンドの演奏をナマで観ることができたのは久しぶりだったが、ライブの楽しみとは、凄みとはどういうものなのかを、頭脳警察はたっぷりと味あわせてくれた。

【ライブ写真】「頭脳警察50 未来への鼓動」(全22点)

頭脳警察、無観客配信ライブで見せた「ロックという終わらない青春」

Photo by シギー吉田

「頭脳警察50 未来への鼓動」セットリスト

1.赤軍兵士の詩
2.R★E★D
3.乱破者
4.ふざけるんじゃねえよ
5.飛翔
6.さようなら世界夫人よ
7.紫のプリズムにのって
8.ソンムの原
9.雨ざらしの文明
10.絶景かな

●アンコール
11.戦士のバラード
12.コミック雑誌なんかいらない
13.アウトロ

※2020年7月12日までアーカイブ配信中
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頭脳警察、無観客配信ライブで見せた「ロックという終わらない青春」


zk/頭脳警察50 未来への鼓動
7月18日(土)より新宿Ks cinemaにて公開
©2020 ZK PROJECT
http://www.dogsugar.co.jp/zk.html

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