今年9月にデビュー9周年を迎えるAimerが、前作『春はゆく/marie』から早くも半年ぶりのシングルとなる『SPARK-AGAIN』をリリースする。

通算19枚目となる本作、表題曲はTVアニメ『炎炎ノ消防隊 弐ノ章』のために書き下ろされたもの。
シンコペーションを多用したスリリングかつ疾走感あふれる楽曲で、これまでのAimerのイメージを一新させる意欲作だ。かと思えば続く「悲しみの向こう側」は「これぞAimer」ともいうべきバラードであり、さらにラストを飾る「Work it out」では、コロナ以降の世界に「希望」を見出すようなポジティブな言葉を紡いでいる。

ここ最近は「誰かの役に立ちたい」との思いがより強くなり、それが作品にも強く影響を与えているとインタビューで語ってくれたAimer。キャリアを重ね、ファンとの信頼関係を築き上げてきた彼女は今、何を伝えようとしているのか。今作の制作エピソードはもちろん、ONE OK ROCKのTAKAや清水翔太らと立ち上げた「[re:]プロジェクト」のこと、コロナ禍での過ごし方など様々なトピックについて、たっぷりと語ってもらった。

─昨年10月より開催された全国ツアー『Aimer Hall Tour 19/20 "rouge de bleu"』について、以前のインタビューでAimerさんは、「これまでで、一番手応えがあった」とおっしゃっていました。

Aimer:はい。

─そして、18枚目のシングルとなる前作『春はゆく/marie』をリリースした3月下旬には、新型コロナウイルスの感染拡大も本格的になっていましたが、当時はどのような思いで日々を過ごしていましたか?

Aimer:2月の終わりに最終日を迎えたツアー自体には、コロナの影響はほとんどなかったんですけど、その後はアーティストの友人たちが、次々とツアーを諦めざるを得ない状況に直面している様子を目の当たりにしていました。もちろんアーティストだけでなく、それこそ世界中の人たちの生活がどんどん変化していく中、そこに自分を適応させることで一杯一杯になっていましたね。「この先どうなっていくのだろう」と。

─そして事態は好転するどころか、あらゆる意味でシリアスになっていく一方です。当たり前だったことが当たり前じゃない世界にどんどんなっていく感じですよね。


Aimer:普段から私は自分の家で作業を行なっているので、「音楽制作」という意味ではいつも通りというか変わらない部分も多くて。外に出る時間が減ったぶん、ある意味では音楽に集中する時間も増えたんですけど、Twitterなどでみんなの呟きを眺めながら、大変な状況が続いていることを感じていました。

街に出ても、例えばこれまでの平日と休日って空気がちょっと違っていたじゃないですか。休日の方が、みんなの気持ちが緩やかになっているぶん街の空気も柔らかく感じることはよくあって。でもこういう状況になってからは、平日と休日の違いもなくなって、常に何となくピリピリした空気になっていた気がするんです。表現者である私は、どうやったらみんなの気持ちを少しでも和らげられるか? ということを毎日考えていましたね。

Twitterでの呟きは、ある意味では「自分のため」でもある

─Twitterではファンに対し、努めて日常的な言葉を投げかけているように感じました。

Aimer:ずっと以前から私はインターネット・ライブをよくやっていたのですが、必ずみんなに「おやすみなさい」の言葉を言ってから終わらせていたんです。でもコロナになり、みんなで「おやすみ」と言い合うことすら当たり前でなくなってきていると感じていたから、せめてTwitterでは毎日「おやすみ」の言葉をみんなで言い合う行為を続けていました。そのことに関して、みんなから「安心できます」という声をぽつりぽつりともらうようになったのはすごく嬉しかったですね。

でもTwitterでの呟きは、ある意味では「自分のため」でもあるんです。SNSを通してみんなのために何かをしていないと、自分自身が苦しいというか。
ライブもできず、表現者として発信する場が制限されていく中で、自分のためにもみんなと交流したいという気持ちがあったんですよね。

─ファンへ向けてでもあり、自分に対してでもある。Twitterでの呟きはまさに「祈り」のような言葉だったのかも知れないですね。

Aimer:本当にそう思います。

─ちなみにStay Home期間には、何か新しいことを始めましたか?

Aimer:今までやったことのなかった楽器を練習してみたり、宅録環境を整えDTMを今までよりも時間かけてやってみたり。ちょっと実験的なことを遊びで試みるなどしていましたね。そういうことをやっている時間が、自分にとっての「癒し」というか。まあ、結局音楽のことばかりやっていました(笑)。映画とかはなんだかソワソワしちゃって観られなかったです、自分のペースで出来る、という意味では今までよりも本は読んだかな。

─どんな本を読みました?

