2017年に発表された「ラストダンス」以来となる、BRAHMANとILL-BOSSTINO(THA BLUE HERB)のコラボレーション。これは言うまでもなく、新型コロナウイルス感染症の拡大によって暴露された、政治の脆弱さ、都市の限界、資本主義の根本の崩壊、人々の不安と絶望を凝視してのアクションである。


ただ、今作「CLUSTER BLASTER / BACK TO LIFE」に収められた「CLUSTER BLASTER」と「BACK TO LIFE」ともに通じているのは、政治への糾弾でも絶望の共有でもなく、今こそ個々の理想を突き詰めて従来の社会構造から己を解放しろと焚きつける姿勢だ。じっくりと落としたリズムのハードコアに乗せて、冒頭こそ醜悪な政治を告発していく「CLUSTER BLASTER」でも、最後に辿り着くのは、個々の幸福と優しさの在処を問う歌なのである。

レベルミュージックという言葉のもとに再び組んだTOSHI-LOWとBOSSに真っ向から訊く、これだけボロボロの世界で闘い続ける理由、怒りを怒りのまま使わない理由、そして個々が自分自身の幸せを定義して確立することこそが一番の「レベル」になった時代の生き抜き方。今だから、コロナだから、”これから嵐が来るって言う”と警鐘を鳴らし続けるのではない。最初からこの世界の違和感と闘ってきたふたりだからこその語録になった。ぜひ、最後まで食らってほしい。

-5月の半ば、緊急事態宣言が出ていた頃にTOSHI-LOWさんとお話させてもらう機会があって。コロナ禍以降の状況を受けて「今こそ”ラストダンス feat.ILL-BOSSTINO”の続きを歌にしようと思ってる」とおっしゃっていたんですが、そもそも今作に至るまでの経緯から伺ってもいいですか。

BOSS:今回はもとはと言うと、俺からBRAHMANを誘ったのが最初だったんだよね。5月の半ばって言ったら、ちょうど俺がTOSHI-LOWに「一緒にやろうよ」って誘った時期だよね。

TOSHI-LOW:うん、BOSSからメールをもらった頃かな。で、それが「ラストダンス」を今また出そうっていう話だったから、俺も「”ラストダンス”の答えを出そうと思ってるんだよね」って返事したのは覚えてる。


-BOSSさんは、2017年にリリースした「ラストダンス」を今どんな形で世に出そうと思っていたんですか。

BOSS:5月は、新型コロナの影響が今よりもまだ未知の段階で、世の中がもっと混沌としてたじゃない? だから「ラストダンス」のライブ映像を使ってMVを作って、一発かますのがいいんじゃないかなと思ってさ。「ラストダンス」は震災以降や原発に対しての言及が多い歌だったけど、「もうとっくに気づいてるでしょ、このままの世界でいいの?」っていうメッセージ自体は2020年に対しても言えることだと思ったから。……ま、その時点で俺はすでに「TOSHI-LOW達と新しい曲作れたらいいな」と思って新しいリリックを書いてたんだけどね(笑)。

TOSHI-LOW:「ラストダンス」を改めて出そうかっていうメールの応酬の最後、言ってみれば別れ際のところで「新しいタマもあるよ」ってボソッと言われる感じだったからさ(笑)。そんな言い方されたら、「やる!」って言うしかねえよな。反射だよ、反射。

BOSS:こう言うとアレかもしんないけどさ、俺としては遊びに誘う感じだったんだよ。ライブもできない中、時間はたっぷりあったし。そもそも、パンクもヒップホップも、世の中や政治がぐちゃぐちゃになってる中でこそ言いたいことが増えていくものだからさ。

「今の問題は、善と悪の判定とかじゃない」(BOSS)

-まさにそこを伺いたくて。BOSSさんはBRAHMANを遊びに誘う感覚だったと言われましたし、TOSHI-LOWさんも半ば反射的に一緒にやることを決めたと。
でもそれだけじゃなくて、コロナによって人間同士の潰し合いや日本の政治の腐り方が改めて露わになった今、パンクやヒップホップをはじめとするレベルミュージックの舞台がこれだけ整っている時代はないと思うんですね。そういう意味で何か考えることはありましたか。

