あのDMASが、驚くべき進化を遂げて帰ってきた。まるでストーン・ローゼスとダイナソーJr.を掛け合わせたような、特大スケールの1stアルバム『Hills End』で2016年にデビューして以来、いまや地元オーストラリアだけでなく、イギリスでも次世代スタジアム・ロックを担う存在と目されているDMAS。そんな彼らが満を辞して発表した3rdアルバム『The Glow』は、デジタル・ビートとシークエンサーを大胆に取り入れた、まさに野心作となった。
今回の取材に応えてくれたのは、主にアコースティック・ギターを担当するジョニー・トゥック。彼によれば、これは過去2作を踏まえての必然的な変化だったのだという。
「2018年に2ndアルバム『For Now』をだしたあと、僕らはこれまでの2作とは異なるサウンドを求めるようになったんだ。つまり、もっとエレクトロニックなテクスチュアを探求してみたくなった。たしかにこれまでの僕らはギター主導でやってきたけど、もともとシーケンスやサンプリングで実験をすること自体は、このバンドにとってはごく普通のことなんだよ。実際、僕らは”もっとエレクトロニックなサウンドのレコードを作りたい!”とずっと思ってたからね」
こうした方向性を踏まえて、DMASの3人が共同プロデューサーに指名したのは、スチュワート・プライス。キラーズのようなニューウェイヴの影響が強いバンドから、カイリー・ミノーグやデュア・リパといったポップ・アクトまで、これまで数多くのアーティストのヒット作を手がけてきたスチュワートは、まさにエレクトロニック・ポップのスペシャリストだ。
「エレクトロニックな要素をバンドの音に加えようという話になったとき、すぐスチュアートの名前に思い当たったよ。だって、彼にはニューオーダーやマドンナ、ペット・ショップ・ボーイズと一緒に作品をつくってきた経験があるんだからね。
そんなスチュアートとの共同作業は、彼らの予想以上にエキサイティングなものだったという。
「スチュアートは間違いなく、僕らがこれまで出会ったなかで最も驚異的なプロデューサーだよ。彼は驚くような接し方で、僕らの創造性を促してくれたんだ。スタジオもコントロール・ルームではなく、”ライヴ・ルーム”にコンピューターがセットされていてね。すべての機材がいつも手の届くところに配置されていて、その雰囲気はまるで僕らのホーム・スタジオみたいだった」
過去2作においては、そのマッドチェスターとオルタナティヴ・ロックを折衷させたような音楽性もさることながら、何よりもアンセミックなコーラス・パートに定評があったDMAS。そんな彼らのキャッチーなメロディラインはもちろん『The Glow』においても健在で、今作はそこに90年代初頭のレイヴやアシッドハウス、ユーロダンスなどを彷彿させる、パワフルなエレクトロニック・ビートが加わっているのだ。
「(今作をつくるにあたって)僕らがよく聴いていたのは、ケミカル・ブラザーズとアンダーワールドだね。特にアンダーワールドは、オランダのLawlands Festivalで観て以来、大ファンなんだ」

Photo by Mclean Stephenson
ダンサブルな楽曲のインパクトに耳がいきがちだが、『The Glow』にはアコースティック・サウンドを多分に含んだ、叙情的な楽曲もいくつか収められている。この動と静を行き来するような構成は過去2作との共通点でもあり、そこにはアルバムというアートフォームに対する彼らのこだわりが見て取れる。
「アルバムをつくるうえで僕らがいつも大切にしているのは、それを聴いているとまるで旅をしているかのような気分になれるってこと。
スチュアート・プライスという強力なプロデューサーも手伝い、3作目にして音楽的新境地を切り開いたDMAs。彼ら自身も今作には大きな手応えを感じているようで、ジョニーも「次作はもっとエレクトロニックになるかもね!」と語ってくれた。
COVID-19が世界中で猛威を振るい続けている2020年。その影響はもちろんDMAsの活動にも影響を及ぼしており、現在は予定されていたツアーもままならない状況だ。しかし、こんな誰もが不安を抱いている状況だからこそ、彼らは『The Glow』という作品を放つことの意義を、より強く感じているのかもしれない。ジョニーはこのアルバムのタイトル・トラックに込めた想いを最後に語ってくれた。
「『The Glow』のヴァースは、じつはキャリア初期の頃にはもうすでに書いてたものでね。これは音楽と人生にもっと多くのことを求め、耳を傾けてもらおうという内容なんだ。そういった活力がぼくらの人生にどれほど必要なのかってことを、『The Glow』は伝えているんだよ」

DMAS
『The Glow』
発売中
http://silentrade.lnk.to/TheGlow