Aimer:今までは小説を読むことが多かったんですけど、なぜかこの状況になってからは一冊も物語を読んでいなくて。仏教の本とか読んでましたね。いろんな人の感情というか、怒っていることに自分の心が動かされすぎることが苦しくなってしまったので、仏教の「宗教的側面」というよりは「哲学的側面」についての本を読んでいました。


─6月には、ワンオクのTakaさんと清水翔太さんが発起人となった「[re:]プロジェクト」に、阿部真央さんや絢香さん、三浦大知さんらとともに参加し、楽曲「もう一度」をYouTubeにて発表されました。これはどのような経緯で実現したのですか?

Aimer:突然Takaくんから電話がかかってきて(笑)。清水翔太さんと曲を作っていて、「色んな人と歌いたいと思ってる。一緒に歌ってくれない?」と声をかけてくださったんです。その場ですぐに「歌いたい」と伝えました。それが4月の頭くらいだったと思うんですよね。

最終的に8人メンバーが集まって、熱量とともにそれぞれのこだわりも増えていって。結果的に、時間をかけてじっくり作りこむプロジェクトになりました。私も家にいる期間、自分が音楽制作のための環境を整えたのと相まって、そのプロジェクトをやることも自分自身の励みになったというところはありますね。

「SPARK-AGAIN」は、いい意味で「Aimerっぽくない」

─この曲の歌詞には、”当たり前にあった世界が壊れそうな今 誰のせいにしようか 僕は考えていた””気づいた時には既に 僕の手 離れて 手遅れなんてことにならないように”というフレーズがあって。コロナが深刻になるに従い、意見の対立や分断もまた深刻になっていたことへのメッセージなのかなと思いました。

Aimer:状況が刻々と変化していって、昨日「こうだ」と言われてたことが、翌朝になると「やっぱり違っていた」みたいに情報が錯綜していたし、友人でも「毎日ニュースを見ていると気が滅入っちゃうから何も見たくない」という人もいました。
おっしゃるように、日本中がピリピリしていたのは私も感じていて。色々な人が繋がれる場所というと、SNSしかないから私も利用しているのだけど、みんな受け取れなくなるくらい情報で溢れている時期もありましたよね。

それでも私は、「今、何が起きているのか?」を肌感というか、街へ出た時にもどういう感触がするかをちゃんと確かめておきたいなと思っていました。「確かめなきゃいけない」という責任感も生まれてきたし、音楽やSNSを通してみんなが安心できるような場所でいたいという気持ちも強くなっていきましたね。

─今作『SPARK-AGAIN』の表題曲も、アニメ『炎炎ノ消防隊』の主題歌でありつつコロナが影響している部分もありましたか?

Aimer:実は、この曲自体は昨年のツアーが始まる前くらいにデモを作っていて。レコーディングはツアー最終日の翌々日だったんです。なので、曲自体にコロナの影響はないですね。ただ今回、現実的にコロナが原因でリリースのスケジュールに影響が出たりして。この「SPARK-AGAIN」が、こういう曲に仕上がっていなかったら、もしかしたらリリースすることに躊躇うことがあったかもしれないけど、「音楽を通して、聴いてくれる人を少しでも守れたらいいな」という気持ちがあって作った曲だったので、こういう状況下においても、そのままリリースすることを決めました。

─アニメの世界観はどのくらい意識しましたか?

Aimer:制作サイドからは「『炎炎ノ消防隊』といえばこの曲と思わせるような、ワクワクするような高揚感が欲しい」と言っていただいたので、そこはすごく意識しましたね。もちろん「Aimerの曲」ではあるけど、いい意味で「Aimerっぽくない」というか。『炎炎ノ消防隊』という作品の力を借りて、思いっきり振り切ってみたんですよ。
シンコペーションも多用していますし、今までの自分だったら、ここまで作れなかった気がします。

「人生観が変わるほどの悲しみ」

─カップリング曲「悲しみの向こう側」の歌詞は、亡き人への追悼曲のようにも感じました。

Aimer:この歌詞は共作なんですが、タイトルはデモの段階で付いていたんですよね。「悲しみの向こう側」ってすごく惹かれる言葉だなと思ってそのまま使わせてもらいました。

─どんなところに惹かれるのですか?

Aimer:「悲しみの向こう側」って、人によっても捉え方や解釈の仕方も違ってくるのかなと思うんですよ。「悲しみに浸り切ったその先にあるもの」とも取れるし、「悲しみを乗り越えた先に見えてくるもの」とも取れる。しかも「iichiko NEO」のタイアップでもあったので、年代問わず聴いてもらえるような普遍性を持たせたかったんです。「自分の人生観が変わるくらいの悲しみ」って、生きていたら誰だってあるんじゃないのかなと。

─Aimerさん自身は「人生観が変わるほどの悲しみ」を体験したことありますか?