TOSHI-LOW:もちろん、俺らのやってる音楽の名の下にっていうことは考えてたよ。これまで海外に行くと、「日本でパンク? 平和な国なのに」って笑ってくる奴もいたけど、今はもう、どこが平和な国なんだよっていう状況になってるじゃん。ってことは、自分達の音楽の出番なのは間違いない。ただ、歌詞の内容だけで言ったら、俺個人は政治的な言及をするよりも情景を膨らませて書くタイプでさ。政治がクソだってことや世の中が狂ってるってことを表現すべき時ではあるけど、そのための直接的な武器が俺にはないなって思ってたの。でもBOSSのリリックは、社会のある現象を真っ直ぐに表現してくれるものだから。2020年の日本、東京、政治、人間--それらの本性がより一層克明に見えた今だからこそ、BOSSとやれば、震災以降や原発、政治に対して歌った」ラストダンス」よりも具体的な歌になる予感があったんだよね。

BOSS:なんなら、リリックを書いた時から今に至るまで、社会の状況はさらに悪化してるくらいだよね。だから歌と社会のズレも起こらなかったし、思ったこと・書いたことそのままでいけた実感がある2曲だね。

-ではまず1曲目の「CLUSTER BLASTER」から伺っていきます。
”ここは合衆国保護領 ようこそ 地獄行き決定だぜ お前等 税金泥棒””そこまでされても怒らない私達””こりゃマジモンのディストピアみたい じゃね? とっくの昔から緊急事態”というラインで日本のお上に牙を剥き、コロナ云々で新しい問題が生まれたわけではなく見て見ぬフリしてきただけだ、ということを一気に告発していくところから始まる曲です。

BOSS:THA BLUE HERBで今年に出した『2020』を経て、攻撃的な言葉遣いはより踏み込んで書いてるね。これはBRAHMANのサウンドに載せるっていうイメージだったからこそ書けたリリックだとも思う。ただその一方、ただの悪口にはしたくないと思っていてさ。俺が善だ、政治が悪だって言うつもりはなくて、そこからそんな俺も内包している危うさにまで言葉は到達していく。だってそうじゃん。今の問題は、善と悪の判定とかじゃないでしょ

-そうですね。むしろ善悪という極端な区分けが新たな分断・争いを生んでいくわけで。

BOSS:そう。だから、攻撃的で追い詰めるだけの救いのない表現だと、むしろ本質からズレて、誰か一方の陣営を利するものになってしまう。でも今TOSHI-LOWが言ったように、俺の言葉に続く彼の言葉が俺とは違う自己へと向かおうとするものだからこそ、ただの攻撃ではない歌にできたんだと思う。

誰かをコキ下ろすより先に自分が自由になればいいだけ(TOSHI-LOW)

-TOSHI-LOWさんが語りかけるセクションでは、”何のために”と、人々に優しさを問う言葉が綴られていますよね。
国や政治を責めるのではなく、怒りを優しさのヒントにしていく気持ちがこの曲の心臓になっている。

BOSS:国や政治に対する怒りもあるけど、そこから先は結局俺たち自身の問題だからね。それに、社会や政治への具体的な言及よりももっと大きなものとして、俺達自身の生き方に対する言葉をTOSHI-LOWが書いてくれるって俺も予感してたから、そこが噛み合ってる曲だよね。まあ……もはや構ってないよ、政治家連中のことなんか。選挙にはいくけどさ。でももうすでに世の中自体が分断されているし、ネットの世界で起こっていることと現実の世界で起こっていることも、政治も俺らの生活も全然噛み合ってない。何がフィクションで何がノンフィクションかもわからない世界になってしまったじゃん。

-そうですね。従来の現実とファンタジーが逆転した感すらあります。

BOSS:そう考えたら、何かをコキ下ろすんじゃなく、俺達自身に「どう生きるのか」って問うしかないんだよね。だから怒りを怒りとして使うんじゃなく、俺なりの視点からの目覚めの歌を書きたかった。こんなに混沌としてるなら、むしろ自由に好きなことやるチャンスだぜって、派手に焚きつけたかったんだよ。
こんなにグチャグチャな国だなんて、本当はコロナ云々の前からわかってたことだけど、いよいよ引き返せないところまで来たことは誰もが実感してるはず。それでもまだ受け身のままでいいのか?っていう感じだね。

