ライブプロモーション世界最大手の米ライブ・ネイションと同社が運営する非営利組織「House of Blues Music Forward Foundation」が新型コロナウイルスによって職を失ったイベントスタッフを支援するために「Crew Nation Global Relief Fund」(以下、クルー・ネイション)という救済基金を4月に立ち上げて以来、クルー・ネイションは総額1500万ドル(約16億円)の寄付を達成した。クルー・ネイションが本誌に語ったところによると、これは世界中で働くおよそ1万5000人のイベントスタッフを支援できる金額だ。
クルー・ネイションに対し、エアロスミス、U2、BTS、ジョンメイヤー、アンダーソン・パーク、コールドプレイ、ガンズ・アンド・ローゼズといった数多くのメジャーアーティストも寄付という形で貢献してきた。クルー・ネイションの設立当初、ライブ・ネイションは500万ドル(約5億円)を寄付し、そこに外部からさらに同額が上乗せされると語っていた。クルー・ネイションは、新型コロナウイルスの影響で6月末までのイベントが延期あるいは中止になってしまったスタッフたちのための基金だ。同基金は、現在の倍の寄付を募ることを目標に掲げ、スタッフを支援し続けたいと述べている。
「すべての工程に携わりながら裏方で支えてくれる大勢のスタッフなしにコンサートを行うのは不可能です。私たちは、こうしたフリーランスのスタッフがライブ・エンターテイメント業界と政府の両方からしかるべき支援を確実に得られるようにしたいのです」とライブ・ネイションのマイケル・ラピノCEOは声明を発表した。「ライブ・ネイションは、数多くのアーティスト、寄贈者、パートナー、そしてファンの皆様とともにこのミッションの前進をサポートし、ライブという魔法を実現してくれる人々を支援できることを誇らしく思います」。
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寄付のみならず、クルー・ネイションは収益の100パーセントが寄付されるグッズのラインナップも発表した。クルー・ネイションへの寄付希望者にはオンライン決済サービスのPayPalを通じての8万ドル(約850万円)あるいはそれ以下の寄付が前提で、さらに高額な寄付はEメールでのやりとりとなる。
長引く新型コロナのパンデミックによってライブ・エンターテイメント業界は瀕死状態だ。ツアーのみならず、イベントやフェスに出演するアーティストのブッキングを担当するブッキング・エージェンシーの活動が中断した結果、ライブ・ネイションと同業で米ライブビジネス大手のアンシュッツ・エンターテイメント・グループ(AEG)は、従業員の一時帰休や解雇に踏み切った。とりわけ打撃を受けたのが独立系ライブハウスで、パンデミックの最中に設立された独立系音楽会場の非営利組織、アメリカ独立系会場協会(NIVA)によれば、政府の追加援助がない限り、NIVAの会員である何千件ものライブハウスの90パーセントが廃業に追い込まれ、二度と営業を再開できないかもしれない。こうしたライブハウスを救済するため、ジョン・コーニン上院議員とエイミー・クロブシャー上院議員は、7月末に「Save Our Stages Act」という法律を米連邦上院に提出した。
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7月に本誌が報じたとおり、イーグルス、パール・ジャム、ガンズ・アンド・ローゼズ、グリーン・デイなどの数多くのアーティストは、スタッフへの支払いを支援するために連邦政府が中小企業向けに可決した新型コロナウイルス経済対策法「The Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security Act(通称CARES Act)」によって設立された「Paycheck Protection Program(通称PPP)」ローンを活用した。「マイ・ケミカル・ロマンスは、またいつかツアー活動が再開できる日に向けて、この不透明な時代でもスタッフに対して確実に報酬を支払えるようにとPPP資金を受け取りました」とバンドは以前、本誌に語っている。マイ・ケミカル・ロマンスは、公表されている50を超えるローン受給団体のひとつだ。「献身的な熟練の職人たち——彼らのなかには、子どもを抱えていたり、介護に携わっていたり、あるいは家賃を支払わなければならない人もいます——に心から感謝しています。この資金は、彼らの家族と彼ら自身の助けになります」。
イベントが開催できないなか、ライブ・ネイションの収益は急降下した。先週、同社は2020年第2四半期の収益が98パーセント減少したことを発表した。
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