Aimer:ありますね。自分は、その時にはもうそのことしか考えられなくなって、自分の世界を揺るがすくらいの衝撃を受けました。でも、今となってはその先に行けているなと思っています。すごく長い時間をかけて、その悲しみを受け入れたというか、自分の中にあって当たり前のものにしてきたんです。
悲しみを「乗り越える」というよりは、自分と一つになり、その後に「断ち切る」感覚ですかね。

ファンの方からも手紙をよくいただくんですけど、そこに書かれている経験って「こんなことって本当にあるんだな」というくらいの出来事だったりするんですよ。実はみんな、話していないだけで誰にでも心の深いところでは、「悲しみ」や「絶望」を抱えている。そのことにも気づかせてもらっているんです。みんな、日記に書き記すような感覚で私に送ってくるのかなと思うんですよ。知り合いでも友達でもないからこそ言いやすいのかなと。私自身は、そういう人たちの助けになりたいという気持ちがすごく大きいですね。

─最も信頼している人にさえ話せないようなことでも、Aimerさんに話すことで、それが作品になって昇華されることを願っているのかもしれないですね。アーティストってある意味「媒介者」でもあるわけで。

Aimer:本当にそうだと思います。そして、私に手紙を書いてくれた人たちのことを裏切るようなことは、絶対にしたくないなという気持ちがすごく強くなってきています。自分自身がちゃんと、筋の通ったことをしなくちゃな、と。それに対してネガティブな気持ちは全くないし、私に気持ちを打ち明けてくれる人たちに対しては、逆に嬉しいというか。「役に立てているのだな」と思います。それこそTwitterで私が毎日呟くことで、みんなと繋がっていることも、巡り巡って自分にとっても意味のあることになっているわけですから。

コロナ禍で作った「Ash flame」と「Work it out」の背景

─「Ash flame」は、”どんなに 汚れ 削られても 夢という怪物は 美しいんだよ”というラインがとても印象的でした。

Aimer:ありがとうございます。実は、この曲と次の「Work it out」こそコロナ禍で作った曲なんですよ。今の状況って、自由に何かをすることが非常に難しくなっているじゃないですか。自分がした行為が、誰かを傷つけてしまう結果につながるということを、以前よりも強く意識しながら生きているというか。

─そうですね。誰しもが感染したり感染されたりするリスクを伴いながら生きています。

Aimer:もちろん、それぞれが守るべきことをちゃんと守って行動しなければいけないんだけど、だからこそ空気がちょっとピリピリしているところもありますよね。そういうことを肌で感じていたからこそ、この曲はできたと思っています。

─「Work it out」では、この先にあるかも知れない「希望」について歌っていますよね。曲調も軽やかで、最後に光を見せてくれているというか。

Aimer:最後に締めくくる曲で、サウンド的にも他の3曲とは違った印象にしたい気持ちがありました。今を生きている私たちにとって「おまじない」になるような曲にしたかったというか。それに、こういう軽やかな曲調は今、自分的にも挑戦しているところでもあるんです。

─今回の4曲は、どれも「誰かのため」という思いが強く込められているように思いました。

Aimer:そうなんです。例えば「悲しみの向こう側」も、最近よく言われるようになった「Aimerっぽさ」みたいなことを意識していて。「こういう曲を歌ったら、みんな喜んでくれるかな」と思ったんですよね。それに、さっきも言ったように「みんなのため」と思ってやっていることは、巡り巡って「自分のため」にもなっている。変なこだわりを捨てることで、「もっとこういう曲を作りたい」という思いにつながり、それが自分自身の可能性を広げるきっかけにもなっていますし、さらに言えば私の曲を聴いた人が、もっといろんな音楽を聴く機会につながってくれたらいいなとも思うんですよ。そういう役割を担えるようなミュージシャンであったらいいなと。

─そう思えるようになってきたのは、キャリアや年齢を重ねてきたことも大きいですかね?

Aimer:まさに。今年9月に9周年を迎えるので、このシングルはそれを記念してリリースされる意味もあるんですけど、デビュー当時だったら考えられなかったことです。自分の中に「他者」が普通に存在しているということは、最初はあり得なかったし思ってもいなかった。「誰かのため」なんて、ちょっと偽善っぽいと思っていただろうし。もちろん、私は聖母マリアではないので完全に「誰かのため」と感じているわけではなくて、そこには自分もエゴもあります。みんなが気持ちを打ち明けてくれる存在になることは、自分のためだとも思っているわけですから。

そこには9年という積み重ねの中で、ファンの人たちと培ってきた信頼関係もあります。9年といったら、一人の少女が立派な女性になるくらいの年月じゃないですか。だからもう「誰かのため」という思いを「偽善」とみなすとか、そんなのどうでもいいじゃん!って(笑)。「誰かの役に立ちたい」という思いが一周回って自分の「生きる意味」でもあるし「救い」でもあるんですよね。

<INFORMATION>

Aimerが語る、コロナ禍で感じた「生きる意味」と「救い」の感覚

『SPARK-AGAIN』
Aimer
SME
発売中

https://www.aimer-web.jp/
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