-実際、曲がバーストしていった先で叫ばれるのが”なるようになりやがれ”という言葉です。ただの自暴自棄とも怒りとも違う、自分で決めて自分で踏み出せという意味合いですよね。

TOSHI-LOW:言っちまえば、自由になるための百姓一揆だよね(笑)。それこそ「ラストダンス」の時にも「ええじゃないか」って言葉を使ったけどさ。BOSSも俺も、俺ら以外の人だって、最終的には自分の人生をどう生き切るのかっていう大きなテーマに向き合ってるのは変わらないじゃん。そう考えれば、フィクションだろうとノンフィクションだろうと、誰かをコキ下ろすより先に自分が自由になればいいだけなんだよね。

もっと純粋に何かを遺したいっていう気持ちが原動力になってくる(BOSS)

-今、自由とはどうやって掴むものだと思いますか。

TOSHI-LOW:BOSSが言った「こんなにグチャグチャな世界だからこそ、自分がどう生きたいのかがよく見えるはずだ」っていう話が、そのまま自由の意味だと思う。本当はどう生きたいのか、理想はどこにあるのか……失われたものが多いからこそ自分本来の姿を見つめ直せるし、最終的には自分との闘いだけが残る。社会の事象側から歌うBOSSにしても、自分の心象風景から歌う俺にしても、最後は自分次第だっていうところに辿り着くのは同じなんだよね。


BOSS:わかる、結局は同じことを歌ってるからね。

TOSHI-LOW:それに、絶望なんてずっとあるもんじゃんか。安倍や小池をひっくり返したって、このままだったら同じようなことが繰り返されるだけ。だとすれば、俺達自身が好きに生きられるように変わらなきゃ。ユートピアっていうのは誰かが作ってくれるものじゃなくて、一人ひとりが自分で作るものなんだよ。民主主義だって、本来は全員が参加して初めて成立するものなのに、参加しない連中が勝手な自由を掲げるから成り立たなくなってるわけでしょ。責任を放棄するんじゃなく、自暴自棄になるんじゃなく、自分の責任を自分で果たしながら、それぞれが自分に向き合って生きるしかない。それが「CLUSTER BLASTER」で歌ってることだと思う。

BOSS:パンクやヒップホップが世の中の軋みから突然変異で出てきた時みたいに、どんどんやればいい時代だと思うよ。人を傷つけたり攻撃したりするのは違うけど、でも、基本は何でもあり、何を表現しても許されるどさくさ感が今はある。本当に、こんなに自分を解放できる時代はないと思うよ。

TOSHI-LOW:メジャーのレコード会社からリリースする歌に”狂ってる”っていう歌詞を載っけちゃうくらいだからね(笑)。

-確かに(笑)。ただ、自由に生きればいいと開き直れないほどの絶望に苛まれている人も現実的にたくさんいると思うし、特にユース世代は、この国のツケを払わされる理不尽さを感じていると思う。そういう意味で、TOSHI-LOWさん・BOSSさんの世代として果たす役割、あるいは自分達世代の反省などを考えることはありましたか。

TOSHI-LOW:そうだな……俺らはCDが売れる時代も経験したし、音楽だけで食っていける時代を生きられた世代で。でも、今の日本や街の状況を見ていると、俺らが経験してきた消費社会の成れの果てなんだろうなって思うことも確かにあってね。そう考えると、今の若い世代と同じ土俵で時代を評論することは難しいかもしれないし、俺ら世代の責任も間違いなくあるよね。かと言って「おっさんはどけよ」って言われたら、カチンとくるからさ(笑)。いろんなことを受け止めた上で、純粋に俺らはこうだっていうのを表現しただけのような気もするんだよ。

BOSS:「お前らも好きにやっちまえよ」って実際にやって見せることしかないと思うんだよね。失敗も挫折もしてきて、失敗しない方法もなんとなくはわかってる。だけど新しいことに挑戦して失敗しても立ち上がる時間くらいは残されてるのが、ギリ若くもありおっさんでもある俺らの世代だから。とにかく切り開くのは自分次第だぜっていうことを見せていく他ないんだよね。俺らの世代も先達のそういう生き方に引っ張られてここまで来たようなもんだし。

TOSHI-LOW:ところでBOSSは、ラッパーとしての終わりの日って考えてる?

