●【画像を見る】ケンドリック・ラマー、2018年のフジロックにて

パーラメント=ファンカデリックのレジェンド、ジョージ・クリントンが、頭角を現しつつあったコンプトンのラッパー、ケンドリック・ラマーの音楽を最初に耳にしたとき、彼はがっかりした。「『Bitch Dont Kill My Vibe』は知っていたが、ものすごくバカバカしい曲と思っていた」ジョージは語る。
しかしジョージはケンドリックと面会することにした。ケンドリックはメジャー・レーベルでの2枚目のアルバムを制作中だった。すると、ジョージの意見はすぐさま翻った。「私たちの交わした会話は、1968年とか69年の自分自身を彷彿とさせるものだった。社会問題や世界そのものについて彼は私と同じような熱烈さを持っていたんだ」ジョージは説明した。「すぐに心を掴まれてしまった……『その問題について曲を書いたら、もう君は人気なんだし、すごい奴になれるぞ!』」
ジョージは間違っていなかった。ケンドリックの『To Pimp a Butterfly』は、2015年にリリースされると音楽産業のユニコーンとなった――この10年で最も批評から称賛された作品であるばかりでなく、ミリオンセラーであり、バラク・オバマ大統領(当時)の称賛を得て、さらにはまた、ストリートに繰り出す抗議者たちのアンセムにさえなったのだ。
「あのレコードは音楽を変えたし、私たちはその影響をまだ目の当たりにしているところだ」こう宣言するのはカマシ・ワシントン。彼は同作にサックスとストリングス・アレンジメントで参加した。「あの作品は知性を刺激する音楽がアンダーグラウンド向けとは限らないことを示している。
南アフリカへの旅、「殺人打線」級のコラボレーター
『To Pimp a Butterfly』のインスピレーションとなった当初の衝動は、ケンドリックが南アフリカを訪問したときにやってきた。この旅の中でケンドリックはロベン島に訪れた。ネルソン・マンデラが18年間にわたって収監されていた地だ。「私はアフリカの一員だ、と感じた」ケンドリックはそう語っている。「全部教わった覚えのないことばかりだった。おそらく、もっとも実行するのが難しいことのひとつは、ある場所がいかに美しくなりうるかという概念をまとめあげ、そしてそれを伝えることだ。コンプトンのゲットーにまだ暮らしてるような人たちにね。そういう経験を音楽を通じてつくりたかった」。ケンドリックは2ndアルバムに向けて既にいくらか録音していたが、破棄した。
彼の新たなヴィジョンを実現するためには、「殺人打線」級のコラボレーターが必要だった。そのため、ケンドリックのおなじみのメンツ――プロデューサー/楽器奏者のテラス・マーティン、サウンウェイヴなどを含む――だけではなく、優れた才能をソウル(ロン・アイズレー、レイラ・ハサウェイ)、ファンク(ジョージ・クリントン)、そしてヒップホップ(ドクター・ドレー、ファレル・ウィリアムス、ピート・ロック、スヌープ・ドッグ)を集めた。さらに、ケンドリックはジャンルをやすやすと越境する音楽に造詣の深い人々にも頼った。
ケンドリックは曲を一度にひらめき、かたどり、合成した。「彼はあっという間にものすごくドープな曲を書けるんだ」とカマシは説明した。「一方で、時間を書けて慎重に取り掛かって、完璧を目指すんだよ」
「King Kunta」は当初、サウンウェイヴによると、「素敵なフルートがのった、これまでで一番ジャジーな奴」として始まった。しかしケンドリックがサウンウェイヴに「汚くしてくれ」と頼んだことで事情が変わる。ケンドリックがサンダーキャットを知ったのは、ロサンゼルスのアンダーグラウンドなヒップホップ・アクト、Sa-Raの未発表曲で演奏しているのを聴いてだった。ケンドリックはその曲をいたく気に入って、Sa-Raのタズ・アーノルドを呼び寄せた。彼はその後、『To Pimp a Butterfly』のうち3曲のプロデュースを助けることになる。
時間はどうだってよかった――ケンドリックはファレルが「Alright」に提供したビートと半年に渡って向き合って、警察による暴力に講義する男たちと女達のあいだに広まったあるマントラへと変身させた。おかげでこのマントラは2015年のアンセムになった。ケンドリックはまた、「The Blacker the Berry」のビートを大事に育て上げた。マイク・ブラウンが殺害されたことを受けて、ケンドリックはリリックのなかでこの事件について言及したのだった。
『To Pimp a Butterfly』がリリースされると、「それはあらゆるものを超越してしまった……和声的にも、楽器の編成においても、構造的にも、詩的にも」カマシはそう語る。「まるで、人々が抱いていた期待そのものを変えてしまったようにさえ思う。音楽を変えただけじゃない。オーディエンスも変えたんだ」
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From Rolling Stone US.