The 1975を擁するダーティ・ヒットに所属し、彼らと共に9月開催予定の「SUPERSONIC」に出演が決まっている20歳のシンガーソングライター、ビーバドゥービー(beabadoobee)。フィリピン生まれロンドン育ちの彼女が語る、居場所のない学生時代を経て、インディ・ロックの新たな顔になるまでの物語。


3年前、ベア・クリスティは「Coffee」という名前のローファイなラブソングをYouTubeにアップロードした。多くのリスナーは、それが彼女の書いた一番最初の曲だったなんて知らなかった。「ある日学校から帰ってきたら、私が憂鬱になりかけて、ちょっとうんざりしてたことにお父さんが気づいてたみたいで、中古のギターを買ってくれた」こう回想するのは20歳でロンドン在住のシンガーソングライター、ビーバドゥービーだ。彼女は新しいギターを手に「コーヒー」を深く考えることなく書き上げた。「テンポが途中で変わるところなんか、めちゃくちゃ間抜け」振り返って彼女は語る――ただ友達にシェアするためにアップロードしただけだったのに、人気は爆発して再生回数は30万以上に達した(現在は200万回を突破)。

いろいろなレーベルが彼女に連絡をとりだして、どうやら一夜にしてクリスティは「もっと聴きたい」というファンを獲得したらしかった。すぐに彼女はダーティ・ヒットとレコード契約を結び、The 1975、ウルフ・アリス、リナ・サワヤマに肩を並べるに至った。ここで手に入れた関係性を彼女はフル活用してきた。隔離期間のあいだも、彼女はThe 1975の陽気なフロントマンことマシュー・ヒーリーや、ドラマーのジョージ・ダニエルと一緒に制作している。「マシューと知り合ってから、彼はいつも曲を送ってくれる」彼女は語る。「できれば、この状況がなんとかなったら、私のバンドメンバーとマシューとジョージみんなで一緒に、なにかつくれないかなと思ってる――ちょっとしたものをね」

【写真】ビーバドゥービーの近影

ビーバドゥービーという名前(昔の「サブ垢」で使っていた名前からとった)で活動しているクリスはいま、ロンドンのボーイフレンドの家から電話中。COVID-19のパンデミックによって、さしあたり適当な場所に避難しなくてはいけなくなったためだ。
いつもベッドルームで曲を書いてインスピレーションを得てきたとはいえ、だからといって自己隔離生活が気にならないわけでは全然ない。「ほんとに筆が進まなくなってしまっていたんだけど」と彼女は語る。「隔離生活でもっとひどくなった、他にすることがないから」彼女はひまつぶしにInstagramのアカウントを最大限活用していて、鏡越しのセルフィでギターを見せびらかしたり、最近ブリーチした髪を披露したり、集めているデカいセーターを紹介したりして過ごしている。それでも彼女が気がかりなのは両親のこと。ふたりともイギリスの国民医療サービス(NHS)に勤務しているのだ。それに、彼女は高校時代からの友達とも会えなくなってしまった。長年の付き合いで初めてのことだ。みんな同じ町に住んでいるのに、身動きがとれないままだ。

孤独な学生時代を救った音楽の力

本来であれば、クリスティはThe 1975の北米アリーナツアーのオープニングアクトを務めるはずだった。この組み合わせは意外に思える。片や内気なティーンエイジャーで、ダイナソーJr.がモルディ・ピーチズと出会ったようなサウンドを奏でる。片や派手なシンセポップを演奏する4人組で、政治的な風刺が存分にこめられた歌詞はレディオヘッドも顔を火照らせそうなものだ。
しかし、The 1975につく熱狂的な信奉者のごとく、最初期のリリース以来、彼女も同じような熱気に囲まれてきた。「Coffee」は彼女の最初のヴァイラル・ヒットだが、この2月には二度目の人生を歩み始めたところだ。カナダのラッパー、Powfuのシングル「death bed (coffee for your head)」にサンプリングされたためだ。この曲はTikTokで話題になり、再生回数は1カ月で41億回に達して、Blink-182の参加するリミックスまでつくられた。「『マジか、みんな私の曲もっと聴きたがってるんだ』って気づいた」と彼女は語る。

成長するとクリスティはカトリックの女子校に通ったが、フィリピン系の生徒が自分ひとりだったために、馴染むのがとりわけ難しかった。「何を着たらいいかも本当にわからなくなってしまっていたのを覚えてる」と彼女は語る。「その当時の自分には、凄い居心地の悪さを感じてた」

初期の影響源のひとり、キミヤ・ドーソンによる辛辣な生活を切り取ったフォークソングに出会ったのは、2007年の映画『JUNO/ジュノ』を宗教教育の授業で観たときのこと。「先生たちは『これは10代での妊娠を描いた映画です。観てみなさい、こんなふうになりたくないでしょう』って感じだった。でも私は『ヤバい、この映画すごくいいし、音楽もすごくいい』って」