BOSS:ラッパーとしての終わりは考えたことはないかもね。ラップって言っても、ただの言葉だしさ。特別な何かは必要じゃなくて、そこに心があればラップになると思うから。逆に、BRAHMANみたいに「バンド」となるとまた違うよね。メンバーもいることだし。

TOSHI-LOW:まあ、じいちゃんになったら座って演奏するのも楽しいんじゃねえかなって思うけどね。ただ、俺は自分の表現者としての引き際を考えることが増えたかも。それも結局は、死を想うから今を必死に走ろうと思えるってことなんだろうけど。

BOSS:承認欲求とかお金以上に、自分の人生の残り時間を意識すればするほど、使命感や役割の話じゃなく、もっと純粋に何かを遺したいっていう気持ちが原動力になってくるよね。使命とかオピニオンリーダーみたいなものは、今に限らず昔から拒否してきたと思うしさ。

攻撃でも反抗でも破壊でもなくて、結局は愛(TOSHI-LOW)

-むしろ、圧倒的な力や集権的な組織こそが排他を生むっていうことが改めて露わになった時代ですよね。

BOSS:そう。もちろん今を生きている人間である以上、目の前の世界に向き合うことはやめないけど、力を持ったり誰かをコントロールしたりすることを意識してしまうと、それこそ排他や争いが繰り返されるわけだから。

TOSHI-LOW:それにもともと、世間のカテゴライズや型が気持ち悪い、居場所がないっていう感覚から始まってるのが俺らだから。だからこそ以前は、政治や国への直接的な関与を避けて、自分がどうするかっていうことを追求してきたと思うんだけど。

-それで言うと、「ラストダンス」がリリースされた2017年と比べてみても、レベルミュージックという言葉の意味するところが変化してきたと感じるんです。昨今の日本で行われてきたことをザックリ言ってしまえば、人々を無理やりひとつの塊にすることで、個々をなきものとして扱うっていうことだと感じていて。じゃあそれに対するレベルとは何なのかと考えれば、一人ひとりが自分の幸福の尺度を確固たるものにして、それを存分に表明することになってくる。ただ反逆を示すこと以上に、真っ当な自分になることが一番のカウンターになり得るというか。

TOSHI-LOW:確かに。一人ひとりがオリジナルであると示して、真っ当に目の前の幸せを掴む生き方が、結果として一番のカウンターになるよね。実際に俺らはレベルミュージックと呼ばれる音楽を鳴らしてきたわけだけど、じゃあレベルってなんだよって聞かれたら、攻撃でも反抗でも破壊でもなくて、結局は愛なんじゃねえかなって思うんだよ。レベルミュージックって結局、心から愛せる世界になるように闘い続けることじゃん。だからこそ、不当に傷つけてくるものに怒るわけだよね。そう考えたら、まず自分の人生を愛せないと、人のことも世界のことも愛せるわけがなくて。よく言われる寛容さとか多様性っていうのはきっと、自分の人生を愛することから始まるんだよ。それに自己愛っていうのも、ただ自分を甘やかすのとは違って。常に自分を律し続けることで自分を肯定できるっていうのが、本当の自己愛だと思うんだよね。だから自分を愛することは自分の甘えと闘い続けることだし、その先でやっと自分だけの幸せと自由を掴むことができるんだと思う。でもコロナ禍によって、今まで自分の弱さを見なくてもよかった人達までが、自分の弱さや不安や卑怯さと付き合わなくちゃいけなくなったよね。飲みに行けないだけで落ち込んじゃったり、昔はよかったなって振り返るだけで自分を慰めてばかりだったり。でも俺らは、普段から自分の弱い部分を律するために歌い続けてきたから。「なんか気持ち悪いな」っていう違和感を見るからこそ自分本来の姿がわかってくるっていうことを知ってきた道のりのような気もするんだよね。

BOSS:どんな生活も等しく立派なものだと思うよ。何も災いが起きなければ苦しむこともなく生きて死ねたはずだけど、今回、今まで普通だと思っていた基盤が崩れた時に初めて「自分とは何者だ」っていうことと向き合うことになった人がたくさんいると思うのね。だから不安になって、自分を立証するために何かを攻撃してしまう人が多くなったと思うんだけどさ。でも、そんなことやってる場合じゃないよね。9年前に「原発反対」って声高に叫んでいた人々が今は静かになってしまったように、コロナが落ち着いてしばらくしたら、また飼われる生き方に戻ってしまうのか。いい加減に目を覚まして自分の足で歩き始めるのか--その本当の分岐点だしチャンスなんだと思う。

TOSHI-LOW:だからさ、「CLUSTER BLASTER」では「強くなれ」とも歌ってないわけだよね。生き残るのも死ぬのも自分次第だよっていう、ある意味厳しいことを歌っていると思うわけ。もちろん俺の好きな人や知り合った人には死んでほしくないよ。それでも、最後に選ぶのはその人自身なんだよ。自ら崖から落ちる人を引っ張り上げることはできないから。ただ、不条理を超えていくための武器は本当に怒りだけなのか? 怒りを人への優しさや愛に変えていくべきなんじゃないの?っていうことは歌えると思ったんだよ。

BRAHMANの音楽が昔から今まで変わらずオリジナルであることを実感させられた(BOSS)

-それはそのまま、”優しさとは 目を閉じることではなく 目を見開くこととも知らずに/誰のための人生が続いていくんだよ””方法ばかりを真似して自らが紡ぎ出すことを諦めて/何のために本物の幸せを探してきたんだよ”というサビに表れていますよね。

TOSHI-LOW:何も諦めるつもりはないからね。何度やっても最悪なことが起こるかもしれないけど、不幸になるために生きてるわけじゃないんだから。そう考えたら、不幸も絶望も見えた今こそが本当のスタートだよね。

BOSS:”これから嵐が来るって言う”って歌ってるけど、俺らがオオカミ少年かどうなのか、この差し迫った状況ではとてもわかりやすいと思うよ。

-敢えて野暮なことを訊きますが、そんな状況になっても諦めずに表現していくための燃料は、今どこにありますか。まかり間違っても世直し先生みたいなつもりではやられてないわけですよね。

TOSHI-LOW:そうだね。たとえば「ラストダンス」を作った時も、きっと根底には怒りがあったし、それで実際に最高峰の曲ができたとも思ったよ。でも作り終えてみれば、純粋に音楽として「まだ余裕があるな」「もっと伝えられたことがあるな」って思ったんだよね。それがあったから、今回の2曲を作れたとも言えるわけでさ。

-つまり、続けていく燃料になるのは結局、自分達自身の成長とか、自分への興味だっていうことですか。

TOSHI-LOW:そう。最終的には自分達に飽きないっていう感覚が燃料になるんだろうし、純粋に音楽の面白さが俺らを走らせてる。怒りで着火したとしても、走り続けるための力になるのは結局、面白いと言える瞬間の積み重ねで。たとえば「BACK TO LIFE」だったら、ネオソウル的でBRAHMANとしては新鮮な曲だと思うわけ。BOSSから「チルい曲で」って要請されてトライしてみた曲なわけだけど、その後に自分達の曲をやってみたら、新しい発見ばっかりだったんだよ。作った当時「なんでこんなに緩い曲を作っちゃったんだろう?」なんて言ってた古い曲も、新しい姿になっていった。そうやって自分達のユニークさを実感していく面白さが、未だに俺らの燃料なんだと思う。

BOSS:「CLUSTER BLASTER」も、BRAHMANのユニークさがめちゃくちゃ出てる曲だからね。俺のヴァースからサビの部分に雪崩れ込んでいく感じとか、TOSHI-LOWが語りかけるセクションとか……3曲分くらいのアイディアが面白い繋がりで詰め込まれてて、それがジワジワとしたバースト感になっていく。BRAHMANの音楽が昔から今まで変わらずオリジナルであることを実感させられたね。