ビーバドゥービーが自身の影響源をまとめたプレイリスト

そのうちクリスティは音楽を通じて癒やしと友情を見つけ出し、ひいては音楽は自分を受け入れる手立てにもなった。ビーバドゥービーとしてリリースした最初のEP2枚は、「Coffee」やカレン・Oの「The Moon Song」のカバーに成功をもたらした方程式を踏襲したものだ。
シンプルなギターのコードに、エコーたっぷりのプロダクション。メランコリックな歌詞はツイートのようでもある。ときおり、彼女は違うことにも挑戦した。EP『Patched Up』に収録された「If You Want To」では、彼女は自分のギターをアンプにつなぎ、少しドラムを足したうえ、ボーカルのデリバリーはもっと主張が強くなっていた。「私を理解したいのなら/どうぞ、私の頭に入ってみて/経験に勝るものはないから/ベッドのなかで金縛りにあうんだ」

2019年の『Loveworm』EPでは、90年代にインスパイアされたサウンドに挑戦した。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインやソニック・ユースのもやがかったリヴァーブであったり、ライフ・ウィズアウト・ビルディングスやエリオット・スミスといったアクトの鋭敏なソングライティングを参照した。ちなみに、エリオット・スミスについて言うと、彼女は腕に”XO”のタトゥーを入れている。

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カート・コバーンを想起させる作曲センス

昨年10月に『Space Cadet』EPをリリースし、クレイロのオープニングアクトとしてツアーに帯同する頃には、クリスティはオルタナティヴ・ロックの灯火を受け継ぐ役割を担うまでになった。彼女がこのEPの制作にあたってインスピレーション源としたのは、自分の内向的な性格と、エリア51のミームだった。エリア51は当時Z世代のあいだで人気のインターネット上の話題になっていたのだ。「ただ無意識に宇宙について書き始めちゃっただけ、だってどこにいても宇宙は見えるから」笑いながら彼女は語る。

「She Plays Bass」や「Sun More Often」といった楽曲はオルタナティブ・ロック専門のFM局のラインナップに実にぴったりはまるはず。
スマッシング・パンプキンズやシルヴァーサン・ピックアップスといったバンドの合間にかかってもおかしくない。「I Wish I Was Stephen Malkmus」では、彼女は自分にとっての90年代のヒーローの名前を曲名にさえしている。しかし、「ペイヴメントの安っぽいものまねじゃないの?」とか言うならあなたは間違っている。歌詞にはクリスティらしさが満ちているからだ。「私は変わりたかった、誰に言われたわけじゃない/髪の色は青、見ればすぐわかるはず/この色が気に入ってるってことが」轟くようなグランジ的なコーラスで彼女はこう歌う。ありのままの姿でいられることに、すっかり安らぎを覚えているようだ。

「彼女は本能的で直感的な音楽のセンスがあるし、すごく良い審美眼を持っている」とプロデューサーのピート・ロビンソンは語る。彼は『Loveworm』と『Space Cade』双方のEPでクリスティと仕事をした。「カート・コバーンが曲を書くならあんな感じだっただろうーー彼女は音楽の経験をつんでいるわけではないけれど、ギターは上達していくはずだ。彼女の心に浮かぶサウンドは、実際のところ技術的には込み入っていることがしばしばだ」

ロビンソンはクリスティと共に今年中に出るはずの彼女のデビューアルバムの制作中だったが、COVID-19の流行に伴ってイギリス中が隔離期間に入ってしまった。クリスティと彼女のバンドにとって幸いだったのは、アルバムの完成に必要なレコーディングはあらかた済ませていたことで、あとはチームと共に楽曲のミックスとマスタリングをリモートで行うだけだ(その後、アルバムのリードシングルである「Care」が7月15日にリリースされた)。

これまで成功を手にしてきた彼女だが、いつまでも音楽の道を進み続けるわけではないという。
いわく、いつかは先生になりたい、保育園で歌うための曲をつくる作曲家っていうのもいい。

「もちろん音楽は副業として続けたい」と彼女は語る。「もしかしたら子供向けの本を書くかも。そうなったらめちゃくちゃいい」

The 1975も魅了したオルタナ新世代、ビーバドゥービーが語る「はみ出し者」の音楽人生

ビーバドゥービー
「Care」
配信中
https://smarturl.it/su8tao

The 1975も魅了したオルタナ新世代、ビーバドゥービーが語る「はみ出し者」の音楽人生


SUPERSONIC

東京公演
日程:2020年9月19日(土)・ 9月20日(日)・ 9月21日(月・祝)
会場:ZOZOマリンスタジアム&幕張海浜公園
時間:9:30 開場 / 11:30 開演
料金:
【1DAYチケット】¥14,000
【3DAYチケット】¥36,000 ※枚数限定
【プラチナチケット(各日)】¥20,000 ※枚数限定
プラチナ特典:専用ビューイングエリア、物販・オフィシャルバー優先レーン、クローク

大阪公演
日程:2020年9月19日(土)・ 9月20日(日)
会場:舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)
時間:9:30 開場 / 11:30 開演
料金:
【1DAYチケット】¥13,000
【2DAYチケット】¥24,000 ※枚数限定
【プラチナチケット(各日)】¥18,000 ※枚数限定
プラチナ特典:専用ビューイングエリア、物販・オフィシャルバー優先レーン、クローク

チケット一般発売日:7月11日(土)10:00~
https://supersonic2020.com/
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