「またね」っていう曖昧な約束があるから生きていけるもんだとも思う(TOSHI-LOW)

-そして、今のお話にも出てきた「BACK TO LIFE」について。社会への問題提起を多分に孕んだ「CLUSTER BLASTER」の対になる曲とも言えるし、仲間と飯を食う団欒の風景が描かれつつ、個々の生活や愛すべき人の存在に主眼が置かれている面で言えば、「CLUSTER BLASTER」と根底で繋がっている曲とも言えると思ったんですが。

BOSS:コロナを経て、人と離れ離れになってしまう辛さを誰もが経験したと思うのね。仲間と触れ合う時間、一緒に飯食って笑い合う瞬間すら当たり前じゃないと実感できたからこそ、改めて歌にしたかったんだよね。「CLUSTER BLASTER」は、割と言葉で剥ぎ取っていく欺瞞とかの対象がわかりやすい歌だと思うんだけど、「BACK TO LIFE」は、誰もがコロナによって失ったものとして、人を選ばず響く曲に挑戦したかった。

-とはいえなんですが、TOSHI-LOWさんが歌われる”遠ざかる足音で さよならを告げる””それぞれの 道をゆく”という箇所を聴くに、結局は個々に帰っていくという点がこの曲の肝だと思ったし、それが「CLUSTER BLASTER」とも通ずるところだと感じたんですよ。

BOSS:正解。まさにそこだね。「CLUSTER BLASTER」みたいに「この期におよんで前みたいな時代に戻るつもり?」っていう歌とは一見違うことを歌ってはいるけど、言ってくれた通り、同じことでもあるんだよ。仲間、友達、繋がり……それを持って自分の生活に帰ることがそのまま、どう生きていくのかの自問自答に繋がると思うから。TOSHI-LOWが歌うところは、まさにそういうことを表現してくれてると思う。

TOSHI-LOW:俺さ、BRAHMANで札幌に行った時にBOSSが連れて行ってくれたスープカレー屋をすげえ覚えてて。

BOSS:ああ、行ったねえ。

TOSHI-LOW:「ラストダンス」を作る前だから、2016年くらいかな。BOSSが「地方のライブから札幌に帰ってきたら、少ないギャラを握りしめて必ずこの海鮮スープカレーを食いにきたんだ。これを食えた日には、俺頑張ったなって思えたんだよ」って話してくれたのが忘れらんなくてさ。BOSSにとっての「帰る場所」に連れてきてもらったことが嬉しかったし、誰にとってもそういう風景があるんだってことを書きたくて。帰る場所がある安心感と、重なっても最後はそれぞれに帰っていく切なさと。だけど俺とBOSSがそうであるように、お互いの場所で闘ってるんだって思うと、不思議と寂しくはならなかったりさ。誰もがそういう感覚で繋がってるっていうことを込めたつもりだね。

-それぞれに帰る場所があるんだと認識することは、無理やりひとつの思想に収めるんじゃなく、一人ひとりがバラバラなままユナイトしていけるんだと実感するために最も必要な感覚だと思います。

TOSHI-LOW:「またね」って言ったとしても、会える保証がない世界に生きてるってことがよくわかったじゃん。だけど、「またね」っていう曖昧な約束があるから生きていけるもんだとも思う。明日会えるかわかんねえ、明日生きてるかわかんねえ--だからこそ今ある日常をどれだけ大事にして生きてこられたのか。その答え合わせをしているのが今なんだろうね。

音楽も人生も精神性だと思う(TOSHI-LOW)

-これは少し違う話かもしれないけど、たとえばBlack Lives Matterのような、今始まったわけではない人間の大きな課題も、それぞれにとっての帰る場所を想ったり、自分の半径数メートルに置き換えたりすることから改善されていくと思いますか。

BOSS:俺はそう信じてるよ。それが最終的に人種間の問題や政治家の問題にまで届くだけの時間が俺ら世代に残されてるとは限らない。この世の中の構造上の腐敗や不条理はそんな簡単なもんじゃない。「CLUSTER BLASTER」で最終的に「お前次第だぞ」って委ねてるのも、そこに起因してる気がする。自分の人生に残された時間と世の中がよくなるための時間を考えたら、間違いなく世の中がよくなるまでの時間のほうが膨大だから。それはコロナやBlack Lives Matterに限った話じゃなく、原発の問題だってまさにそうだよね。だからこそ、より強く「自分の手の届く範囲だけでもよくしたい」って思うのかもしれない。……まあ、そういう問題の根源にあるものを全部一発でひっくり返せるとしたら暴力なんだけどね。いきなりかち込んで、諸悪の根源をぶっ殺してしまうのが手っ取り早いのは言うまでもない。ただ、それでは新しい争いが生まれるだけってことはもうわかりきってるよね。それに俺らがやってるのは音楽だから。暴力が社会の変革においてリアリティを持つことは考えられない。

TOSHI-LOW:じゃあ、それはSLANGにやってもらおうかな。

-TOSHI-LOWさん、それは苦笑いしかできないです。

TOSHI-LOW:はははははは。冗談はさておき、やっぱり音楽も人生も精神性だと思うの。卑怯な手を使ってでも生き抜きたい、みたいな気持ちを精神性と呼ぶつもりはなくて、なりたい自分に手を伸ばす純粋な理想を精神性と呼びたいんだよ。手が届かないとしても真っ直ぐに生きてみたいっていう気持ちは、時代によって揺れるものじゃない。時代によって変えるべきなのは、目指す理想までの歩き方だけだと思うんだよね。

-そうですね。

TOSHI-LOW:たとえば学校でいじめられたとしたら、その人にとって学校しか社会がないと考えるから苦しくなってしまう。でも本当は、そこから逃げてもいいし抜け出してもいい。あの校舎が学校なんじゃなくて、本当は「人が集まって一緒に勉強する社会」っていう概念が学校なわけだよね。ってことは、ただの刷り込まれたイメージじゃん。観念や概念の中で生きることなんて本当は必要ないんだよ。逃げることも抜け出すことも、悪いことじゃない。それよりも怖いのは、立ち上がれなくなることだから。逃げたって、また立ち上がって歩ければ大丈夫なんだよ。

BOSS:俺らの生きてる国を見てみても、退却する勇気がないんだなって思うことばっかりだけどね。死ななきゃわかんないくらいのバカげたことばかり。それこそオリンピックと国民の生活を天秤にかけるようなこと、本当にするんだ?っていう。こっちは負けることなんて怖くないし、謝ればきっと皆が許してくれんのに。失敗すること、やり直すこと、謝ることを恐れてる。そしてそれを糾弾したくてたまんない人たちも大勢いるというね。

自分から動けば新しい希望はきっと見つかる(BOSS)

-それでも、諦めないための歌、生きている人を愛していくための歌が聴けてよかったなと思います。

BOSS:とことんバカげた国だけど、それでも自分が生きてきた場所だからね、憎しみと同時に愛は間違いなくあるよ。それに、決してあの政治家みたいな連中が大多数だとは思ってなくて。俺の手の届く範囲の人にはちゃんと伝わってる実感があるし、それは言うまでもなく愛すべき存在だから。どんなにバカバカしい国でも、最終的には生きてきた道程自体を愛してるんだよね。

TOSHI-LOW:俺個人は、国っていう概念自体があんまりない人間なんだけど。今、自分がどこに生きてるかっていう意識しかないし、国の旗がどんな柄でもいいと思ってるのよ。で、そんな俺でも、日本の旗を大事にしてる友達やバンドと仲良くすることができるわけ。なぜかって言ったら、本質的に愛してるものは一緒だからだよね。仲間、生活、音楽……その中には右も左もない。目の前の相手を見極めて、大事なものが何かっていうのを見失わずにやっていくだけだよね。

-これだけボロボロな状況の国に生きてもなお愛を捨てないふたりにとっての、これからの希望を最後に聞いてもいいですか。

TOSHI-LOW:そうだなあ……BOSSみたいな人が増えるといいなって思う。今回のBOSSを見てて、上品(じょうひん)なんじゃなくて上品(じょうぼん)な人なんだと思った。上品・下品(じょうぼん・げぼん)っていうのは仏教用語なんだけど、いわゆる上品っていうのは見た目や振る舞いのことで、上品(じょうぼん)っていうのは精神の品のことなのね。歌でゴロツキみたいな言葉をたくさん使ってるくせに、BOSSには不思議な品があるんだよ(笑)。今はもう、見かけがいいだけのものなんて信用できないってバレた世界でしょ。BOSSからの種をもらった連中がヒップホップにはいっぱいいるだろうし、その芽が顔を出す時代が早くきたらいいなって思うよ。BRAHMANで言っても、下の世代から何かが芽吹いた瞬間に「孤独な闘いではなかった」って思えるのかもしれないし。そういう意味でも、この作品を作れたこと自体が、俺らとして大きなことだよね。ここまでやったなら次はアルバム作りてえなってことも考えるしさ。

-おお!

BOSS:アルバム、面白そうだね。俺で言えば、BRAHMANやBRAHMANチームと一緒に仕事して、そのすごさを感じたこと自体が希望だったから。俺は旅が好きだけど、今は行けない世の中になっちゃったじゃない? それでも、こうして自分の知らない世界を覗いて希望を抱けるっていうのは、ある種の旅だと思えたんだよね。さっき言っていたように絶望が前提になってしまった時代観も、わからないでもない。でも、自分から動けば新しい希望はきっと見つかるんだよ。

TOSHI-LOW:まあ、「チルいの」ってだけでも難題だったから、次はどんな無理難題がくるのかが怖いけどね。

BOSS:はははは。じゃあ、次はTOSHI-LOWにラップさせてみるかな。

TOSHI-LOW:……やってみっか。

BOSS:よし(笑)。ほら、まだまだできるんだよ。やったことのないこと、行ったことのない場所、知らない景色の中にまだ希望はある。きっと、もっとヤバいことはいくらでも起こるよ。それでも、まだ全然余裕だよ。楽しんでこうぜって感じだね。

<INFORMATION>

TOSHI-LOWとILL-BOSSTINOが語る、レベルミュージックの本質と音楽の可能性

【CD】

TOSHI-LOWとILL-BOSSTINOが語る、レベルミュージックの本質と音楽の可能性

【アナログ】

「CLUSTER BLASTER / BACK TO LIFE」
BRAHMAN feat. ILL-BOSSTINO(THA BLUE HERB)
2020年9月30日発売

①完全生産限定盤  
Tシャツ+CD+DVD(6.000円+税)
*TOYS STORE 限定販売 https://store.toysfactory.co.jp/pc/  
・Tシャツ=BRAHMAN feat. ILL-BOSSTINO (THA BLUE HERB) × 河村康輔  コラボレーションTシャツ
・CD=CLUSTER BLASTER  /  BACK TO LIFE
・DVD=1,MV「CLUSTER BLASTER」 2,MV「BACK TO LIFE」 3,LIVE「ラストダンス」
②通常盤 
CD+DVD (1.500円+税) TFCC-89685
・CD=CLUSTER BLASTER  /  BACK TO LIFE  
・DVD=1,MV「CLUSTER BLASTER」 2,MV「BACK TO LIFE」 3,LIVE「ラストダンス」
③アナログ(完全限定盤)
10inch (1.800円+税) TFJC-38043
・ A side:CLUSTER BLASTER  /  B side:BACK TO LIFE
④ダウンロード / ストリーミング同時配信

<ライブ情報>
『BRAHMAN ONLINE LIVE ”IN YOUR【      】HOUSE”』
・日時:2020年10月9日(金)
・会場:札幌 KLUB COUNTER ACTION
・放映時間:19:30~20:30(予定)
・BRAHMAN feat. ILL-BOSSTINO「CLUSTER BLASTER / BACK TO LIFE」購入者向け
・試聴チケット 2.000円(税込)(購入期間:2020年9月29日(火)10:00~10月12日(月)23:59)
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